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1. と、出会う
06 厄日
しおりを挟む「なあ、───さっきの。ベスィには感情なんてないっていうやつ。あれって経験則?それとも、吸血鬼に関わってる奴らの常識?」
三軒目の事情聴取を終えた後のことだった。シェラント女帝国の秋冬の日暮れは早い。時刻はもう午後五時で、辺りはすっかり暗くなっていた。街行く人たちも、家に向かって足早に歩いているようだった。
流石にもう解散だろうな、と思っていた頃合いだったが、俺はどうしても気になったことを、少し前を歩いているネルに尋ねた。
ネルは俺の言葉に、ちらっと振り返り、じとっとした目でため息混じりに言った。
「はー。なんでそんなこと、僕が教えないといけないわけ?」
「っっ」
「あいつらに感情はない。破壊衝動だけって言ったよ。耳悪いの?聞こえなかった?」
その、明らかに嫌そうな言い方に、俺は頭に血が上っていくのを感じた。なんだってこの男は、こんなに俺につっかかってくるんだ。そんなに面倒なら、そもそも、俺を警察署になんて、連れていかなければよかったじゃないか!と、思う。
しばらく、こんな感情を抱くこともなかったから、余計に腹が立つ。
鬱陶しいなあって感じの顔を、隠すことなく、ネルは、俺の心臓に、ドンッと指をつき立てた。びっくりしている俺に、トンットンッと強めに指を押し付けながら、言った。
「ほんと、変なこと考えないで。心臓に、ぶちこむの。弾を。それだけ」
まるで、物分かりの悪い人間に、心底辟易してる様子で、そう言うと、ネルは、少し体をかがめて、俺の顔の目の前に、顔を寄せると、次は、指を俺の額にトンッと押し付けながら、「わかった?」と、高圧的に尋ねた。それから、「僕は今日、女の子と約束あるから。あ……怖がりなソーマは、家まで一人で大丈夫?」と、にやにやと笑った。
その様子に、その態度に、もう俺の怒りは頂点に達した。俺はその指をネルの腕ごと、振り払いながら、大声で言った。
「余計なお世話だ!」
そして、ドスドスと音が出そうなほど、強く歩を進めながら、家に向かって歩きはじめた。
後ろから「明日は朝九時に警察署の前ねー」という、ネルの声が聞こえたけど、俺は振り返りもしなかった。そもそも、俺が、銀時計も持っていない俺が、本当に、本当に、警務官なんてものに、なれてしまったのかって、まだ、実感もなかったのだ。
何がなんだか未だにわかってない俺が、一つわかること、それは、───
(なんだ今日は…厄日かよ……)
今日がくそみたいな1日だったってことくらいだった。
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