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第3夜 ただヤラレちゃうドロボーのはなし
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※7話完結のオムニバスですが、短編としても読めます。
第3夜は【変態博士×ツンデレ泥棒】です。
「先日、うちの保管庫から水晶を盗んだのはお前か」
硬質なメガネのよく似合う、長髪の貴族の男がオレのことを見下ろしながら訊いた。
オレは不自由な体勢のまま、声も出せずにふるふると首を横に振った。たしかにオレはとある水晶を探している。この家に希少な水晶があると耳にして、盗みにきたっていうのも本当だ。だけど、『まだ』盗んでない。それは免罪符になるのかっていうのは、ちょっと、わからないけど。
だけど今はしらばっくれるしか道はない。
この一見、お堅く真面目に見える男、――ティモシー・バルテルミィ伯爵が、想像を絶する変態であることをオレは噂で知っていた。そして今、オレはその変態に、妙に大きな椅子に拘束されているのだ。その大きな黒い椅子には、首、肘、手首、膝、足首、の部分にそれぞれ拘束用のベルトがついている。そして今、そのすべてのベルトはきっちりとオレのサイズに締められている。
応接間にそんな頭のオカシイ椅子が置かれてる家の主人の、頭がオカシくないわけはなかった。
一体なにをされるかわかったもんじゃない。
「ふうむ。ではその体に聞いてみるしかないな……」
ティモシーはおもむろに顎に手をやると、オレの口を縛っていた布を解いた。そして、ぷはっとオレが息を吐きだしたと同時に、スッと白衣のポケットから、ウニョウニョしたなにかを取りだした。
それから、まるで商品でも説明するかのように左手の上にそれを乗せ、右手を後ろに当てながら、妙に販売員じみた口調で言った。
「こちら、私が開発したモミモミくん五六九号です!」
「どんだけモミモミくん作ってんだよ!」
思わずツッコミを入れてしまった。
ティモシーはオレの着ていたシャツのボタンを二つ外し、そして、ハッとなにかに気がついたかのように動きを止めた。そして、ちょっと待っててというように、片手を開いてオレに向けると、果物ナイフをテーブルから取ってきた。ピリピリと音を立てて、オレの着ていたシャツとズボンが裂かれていく。
「フハハ、怖いだろう! こういうときはナイフで衣服を破くんだよ! さあ、吐くなら今のうちだぞ」
「…………」
途中までボタンを外していたのを知ってるので、正直なところ、あまり怖くなかった。
その気持ちがオレの顔に出てしまったのか、ただ単純にオレが口を割らないからなのか、ティモシーはゴホンと咳払いをすると、モミモミくんをオレの両乳首に装着した。
「んッ」
「冷たいだろうが、すぐ体温であたたかくなる。特殊なスライムでできてるが、体に影響はないからね。大丈夫」
「…………」
いいんだか悪いんだかよくわからない説明をされた。オレは乳首にスライムを装着された状態だと言うのに、妙に冷静に、ティモシーの動向を見守っていた。ガサガサとなにやら箱の中を漁っていたティモシーがまた販売員ヅラして言った。
「そしてこちらが、『ジュルジュル吸っちゃうよ気持ちよくなってねお兄ちゃん三号』! それから『お兄ちゃんのことギュウギュウ締めつけちゃう良穴五二号』~!」
「名前……!」
ティモシーの手の上に乗っているのは、こうして拘束されている以上、明らかに恐ろしいものであるはずだったが、ついまたツッコミを入れてしまった。だけど、その名前から想像するに、確実に変態の好き好む変態的な魔道具であることは間違いなかった。
まるで毛糸でできた帽子のような形状の鉄製の魔道具と、そしてピンク色の筒のようなウネウネしたものは、どこに装着されるのか、いとも容易く想像がつく。嫌な汗が額に浮かぶ。オレはぐっと拳に力をこめた。
「で、最後は。『ズッポリズンドコゴリゴリ一号』初心者サイズ~!」
「おい! な、名前もひどいがおまッ……一号って」
「そう。筆おろしだ。優しくやってくれ。あっでもね、君も大変だと思うから、初心者サイズだからね。ね?」
「ふ、ふざけんな!」
オレは精一杯の虚勢を張りながら、内心怯えまくっていた。尻になにかを入れようだなんて、今までの人生で一度も思ったことがなかったのだ。そんなのどうやって優しくしろっていうんだよ! と、思うが、それよりも、なによりも。
(モミモミくんを五六九バージョン作るやつの一号、めちゃくちゃ怖い……!)
驚愕して固まっているあいだに、ペニスの根本にシルバーの拘束具までつけられてしまった。三つ丸がつながっているみたいな拘束具で、なんで三つも穴があるんだろうと思っていたら、玉とペニスをそれぞれの穴に無理やり押しこまれた。
思いつく限りの暴言を吐いたが、ティモシーは止まる様子はなく、「怖いだろ~怖いだろ~」としきりに言っては、フハハと嬉しそうに笑っていた。たしかにすごく怖いのだが、なんだろう、悪いやつではないんじゃないかっていう変な気持ちになってしまって困る。
そうこうしてるあいだに、ぬるぬるした薬をペニスに塗られ、あっという間にオレのペニスは臨戦状態になってしまった。
さっきの道具がどう使われ、ティモシーがどうやってオレの体に聞くのか、オレはそのときになってようやく理解した。
オレは、震える声で懇願した。
「や……やめて。やめてください」
「フハハハ。今から全部装着してくれるわ! あっでもね、大丈夫。その、近くでちゃんと見てるし、あの、まずいなって思ったらちゃんとやめるからね。ただ、筆おろしの映像記録だけは撮るから、かわいく魔道具見ててね。あれね。あの天井から下がってるあれ。怖くないから。その、気持ちよくなってくれたら大丈夫だからね」
「~~~っっ」
どうしよう、とオレは焦った。
この男はもしかしたら、悪いやつではないのかもしれないけど、完全に話が通じないタイプのいいやつだった。
完全に話が通じないタイプのいいやつっていうのが、悪いやつではないのかっていうのは、正直なところよくわからなかった。
だけど、塗られた薬のせいなのか、大喜びでじゅるじゅると涙を流しているオレのペニスは、『お兄ちゃんのことギュウギュウ締めつけちゃう良穴五二号』の中へとゆっくりと導かれた。うにゅうにゅと細かいヒダが蠢くような筒の中で、ペニス全体を撫であげられる。思わず脚に力が入り、つま先がきゅうっと丸まった。はじめての感覚に、オレの目の前には、チカチカと星が飛ぶ。
「ひぁッ……あ、あ、あ"ぁぁ~……」
「……君、かわいい声出すんだね」
そう感心したように言いながら、さらにペニスの先端に、ちゅぽっと吸いつくように『ジュルジュル吸っちゃうよ気持ちよくなってねお兄ちゃん三号』が被せられた。そして、ぽうっと両手に魔力の光を集めると、ティモシーは、すべての変態道具に、ちょんっと触れた、――途端。
「あっや、あぁーーーッ」
「フハハハハ。なんて心地のいい悲鳴だ」
「お、おまっあぁッそれ言いたい……あッだけだろーーーッ!!!」
オレは叫ばずにはいられなかった。だけどそんな意識は一瞬でどこかへぶっ飛んだ。
すべての魔道具が意志を持ったかのように動き出したのだ。オレは白目を向く勢いで、その大きすぎる快感を逃そうと、無意識でガクガクと腰をつきあげた。不自然な体勢で、狂ったように腰を振りながら、涙を流した。
そして、「あっ」と何かを思い出したようにティモシーは動きを止めた。すでにもう頭がおかしくなりそうなほどの快感が駆け巡っていたが、もしかして思いとどまってくれるんだろうか、とわずかな期待に胸を膨らませた。だが。
そして、上から流れてくる液体によって、どろどろになっていたオレの尻に『ズッポリズンドコゴリゴリ一号』初心者サイズを、あっさりと差しこんで言った。
「感想は明日提出してもらう」
オレは叫んだ。
「あ"、あ、あくま~~~!!!」
「――いい悲鳴だ」
∞ ∞ ∞
「ひ……ッあ、あ"ぅ」
泥棒の顔は涙とよだれでもうぐちょぐちょだった。あ、顔以外も大概ぐちょぐちょだった。この泥棒が私の邸宅に現れたのは、つい数時間前のことだった。
先月水晶を盗まれてしまってから、警備を強化したうちの保管庫に彼は現れた。上から落ちてきたであろう檻の中で呆然する彼を見て、私は驚いた。黒い猫っ毛に全身黒づくめだというのに、氷のような色の瞳が美しい、しなやかな猫のような男だなと思った。
スッと涼しげだった目元は、いまや溶けだした氷のようにとろとろだし、だらしなく口を開き、はくはくと声にならない声をあげている。
もう指しか動かせないのか、ピクピクと指先がかすかに震えているのがわかる。ぐったりとした中で、唯一元気そうなのは彼のペニスだけである。その彼を観察しながら、そろそろ止めないとまずいという気はしていた。
だが、私は今、――未知なる感覚が胸の中に広がるのを感じていた。
(えっ……どうしよう。かわいくない……?!)
私はいまだかつて、自分の中にこんなにもうきうきとした気持ちを感じたことはなかった。冷静に、顔色ひとつ変えずに、エレガントに、彼のことを怜悧な様相で眺めているが、内側では心臓がバクンバクン鳴り響いていた。
さっきから得体のしれない、愛おしいといったような、そんな気持ちがこみ上げていた。今まで研究が楽しくて、それだけで魔道具を作ってきたが、その魔道具たちが実際にこんなにも、一人の人間を快楽の虜にするのかという実感をはじめて感じていた。どき、どき、と胸が高鳴る。触れてみたいと、純粋にそう思った。
私は、彼に近づいた。
「君、――ティモシーと呼んでみてくれないか」
「あぅ……ああ……ァ……」
その消えいりそうな声を聞き、胸がきゅんとするのを感じた。だけどすぐにハッとした。この状態のままでは話せるはずはなかった。私の最高傑作たちにさまざまな性感帯を刺激されている状態にあるのだ。私は急いで、すべての魔道具を外した。
ひっくひっくと嗚咽を漏らす泥棒が、泣きながらつぶやいた。
「い、イかせて……出したい。出したいよぅ……」
「君、声がやっぱりかわいいね」
「ねがっ……も、もぅ、願いっ」
「その、腰を突き上げても意味はまったくないが、どうしても腰が動いてしまうっていうのは、すばらしい反応だね」
私はそのそそり立つ泥棒のペニスがかわいそうになって、そっと手を添えた。ビクッと泥棒の体が震えた。ぬるぬるをとおりすぎ、びしょ濡れになったそのペニスは、魔道灯に照らされて、やらしく光っていた。ゆっくり、ゆっくり扱きあげると、まるで雷魔法にでもぶつけられたみたいに、泥棒は腰をつきだして大きく震えた。
私は、その浅ましい姿に、思わずごくっと喉を鳴らした。そして、見るからに柔らかそうなぷっくりとした後孔に、自然と目がいってしまった。どき、どき、と心臓が鳴るのがわかる。そして、自分の中心に熱が集まっていくのも。
私は尋ねてみることにした。
「その、お疲れのところ悪いんだが、私のペニスを差しこんでみてもいいだろうか」
「ヒッ……あ"あ"う"ぁぁああ~~」
「えッ!」
別にまだ差しこんだわけでも、ズボンを下ろしたわけでもなかったが、子どものように泣きだしてしまった泥棒を見て、自分がやりすぎてしまったことに気がついた。よく考えてみたら、拘束具もまだそのままだった。魔力をこめ、泥棒の根本を戒めている銀のリングをとり外した。そして、まっ赤になってしまった泥棒のペニスを見て、思った。
(拘束するためのリングの研究をどうして怠っていたんだ私は……!)
そして、パンパンに張りつめていた泥棒のペニスから、どろどろと精子が流れでた。泥棒のお腹に水たまりを作るほどだった。その様子があまりにも卑猥だったので、しっかりと映像で記録した。それから、泥棒の体に浄化の魔法をかけ、なんとなく温かい濡れ布で拭き、ゆっくりとベッドに寝かせた。
さっきまであんなにもいやらしい姿で泣き叫んでいたというのに、すよすよとすぐに眠りに落ちていった。その姿を私は、明け方近くまで見ていたのだった。そして思った。
(どうしよう……かわいいな……)
明け方までいろいろ考えた結果、私の中にはとあるアイディアが浮かんでいた。こんなにかわいい存在を、逃すのはやめようと。朝、目を覚ました彼に私は高らかに宣言したのだった。彼はモンスターでも目の前にいるかのような顔をして、オウムのように私が宣言したことをくり返した。
「……は? こ、これから実験に付き合え? い、いや……」
「フハハハハ、君に選択肢などないのだよ。君の反応は非常によかった! ともに記録を鑑賞しようじゃないか」
「見ない! 絶対に見ないから!!! ていうか消して! 実験にも絶対につきあわない!」
おや? と私は首をかしげた。あんなにもかわいらしい記録をどうして消してほしいのだろう。一緒に楽しく鑑賞してくれるものだとばかり思っていたのだ。だが青ざめた泥棒の顔を見て、私は思った。
(ん……? もしかして消してほしいのだろうか。そして、実験にも付き合いたくないと。ということはだ)
私は天才的な頭脳で有名な魔術師であった。そして私は、天才的な頭脳を駆使し、天才的な回答を、天才的な速さで叩きだした。
「ほう。そうか……この記録があれば、脅すことができるな」
「なッ」
「ではまた、明日の同じ時刻にここで会おう!」
「はあ?!」
そして私は高らかに宣言した。
「君の悪事を! あのいやらしい痴態を! バラされたくないのならなッ」
∞ ∞ ∞
「え? なにそれ。なんでそんな本読んでんの? 『小悪魔ちゃんのラブテクニック』って……なにそれ! 書いてんの誰だよ。ていうか読んでるやつもダセェ」
「う、うるさいな。いいだろ別に!」
一週間ほど経ったある日のことだった。
オレはあれから、体中の性感帯を開発され続け、もはや歩くだけでR指定のような、卑猥な存在へと成り下がっていた。
ローブで顔を半分ほど隠し、下半分を仮面で隠した幼なじみが、オレが働いている書店にやってきた。そう、オレは別に泥棒ばっかりやっているわけではないのだ。この下品な幼なじみは、同じ孤児院出身の仲間で、ジュリアンという。ジュリアンは顔を隠したまま、ドカッと書店の机の上に座った。そして、棚に置いてある手のひらサイズの水晶を見て、あれ? と首をかしげた。
「あッ! あれ、お前かよ! 水晶盗んだの」
「え……あー……そ、そうだった」
まずい、と内心焦った。
実はオレはまだ赤ん坊のころに、孤児院の前に捨てられていたらしい。だけど、そのとき、美しい緑色の水晶を抱いていたらしいのだ。その水晶は、記録水晶だったらしく、親の顔が写っていたらしい。そんなことするくらいだ。どうしてもオレを育てられない理由があったんだろう。
だけど、その水晶は誰かに盗まれてしまったらしいのだ。
その話を孤児院のババアから聞いてからというもの、オレは水晶を探している。だけど、――。
「オレの舞台で盗み働いてんじゃねーよ! 持って帰るからな」
「え? 持ち主わかってんの?」
「すげーヒステリーな女が騒いで大変だったんだよ。劇場のやつならわかるだろうから、聞いてみる」
そうなのだ。この幼なじみのジュリアンは舞台俳優をやっている。だからこうして顔を隠して歩いているのだ。
たまに劇場を手伝ったりするが、そのときに、大切そうに水晶を抱えている女を見つけて、つい手癖の悪いオレは、それをこっそり持って帰ってしまったのだった。
だが、――断じて。断じてあの変態伯爵の家で盗んだわけではない。
「それでなに? 小悪魔ちゃんは誰を、ラブで、テクニックするつもりなの」
「……そういうんじゃねーっつってんだろ」
「小悪魔って! ぶはッ」
内心、くそう、と盛大に舌打ちをした。本当にそういうわけじゃないのだ。
さんざん変態な目にあったあと、オレはない頭で考えたのだ。そして、脅してくる相手にそれをやめさせるためには、相手を惚れさせればいいんだ、という結論にいたった。
あの日、オレはあの朦朧とした意識の中で、あの変態が「入れてもいいか」と尋ねてきたのをうっすらと覚えていた。だけど、オレがそんな状態じゃないとわかったあいつは、無理矢理犯さなかった。オレのことをきれいにして、ベッドに横たえたのだ。
(ちょっと……やさしかったし)
と、考えかけてハッとする。これは、前に本で読んだ、――犯罪者と一緒に時間を過ごすと、犯罪者がいいやつなのではないかと錯覚するようになるという事象にとても似ていた。
今、一番聞きたくない声が聞こえたのは、そのときだった。
「ちょっとお尋ねしますが、恋愛の指南書みたいなものは売ってますか?」
「……ッッ?!」
貴族だということを隠す素振りも見せず、その彫刻みたいなやたら整った顔を世界に晒しながら、颯爽と『恋愛指南書』を買いにきたのは、最近オレがよく会ってる変態だった。
オレが固まっているのに気がついたのか、ジュリアンがにやっと笑ったかと思うと、オレが手にしていた恋愛指南書を手渡したのだ。
「はい、お客さま。こちら、大人気の恋愛の指南書です」
「ふむ。ではそれをもら……んん? 君は泥棒ではないか!」
「……こ、こんにちは」
「き、君は書店で働いていたのかッ。だ、だめだぞ。泥棒なんてしたら」
その変態の言葉を聞いて、ジュリアンが隣で死んだ魚のような目をしていた。
だけど、今はとりあえず、この変態を書店から追い払うことのほうが重要であった。値段を伝え、本を紙袋にいれて、手わたす。いや、本ではない。恋愛指南書を手わたしたのだ。ということは、この変態は、オレのことは実験に使うくせに、それでいて、どこぞの令嬢のケツを追いかけているのだ。イラアッと怒りがこみあげた。そしてつい、ぶっきらぼうに尋ねてしまった。
「誰か好きな人でもできたわけ?」
「ん"ん。い、いや、そそそそういうわけじゃ……と、とにかくこれをもらっていくよ。お代はここに」
妙に歯切れ悪くそういうと、そそくさと変態は店を去っていった。
ジュリアンが「へえ」と言いながら、にやにやしていたので、さらにオレの気分は下降した。
(好きなやつがいるなら……作戦を変えないといけないじゃん……めんどくさ)
∞ ∞ ∞
「なあ……なんで入れないの?」
「え?」
「最初の日、入れたいって言ってたじゃん。なんで入れないの」
「そ、それは……」
今日も今日とて、例の椅子に股を開いたまま拘束され、『ズッポリズンドコゴリゴリ二四号』の準備をしている変態の後ろ姿を見ながら、ふと、オレは尋ねてしまった。浮気を糾弾するような口調になってしまったのがなぜかってことは、考えたくない。
だけど、言い淀む姿に、苛立ちがつのった。
オレはさっきからテーブルの上に、来週末にあるジュリアンの舞台のチケットが二枚置かれてることに気がついていた。そして、ぐつぐつと腹の中が沸きたつような怒りが爆発してしまった。
「オレのことは、魔道具で弄ぶだけで入れもしないくせに! 好きなやつとは演劇鑑賞かよ!」
「…………へ?!」
そもそもこの変態はオレのことをいまだに「泥棒」と呼んでいる。名前も尋ねてこない。オレもずっと「変態」と呼んでいるから、お互いさまと言えば、お互いさまではあるのだが。とにかく変態は、オレと、『ズッポリズンドコゴリゴリ二四号』と、そしてチケットに、順番に目をやりながら、焦っている様子であった。
だが、スッとその焦りを消すと、変態は妙に渋い声で言った。
「なんだ? 私とやらしいことをしたいのか」
「ッ……そ、そんなわけない!」
「ん? 私のことを好きにでもなってしまったのか? かわいいな」
かああと顔に熱が集まった。そんなわけなかった。相手は、この変態だ。
あんな変態的な出会いをして、変態的なことをされ続け、日々変態的な研究をして、変態なことしか言わない変態だ。絶対に好きだなんていうことはありえなかった。それだけは認めてはいけなかった。
なぜなら、たとえオレが歩くだけでR指定のような卑猥な存在に成り下がろうとも、オレは一人の人間であった。だが、しかし。この変態と恋人になってしまったら、もう、それはもはや変態の仲間入りは確定事項であった。
(絶対、やだ!!!)
オレはぎゅっと目をつぶり、ブンブンと首を振った。
たとえ毎回、この変態に変態なことをされたあと、ずっと優しく明け方まで背中をさすられていることに気がついていたとしても、それにちょっとどきどきしたり、朝起きたときに抱きしめられていてうれしかったりするのは、ただの勘違いなはずだった。
「そんなに私のモノが欲しいのか。やらしいな。もうこんなに物欲しそうにして」
「っっ!」
「そんなにほしいなら、入れてやってもいい」
「…………え?」
変態が、恥ずかしそうにオレのほうを見た。その表情は、もしかしてオレのこと好きなの? と思ってしまうような顔で、オレの心臓は、走りだしたみたいに速く響いた。もしかして変態もオレのことが好きなのかな、と、どきどきして、変態『も』と考えてしまったことに気がついて、ぶわわっと顔に熱が集まった。
だけど、――変態の次の言葉で、ガラガラとオレのすべては崩れ去った。
「だが……私がお前だけのものになるだなんて、思わないことだなッ」
フハハといつものように笑う変態を見て、ズキッと胸が痛んだ。気がつきたくなかった。
なんで胸が痛むのかなんて、考えたくもなかった。
オレは孤児で、あんなにも優しく、朝まで見守られたことなんてなかった。今までの人生で、あんなにも一人の人間に守られているという気持ちになったことも。知らないあいだに絆されてしまっていた。この変態に。だというのに、その気持ちに気づいてしまった直後に、最低なことを言われた。
じわっと涙で視界が滲んだ。
変態が近づいてくる。変態のいきりたったペニスが、オレの尻にぴたりと当てられた。いつもの冷たい感触ではない。温度のある、本物のペニスだ。自分でも、それがほしいのかほしくないのかよくわからない混乱の中にいた。
だけど変態のペニスはゆっくりと、中を押しひろげた。
(あ……ど、どうしよ……はいって……)
だけど、――。ぼろっと涙がこぼれ落ちる。
だめだった。こんなつながり方をしたって、幸せでなんてあるわけがなかった。オレはブンブンと首を振りながら、叫んだ。
「やだっ……せ、せめて、せめてオレのこと好きなやつがいい!」
「え?」
「そんな、他に好きな人がいるやつに、お、おかされるなんてッ」
「へ?」
そして、その感情の爆発するままに、最大級の『めんどくさい女』の文句をぶっ放した。
「だ、だって……お、オレのこと、好きでも、ないくせに!!! 他のやつとしてろよ!! バカ!!!」
「えッ! い、いや、だって!」
なぜか焦った変態が一体どんな言いわけをしようとしてるのかはわからなかった。だけど、オレは涙を流しながら、言葉を待った。待ってしまった。きっとオレのことを傷つけるなにかしらの言葉が伝えられるだろう。
この変態はどこぞの令嬢のケツを追いかけているんだから。ぐっと奥歯を噛みしめて、ぎゅっと目をつぶった。
変態は、いまだ焦ったような様子で、口を開いた。
そして、まったく予想だにしていなかった言葉を吐きだした。
「――好きだと言ってはいけないと書いてあったんだ!」
書いてあった? なににだろうとオレはぽかんと口を開いた。
そして、一瞬遅れて、――。
オレは、雷に打たれたかのような衝撃を受けた。
あの日、――あの日手にしていた『小悪魔ちゃんのラブテクニック』の内容がバラバラと頭の中に降ってくるのを感じていた。そしてそれは、さきほどまでの変態の声で、脳内で再生された。
「なんだ? 私とやらしいことをしたいのか」
――「なあに? 僕とえっちなことしたいの?」
「ん? 私のことを好きにでもなってしまったのか? かわいいな」
――「僕のこと……好きになっちゃったの? かわいいね」
「そんなに私のモノが欲しいのか。やらしいな。もうこんなに物欲しそうにして」
――「そんなに僕に入れたいの? えっち。もう、こんなにして」
「そんなにほしいなら、入れてやってもいい」
――「そんなにしたいなら、入れさせてあげる」
「だが、私がお前だけのものになるだなんて、思わないことだな」
――「だけど、僕があなただけのものになるなんて、思わないでね!」
――※相手が好きだと言ってくるまで、絶対に好きだと言ってはいけません。
オレはクッと眉間に皺を寄せ、ぎりっと奥歯を噛みしめた。そして思った。
(忠実……!!!!!)
そして、完全に小悪魔に揺さぶられているオレの気持ち!
オレは、ガンッとテーブルを蹴っとばした。オレには暴力しかしてない変態が、「暴力はやめてくれたまえ」と言っているのを聞き流しながら、オレは叫んだ。
「アホかッ!!」
「いや? 天才だが――?」
∞ ∞ ∞
「ふぁ……んッんっ」
甘い声が泥棒から漏れる。この泥棒は、自分ではよく理解していないようだが、そのツンとした冷たい印象のわりに、懐くと甘えてくる猫のようだ。いつもの椅子ではなく、寝台がいいと騒ぐので、今は寝台で尻を高くあげて私のペニスを飲みこんでいる。
しっかり私のペニスのサイズに慣れた穴だ。本人は気がつかなかったようだが、『ズッポリズンドコゴリゴリ二四号』は完璧に私の形へと変化を遂げていた。わざわざ石膏で型取りまでしたのだ。数時間、完全な勃起を持続させるために、私がどれだけの苦労をしたかということも、知らない。
そして、何日もかけて、すっかり慣らされた泥棒の穴は、いまは喜んで私のことを締めつけているのだ。
シーツにしがみつきながらも、腰が揺れている。
初日にも思ったが、この泥棒は快楽に弱い。今もはしたなく腰を振って、自分のペニスを寝台に擦りつけている。
(それがまた、冷たい印象と違っていい……)
ぐっとまた自分のペニスの質量が増した。泥棒の両腕を引っぱり、ぐっと腰を突き出した。
なんて具合のいい穴なんだろう。『お兄ちゃんのことギュウギュウ締めつけちゃう良穴五二号』とは比べものにならない心地良さだ。
「ひああああッッ」
泥棒が何度目かの絶頂を迎え、ペニスから勢いよく精子を噴きあげた。
『お兄ちゃんのことギュウギュウ締めつけちゃう良穴五二号』の開発時には、さんざん自分でも試したし、あれこそが至高だと思っていたが、やはり五十二程度で諦めてしまったものを、どうして至高だと思えたのだろう。世界には、こんなにも具合のいい穴が存在しているというのに。
この全体を締めあげられながら、入り口のきゅっとくびれた部分で絞りあげられる感覚。包みこむような温度、先端に吸いつかれているかのような感触。そしてなによりも、絶え間なく漏れる甘い声が。
「ああッす、好き。き、気持ちいいっ」
「…………」
――穴がしゃべったら、まずいだろうか。
ツンと上を向いた乳首をつまめば、ビクビクと体が震えるし、ペニスをしごいてやれば、腰を振って歓喜する。すっかり慣らされた穴は、よだれを垂らして私のペニスを舐めまわしているかのようだ。
「なんてやらしい体なんだ……」
「……そ、んなっお、お前のせいッだろ……!」
「こんな卑猥な体、信じられない」
「んッ……や、やだっ……ちがッ」
泥棒がいい声をあげる場所はもうわかっているのだ。ねぶるように内壁を擦りあげると、泥棒は悲鳴のような声をあげた。もう限界が近そうだなと思いながら、泥棒のペニスに指を絡ませた。内側と外側を両方擦られたら、人体の構造上、たまらない快楽の奔流が泥棒の中に駆け巡ってるだろう。
絞りとるようにペニスを包まれ、私ももう限界だった。ただでさえ、愛しい人とようやくつながることができたのだ。
私は泥棒の耳元で、できるだけ優しく囁いた。
「出すよ、――ネイト」
「~~~ッッ! あッ……ああッッ」
泥棒、――もといネイト・オーブリーはビクッと体を震わせたあと、三度目の飛沫を勢いよく吐きだした。
それにあわせて蠢く内壁の最奥に、私も欲望を叩きつけた。じわっと熱いものがペニスから漏れだしたのを感じた。ハアハア、と二人で荒く息を吐きながら、寝台に倒れこむ。覆い被さるようにネイトの横で息を吐いていると、目の前のネイトの顔がまっ赤になっているのがわかった。
あまりにもタコのように赤くなっているので、私は首をかしげた。
「どうした? よかっただろう?」
「――……『※好きな相手の情報は事前にできる限り調べましょう』……」
「ああ、本のことか。ネイト・オーブリー。オーブリー孤児院で育ち、王都の小さな書店で働いている。親の形見の水晶を探しているため、ごく稀に悪事に走ることもある。手癖も口も悪い。ティモシー・バルテルミィ伯爵と出会い、熱愛のすえ、電撃結婚。彼の天才的な頭脳で編み出された魔術により、男でありながら五人の子供に恵まれる。そして、体は世界一淫乱である」
「おいッッ!!!」
まっ赤な顔のまま焦ったように声をあげるネイトを見ながら、うっかり妄想まで語ってしまったことに気がついた。だが、それは近い未来そうなるだけのことなんだから、彼が今知ったとしてもなんら問題はないことだった。
「それでなに……オレのこと、ほんとに好きなの? あのチケットはなに?」
「ああ、泥棒と一緒に観に行こうと思っていたんだ。たまに手伝っているということは知っている。好きだろう?」
「べ、別に。き、嫌いじゃないけど。いい加減、泥棒って言うのやめてくれない?」
相変わらずまっ赤なまま、ネイトがムッとした顔でそう言うのを聞きながら、私はネイトの跳ねる黒髪を撫でた。汚れていないほうの手で。そして、いろいろあったが、とにかくあの本のおかげで、ネイトを手に入れることができたようだと、ほっと安堵の息を漏らした。
「いいんだ。お前が盗みにきたのは本当なんだから」
「私の心をとか言ったら、もう二度とこないからな」
「えッ」
なぜだ。なぜせっかく恋人になれたというのに、そんなつれないことを言ってくるのか、まったく私には理解ができなかった。もしかして、手に入れたと思っているのは私だけで、ネイトは私のことをまだ好きではないんだろうか。あんなにいやらしく腰を振っていたのに。なんてけしからんやつなんだ。
驚愕に固まる私に、ネイトはこてんと首をかしげながら尋ねた。
「それで? オレのこと、好きなの?」
ふむ、と私は考えこんだ。まだネイトが私のことを好きかどうかわからないのであれば、私が言うべき台詞はこれしかなかった。
私は勇んで口を開いた。
「お前は私のことが好きなんだろう? すこしだけなら、遊んでやってもいい」
――「僕のこと好きなの? ちょっとだけなら、遊んであげてもいいよ?」
ブハッとネイトが下品に吹きだすのを見て、私はムッと眉間に皺を寄せた。
だが、――。
「うん、オレは好きだよ、ティモシー。もう小悪魔はいいよ」
その言葉を聞いて、私はようやく、ほっと息をついた。
週末は人生ではじめてのデートである。
また新たな指南書を買いに行かないといけないな、と思ったのだった。
第3夜は【変態博士×ツンデレ泥棒】です。
「先日、うちの保管庫から水晶を盗んだのはお前か」
硬質なメガネのよく似合う、長髪の貴族の男がオレのことを見下ろしながら訊いた。
オレは不自由な体勢のまま、声も出せずにふるふると首を横に振った。たしかにオレはとある水晶を探している。この家に希少な水晶があると耳にして、盗みにきたっていうのも本当だ。だけど、『まだ』盗んでない。それは免罪符になるのかっていうのは、ちょっと、わからないけど。
だけど今はしらばっくれるしか道はない。
この一見、お堅く真面目に見える男、――ティモシー・バルテルミィ伯爵が、想像を絶する変態であることをオレは噂で知っていた。そして今、オレはその変態に、妙に大きな椅子に拘束されているのだ。その大きな黒い椅子には、首、肘、手首、膝、足首、の部分にそれぞれ拘束用のベルトがついている。そして今、そのすべてのベルトはきっちりとオレのサイズに締められている。
応接間にそんな頭のオカシイ椅子が置かれてる家の主人の、頭がオカシくないわけはなかった。
一体なにをされるかわかったもんじゃない。
「ふうむ。ではその体に聞いてみるしかないな……」
ティモシーはおもむろに顎に手をやると、オレの口を縛っていた布を解いた。そして、ぷはっとオレが息を吐きだしたと同時に、スッと白衣のポケットから、ウニョウニョしたなにかを取りだした。
それから、まるで商品でも説明するかのように左手の上にそれを乗せ、右手を後ろに当てながら、妙に販売員じみた口調で言った。
「こちら、私が開発したモミモミくん五六九号です!」
「どんだけモミモミくん作ってんだよ!」
思わずツッコミを入れてしまった。
ティモシーはオレの着ていたシャツのボタンを二つ外し、そして、ハッとなにかに気がついたかのように動きを止めた。そして、ちょっと待っててというように、片手を開いてオレに向けると、果物ナイフをテーブルから取ってきた。ピリピリと音を立てて、オレの着ていたシャツとズボンが裂かれていく。
「フハハ、怖いだろう! こういうときはナイフで衣服を破くんだよ! さあ、吐くなら今のうちだぞ」
「…………」
途中までボタンを外していたのを知ってるので、正直なところ、あまり怖くなかった。
その気持ちがオレの顔に出てしまったのか、ただ単純にオレが口を割らないからなのか、ティモシーはゴホンと咳払いをすると、モミモミくんをオレの両乳首に装着した。
「んッ」
「冷たいだろうが、すぐ体温であたたかくなる。特殊なスライムでできてるが、体に影響はないからね。大丈夫」
「…………」
いいんだか悪いんだかよくわからない説明をされた。オレは乳首にスライムを装着された状態だと言うのに、妙に冷静に、ティモシーの動向を見守っていた。ガサガサとなにやら箱の中を漁っていたティモシーがまた販売員ヅラして言った。
「そしてこちらが、『ジュルジュル吸っちゃうよ気持ちよくなってねお兄ちゃん三号』! それから『お兄ちゃんのことギュウギュウ締めつけちゃう良穴五二号』~!」
「名前……!」
ティモシーの手の上に乗っているのは、こうして拘束されている以上、明らかに恐ろしいものであるはずだったが、ついまたツッコミを入れてしまった。だけど、その名前から想像するに、確実に変態の好き好む変態的な魔道具であることは間違いなかった。
まるで毛糸でできた帽子のような形状の鉄製の魔道具と、そしてピンク色の筒のようなウネウネしたものは、どこに装着されるのか、いとも容易く想像がつく。嫌な汗が額に浮かぶ。オレはぐっと拳に力をこめた。
「で、最後は。『ズッポリズンドコゴリゴリ一号』初心者サイズ~!」
「おい! な、名前もひどいがおまッ……一号って」
「そう。筆おろしだ。優しくやってくれ。あっでもね、君も大変だと思うから、初心者サイズだからね。ね?」
「ふ、ふざけんな!」
オレは精一杯の虚勢を張りながら、内心怯えまくっていた。尻になにかを入れようだなんて、今までの人生で一度も思ったことがなかったのだ。そんなのどうやって優しくしろっていうんだよ! と、思うが、それよりも、なによりも。
(モミモミくんを五六九バージョン作るやつの一号、めちゃくちゃ怖い……!)
驚愕して固まっているあいだに、ペニスの根本にシルバーの拘束具までつけられてしまった。三つ丸がつながっているみたいな拘束具で、なんで三つも穴があるんだろうと思っていたら、玉とペニスをそれぞれの穴に無理やり押しこまれた。
思いつく限りの暴言を吐いたが、ティモシーは止まる様子はなく、「怖いだろ~怖いだろ~」としきりに言っては、フハハと嬉しそうに笑っていた。たしかにすごく怖いのだが、なんだろう、悪いやつではないんじゃないかっていう変な気持ちになってしまって困る。
そうこうしてるあいだに、ぬるぬるした薬をペニスに塗られ、あっという間にオレのペニスは臨戦状態になってしまった。
さっきの道具がどう使われ、ティモシーがどうやってオレの体に聞くのか、オレはそのときになってようやく理解した。
オレは、震える声で懇願した。
「や……やめて。やめてください」
「フハハハ。今から全部装着してくれるわ! あっでもね、大丈夫。その、近くでちゃんと見てるし、あの、まずいなって思ったらちゃんとやめるからね。ただ、筆おろしの映像記録だけは撮るから、かわいく魔道具見ててね。あれね。あの天井から下がってるあれ。怖くないから。その、気持ちよくなってくれたら大丈夫だからね」
「~~~っっ」
どうしよう、とオレは焦った。
この男はもしかしたら、悪いやつではないのかもしれないけど、完全に話が通じないタイプのいいやつだった。
完全に話が通じないタイプのいいやつっていうのが、悪いやつではないのかっていうのは、正直なところよくわからなかった。
だけど、塗られた薬のせいなのか、大喜びでじゅるじゅると涙を流しているオレのペニスは、『お兄ちゃんのことギュウギュウ締めつけちゃう良穴五二号』の中へとゆっくりと導かれた。うにゅうにゅと細かいヒダが蠢くような筒の中で、ペニス全体を撫であげられる。思わず脚に力が入り、つま先がきゅうっと丸まった。はじめての感覚に、オレの目の前には、チカチカと星が飛ぶ。
「ひぁッ……あ、あ、あ"ぁぁ~……」
「……君、かわいい声出すんだね」
そう感心したように言いながら、さらにペニスの先端に、ちゅぽっと吸いつくように『ジュルジュル吸っちゃうよ気持ちよくなってねお兄ちゃん三号』が被せられた。そして、ぽうっと両手に魔力の光を集めると、ティモシーは、すべての変態道具に、ちょんっと触れた、――途端。
「あっや、あぁーーーッ」
「フハハハハ。なんて心地のいい悲鳴だ」
「お、おまっあぁッそれ言いたい……あッだけだろーーーッ!!!」
オレは叫ばずにはいられなかった。だけどそんな意識は一瞬でどこかへぶっ飛んだ。
すべての魔道具が意志を持ったかのように動き出したのだ。オレは白目を向く勢いで、その大きすぎる快感を逃そうと、無意識でガクガクと腰をつきあげた。不自然な体勢で、狂ったように腰を振りながら、涙を流した。
そして、「あっ」と何かを思い出したようにティモシーは動きを止めた。すでにもう頭がおかしくなりそうなほどの快感が駆け巡っていたが、もしかして思いとどまってくれるんだろうか、とわずかな期待に胸を膨らませた。だが。
そして、上から流れてくる液体によって、どろどろになっていたオレの尻に『ズッポリズンドコゴリゴリ一号』初心者サイズを、あっさりと差しこんで言った。
「感想は明日提出してもらう」
オレは叫んだ。
「あ"、あ、あくま~~~!!!」
「――いい悲鳴だ」
∞ ∞ ∞
「ひ……ッあ、あ"ぅ」
泥棒の顔は涙とよだれでもうぐちょぐちょだった。あ、顔以外も大概ぐちょぐちょだった。この泥棒が私の邸宅に現れたのは、つい数時間前のことだった。
先月水晶を盗まれてしまってから、警備を強化したうちの保管庫に彼は現れた。上から落ちてきたであろう檻の中で呆然する彼を見て、私は驚いた。黒い猫っ毛に全身黒づくめだというのに、氷のような色の瞳が美しい、しなやかな猫のような男だなと思った。
スッと涼しげだった目元は、いまや溶けだした氷のようにとろとろだし、だらしなく口を開き、はくはくと声にならない声をあげている。
もう指しか動かせないのか、ピクピクと指先がかすかに震えているのがわかる。ぐったりとした中で、唯一元気そうなのは彼のペニスだけである。その彼を観察しながら、そろそろ止めないとまずいという気はしていた。
だが、私は今、――未知なる感覚が胸の中に広がるのを感じていた。
(えっ……どうしよう。かわいくない……?!)
私はいまだかつて、自分の中にこんなにもうきうきとした気持ちを感じたことはなかった。冷静に、顔色ひとつ変えずに、エレガントに、彼のことを怜悧な様相で眺めているが、内側では心臓がバクンバクン鳴り響いていた。
さっきから得体のしれない、愛おしいといったような、そんな気持ちがこみ上げていた。今まで研究が楽しくて、それだけで魔道具を作ってきたが、その魔道具たちが実際にこんなにも、一人の人間を快楽の虜にするのかという実感をはじめて感じていた。どき、どき、と胸が高鳴る。触れてみたいと、純粋にそう思った。
私は、彼に近づいた。
「君、――ティモシーと呼んでみてくれないか」
「あぅ……ああ……ァ……」
その消えいりそうな声を聞き、胸がきゅんとするのを感じた。だけどすぐにハッとした。この状態のままでは話せるはずはなかった。私の最高傑作たちにさまざまな性感帯を刺激されている状態にあるのだ。私は急いで、すべての魔道具を外した。
ひっくひっくと嗚咽を漏らす泥棒が、泣きながらつぶやいた。
「い、イかせて……出したい。出したいよぅ……」
「君、声がやっぱりかわいいね」
「ねがっ……も、もぅ、願いっ」
「その、腰を突き上げても意味はまったくないが、どうしても腰が動いてしまうっていうのは、すばらしい反応だね」
私はそのそそり立つ泥棒のペニスがかわいそうになって、そっと手を添えた。ビクッと泥棒の体が震えた。ぬるぬるをとおりすぎ、びしょ濡れになったそのペニスは、魔道灯に照らされて、やらしく光っていた。ゆっくり、ゆっくり扱きあげると、まるで雷魔法にでもぶつけられたみたいに、泥棒は腰をつきだして大きく震えた。
私は、その浅ましい姿に、思わずごくっと喉を鳴らした。そして、見るからに柔らかそうなぷっくりとした後孔に、自然と目がいってしまった。どき、どき、と心臓が鳴るのがわかる。そして、自分の中心に熱が集まっていくのも。
私は尋ねてみることにした。
「その、お疲れのところ悪いんだが、私のペニスを差しこんでみてもいいだろうか」
「ヒッ……あ"あ"う"ぁぁああ~~」
「えッ!」
別にまだ差しこんだわけでも、ズボンを下ろしたわけでもなかったが、子どものように泣きだしてしまった泥棒を見て、自分がやりすぎてしまったことに気がついた。よく考えてみたら、拘束具もまだそのままだった。魔力をこめ、泥棒の根本を戒めている銀のリングをとり外した。そして、まっ赤になってしまった泥棒のペニスを見て、思った。
(拘束するためのリングの研究をどうして怠っていたんだ私は……!)
そして、パンパンに張りつめていた泥棒のペニスから、どろどろと精子が流れでた。泥棒のお腹に水たまりを作るほどだった。その様子があまりにも卑猥だったので、しっかりと映像で記録した。それから、泥棒の体に浄化の魔法をかけ、なんとなく温かい濡れ布で拭き、ゆっくりとベッドに寝かせた。
さっきまであんなにもいやらしい姿で泣き叫んでいたというのに、すよすよとすぐに眠りに落ちていった。その姿を私は、明け方近くまで見ていたのだった。そして思った。
(どうしよう……かわいいな……)
明け方までいろいろ考えた結果、私の中にはとあるアイディアが浮かんでいた。こんなにかわいい存在を、逃すのはやめようと。朝、目を覚ました彼に私は高らかに宣言したのだった。彼はモンスターでも目の前にいるかのような顔をして、オウムのように私が宣言したことをくり返した。
「……は? こ、これから実験に付き合え? い、いや……」
「フハハハハ、君に選択肢などないのだよ。君の反応は非常によかった! ともに記録を鑑賞しようじゃないか」
「見ない! 絶対に見ないから!!! ていうか消して! 実験にも絶対につきあわない!」
おや? と私は首をかしげた。あんなにもかわいらしい記録をどうして消してほしいのだろう。一緒に楽しく鑑賞してくれるものだとばかり思っていたのだ。だが青ざめた泥棒の顔を見て、私は思った。
(ん……? もしかして消してほしいのだろうか。そして、実験にも付き合いたくないと。ということはだ)
私は天才的な頭脳で有名な魔術師であった。そして私は、天才的な頭脳を駆使し、天才的な回答を、天才的な速さで叩きだした。
「ほう。そうか……この記録があれば、脅すことができるな」
「なッ」
「ではまた、明日の同じ時刻にここで会おう!」
「はあ?!」
そして私は高らかに宣言した。
「君の悪事を! あのいやらしい痴態を! バラされたくないのならなッ」
∞ ∞ ∞
「え? なにそれ。なんでそんな本読んでんの? 『小悪魔ちゃんのラブテクニック』って……なにそれ! 書いてんの誰だよ。ていうか読んでるやつもダセェ」
「う、うるさいな。いいだろ別に!」
一週間ほど経ったある日のことだった。
オレはあれから、体中の性感帯を開発され続け、もはや歩くだけでR指定のような、卑猥な存在へと成り下がっていた。
ローブで顔を半分ほど隠し、下半分を仮面で隠した幼なじみが、オレが働いている書店にやってきた。そう、オレは別に泥棒ばっかりやっているわけではないのだ。この下品な幼なじみは、同じ孤児院出身の仲間で、ジュリアンという。ジュリアンは顔を隠したまま、ドカッと書店の机の上に座った。そして、棚に置いてある手のひらサイズの水晶を見て、あれ? と首をかしげた。
「あッ! あれ、お前かよ! 水晶盗んだの」
「え……あー……そ、そうだった」
まずい、と内心焦った。
実はオレはまだ赤ん坊のころに、孤児院の前に捨てられていたらしい。だけど、そのとき、美しい緑色の水晶を抱いていたらしいのだ。その水晶は、記録水晶だったらしく、親の顔が写っていたらしい。そんなことするくらいだ。どうしてもオレを育てられない理由があったんだろう。
だけど、その水晶は誰かに盗まれてしまったらしいのだ。
その話を孤児院のババアから聞いてからというもの、オレは水晶を探している。だけど、――。
「オレの舞台で盗み働いてんじゃねーよ! 持って帰るからな」
「え? 持ち主わかってんの?」
「すげーヒステリーな女が騒いで大変だったんだよ。劇場のやつならわかるだろうから、聞いてみる」
そうなのだ。この幼なじみのジュリアンは舞台俳優をやっている。だからこうして顔を隠して歩いているのだ。
たまに劇場を手伝ったりするが、そのときに、大切そうに水晶を抱えている女を見つけて、つい手癖の悪いオレは、それをこっそり持って帰ってしまったのだった。
だが、――断じて。断じてあの変態伯爵の家で盗んだわけではない。
「それでなに? 小悪魔ちゃんは誰を、ラブで、テクニックするつもりなの」
「……そういうんじゃねーっつってんだろ」
「小悪魔って! ぶはッ」
内心、くそう、と盛大に舌打ちをした。本当にそういうわけじゃないのだ。
さんざん変態な目にあったあと、オレはない頭で考えたのだ。そして、脅してくる相手にそれをやめさせるためには、相手を惚れさせればいいんだ、という結論にいたった。
あの日、オレはあの朦朧とした意識の中で、あの変態が「入れてもいいか」と尋ねてきたのをうっすらと覚えていた。だけど、オレがそんな状態じゃないとわかったあいつは、無理矢理犯さなかった。オレのことをきれいにして、ベッドに横たえたのだ。
(ちょっと……やさしかったし)
と、考えかけてハッとする。これは、前に本で読んだ、――犯罪者と一緒に時間を過ごすと、犯罪者がいいやつなのではないかと錯覚するようになるという事象にとても似ていた。
今、一番聞きたくない声が聞こえたのは、そのときだった。
「ちょっとお尋ねしますが、恋愛の指南書みたいなものは売ってますか?」
「……ッッ?!」
貴族だということを隠す素振りも見せず、その彫刻みたいなやたら整った顔を世界に晒しながら、颯爽と『恋愛指南書』を買いにきたのは、最近オレがよく会ってる変態だった。
オレが固まっているのに気がついたのか、ジュリアンがにやっと笑ったかと思うと、オレが手にしていた恋愛指南書を手渡したのだ。
「はい、お客さま。こちら、大人気の恋愛の指南書です」
「ふむ。ではそれをもら……んん? 君は泥棒ではないか!」
「……こ、こんにちは」
「き、君は書店で働いていたのかッ。だ、だめだぞ。泥棒なんてしたら」
その変態の言葉を聞いて、ジュリアンが隣で死んだ魚のような目をしていた。
だけど、今はとりあえず、この変態を書店から追い払うことのほうが重要であった。値段を伝え、本を紙袋にいれて、手わたす。いや、本ではない。恋愛指南書を手わたしたのだ。ということは、この変態は、オレのことは実験に使うくせに、それでいて、どこぞの令嬢のケツを追いかけているのだ。イラアッと怒りがこみあげた。そしてつい、ぶっきらぼうに尋ねてしまった。
「誰か好きな人でもできたわけ?」
「ん"ん。い、いや、そそそそういうわけじゃ……と、とにかくこれをもらっていくよ。お代はここに」
妙に歯切れ悪くそういうと、そそくさと変態は店を去っていった。
ジュリアンが「へえ」と言いながら、にやにやしていたので、さらにオレの気分は下降した。
(好きなやつがいるなら……作戦を変えないといけないじゃん……めんどくさ)
∞ ∞ ∞
「なあ……なんで入れないの?」
「え?」
「最初の日、入れたいって言ってたじゃん。なんで入れないの」
「そ、それは……」
今日も今日とて、例の椅子に股を開いたまま拘束され、『ズッポリズンドコゴリゴリ二四号』の準備をしている変態の後ろ姿を見ながら、ふと、オレは尋ねてしまった。浮気を糾弾するような口調になってしまったのがなぜかってことは、考えたくない。
だけど、言い淀む姿に、苛立ちがつのった。
オレはさっきからテーブルの上に、来週末にあるジュリアンの舞台のチケットが二枚置かれてることに気がついていた。そして、ぐつぐつと腹の中が沸きたつような怒りが爆発してしまった。
「オレのことは、魔道具で弄ぶだけで入れもしないくせに! 好きなやつとは演劇鑑賞かよ!」
「…………へ?!」
そもそもこの変態はオレのことをいまだに「泥棒」と呼んでいる。名前も尋ねてこない。オレもずっと「変態」と呼んでいるから、お互いさまと言えば、お互いさまではあるのだが。とにかく変態は、オレと、『ズッポリズンドコゴリゴリ二四号』と、そしてチケットに、順番に目をやりながら、焦っている様子であった。
だが、スッとその焦りを消すと、変態は妙に渋い声で言った。
「なんだ? 私とやらしいことをしたいのか」
「ッ……そ、そんなわけない!」
「ん? 私のことを好きにでもなってしまったのか? かわいいな」
かああと顔に熱が集まった。そんなわけなかった。相手は、この変態だ。
あんな変態的な出会いをして、変態的なことをされ続け、日々変態的な研究をして、変態なことしか言わない変態だ。絶対に好きだなんていうことはありえなかった。それだけは認めてはいけなかった。
なぜなら、たとえオレが歩くだけでR指定のような卑猥な存在に成り下がろうとも、オレは一人の人間であった。だが、しかし。この変態と恋人になってしまったら、もう、それはもはや変態の仲間入りは確定事項であった。
(絶対、やだ!!!)
オレはぎゅっと目をつぶり、ブンブンと首を振った。
たとえ毎回、この変態に変態なことをされたあと、ずっと優しく明け方まで背中をさすられていることに気がついていたとしても、それにちょっとどきどきしたり、朝起きたときに抱きしめられていてうれしかったりするのは、ただの勘違いなはずだった。
「そんなに私のモノが欲しいのか。やらしいな。もうこんなに物欲しそうにして」
「っっ!」
「そんなにほしいなら、入れてやってもいい」
「…………え?」
変態が、恥ずかしそうにオレのほうを見た。その表情は、もしかしてオレのこと好きなの? と思ってしまうような顔で、オレの心臓は、走りだしたみたいに速く響いた。もしかして変態もオレのことが好きなのかな、と、どきどきして、変態『も』と考えてしまったことに気がついて、ぶわわっと顔に熱が集まった。
だけど、――変態の次の言葉で、ガラガラとオレのすべては崩れ去った。
「だが……私がお前だけのものになるだなんて、思わないことだなッ」
フハハといつものように笑う変態を見て、ズキッと胸が痛んだ。気がつきたくなかった。
なんで胸が痛むのかなんて、考えたくもなかった。
オレは孤児で、あんなにも優しく、朝まで見守られたことなんてなかった。今までの人生で、あんなにも一人の人間に守られているという気持ちになったことも。知らないあいだに絆されてしまっていた。この変態に。だというのに、その気持ちに気づいてしまった直後に、最低なことを言われた。
じわっと涙で視界が滲んだ。
変態が近づいてくる。変態のいきりたったペニスが、オレの尻にぴたりと当てられた。いつもの冷たい感触ではない。温度のある、本物のペニスだ。自分でも、それがほしいのかほしくないのかよくわからない混乱の中にいた。
だけど変態のペニスはゆっくりと、中を押しひろげた。
(あ……ど、どうしよ……はいって……)
だけど、――。ぼろっと涙がこぼれ落ちる。
だめだった。こんなつながり方をしたって、幸せでなんてあるわけがなかった。オレはブンブンと首を振りながら、叫んだ。
「やだっ……せ、せめて、せめてオレのこと好きなやつがいい!」
「え?」
「そんな、他に好きな人がいるやつに、お、おかされるなんてッ」
「へ?」
そして、その感情の爆発するままに、最大級の『めんどくさい女』の文句をぶっ放した。
「だ、だって……お、オレのこと、好きでも、ないくせに!!! 他のやつとしてろよ!! バカ!!!」
「えッ! い、いや、だって!」
なぜか焦った変態が一体どんな言いわけをしようとしてるのかはわからなかった。だけど、オレは涙を流しながら、言葉を待った。待ってしまった。きっとオレのことを傷つけるなにかしらの言葉が伝えられるだろう。
この変態はどこぞの令嬢のケツを追いかけているんだから。ぐっと奥歯を噛みしめて、ぎゅっと目をつぶった。
変態は、いまだ焦ったような様子で、口を開いた。
そして、まったく予想だにしていなかった言葉を吐きだした。
「――好きだと言ってはいけないと書いてあったんだ!」
書いてあった? なににだろうとオレはぽかんと口を開いた。
そして、一瞬遅れて、――。
オレは、雷に打たれたかのような衝撃を受けた。
あの日、――あの日手にしていた『小悪魔ちゃんのラブテクニック』の内容がバラバラと頭の中に降ってくるのを感じていた。そしてそれは、さきほどまでの変態の声で、脳内で再生された。
「なんだ? 私とやらしいことをしたいのか」
――「なあに? 僕とえっちなことしたいの?」
「ん? 私のことを好きにでもなってしまったのか? かわいいな」
――「僕のこと……好きになっちゃったの? かわいいね」
「そんなに私のモノが欲しいのか。やらしいな。もうこんなに物欲しそうにして」
――「そんなに僕に入れたいの? えっち。もう、こんなにして」
「そんなにほしいなら、入れてやってもいい」
――「そんなにしたいなら、入れさせてあげる」
「だが、私がお前だけのものになるだなんて、思わないことだな」
――「だけど、僕があなただけのものになるなんて、思わないでね!」
――※相手が好きだと言ってくるまで、絶対に好きだと言ってはいけません。
オレはクッと眉間に皺を寄せ、ぎりっと奥歯を噛みしめた。そして思った。
(忠実……!!!!!)
そして、完全に小悪魔に揺さぶられているオレの気持ち!
オレは、ガンッとテーブルを蹴っとばした。オレには暴力しかしてない変態が、「暴力はやめてくれたまえ」と言っているのを聞き流しながら、オレは叫んだ。
「アホかッ!!」
「いや? 天才だが――?」
∞ ∞ ∞
「ふぁ……んッんっ」
甘い声が泥棒から漏れる。この泥棒は、自分ではよく理解していないようだが、そのツンとした冷たい印象のわりに、懐くと甘えてくる猫のようだ。いつもの椅子ではなく、寝台がいいと騒ぐので、今は寝台で尻を高くあげて私のペニスを飲みこんでいる。
しっかり私のペニスのサイズに慣れた穴だ。本人は気がつかなかったようだが、『ズッポリズンドコゴリゴリ二四号』は完璧に私の形へと変化を遂げていた。わざわざ石膏で型取りまでしたのだ。数時間、完全な勃起を持続させるために、私がどれだけの苦労をしたかということも、知らない。
そして、何日もかけて、すっかり慣らされた泥棒の穴は、いまは喜んで私のことを締めつけているのだ。
シーツにしがみつきながらも、腰が揺れている。
初日にも思ったが、この泥棒は快楽に弱い。今もはしたなく腰を振って、自分のペニスを寝台に擦りつけている。
(それがまた、冷たい印象と違っていい……)
ぐっとまた自分のペニスの質量が増した。泥棒の両腕を引っぱり、ぐっと腰を突き出した。
なんて具合のいい穴なんだろう。『お兄ちゃんのことギュウギュウ締めつけちゃう良穴五二号』とは比べものにならない心地良さだ。
「ひああああッッ」
泥棒が何度目かの絶頂を迎え、ペニスから勢いよく精子を噴きあげた。
『お兄ちゃんのことギュウギュウ締めつけちゃう良穴五二号』の開発時には、さんざん自分でも試したし、あれこそが至高だと思っていたが、やはり五十二程度で諦めてしまったものを、どうして至高だと思えたのだろう。世界には、こんなにも具合のいい穴が存在しているというのに。
この全体を締めあげられながら、入り口のきゅっとくびれた部分で絞りあげられる感覚。包みこむような温度、先端に吸いつかれているかのような感触。そしてなによりも、絶え間なく漏れる甘い声が。
「ああッす、好き。き、気持ちいいっ」
「…………」
――穴がしゃべったら、まずいだろうか。
ツンと上を向いた乳首をつまめば、ビクビクと体が震えるし、ペニスをしごいてやれば、腰を振って歓喜する。すっかり慣らされた穴は、よだれを垂らして私のペニスを舐めまわしているかのようだ。
「なんてやらしい体なんだ……」
「……そ、んなっお、お前のせいッだろ……!」
「こんな卑猥な体、信じられない」
「んッ……や、やだっ……ちがッ」
泥棒がいい声をあげる場所はもうわかっているのだ。ねぶるように内壁を擦りあげると、泥棒は悲鳴のような声をあげた。もう限界が近そうだなと思いながら、泥棒のペニスに指を絡ませた。内側と外側を両方擦られたら、人体の構造上、たまらない快楽の奔流が泥棒の中に駆け巡ってるだろう。
絞りとるようにペニスを包まれ、私ももう限界だった。ただでさえ、愛しい人とようやくつながることができたのだ。
私は泥棒の耳元で、できるだけ優しく囁いた。
「出すよ、――ネイト」
「~~~ッッ! あッ……ああッッ」
泥棒、――もといネイト・オーブリーはビクッと体を震わせたあと、三度目の飛沫を勢いよく吐きだした。
それにあわせて蠢く内壁の最奥に、私も欲望を叩きつけた。じわっと熱いものがペニスから漏れだしたのを感じた。ハアハア、と二人で荒く息を吐きながら、寝台に倒れこむ。覆い被さるようにネイトの横で息を吐いていると、目の前のネイトの顔がまっ赤になっているのがわかった。
あまりにもタコのように赤くなっているので、私は首をかしげた。
「どうした? よかっただろう?」
「――……『※好きな相手の情報は事前にできる限り調べましょう』……」
「ああ、本のことか。ネイト・オーブリー。オーブリー孤児院で育ち、王都の小さな書店で働いている。親の形見の水晶を探しているため、ごく稀に悪事に走ることもある。手癖も口も悪い。ティモシー・バルテルミィ伯爵と出会い、熱愛のすえ、電撃結婚。彼の天才的な頭脳で編み出された魔術により、男でありながら五人の子供に恵まれる。そして、体は世界一淫乱である」
「おいッッ!!!」
まっ赤な顔のまま焦ったように声をあげるネイトを見ながら、うっかり妄想まで語ってしまったことに気がついた。だが、それは近い未来そうなるだけのことなんだから、彼が今知ったとしてもなんら問題はないことだった。
「それでなに……オレのこと、ほんとに好きなの? あのチケットはなに?」
「ああ、泥棒と一緒に観に行こうと思っていたんだ。たまに手伝っているということは知っている。好きだろう?」
「べ、別に。き、嫌いじゃないけど。いい加減、泥棒って言うのやめてくれない?」
相変わらずまっ赤なまま、ネイトがムッとした顔でそう言うのを聞きながら、私はネイトの跳ねる黒髪を撫でた。汚れていないほうの手で。そして、いろいろあったが、とにかくあの本のおかげで、ネイトを手に入れることができたようだと、ほっと安堵の息を漏らした。
「いいんだ。お前が盗みにきたのは本当なんだから」
「私の心をとか言ったら、もう二度とこないからな」
「えッ」
なぜだ。なぜせっかく恋人になれたというのに、そんなつれないことを言ってくるのか、まったく私には理解ができなかった。もしかして、手に入れたと思っているのは私だけで、ネイトは私のことをまだ好きではないんだろうか。あんなにいやらしく腰を振っていたのに。なんてけしからんやつなんだ。
驚愕に固まる私に、ネイトはこてんと首をかしげながら尋ねた。
「それで? オレのこと、好きなの?」
ふむ、と私は考えこんだ。まだネイトが私のことを好きかどうかわからないのであれば、私が言うべき台詞はこれしかなかった。
私は勇んで口を開いた。
「お前は私のことが好きなんだろう? すこしだけなら、遊んでやってもいい」
――「僕のこと好きなの? ちょっとだけなら、遊んであげてもいいよ?」
ブハッとネイトが下品に吹きだすのを見て、私はムッと眉間に皺を寄せた。
だが、――。
「うん、オレは好きだよ、ティモシー。もう小悪魔はいいよ」
その言葉を聞いて、私はようやく、ほっと息をついた。
週末は人生ではじめてのデートである。
また新たな指南書を買いに行かないといけないな、と思ったのだった。
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2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
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3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
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めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
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時々おまけを更新しています。
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✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
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✴︎なろうさんにも投稿しています
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「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。
※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。
※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。
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