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第六話 誤算〜取り替えっこは蜜の味

#1 私を使っていいから

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「へえ、あの人たち、今からスワッピングを?」
「ええ、そうご希望です。ご夫婦でおみえになりまして」

もう一組の夫婦またはカップルを見つけて、お互い相手を取り換えて楽しもうというのだ。

ところが、思ったように相手が見つからなかった。
そこで妻はソムリエ施術を受けることにし、Dが当たることになったのだという。

「ふうん。マンネリ夫婦が刺激を求めて一夜の経験を買いに来た、ってところかしら。迂闊にこんなところに足を踏み入れて、泥沼にハマらなきゃいいけどね」

蝶子も人のことを言えた義理ではない。
もはや表のハプニングバー「Ilinx」(イリンクス)では満足できなくなり、今日もこうして裏サロン「eclipse」(エクリプス)を訪れている。前回も思わぬ相手に易々と手玉にとられ、さんざん慰みものにされる屈辱を味わったばかりだというのに。

知ってか知らずか、物静かなソムリエは、さらりと水を向けた。

「旦那様の方はまだお相手をお探しのようですが、見つかっていないもようで」
「そんなときのために、eclipseにも女性ソムリエールがいるんでしょ」
「一般の女性をご希望だそうで」
「……」

ちらと一瞥した目線が、つかのま、男と交わってしまった。
しまった、と思ったものの、手遅れだったようだ。

「あ、あのっ、よければ僕らとプレイをお願いできないでしょうか?」

次の小説のネタになりそうだ。と思ったのか、あるいは別の理由からか。
蝶子は誘いにのってみることにした。

**

ステージに横並びになって、二組のプレイが始まった。
距離は近い。何なら四人でもできるくらいだ。

夫は蝶子と、妻はDと。それぞれ互いのプレイを横目に見ながら至近距離で同時進行するというきわどい趣向だった。

妻の方は不安そうで、Dに身体を触れられながら、夫に手を握ってほしがった。

「ねえ、こわいわ」
「大丈夫だよ、ナミ。ほら、手を握ってるからさ」
「あっ、んっ……」

そうして、感じるたびに小さく声をあげて、夫の手をぎゅっと握りしめるのだ。
わざとならあざといが、わざとでないならもっとタチが悪い。他の男の愛撫で感じる自分の反応を、握った手から直接夫に伝えるというのだから。

(あるいは、よっぽどの寝取られ嗜好か、ね)

だが、ほどなく妻は、大きな声をあげて悶えはじめた。その頃にはもう夫の手は必要ないらしく、喘ぎ声の合間に「すごい」「いい」「はやく」とねだり、「そこはだめ」「もう無理」「こんなの初めて」と煽って、胸を揺らし、腰をくねらせていた。

(適応早すぎでしょ)

蝶子は呆れたが、夫は焦った。
蝶子にけしかけられ、前戯から始めてひと通りのことを進めてはいるが、なかなか盛り上がらない。
「もういいから来て」
言われるままにフィニッシュもしたが、さしたる高揚感も達成感もなく、ただ行為を済ませただけに終わった。

もちろん、これでは蝶子もちっとも満足しない。

すぐ横では、Dの執拗な前戯がまだ続き、男の妻がいかにも恍惚の表情でDに抱かれて焦らされ、身も世もなくよがってせがんでいるというのに。

負けてはいられない。

蝶子はスタッフに声をかけた。

「ねえ、誰かソムリエを寄越して。え? 誰でもいいわ。Dよりうまければ誰でも」

あの二人が羨むくらいのプレイをしてやる。

プロを交えて3人でしようというのだ。

やってきたのは、なんとeclipseのフロアマネージャーのジョー。この店のトップソムリエだった。

「まあ、楽しみ。たっぷり愉しませてくれるわね」
「仰せのままに」

野生的な顔立ちに、精悍な肉体。身長180cmを越す長身で、引き締まった身体ながら、鍛えられた筋肉がみっしりと全身を覆っている。男らしい色気が満ちあふれていた。

こんな男にかしずかれて、快い気分にならない女はいない。そしてきっと男はこぞって嫉妬する。
蝶子はちらりとDを流し見たが、女にかがみ込む彼の表情は見えなかった。

「あとね、この人に女の扱いを教えてあげて」
「かしこまりました」
「私を使っていいから」
「御意」

では、と顎に手をかけられ、蝶子は眉をひそめた。

「ちょっと。タグが見えないの? 私はキスはNGよ」
「まあそう言わずに、ちょっとだけ。ね?」
「ばか言わないで」
「でもだって、夫さんにお見せしないとなりませんでしょ? ほら、女性にはこうするんですよって」

この男らしいルックスで言葉遣いが柔らかいなんて、反則だ。

「ああ、そういえばそうだったわね」
「でしょ? だからちょっとだけ。どんな風に触れれば女性に気持ちよくなってもらえるか、そのサンプルをね。もし、やっぱりイヤだったら言ってください。すぐやめますから。ね?」

と、片目を閉じて小首をかしげる。
ワイルドでエレガントで、しかも愛嬌まであるとは、ずるいにも程がある。

「仕方ないわね。じゃあ、ちょっとだけよ?」

夫はポカンと口を開けて事の成り行きを見ていたが、蝶子に「これがプロの手管よ。しっかり見ておきなさい」と顎で示され、呆けたように頷いた。

仰向く蝶子の濡れた唇に、ジョーのそれが深々と重なっていく。

Dの眉間に小さく縦皺が寄っていることに気づいた者はいなかった。



続く
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