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第二話 焦熱~繭の戯れ
#extra3 レモンソーダ
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「う、ゅ、ゆ…」
蝶子の唇が、はくはくと動いた。
何か意味のある言葉を紡ごうとしているらしい。
が、さすがに意味が伝わらない。
「?」
「ぅ、…っ…、お、ぅ…」
「う、お?」
「ぅ…、……ぃ」
ふるふると首を振るさまは頑是ない子供のあどけなさだが、指で口を犯されて感じる表情も、もどかしげに揺れる腰つきも、匂い立つほどに女だった。
ぢゅぅ、と指に吸いつきながら、焦点のとんだ瞳でDをじっと見つめてくる。
きゅぅん…──
言葉よりも身体が、蝶子の望みを吐露してきた。
「ああ。……なるほど?」
Dの口元に、これ以上なく艶麗な笑みが浮かぶ。
「指? 奥を指でシてほしいんだ?」
蝶子は、今さら何が恥ずかしいのか、口元を手で隠すようにして、
「ぅん……」
目を逸らして、こくこく、と、いとけなく頷いた。
「……」
まるで子供がするような、そんな幼いしぐさは、昼の蝶子からは想像もつかない。
いいや、夜であっても、女王然として快楽に奉仕させるのが常なのだ。これまでの蝶子からは考えられない。まるで別人格ではないか。
「……それは可愛すぎるでしょ」
艶然と、あまりにも艶然と目を細めて、Dはスティックを手放した。
「前も言ったけど、そんなおねだり、他の男にしちゃダメだよ?」
耳に舌を挿し入れ、濡れた声を流し込むように囁く。
「ぐちゃぐちゃに犯されちゃうよ?」
ずぶずぶっ…─!
蝶子、と。
呼びざま、二本の指が一気に深奥めがけて襲いかかった。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
ぢゅぷっ── ぢゅぷっ── ぢゅぱん…─!
「あん! あん! ああん! ~~~~っ!!」
柔襞が人肌を求めて指にまとわりつく。
ふっくらと熟れた果実のように。甘い蜜をあふれさせて。
ぐりゅっ、ぐりゅっ、ぐりゅっ、ぐじゅん──
「あ! ぁあ! ああ………っ!!」
蝶子の中は熱かった。
──俺はいつか不本意にタガが外れそうで怖いよ。
「んっ……、あっ、あっ、あん、や、あっ! っ……!」
白い手足が跳ねるたびに、熱い汗がキラキラと散った。
*
途中から記憶がない。
蝶子にはありえないことだった。
気を失うことはあっても、意識のないまま痴態をさらすようなことは決してしないのに。
だが、今日は──。
(うそ……。全っ然、覚えてない)
何をされたのか、したのか。
「何にされます?」
「レモンソーダを、ハーフで」
「かしこまりました」
フレッシュレモンを手搾りするDのしぐさを、カウンターごしに蝶子の目が追う。ぎゅっと絞り込む骨張った手。男の腕だ。だが、りきむ様子は一切ない。手で搾るというより、体の乗せ方が上手いのだろう。
(カプセルを出た後、胸だけで滅茶苦茶にイカされた。それは覚えてる)
スパイスと蜂蜜で漬け込んだ自家製レモネードシロップと、搾りたてフレッシュレモンのハーフ&ハーフ。それを微炭酸の天然水で割ったレモンソーダは、蝶子の気に入りのドリンクだった。
(それから、あのオモチャを挿れて)
ロンググラスに氷とシロップ。そこに搾りたてのレモンと、微発泡の天然水が注がれる。
(あれもすごかった。激しかったわけではないんだけど。なんかこう、深かった)
突いてこすって、突いてこすって。
何度も何度も、何度でも。
一定のリズムで延々と繰り返してきたと思う。
(さすがに巧いのよね、ああいうとこが)
男と女では、快楽のメカニズムがちがう。
ただ激しいだけでは、女の心と体に合わないのだ。
ジェットコースターのようなセックスも悪くないが、もどかしいほどの快感を少しずつ塗り重ねていく穏やかなセックスは、うまく波長が合えばとんでもなく気持ちいい。
優しく突かれ擦られ、淡い快感を気持ちよく感じ続けているうちに、頭がぼうっとしていった。
(うーん、あのあたりからかぁ)
しかも今日はあのマシンのおかげで、ずうっと微弱なパルスにさらされていた。スイッチが入った身体で、すべてが快感に変換されてしまえば、もうどこで感じようが、全身がもっていかれてしまう。
(今日はローションも使ったし)
それにしても、ほのかに残るこの違和感は何だろう。
「お待たせしました」
カラン…と氷の澄んだ音がして、蝶子の前にレモンソーダが差し出された。
Dはすっかりバーテンダーの顔に戻っている。
(何だろ、この感じ)
蝶子はストローは使わない。
グラスから流れ込む炭酸を、いつになく強く感じた。
「おいし」
「ありがとうございます」
使い果たした身体に、レモンの爽やかさとスパイスの刺激が、なんとも言えず心地好かった。
「ふぅ…」
だが、違和感がやはりある。
(……?)
唇をおさえて、瞼を閉じてみる。
ああ、やはりそうだ。
口が、愉悦の余韻に震えている。
まるで欲望を満たされた身体のように。
(でも、どうして?)
「お口に合いませんでしたか?」
「そうじゃないわ。大丈夫」
レモンソーダの刺激のひとつひとつが、やけにありありと口に弾ける。
──熱いね。すごく。……弱かったんだ。
(どこまでが現実……?)
カラン──。
溶け始めた氷が、澄んだ音を立てて、崩れた。
第二話 ─extra─ 終
お読みくださりありがとうございます。
第二話のおまけ小話でした!
蝶子の唇が、はくはくと動いた。
何か意味のある言葉を紡ごうとしているらしい。
が、さすがに意味が伝わらない。
「?」
「ぅ、…っ…、お、ぅ…」
「う、お?」
「ぅ…、……ぃ」
ふるふると首を振るさまは頑是ない子供のあどけなさだが、指で口を犯されて感じる表情も、もどかしげに揺れる腰つきも、匂い立つほどに女だった。
ぢゅぅ、と指に吸いつきながら、焦点のとんだ瞳でDをじっと見つめてくる。
きゅぅん…──
言葉よりも身体が、蝶子の望みを吐露してきた。
「ああ。……なるほど?」
Dの口元に、これ以上なく艶麗な笑みが浮かぶ。
「指? 奥を指でシてほしいんだ?」
蝶子は、今さら何が恥ずかしいのか、口元を手で隠すようにして、
「ぅん……」
目を逸らして、こくこく、と、いとけなく頷いた。
「……」
まるで子供がするような、そんな幼いしぐさは、昼の蝶子からは想像もつかない。
いいや、夜であっても、女王然として快楽に奉仕させるのが常なのだ。これまでの蝶子からは考えられない。まるで別人格ではないか。
「……それは可愛すぎるでしょ」
艶然と、あまりにも艶然と目を細めて、Dはスティックを手放した。
「前も言ったけど、そんなおねだり、他の男にしちゃダメだよ?」
耳に舌を挿し入れ、濡れた声を流し込むように囁く。
「ぐちゃぐちゃに犯されちゃうよ?」
ずぶずぶっ…─!
蝶子、と。
呼びざま、二本の指が一気に深奥めがけて襲いかかった。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
ぢゅぷっ── ぢゅぷっ── ぢゅぱん…─!
「あん! あん! ああん! ~~~~っ!!」
柔襞が人肌を求めて指にまとわりつく。
ふっくらと熟れた果実のように。甘い蜜をあふれさせて。
ぐりゅっ、ぐりゅっ、ぐりゅっ、ぐじゅん──
「あ! ぁあ! ああ………っ!!」
蝶子の中は熱かった。
──俺はいつか不本意にタガが外れそうで怖いよ。
「んっ……、あっ、あっ、あん、や、あっ! っ……!」
白い手足が跳ねるたびに、熱い汗がキラキラと散った。
*
途中から記憶がない。
蝶子にはありえないことだった。
気を失うことはあっても、意識のないまま痴態をさらすようなことは決してしないのに。
だが、今日は──。
(うそ……。全っ然、覚えてない)
何をされたのか、したのか。
「何にされます?」
「レモンソーダを、ハーフで」
「かしこまりました」
フレッシュレモンを手搾りするDのしぐさを、カウンターごしに蝶子の目が追う。ぎゅっと絞り込む骨張った手。男の腕だ。だが、りきむ様子は一切ない。手で搾るというより、体の乗せ方が上手いのだろう。
(カプセルを出た後、胸だけで滅茶苦茶にイカされた。それは覚えてる)
スパイスと蜂蜜で漬け込んだ自家製レモネードシロップと、搾りたてフレッシュレモンのハーフ&ハーフ。それを微炭酸の天然水で割ったレモンソーダは、蝶子の気に入りのドリンクだった。
(それから、あのオモチャを挿れて)
ロンググラスに氷とシロップ。そこに搾りたてのレモンと、微発泡の天然水が注がれる。
(あれもすごかった。激しかったわけではないんだけど。なんかこう、深かった)
突いてこすって、突いてこすって。
何度も何度も、何度でも。
一定のリズムで延々と繰り返してきたと思う。
(さすがに巧いのよね、ああいうとこが)
男と女では、快楽のメカニズムがちがう。
ただ激しいだけでは、女の心と体に合わないのだ。
ジェットコースターのようなセックスも悪くないが、もどかしいほどの快感を少しずつ塗り重ねていく穏やかなセックスは、うまく波長が合えばとんでもなく気持ちいい。
優しく突かれ擦られ、淡い快感を気持ちよく感じ続けているうちに、頭がぼうっとしていった。
(うーん、あのあたりからかぁ)
しかも今日はあのマシンのおかげで、ずうっと微弱なパルスにさらされていた。スイッチが入った身体で、すべてが快感に変換されてしまえば、もうどこで感じようが、全身がもっていかれてしまう。
(今日はローションも使ったし)
それにしても、ほのかに残るこの違和感は何だろう。
「お待たせしました」
カラン…と氷の澄んだ音がして、蝶子の前にレモンソーダが差し出された。
Dはすっかりバーテンダーの顔に戻っている。
(何だろ、この感じ)
蝶子はストローは使わない。
グラスから流れ込む炭酸を、いつになく強く感じた。
「おいし」
「ありがとうございます」
使い果たした身体に、レモンの爽やかさとスパイスの刺激が、なんとも言えず心地好かった。
「ふぅ…」
だが、違和感がやはりある。
(……?)
唇をおさえて、瞼を閉じてみる。
ああ、やはりそうだ。
口が、愉悦の余韻に震えている。
まるで欲望を満たされた身体のように。
(でも、どうして?)
「お口に合いませんでしたか?」
「そうじゃないわ。大丈夫」
レモンソーダの刺激のひとつひとつが、やけにありありと口に弾ける。
──熱いね。すごく。……弱かったんだ。
(どこまでが現実……?)
カラン──。
溶け始めた氷が、澄んだ音を立てて、崩れた。
第二話 ─extra─ 終
お読みくださりありがとうございます。
第二話のおまけ小話でした!
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