【R18】眩惑の蝶と花──また墓穴を掘りました?!

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第二話 焦熱~繭の戯れ

#5 あなたの指でしてほしい ※

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 花は緊張していた。

 それはそうだろう。
 男を知らない生真面目な処女が、ハプニングバーで器具を使ったプレイを受けようというのだから。

 Dは静かな口調でゆっくりと説明を始めた。

「これからすることを説明するね」

 メニューとシナリオの説明と同意は、Ilinx(イリンクス)の鉄則だ。

「このスティックを、最初はパルスなしで君の中に挿れる。少しずつ馴らして、中を触ってみて、大丈夫そうならスイッチを入れてみよう」

 花の指がぴくりと動いた。まるで電流が流れたかのように。

「そうして、中の気持ちいいところを刺激する。Gスポットはわかる?」
「わかります」
「まずGスポットでイッてみる。中だけで難しそうなら、他のところも一緒に触るけど、そのあたりはその時になってからでいいかな」
「はい」

「Gスポットでイケたら、次はポルチオだ。ポルチオはわかる?」
「……はい」
「未開発だとすぐには無理かもな性感帯だけど、まあやってみよう」

 丁寧な説明に沿って、これからされることを克明に想像してしまった。顔が熱い。

「じゃあ、いくね」

 心づもりはできていたはずだった。
 なにより、それを体験したいと自ら望んだことなのだ。
 未知の体験だから、少しくらい緊張するのは仕方ない。でもみんな普通にできていることなのだから、きっとできるはず。
 そう自分に言い聞かせて、その瞬間を待つ。

 そして。

 つぷ──

(きた……!)

 そう思った瞬間。
 侵入する異物感に全身がこわばった。
 力を抜かなくては。
 でも身体が言うことをきかない。自分の身体でないようだ。どうしようもなくこみあげる違和感に、押し潰されてしまいそうだ。

「や……」

 震える声がかぼそくかすれる。

「それ、やだ……っ」

 言葉が口から発せられるより前に、すでに器具は抜かれていた。
 硬くこわばる花の様子で、Dが何かを察したのだ。

 だが、花の震えはおさまらない。

「やだやだやだ……それはいや」

 堪えきれない大粒の涙がぽろりとこぼれる。

「抜いて」

「花」

「抜いて抜いて抜いて抜いて……!」

   ほぼ半狂乱になった花の意識の奥底で、蝶子は驚いていた。
   (そんなに?! いくら処女だからって、初めてってこんなに大変だったっけ?)

「花、もう抜いた。大丈夫、もう何もないよ」

 いやいやいや。
 壊れた人形のように首を振る花を、Dは胸の中に抱きしめた。

「ごめん、怖かったね」

 ぎゅっと抱きしめ、しゃくりあげる背中をゆっくりと撫でる。

「挿れる前に気づいてあげられなくて、ごめん」

 ゲストの不安を察しきれず、こんなふうに泣かせてしまうなど、Ilinx(イリンクス)のソムリエにあるまじき大失態だ。

「今日は中はやめよう。そして僕にお詫びをさせて。普段はしない僕のとっておきで慰めさせて」

 だが花は、まだ震えながらも、ふるふると首を振った。

「中でいきたい」

「でも花……」

 案ずるDを目で制して、花が口を開く。何度か言い淀んだ末に、かすれる声で呟いた。

「Dさんの、指でしてほしい」

「え?」

「指がいい。Dさんを──感じたいから」

 Dのそんな顔を、付き合いの長い蝶子ですら見たことはなかった。
 驚きに目をみはったDは、ごくかすかに、だが確かに頬を染めていたのだ。

「だめでしょ、そんな顔して、男にそんなこと言っちゃ」

 紅潮を苦笑に隠して、Dは花の額にコツンと額を当てる。

「どうして?」

「……可愛すぎて、抱き潰してしまいそうだ」

   こぼされた甘いため息に、深層の蝶子は撫然とする。
   (できっこないくせに。する気もないくせに)
   そして続く言葉に驚愕した。

「花、口でさせて? それがいちばん優しくできる」

 Dは、跪かんばかりのうやうやしさで花の手を掲げ、目を合わせたまま、甲に優雅に口づけた。

   (うそでしょ?)

「……」
「だめ?」
「だめっていうか、Dさんは、それはしない人だって」
「普段はね。でも今夜は特別。それに、花、君だから」
「……」

 Dが口淫をしないのは、イリンクスでは有名な話だ。蝶子もされたことがない。
 それを、本当にするというの?

「だめかな。君の許しがほしいんだ」

 そんな言い方、ずるい。
 と、蝶子なら言えたかもしれないが、免疫のない花である。熱い視線に射抜かれて、顔が燃えるように熱い。

 こくんと顎をわずかに引くだけの行為が、とても大変だった。

「ありがとう。嬉しい」

 Dは花の脚の間に顔を埋める。

「舐めるよ?」

「……ん」

 花は息をつめてその瞬間を待つ。

   (こんな可愛い女だったら、私ももっと違う恋ができたのかしら)
   ほろ苦く蝶子の胸を灼いたのは、憧憬だったか、羨望だったか、寂寞だったか。

 花の中で、蝶子も目を瞑って沈んでいく。

ぴちゃ──。

 Dの舌先が、濡れた音を立てて、触れた。



次ページへ続く
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