6 / 7
第5夜 商人エリオット・ノークスの真実
しおりを挟むガラガラガラ。バリバリ。ベキベキ。ドガン。ズドン。
鳴りやむことのない悲鳴の合間に、いろんな音が響いていた。
でもその音たちは、全部が全部、――絶望の音だった。
立ちのぼるのは、王都の夜空を覆うほどの砂埃。石造りの美しい劇場は、そこになにがあったのかもわからないほどに、ぐちゃぐちゃに崩れ落ちた。入口にあった白い石段から、赤い血が小川のように流れていた。
はあ、はあ、と、全身で息をしながら、オレはそれでも、その周りを彷徨い歩いていた。汗がとめどなく溢れるのに、体はどんどん冷えていく。瓦礫の下に、愛おしいの人の姿があるのではないかと、恐怖に震えながら、歩いていた。
(……きっと、俺がいつ来てもいいように……舞台も見える、だけど入り口に近い場所に……)
その日の公演に遅れてしまったのにはわけがあった。
商家を営んでいる俺の家は、たまに客のクレームに対応しなくちゃいけないことがある。その日、商会の入口で騒いでいた女は、しつこく『媚薬』について尋ねてきた。先日、上客に頼まれて父が用意してしまったのだが、人道的ではないからといって廃棄したものだった。どうやら女はそれを見つけて拾ったらしいのだ。そしてクロスフォード劇場に忘れてきたから、新しく仕入れろと訴えてくる。
どう考えても、それはうちの商会が関与するべきことではないし、廃棄されたものとはいえ、そもそも窃盗である。何度説明しても、どうやっても聞きいれてもらえずに、どうしたものかと思っていた。商会のロビーで騒がれては困るのだ。
そうでなくても、俺は、すっかり気を落としてしまった俺の最愛の人を、支えてあげないといけなかったのに。あの日ケンカしたまま、家にも入れてもらえなかった。何度も尋ねたけど「頼むから邪魔しないでくれ」と冷たく言われて、俺はどうすることもできない三日間を過ごしてしまった。
今日こそはちゃんと早くに行って、結果がどうであれ、ミアのそばにいてあげなくちゃいけなかったのに。今日に限って、親も兄弟も他国へ商談に行ってしまっていて、不在だったのだ。そうして、俺は女に対応せざるを得なくて、結局、開演時刻までに間に合わなかった。
もつれる足を、それでも前に進めながら、何人もの倒れている人たちの横を、通りすぎていった。動かない、ウェーブのかかったこげ茶色の頭を見つけるたび、俺の心臓は張り裂けたように鋭く痛んだ。
だけどそのとき。瓦礫の下から紺色のフロックを着た左手が覗いているのが見えた。ペンを持ちすぎて腫れあがった左手の中指には、見覚えしかなかった。全身に震えが走る。ヒュッと息を飲んだ。氷水でも頭から浴びたみたいだった。
「ミ、ミア!!!!!」
駆けつけて、その手を握りしめた。だが、――ずるり、と腕だけが引き寄せられたのだ。
ハッと空気を切るような風のような音が俺の口から漏れた。
頭の中がまっ白になった。
だが、そんなことをしている場合ではない。大きな柱の下を覗く。床に、大量の血が流れていることには気がついていた。だけど、それでも、と思い、横倒しの柱に手をやり、下にいるはずの人を覗いた。
暗闇の中、虚ろな瞳と目があった。この世のすべての絶望を見てきたような、愛しい人の顔があった。心臓が止まるかと思った。だけど、――。
覗いた俺に気がついたミアが、自嘲するようにふっと笑い、掠れた風音みたいな音を紡いだ。
「――……おま、が、無事で……よかっ……たぁ」
「ミア! ミア!!! 今、今助けるから!」
その一言を最後に、恋人は動かなくなった。俺は、必死で柱を動かそうと手に魔力をこめた。だが、――魔法が発動しないのだ。必死に素手で、辺りの瓦礫を投げすてながら、俺は震えすぎて、声も出せずにいたのだ。体の中では戦争でも始まってしまったかのように、ドンドンドンドンと心臓の音が狂ったように響いていた。
どうして。どうして。どうして、魔法が使えないんだ。そう思いながら、ハッと気がついた。よく考えてみれば、劇場の中にいた人たちも、俺のように助けにきた人たちだって魔法が使えるはずなのに、どうしてこんな惨状になってしまったんだ。
意味がわからない。意味が、わからなかった。だけど、確実にわかっているのは、今、自分の世界一愛おしい人がもう動かないということだった。
震える声で呼びかけても、ミアはもう、瞬きひとつしなかった。
だんだんと理解する。
だんだんと、理解する。
だんだんと、理解、していく。
「うわ、うわあ、うわあああああああああああああああ」
この日、王都には俺があげたような悲鳴が、そこかしこから上がっていた。
――クロスフォード劇場の悲劇。
後にそう呼ばれることになるこの事件は、王子殿下をも含む、三百名の命を一瞬で亡きものにした崩落事故だった。人気劇作家であるミア・シェヴィエが作りあげた演目、――『神さまのいたずら』という幻の舞台は、その名前の不気味さもあいまって、何百年も、何千年も先まで、後世に語り継がれることになる。
∞ ∞ ∞
俺は咽び泣いた。周りで何十人もの人たちが、崩れ去った石造りの劇場を見て、俺と同じように涙を流していた。叫び、膝から崩れ落ち、魔法が使えないことに絶望する。みんな同じだった。
瓦礫の中からどうにかミアを引きずり出せたのは、ミアが入口の近くにいたからだ。冷たくなってしまった愛しい人を腕に抱きながら、俺はただ、涙を流した。いまだ、中にいる人たちを案じて、祈りを捧げている人もいる。
いろんな種類の負の感情を抱えている人たちばかりだろうけど、俺はその中でも、きっと一番やるせない気持ちでいるに違いなかった。
だって。だって、――。
(ミアは、どんなに苦しい最期だったんだろう……)
今まで支えてくれた人たちが、一緒に舞台を作ってきた仲間たちが、演目を楽しみにしてくれていた客が、みんな死んでしまうなんて、どんなに苦しかっただろう。最期に見たミアの絶望に染まった瞳を思い出す。
ただでさえ、ここ数日間、ミアは狂ったように執筆をしていたのだ。ミアが結局、どういう結末に書き換えたのか、あるいは、書き換えてないのか、それはケンカしてしまった俺にはもう、わからなかった。
(どうして、こんなことに……どうして、どうして)
ただただ流れる涙を止めることができずに、俺は呆然とその場にいた。ふぐっと汚い音が口から出る。なにをどう後悔したらいいのか、わからなかった。
悪魔に出会ったのはそのときだった。
ふと、ミアを抱えた俺の上に影が落ち、顔をあげれば、信じられないほど美しい男が俺の前に立っていた。黒髪、赤目、黒い服、そして尻から変なしっぽが生えていた。悪魔みたいなやつだなと思ったら、本当に悪魔だった。
「よう」
悪魔は言った。
「願いがありそうな、顔してんな」
――願い? なにを言っているんだろうと思った。
だけど先日、取引先のバルテルミィ伯爵が、悪魔が封印された水晶がどうのって言っていたことを思い出す。まさか、本当に? そんなことがあるわけない。俺は信じなかった。だが悪魔は「ほう。じゃあ、前払いでサービスしてやろう。今は最高に力がみなぎっているからな」と言って、ふいっと指をまわした。
次の瞬間、――ミアの腕がくっついていたのだ。
俺は驚愕に目を見開いた。
「願いがあるなら、聞いてやろうか」
「ミアを……!」
生き返らせてくれ、と頼もうとして、すぐに思いとどまった。ミアは一人生き返ったとして、決して幸せにはなれない。どうすればいいんだろうと俺は考えた。俺の目の前にいるのは、本当に悪魔なのかもしれない。そうだとしたら、対価にきっとなにかを取られるはずだと思った。
「対価はなんだ。俺の命か」
「そんなものもらったって、おもしろくないだろ。絶望してる人間はなりふり構わないから、大抵そんなこと聞かないのに、小賢しいやつだな」
「…………」
「俺が与えるのは『幸せ』だ。だから願った幸せの分だけ、お前は『不幸』になる」
俺が願った幸せの分だけ、不幸になる。
俺がもし、ミアを生き返えらせることができたら、ミアがいつもみたいに笑ってくれたら、それは死ぬほど幸せなことだ。
(それと釣りあうほどの不幸って……なんだろう)
たとえば、俺の体が動かなくなるだとか、俺のことをミアが嫌いになるだとか、そんなものはミアの死に比べたらなんともないことのように思った。もっと酷いことが起きるはずだった。たとえば、俺の体が動かなくなって、ミアは俺の記憶を失ってしまって、それでいて誰かとミアが無理やり結婚させられて、酷い扱いを受けているのに助けてあげることができない……とか、それくらいの不幸だろうか。それはだめだ。
(崩落を止めてくれっていうのは……)
俺は考えた。今日この場で失われたのは三百を超えるほどの人間の命だ。すべてを失ってしまったミアは、そのすべてが戻ってきたら幸せに過ごすだろう。だけど、そのすべてをミアのために生き返らせるとなると、それはおそらく、ミア一人を生き返らせるよりもずっと、ずっと、恐ろしいほどの不幸が訪れることを意味していた。
どうやったらこの悲劇を防ぐことができるんだろう。
(願う幸せを小さくすれば、……訪れる不幸は小さくなる)
どうやってミアを生き返らせることを叶えながら、願う幸せを小さくできるんだ。願う幸せを小さくするっていうことは、確実に幸せが訪れることを願わなければいいってことだと俺は思った。悪魔は物事の大きさのことを言及していない。願った幸せの分だけ、不幸が訪れるだけだ。ということは、まだどうなるかわからないことを願えば、もしくは……。
俺はガラガラに崩れさった劇場に目をやった。
(そもそも、この事故はどうして起きたんだ?)
劇場自体に、事故につながる欠損があるんだろうか。それを見つけることができれば防げるだろうか。なんとしてでも公演を延期したらよかったんだろうか。でもどちらにしろ、ミアを生き返らせると願う以外で、願いを小さく、ミアを生き返らせる方法はひとつしかなかった。
「時間を……戻してくれ」
「それは難しいな。この王都だけの時間をってことなら、ま、三日くらいなら、なんとか」
「み、三日だけ……?」
俺は三日でなにができるかを必死に考えていた。
相手は悪魔だ。冷静に、冷静に、と思ってはいた。だけど、三日前の生きているミアを思い出したとき、もう俺はそのミアに会えるだけでも幸せだと思った。でも、その三日でなにができるんだろう。俺は働かない頭で、思考を張り巡らせる。
だけどそのあいだ、よほど面白いことでもあったのか、悪魔はずっとにやにやと笑いながら上機嫌で空に浮いていた。
「よく考えてるようだが、王子も来てたっていう話だ。時間を戻したとして、よほどのことがなければ演目の延期はできないだろう? それに、劇場の修復なんてできるかな? この場所は、なぜか魔法も使えないようだったし」
「……ッッ」
考えていることまでわかるのか、と俺はギリッと奥歯を噛みしめた。
たしかに三日前に戻ったところで、俺にできることなどたかがしれていた。俺がたとえ王子かなんかであれば、違っただろうがただのしがない商人である。どうしようどうしよう、と思考が空回るばかりで、なにもいい考えなんて浮かびそうになかった。
気まぐれに見える悪魔が本当に気を変えてしまう前に……と焦る。そのとき、悪魔が思いついたように言った。どうしてそんなことを言いだしたのかはわからない。だが。
「俺は気分がいいからな。一ついいことを教えてやろう。実は当日までにあることを阻止できれば、その崩壊は起こらない」
「こ、これは誰かが故意に起こしたものなのか……!」
「――そうとも言えるし、そうでもないと言える。ただ、この惨事を引き起こした犯人はたった一人だ」
そうか、と俺は思った。その人物を探しだすことができれば、この崩落を防ぐことができるのか。爆発、魔法の暴発、魔道具、あるいは建設工の可能性もあるだろうか。俺は幸運なことに、ミアの恋人である。当日の観客のリストや出入りしている人間のリストを得ることは、そんなに難しいことではないだろう。
もしかしたら、もしかしたらそれで、この崩落を防ぐことができるかも知れない。そう思った。
だが、その願いに対する不幸はどれくらいのものなんだろう、と俺は身構えた。
悪魔は言った。
「願って得る幸せには、同じだけの不幸を。抱いた希望には、同じだけの絶望を」
「……わかってる」
「三日間だけ、何度でも繰り返させてやる。前日の夜までに、ミア・シェヴィエをお前が殺すなら」
「――――は?」
悪魔が言った言葉はまったく理解ができなかった。
ぽかんと口を開ける俺に、悪魔はくつくつと笑いながら続けた。むにむにと親指と人差し指を擦り合わせるのは、癖なのだろうか。
「だってそうだろ。お前はミア・シェヴィエが生きているという過去に希望を感じるのだから、同じだけの絶望はミア・シェヴィエが死んでいるという未来だ。俺は願われなければ、人間を殺すことはできない。だからお前がやる。そいつが死んだ瞬間、この王都の時間はまた三日前に戻る」
「なッ……でも」
「ただしそれは、公演の前日までの三日間だ。もしお前がその人物を言い当てることができたら、お前を解放してやろう」
「で、でも……それじゃあ」
結局ミアが死んでしまう。でも、俺がこの崩落の原因となった人物を見つけだし、それを防ぐ未来へとつなぐことができれば、崩落も起きずにミアが生きている未来へとつなぐことができるのだ。だけど、――。
(俺は、俺はこの手で、ミアのことを殺せるだろうか……)
腕の中で目を閉じた最愛の人に目をやった。もう、ミアは、俺に笑いかけてくれることも、俺に怒ってくれることもないのだ。じわっと視界が滲む。ぐずっと鼻を啜った。
間違ってる。頭ではちゃんとわかっていた。間違っていることをしようとしている。
だって相手は悪魔だ。
悪魔と契約して幸せになった人間なんて、いるわけがなかった。願いは叶うかも知れない。でもそれはきっと、なにかもっと悪魔を喜ばせる未来につながっているのだ。手が震える。唇をぎゅっと噛み締めた。ぼろぼろと涙が溢れた。
でも。でも、――!
俯いた俺の耳元で、文字通り、悪魔が囁いた。
「大丈夫だって、――殺したあとにはなにも覚えてやしないよ。それに、また三日前に戻るんだから」
苦渋の決断だった。
でも、それでも、――ミアのいない世界がこれからも続くだなんていう現実を耐えられるわけがなかった。
俺は、小さくこくりとうなずいた。うなずいてしまった。
そうして、三日間だけ何度もこの世界を繰り返すという願いを叶え、永遠に続く悪夢の中に閉じこめられることになった。
∞ ∞ ∞
――捜索は難航した。
そして、数回繰り返した時点で、俺は自分の精神がもうすでに病んでいるのを自覚していた。
俺が記憶をループさせていたのは、ミアとくだらないことでケンカした日の夕方だ。急いでミアの家に戻ると、機嫌の悪そうなミアが、薬の入った布袋を持って、歩いてくるのが見えるのだ。
ミアが生きている! と喜んで、強く強く抱きしめる。だけど三日後には、そのミアを抱きしめた同じ手でミアの首を絞めていた。
ただの絶望だった。一度や二度ではなかったのだ。何回も、何回も、喜び、そして三日後に地獄につき落とされて、俺はすぐに頭がおかしくなった。
観客も出演者も出入りしていた人たちも、全員調べた。全員の動向を調べて、それでもわからなかった。俺が巻き戻っている三日間は、公演の前夜までなのだ。当日の人間の動きがわかれば、新たな発見もあったかもしれない。
でもすべての手を尽くしても、八方塞がりだった。
王族に恨みを持つものとの線もある、と考えてそんな噂を流し、王子が来れないように試してみたこともあった。騎士団の副団長をしている知り合いに、尋ねてもみたけど、王子を狙っている人物がいるとは思えなかった。それに前日には騎士団が念入りに劇場の安全を確認し、警備も万全にするという話だったのだ。無理を言って、同行させてもらったこともある。でも、――。
(当日までは、なにも起きていないとしか……)
俺は頭を抱えた。これでは世界を繰り返した分だけ、ミアが死ぬだけで、結局なにも進展がなかったのだ。
二日間、死ぬほど走りまわって、どうしてもミアに会いたくて夜に謝りにくる。そして次の晩にミアを手にかける。それの繰り返しなのだ。一度目だけは、ケンカしたまま当日を迎えてしまった。あんなにも辛そうにしていたミアと、どうしてあのとき、ケンカなんてしてしまったんだろう。ミアはすごく苦しんでいたのに。その後悔を繰り返したくなくて、こうして会いにきてしまう。
横ですやすやと眠っているミアを見て、明日には殺さなくてはいけないという重圧で、吐きそうになる。慌てて洗面台のほうへ移動し、バシャバシャと顔を洗った。
(ミア……どうしたら、どうしたら助けることができるんだ……!)
誰があんな事故を引き起こすことができたんだろう。原因はなんなんだ。たとえば、膨大な魔力を持った人間が、魔法を暴発させるとして……。
(いや、違う。違う。魔法は使えなかったんだ)
どうしてだろう。ということは魔法が絡んでいる事件ではないのだろうか。それとも事件が起きてから、魔法が使えなくなったのか。
でももし魔法が絡んでない事件だというのなら、それはもう、火薬がしかけられていたとか、建設工がなにかの細工をしたとか、老朽化とかが原因なのだ。当たり前だが、そんなことはもうとっくに調べていた。
それに魔法の無効化についても調べたけれども、そんなのは人間の叡智の遠く及ばない、神の領域のはなしだった。
(神さまのいたずら……だなんて、まさかな)
焦りばかりがつのっていく。王子が変なことを言いだしてから、ミアは幽霊みたいな顔で過ごす三日間なのだ。「書き換えたくない」と言いながらも、血が出てもペンを握り、必死でどうにかしようとしていたことは、今ならわかる。
自分の恋人が、人生の中でも、おそらく最低の三日間を過ごしている期間を繰り返さなくてはいけないのも辛かった。そして、ミアの最低最悪な三日間は、恋人である俺に殺されることで終わるのだ。
(最低だ。最低すぎる……どうすれば、どうすればいいんだ……)
――だけど。
なんの手がかりも得られないまま、俺は何十回もこの三日間を繰り返し、ついにもう耐えられなくなった。今まではミアの顔を見ないように、一瞬ですべてが終わるように殺してきた。最初の数回は、いくつか方法を試してしまった。だけど、後ろから首を絞めるのが一番ミアの驚きも、苦しみも少ないような気がした。
だからずっとそうしてきた。
だけどその日、――俺の限界がきたその日。
今までそんなことしなかったのに、ミアは殺しにきた俺から逃げだした。
思い返してみれば、今回はおかしかった。
どうにかして脚本を書き換えてもらいたい俺に、ミアはいつだって憤慨するのに、今回はしなかったのだ。それどころか、抱いてと誘われて、俺がそんなのに抗えるわけもなく。俺がもう、おかしくなっていたのもある。ただ、ミアと一緒に過ごしたかった。愛しあいたかったのだ。
もう、――死のう。
そう思った。
ミアが死んだ世界で生きていけないのなら、俺も死んでしまえばよかった。はじめから、そうすればよかったのかもしれない。
眠ってしまったミアの頭を撫でながら、それはストンと心に落ちてきた。はじめから、死ねばよかったんだ。なんだ、そんなに簡単なことだったんだ。あたたかく、穏やかな気持ちだった。ミアを殺すという最悪な、最低なことさえやり終えれば、俺も一緒に死ねばいいんだと思った。
だというのに、ミアが逃げだして、俺は焦った。どうして俺が諦めようとしてるときに、ミアは「理由を教えてくれ」なんて、まるで俺が殺すのを知ってるみたいな言い方をしてきたんだろう。どうして今回のミアは、俺に反論しなかったんだろう。
いろんなことが頭をめぐった。だけど、それも俺のことを見上げたミアが、泣きそうな顔で願うまでだった。
「ころさないで……」
もうだめだった。もう、だめだった。
でもミアのことは殺さないといけなかった。なぜなら、明日の崩落が起きてしまえば、ミアは、舞台を『神さまのいたずら』なんて題名にしてしまったせいで、きっと不名誉な酷評を受けるだろうと思った。今日、ミアが死んでしまえば、まだ舞台が中止になる可能性もある。それに、どうせミアは明日になれば死んでしまうのだから、それなら俺も隣で眠りたかった。俺はミアを殺さなくちゃいけなかった。
涙が溢れた。申しわけない気持ちでいっぱいだった。
面と向かってミアを手にかけたことはなかった。死ぬときの顔も、見たことがなかった。怖かった。恐ろしかった。
それでも俺は、持っていた短剣を振りあげた。
「ッッ! ぅう、ミア……ミア……うああ、うわあああああああああああああッ!!! もう嫌だ! もう嫌だ! 殺したくない! もう殺したくない! もう失いたくない! ミアああああ」
「――……え?」
ミアの口からごふっと血が溢れた。
最愛の人に、こんな最低なことをしているのは、俺だった。
だけどミアは、はじめて見た殺されるときのミアの顔は、どうしてだか、そこまで恐怖に染まっているわけではなかった。なにかを考えているようなミアを見ながら、俺はもう、よくわからなくなっていた。
どちらにしろ、このあとすぐに俺も死ぬのだ。ミアの心臓を刺した短剣で、頸動脈を掻き切るつもりだった。
だけど、――そのとき、ミアがなにかを指差した。
(……え?)
ミアが震える指で差したのは、昔、金がないときに書いたと言ってたしょうもない本だった。死に際にそんなものを指差すのはおかしい。
――「小悪魔ちゃんのラブテクニック」――
ミアはたしかに男を翻弄するのが上手だし、色っぽい雰囲気は、常にダダ漏れている。惑わすのが得意なのだ。だからそんな本を書いてしまうのだって、俺にはそんなに不思議ではなかった。でも、どうして今。なにかを伝えようとしているに違いない。一体なにを?
(小悪魔だなんて……ミアだと思えばかわいいけど、でも今は、悪魔なんて言葉、見たくもない)
そう思ったとき、――どうしてだかは、わからなかった。
劇作家であるミアが、いつも口癖のように言ってる「オレが――だったらこうする」という言葉が頭をよぎった。
(ミアだったら……?)
ミアがもし、悪魔に出会っていたら。
あれ、待って。悪魔って、――。そもそも、バルテルミィ伯爵が、悪魔の曰くつきの水晶が盗まれたってぼやいてなかった? ずいぶん前だ。この日よりも、一ヶ月ぐらい前に聞いた話だ。そのあいだ、悪魔はどこに? どうしてあのとき、あの場所で、俺に声をかけたんだ?
どうしてあの場所にいたんだ?
誰か他の人間の願いも叶えていたのか? もしかして、――。
(崩落は誰かの願いの代償だったのか、――?)
俺は驚愕に目を見開いた。
悪魔は願いのある人のところに行く。できるだけ絶望した人間のところに行くはずだ。だって、悪魔は言っていたじゃないか。
――「絶望してる人間はなりふり構わないから、大抵そんなこと聞かないのに、小賢しいやつだな」――
大抵そんなこと聞かない。それは、絶望しているからだ。この三日間、ミアほど最低最悪な日々を送っていた人間はいるだろうか。ミアほど絶望していた人間は王都にいただろうか。どうして、まさか、と、よくないことばかりが頭をよぎる。
そしてなにかを願い、劇場は崩落した。それならば、原因となる人物は一人だ。魔法も、建設も、爆発も、関係なく、悪魔の力が劇場を?
(まさか、――ミアなのか……? ミアが、悪魔と……?)
どうしてミアが悪魔のことを俺に伝えようとしたのか、わからなかった。俺のことを悪魔だと言いたかったのか、それとも、この街に悪魔がいると伝えたかったのか。もしかしたらこの時点で、もうミアは悪魔に出会っていたんだろうか。
でももしも、もしも悪魔にミアが出会っていたのなら、もしかしたら願ってしまうかもしれなかった。
もし願うとするならば、絶望したミアはなにを願ってしまったんだろう。
そこまで追いつめられていたのかと思うと、恋人でありながら不甲斐ない自分を思い、消えてしまいたかった。ミアをそこまで絶望させた責任の一端は、絶対に俺にあった。
俺の心に暗い気持ちが広がっていく。もう、そもそも最初から俺なんて、ミアのなんの役にも立ってないのかもしれない。俺がいる意味なんて……。ぐっと拳を握りしめる。
だけどそのときだった。――ミアの口が声もなく動いた。
「あいしてる」
「……ッッ!」
音はなかった。だから、見間違えかもしれない。でも、ミアは幸せそうな顔で笑って、動かなくなった。「あ、あぁぁあ、ああああ」と、何度目かもわからない俺のうめき声と、えづく音が響く。
俺に殺されているというのに、どうしてそんな言葉を紡ぐことができるんだろうか。俺の目からまた、ぼろぼろと涙がこぼれた。でも、俺にはわかった。ミアは自分が殺されてるっていうのに、俺のことを信じているんだ。意味もなくこんなことをするわけがないと、そう、信じてくれているんだ。
それを俺は、ミアのことを何十回も殺しておきながら、自分が苦しいからもう死んでしまおうだなんて。どうして、どうしてそんなことを考えてしまったんだろう。違う。だめだ。今、俺がへこたれているわけにはいかなかった。
まだわからない。本当にそうなのかはわからない。でも、悪魔はいたんだ。この街に、悪魔はいるんだ。
この時点でも、この街のどこかに。
あの崩落は誰かの願いのせいだったかもしれない。もしかしたら、それは絶望したミアかもしれないのだ。
俺は、――。俺は、――!
(――ミアを助けないと!)
――暗転
∞ ∞ ∞
「ミア……ミア……」
いつものループのはじまり。薬屋から戻ってくるミアを見て、俺は駆けだした。
俺の腕の中に収まっている愛しい人を強く、強く、抱きしめた。痛い思いをさせてごめん、苦しんでいるのに役に立たなくてごめん、殺してごめん。そんな俺を見て、ミアがいつもの調子で言うのだ。その軽い言葉に、俺は何度救われたことか。
「なに? あのエロ魔道具使う気になったの?」
「なッならないよ!」
「え~」
にやにや笑っているミアを、むうっとした顔で見ながら、それでもただ生きていてくれることに。ここに存在してくれることに。そんなバカなことを言ってくれることに、感謝した。
ミアが本当に悪魔と契約をしたのなら、あの崩落自体をミアが願ったわけではないだろう。
あの崩落はミアの願いの『対価』なはずだった。あんなこの世の地獄みたいな光景が対価だなんて、きっとミアはなにか大きなことを願ってしまったに違いないのだ。
そして、それはあの地獄のような光景と変わらない苦しみを、今、ミアが抱えているということに他ならなかった。
俺は間違っていた。間違えすぎてしまった。ミアがそれほどまでに苦しんでいるときに、書き直してほしいと、追い討ちをかけてしまった。恋人失格だった。
俺は真剣に、ミアに言った。
「ミア。脚本のこと、聞いたよ。俺は書き換えることないと思う」
「え?」
「もし、もしもそれでミアの身になにか悪いことが起きるんだとしたら、その前に他の国に逃げてしまおう」
俺の言葉を聞いて、ミアは目をぱちぱちと瞬かせた。
かわいい。俺よりも年上だし、綺麗で色っぽいと俺は思っているけど、それでもこういうちょっとした反応のかわいさが、ずるいと思うのだ。
悪魔なんかに、あんな悪魔なんかに、ミアが頼らなくちゃいけないほど追い詰められていたなんて。俺は自分の恋人のことを、なに一つ理解していなかったのだ。
もう今からだって逃げてしまえばいい。俺がどこの国へでも連れていってあげる。ミアなら他の国でもきっと、劇作家としてやっていける。どうせ逃げるなら罪なんてどうでもいいんだから、劇場は誰もいないときに、俺が魔法で爆発させてしまえばいいんだ。そうすればどちらにしろクロスフォード劇場は使えなくなる。そう思った。
ミアがふっと目を細めた。そして俺の名前を呼んだ。
「エリオット……」
「ミア……」
俺はやっとミアの力になれるようなことを言えたと思った。ちょっとかっこよく言えたと思った。
だから、てっきりミアが甘えてきてくれると思って、ドキドキして待った。だけど、ミアは、くるりと自分の家に向き直ると、俺のことなんて振り返りもせずに言ったのだ。
「オレ、すごい修正案思いついたんだわ。問題ないよ。今日書き上げて、二日でジュリアンたちに叩きこむから。今日は帰ってくれる?」
「――……えッ!?」
えっえっと俺は慌てて、わたわたとしていた。今までだってこんなパターンは一度だってなかった。せっかく大丈夫だよって伝えたつもりだったのに、なんだか今のミアからは余裕すら感じられる。
結局、俺は頼りにならないんだろうかとか、もう見捨てられてしまったんだろうかとか、嫌なことばかりが頭に浮かぶ。
記憶がないとはいえ、何度も何度も俺に殺されて、ミアの魂に、なんか変化でもあったのかもしれない。
じわっと目に涙が浮かぶ。ミア、俺はミアのことを助けたいだけなんだと願う。だけど、――。
そんな気持ちは、次のミアの一言で、花火のように地上から一気に突き抜け、俺の心臓と一緒に爆発した。
ミアがくるっと振りかえって、にたあっと笑いながら言った。
「あとね、オレ。――お前に殺された記憶、全部あるよ」
俺は目を瞬かせた。ミアの言葉がすぐに理解ができなかったのだ。
(殺された記憶? 俺に殺された記憶? ――ん? え? んん???)
いっぱい首絞められたからな~と、あっけらかんとつぶやくミアを見て、頭の中がまっ白になった。多分、顔色もまっ白になっているかもしれない。俺は叫んだ。
「えぇッッ!?」
「あ~今回のまじ痛かったわー。でもなんか殺される気持ちとか、泣きながら殺してくる恋人を見上げる経験とか、殺人犯に追いかけられる緊張感とか、今後の創作の糧になりそ~。じゃあな」
「えッ! は?! ちょ、ちょっとまって。待ってミア。ねえ! ちょっと!!!」
バタンと扉を閉じられてしまい、俺はもうどうすることもできなかった。
ミアが集中すると言っているんだから、俺がいたってなにもできるわけはなかった。
俺は自分が塵となり、さらさらと風に吹かれて消えてなくなるような、そんな気がするまで、ただ呆然とミアの家で立ち尽くしていたのだった。
∞ ∞ ∞
――そして公演前日の夜。
俺はミアの家の外に出て、虚空に向かって叫んだ。
「お前と契約したのは、ミアだ! ミア・シェヴィエ! もうミアはお前となんて契約しない!」
「くそッ――な、なんであいつに記憶が残ってたんだ!」
「――約束だ。あの未来はもう、訪れない」
悪魔は心底悔しそうな顔をしてそう言うと、どこかへと消えてしまった。
どうしてミアの記憶が残っていたのか、それはミアにも、俺にも、わからないのだった。
俺の隣には愛おしい人の姿があった。眉を下げて、困ったように笑うミアをぎゅうっと抱きしめて、俺はその薄い唇に唇を重ねた。
「ミア……よかった。本当に、よかった。愛してる。不甲斐ない恋人で本当にごめん」
「えー? 俺が悪かったんだからいいんだよ。なんていうか、悪いことした分、本当に悪いことが帰ってきた感じだな。お前もそうだろ」
そう尋ねられて思う。
(本当だ……なんかほんとに、悪いことした分だけの悪いことを経験したような気がする……)
ミアが言った。
「――天罰みたいだな」
そしてミアは「悪魔になんて頼ろうとした、愚かな人間への」と続けた。夜の風が吹きぬけていった。ミアのゆるくウェーブのかかった髪が揺れた。それは俺が、百日ぶりに見た、――愛しい人の生きている公演前日の夜の姿だった。
ミアは結局、物語を書き換えた。
それはこんなストーリーだった。
悪魔とうっかりすれ違ってしまった、男女五人は心に抱いた小さな小さな闇につけいられて、誰が誰を好きだかわからなくなってしまう。
通りかかったニワトリに恋をしてしまったり、婚約者の顔が、蝿にすげ替えられたように見えてしまったり、通りかかった王子は、ニワトリに恋をした女の子を好きになってしまう。
でも、それでも人の恋心は、ごくまれに、悪魔や神の思惑なんてものともせず、奇想天外な結末を迎えたりするものなのだ。そんなオカシナ物語の中で、王子が悪魔を倒すところがあったり、なかったり。
人間は、平坦な道を歩いているようで、本当は細い細い糸の上を綱渡りのように歩いている。誰だって、いつだって、一歩踏み外してしまう可能性を孕んでいる。
ちょっと悪魔とすれ違っただけで、すべてがおかしくなってしまうみたいに、人間の心はときに揺れ、ときに擦り切れそうになって、それでもその糸は前へ前へと進んでいる。
みんなミアの作りだす話の、その世界観が面白いところが大好きなのだ。
きっとたくさん笑って、そして涙して、主人公と一緒に悩んで、人間の小ささも、その力の大きさも感じながら、そして最後に幸せな結末が待っている。
ミアの創る世界は豊かだ。これまでも、きっとこれからも。
ミアは悪魔になんて頼りそうもない、晴れ晴れとした顔で言った。
「駄作でもいいんだ。人生は、続くんだから、――」
「ミアの話が、駄作だったことなんてないよ」
「それ今言うなよ。明日滑ったら辛いだろ」
笑いながら、肩を寄せ合って、家の中へ俺たちは戻っていった。
もう悪魔は俺たちの前には現れないだろう。だけど、俺たちは、心の中に悪魔を飼ってしまったこと。それをちゃんと覚えたまま、明日を、明日のあとも、過ごしていく。
「ミア、愛してる……」
「ん、オレもだよ」
そんな、長い長い三日間の、――話。
11
お気に入りに追加
91
あなたにおすすめの小説
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?
溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。
婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました
ヒンメル
BL
フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。
愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。
*****************
「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。
※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。
※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。
評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。
※小説家になろう様でも公開中です。
【完結】僕の大事な魔王様
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。
「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」
魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。
俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/11……完結
2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位
2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位
2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位
2023/09/21……連載開始
麗しの眠り姫は義兄の腕で惰眠を貪る
黒木 鳴
BL
妖精のように愛らしく、深窓の姫君のように美しいセレナードのあだ名は「眠り姫」。学園祭で主役を演じたことが由来だが……皮肉にもそのあだ名はぴったりだった。公爵家の出と学年一位の学力、そしてなによりその美貌に周囲はいいように勘違いしているが、セレナードの中身はアホの子……もとい睡眠欲求高めの不思議ちゃん系(自由人なお子さま)。惰眠とおかしを貪りたいセレナードと、そんなセレナードが可愛くて仕方がない義兄のギルバート、なんやかんやで振り回される従兄のエリオットたちのお話し。完結しました!
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
貴族軍人と聖夜の再会~ただ君の幸せだけを~
倉くらの
BL
「こんな姿であの人に会えるわけがない…」
大陸を2つに分けた戦争は終結した。
終戦間際に重症を負った軍人のルーカスは心から慕う上官のスノービル少佐と離れ離れになり、帝都の片隅で路上生活を送ることになる。
一方、少佐は屋敷の者の策略によってルーカスが死んだと知らされて…。
互いを思う2人が戦勝パレードが開催された聖夜祭の日に再会を果たす。
純愛のお話です。
主人公は顔の右半分に火傷を負っていて、右手が無いという状態です。
全3話完結。
完結·助けた犬は騎士団長でした
禅
BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。
ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。
しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。
強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ……
※完結まで毎日投稿します
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる