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二章 接吻
6 抱きしめて
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※キス、ディープキス、フレンチキス。
泣き濡れた瞳がゆっくりと開いていく。
眩しそうに目を細めて、懐かしそうに色をくゆらせて。
世界が眩しい。
目に映るすべてが、初めて見るように、新鮮だった。
最初に目に入ったのは、その人の顔。
美しく整った造作に、深い陰影。甘くとろける、熱いまなざし。
艶めく双眸には、彼女の姿が揺れている。
その深い湖に、どこまでも吸い込まれてゆく。
唇が動いている。むろん、聞こえない。
どうやら彼女の名前を呼んで、さらに何かを言っている。
声も言葉も聞きたい。
だが、それよりも欲しいものがあった。
「ほどいて」
まず手が解放された。続いて足の拘束が外される。
脚を結わえた布をほどく男に、娘の手がのびる。
「おじさま」
頬を包み、鼻筋をたどり、顎を撫で、頭を挟む。
まるで盲いた人がそうするように、指先で、掌で、義父の、否、初恋の男(ひと)の姿をたしかめ、写しとっていく。
無心に見上げる大きな瞳は、怖いほどに澄んでいた。
ひとしきり撫でつくし、すらりと細い二本の腕で、男の頭を掻き抱く。
「抱きしめて」
言い終える前に、身体をさらわれていた。
精悍な腕に力強く抱きしめられる。
ぎゅうっと抱かれて、奥底から、震えが走った。
びくん──!
「あっ」
がくんと腰が砕ける。
脱力した己の一切を、逞しい胸に預けた。
すり、と。
指の背が頬を撫で、唇が重ねられる。
やわらかく、あたたかい。
割り入ってきた舌も、やわらかくて、あたたかい。
歯列をたどり、奥へと進む舌先の動きはやさしい。
触れた瞬間びくんと跳ねた不慣れな舌に、強いることなく、ゆっくりと近づいていく。
急激な記憶の再生に、娘は混乱していた。
だが、いくつもの矛盾する気持ちに戸惑いながら、無心に応えようとしている。
けなげとも、無垢とも、危ういとも、淫らとも。
その脆さ、儚さが、男を駆りたて、たまらなく煽る。
長い長い口づけを交わした。
合間、合間に、濡れたまなざしを絡ませて。
互いを呼ぶ名は、互いの唇に吸い込まれて、声もなく。
やわらかな舌を、強く絡めることなく、ゆっくりとなじませていった。
やさしい口づけは、幼い少女だったかつての娘の哀しみを、溶かしていった。
記憶を封印して、恋しい人の息子と結ばれてしまったひずみに、沁みわたっていった。
犯された傷痕を、愛された記憶に、塗りかえていった。
どれだけそうして接吻を交わしていたか、わからない。
すっかりとろけた舌を、やさしく甘やかに、ただ重ねて、合わせて、たしかめあって。
これまでが嘘のように、静かで深い口づけを。
飽きず、とろけ落ちるまで、交わしつづけた。
泣き濡れた瞳がゆっくりと開いていく。
眩しそうに目を細めて、懐かしそうに色をくゆらせて。
世界が眩しい。
目に映るすべてが、初めて見るように、新鮮だった。
最初に目に入ったのは、その人の顔。
美しく整った造作に、深い陰影。甘くとろける、熱いまなざし。
艶めく双眸には、彼女の姿が揺れている。
その深い湖に、どこまでも吸い込まれてゆく。
唇が動いている。むろん、聞こえない。
どうやら彼女の名前を呼んで、さらに何かを言っている。
声も言葉も聞きたい。
だが、それよりも欲しいものがあった。
「ほどいて」
まず手が解放された。続いて足の拘束が外される。
脚を結わえた布をほどく男に、娘の手がのびる。
「おじさま」
頬を包み、鼻筋をたどり、顎を撫で、頭を挟む。
まるで盲いた人がそうするように、指先で、掌で、義父の、否、初恋の男(ひと)の姿をたしかめ、写しとっていく。
無心に見上げる大きな瞳は、怖いほどに澄んでいた。
ひとしきり撫でつくし、すらりと細い二本の腕で、男の頭を掻き抱く。
「抱きしめて」
言い終える前に、身体をさらわれていた。
精悍な腕に力強く抱きしめられる。
ぎゅうっと抱かれて、奥底から、震えが走った。
びくん──!
「あっ」
がくんと腰が砕ける。
脱力した己の一切を、逞しい胸に預けた。
すり、と。
指の背が頬を撫で、唇が重ねられる。
やわらかく、あたたかい。
割り入ってきた舌も、やわらかくて、あたたかい。
歯列をたどり、奥へと進む舌先の動きはやさしい。
触れた瞬間びくんと跳ねた不慣れな舌に、強いることなく、ゆっくりと近づいていく。
急激な記憶の再生に、娘は混乱していた。
だが、いくつもの矛盾する気持ちに戸惑いながら、無心に応えようとしている。
けなげとも、無垢とも、危ういとも、淫らとも。
その脆さ、儚さが、男を駆りたて、たまらなく煽る。
長い長い口づけを交わした。
合間、合間に、濡れたまなざしを絡ませて。
互いを呼ぶ名は、互いの唇に吸い込まれて、声もなく。
やわらかな舌を、強く絡めることなく、ゆっくりとなじませていった。
やさしい口づけは、幼い少女だったかつての娘の哀しみを、溶かしていった。
記憶を封印して、恋しい人の息子と結ばれてしまったひずみに、沁みわたっていった。
犯された傷痕を、愛された記憶に、塗りかえていった。
どれだけそうして接吻を交わしていたか、わからない。
すっかりとろけた舌を、やさしく甘やかに、ただ重ねて、合わせて、たしかめあって。
これまでが嘘のように、静かで深い口づけを。
飽きず、とろけ落ちるまで、交わしつづけた。
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