9 / 92
1. と、出会う
09 昼と
しおりを挟む「なあ、魂が呪われるってどういうことなんだ?」
「はー。簡単に言うと、吸血鬼自体が呪われてんの。それで、その呪いに引きづられる」
結局、この被害者の男性の活動エリアで、この二週間の目撃者がいないかどうかを調査することになり、しばらく聞いてまわって、解散しようかと言う時だった。
俺は、昼からずっと気になっていたことを、ネルに尋ねてみた。
俺はもはや、このデフォルトでついてくる、ネルの嫌そうなため息を、どうにか聞こえないようにしたくて、自分の中で新たに、耳栓のような超能力が生まれないかと、試してみたけど、当たり前だが、無理だった。
仕方なく、ぎりぎりと胃が痛むのを感じながらも、聞きたいことは聞かねばと思うのだ。
「───え。吸血鬼って、呪われてんの??」
「うん。言ったよね。おぞましい存在だって」
「なあ、それって…」
「───まあ、その辺は、順を追って話すよ。今はとにかく、ベスィに集中しなよ。すぐ殺されちゃうよ」
順ってなんだよ、と、むっとしたけど、おそらく特殊警務課は、今のとこ、溢れかえってるベスィの処理で忙しいのかもしれない。それに、よくわからないが、話の雰囲気から、吸血鬼自体は、そんなに多くなさそうだな、と思っていた。
聞いた話を整理してみれば、魂を呪うほどの毒を持っていて、なかなか捕まえることができないってことと、無作為にベスィを生み出しているってことくらいで。
ベスィ自体にも、あんな恐ろしい能力があるだなんて、俺は昨日まで、知らなかったのだ。田舎では、夜に出歩くなんてこともなかったし、昼間は、たまに追いかけられることがあったけど、大抵は眠っている状態なのだと、ネルが言ってた。
段階的に、まだ、ただ彷徨っているだけのベスィは、昼のうちにマークされて、夜になるとこっそり処理されるらしい。
それはもちろん、仕方ないことだとは思う。だって、これから、そのネルの言う『段階』を踏めば、いずれ、生きている人間に被害が出てしまうのだから。
それでも、意図せずして、吸血鬼に殺されてしまった人たちだ。わかってる。仕方ないとはわかっているのだ。でも、───
(まだ無害なうちに殺してしまうんだな…いや、もう死んでるんだから、殺すとは、言わないのか…そうだ。ネルは『送る』って言ってたっけ…)
なんだかそれは、都合のいい言葉みたいな気もした。でも、もし本当に、特殊警務課のおかげで、本来行くべき場所に、ベスィの魂が送られていくのだというなら、それは、少し、救われるような気にもなるかもしれない。
普通の人にはベスィは見えない。そして、声も聞こえない。ただ、実態はある。人にぶつかっているのも、見たことがあるのだ。でもみんな、気が付かない。ん?と首を傾げるか、近くの人がぶつかったものだと思って怒るか、どちらかだった。
(吸血鬼って…なんなんだろ……)
ちょっと唾液が混入しただけで、相手が死んじゃうなんて、恐ろしい存在だけど、なんだかそれって…孤独、と考えて、吸血鬼同士ならいいのか、と思い直した。
だって、その呪いだとか毒だとかが、本当なんだとしたら、御伽噺みたいに、吸血鬼が人間のことを好きになってしまったら、それは悲恋にしか、なりえないんだから。って、恋愛小説の話ばっかりよく聞かされていたから、なんだか、考え方が姉さんの影響を受けてしまってる気がするな、と思う。
そんなことを考えていたら、ネルが言った。
「じゃ、今日はここで解散。明日また、門の前で」
「ああ」
「夜はお化けが出るからね。外に出ちゃだめだよ」
「…………」
そう、茶化すように言われたときには、俺はまたもや、ドスドスと大股で、家に向かって歩き始めていた。
なんだってあの余計な一言を言ってくるんだろうと思う。何かを隠していたり、何かを意地悪で言わなかったり、馬鹿にするみたいなことを言ったり。本当に、ネルはよくわからない奴だと思う。
家に帰って、コーヒーでも飲もう、と考えて、───足を止めた。
「あ……」
俺には一つ、気になることがあったのだ。
ネルと一緒に調査に行った三軒目の家。あそこのカレンダーに、明日の日付のところに、大きなハートマークと一緒に、『結婚式』と書かれていたのだ。その印を見て、同棲相手が失踪してしまったと泣いていた彼女のことを、本当に、痛ましく思ったのだ。
リズヴェールの中には、いくつかの教会がある。カレンダーの横に置いてあった招待状には、ベルグレイスの教会の住所が書かれていた。
冷たい何かが背中を這うような、そんな感覚があった。男性が失踪してから一週間と二日。今日発見された男性は、二週間行方不明だった。まだ二週間にはなっていない、でも。
(もしかして…次は結婚式場だったり…しない…よな…?)
そもそも、俺の、デートみたいな感じだなっていう、感想は、ネルに否定されてしまったのだ。だから、昼間の…キスしたかったんじゃないかっていう、そんな俺の考えも、おそらく、ネルは嫌なものだと思っていたはずだ。でも、あれほどまでに、デートみたいなことを繰り返してるんだとしたら、最終的には、結婚…と、考えても、おかしくないような気がした。
まだネルも近くにいるかもしれないと思って振り返りかけて、いや、と思い直した。
(どうせまた、否定されるだけだ…やめよ…)
そう思いながらも、俺の足は、ベルグレイスの方へと向かっていた。
少しだけ、ネルの言った言葉が気になった。
──「夜は、お化けが出るからね」──
でも、すぐにブンブンと首を振る。そして、そんな言葉ごと、あのいけすかない男の幻想を、頭の中から追いやったのだった。
20
お気に入りに追加
256
あなたにおすすめの小説

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い
後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…
まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。
5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。
相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。
一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。
唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。
それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。
そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。
そこへ社会人となっていた澄と再会する。
果たして5年越しの恋は、動き出すのか?
表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…
月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた…
転生したと気づいてそう思った。
今世は周りの人も優しく友達もできた。
それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。
前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。
前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。
しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。
俺はこの幸せをなくならせたくない。
そう思っていた…
【R18+BL】ハデな彼に、躾けられた、地味な僕
hosimure
BL
僕、大祇(たいし)永河(えいが)は自分で自覚するほど、地味で平凡だ。
それは容姿にも性格にも表れていた。
なのに…そんな僕を傍に置いているのは、学校で強いカリスマ性を持つ新真(しんま)紗神(さがみ)。
一年前から強制的に同棲までさせて…彼は僕を躾ける。
僕は彼のことが好きだけど、彼のことを本気で思うのならば別れた方が良いんじゃないだろうか?
★BL&R18です。

皇帝陛下の精子検査
雲丹はち
BL
弱冠25歳にして帝国全土の統一を果たした若き皇帝マクシミリアン。
しかし彼は政務に追われ、いまだ妃すら迎えられていなかった。
このままでは世継ぎが産まれるかどうかも分からない。
焦れた官僚たちに迫られ、マクシミリアンは世にも屈辱的な『検査』を受けさせられることに――!?

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。
【完結】相談する相手を、間違えました
ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。
自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・
***
執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。
ただ、それだけです。
***
他サイトにも、掲載しています。
てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。
***
エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。
ありがとうございました。
***
閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。
ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*)
***
2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる