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番外編
眩暈、酩酊。*
しおりを挟む広場に造られた長方形の噴水は、透明な水を天へ噴き上げている。
青や赤のライトがそれを照らし出していた。
アルコールが入って火照った頬を、冷たい風が撫でる。
時折、ライトを反射して色付いた水滴がきらきらと飛んで来た。
街灯や店の明かりも手伝い、ストリートは仄白く闇夜に浮き上がっていた。
石造りの階段に座り、僕はアベルの肩に凭れて噴水を眺めていた。
「大丈夫ですか? カイン」
「うん…暑いや」
浮つく意識でぼんやり返すと、ひとつ溜息が溢れた。それから、僕はふらりと身を起こして立ち上がった。噴水まで歩いていくと、そのまま中へ脚を踏み入れる。頭から、水を被った。
「カイン…何をしているんです」
アベルは遅れて来ると、噴水の一歩外で立ち止まって、純粋な疑問を瞳に浮かべていた。きっとプログラムにも記録にもない行動なのだろう。
「冷たくて、いいよ」
「気温は人が肌寒いと感じる温度ですが」
「飲みやすいのばっかり飲んだからなぁ」
「アルコールの影響ですか。では、アルコールが抜ければ寒くなります。戻ってください」
「アベル、」
「はい」
返事を聞くのと同時に、僕はアベルを引っ張り込んだ。段差に躓きそうになって、アベルは少しだけバランスを崩したけど、すぐに反応して脚を上げたから倒れこんだりはしなかった。僕に重心をかけて瞬時に体勢を整えようとしたアベルを、腕の中に閉じ込める。
「カイン?」
「寒い?」
「いえ、私は」
色を変えるライトアップの紫が、アベルの濡れた髪や頬を照らしている。僕はアベルの唇に自分のそれを重ねてキスをした。滑らかな口内で舌を絡ませて、その感覚に酔う。
「カイン、飲みすぎましたね」
「それはわかるの?」
「わかりますよ」
「ねえ、寒い」
「出ましょう」
回らない頭は暈けて、現実の心地がしなかった。空気や街の音だけはやけにリアルで、僕の中身だけが夢のようだった。
僕から身を離そうとしたアベルを、僕は離さなかった。身体が冷えていくのに、意識は熱い。アベルの身体が、僕の身体に沿うように密着している。纏いつくシャツのせいで、皮膚ごと僕等は貼り付いているみたいだった。
「カイン、風邪をひきますよ」
アベルの言葉の意味を考える程度の思考回路も溶けていた。僕はアベルの首筋に唇を這わせて、脚の間を弄った。アベルはびくりと身体を反応させて、僕に呼びかける。
「カイン、」
「アベル…」
「ここは外ですが」
「そと?」
「ええ。広場です」
アベルの肌に触れて、アベルの声を耳元で聞いていると、僕の身体はどうしようもなく熱を高めていった。寒いのに、熱くて、よくわからない。息が上がって、腰が痺れた。
「はッ…ど、しよ…」
乱れる息を殺して、僕はアベルの腰に自分のそれを擦りつけた。甘い疼きが走って、震える。そうすると、もう腰が揺れてしまう。
「欲し…」
「カイン、」
ガクンと腰が崩れてしまい、咄嗟にしがみついたアベルに支えられる。そのまま済し崩しに座り込んでしまう。
石の仕切りに背を預けたアベルの上に、ほとんど倒れかかるようにして跨る。
腰まで沈む水中でも、僕の中の熱は鎮まらなかった。アベルのシャツの釦を外し、肌蹴たそこへ傷つけない程度に歯を立てる。そうしながら水の中でジーンズのファスナーを降ろそうとすると、その手を止められた。
「カイン、風邪をひきますから。モーテルまで待ってください」
「我慢できな…」
「私が連れて行きますから」
アベルは体勢を立て直すと、僕の身体を両手で軽く抱え上げた。不安定な空中で、だけど僕にはまるで不安がなかった。アベルに任せていて、不安なことなんか無い。
アベルは停めてあったバイクまで歩いて行くと、僕を後ろへ乗せてエンジンをかけた。腰の疼きをやり過すのに、僕はアベルの身体を後ろから抱き締めながら、細く呼吸をしていた。吐息が漏れて、アベルの背に額を擦り寄せる。夜の街を走りぬけて、アベルは適当なモーテルへ僕を連れて行ってくれた。
部屋に入ると、扉が閉まった途端、壁に押し付けられてキスされた。息吐く暇もなく、深いキスを繰り返す。そうしながらアベルは片手でもう暖房のスイッチを入れていた。アベルは僕に応えるように、性急に中心へ触れた。固い生地の上から爪を立てられて、涙が浮かぶ。
「はっ…ぁ…アベルッ…!」
「カイン…こんなにして、どうしたんです」
「酔った、だけ、だよ…んっ…」
「控えたほうがいいのでは?」
「…きらい?」
悪戯に笑えば、アベルが眼を細めて口端を上げる。
「好きですよ…」
熱っぽく応えたアベルの声が、濡れている。その瞳も。行為の間が一番人間らしいなんて、皮肉なものだ。だけど、僕はその手練手管にすっかり絆されている。的確に火をつけていくアベルの仕草や愛撫に、背筋が震える。腰を突き出して、アベルの手を求めた。かつてそうだったように、相手を陥落させようと計算する必要はない。僕はアベルに身を任せているだけでいいのだ。
性急な手付きでアベルに服を脱がされて、性器が濡れる頃には部屋は暖まっていた。
「あっ…んんっ…はぁ、あ、、」
根元から擦り上げられて、先端に軽く爪を立てられる。余裕のない僕の熱が伝染したように、アベルの愛撫が激しくなる。袋をそっと揉み解されて、胸の突起に歯を立てられる。少し痛いくらいに性器を扱かれると、耐え切れない刺激に僕は達した。
「ふ、あぁっあっ…んっ、あぁ!」
絶頂感に堅く目を閉じて、息を詰める。余韻に震えながら、荒い呼吸を整える暇もなく、アベルの首を抱いて重心をかけた。
「アベル…も、早く、欲しい…」
「馴らします」
アベルは濡れた指先を奥へ這わせて、僕の中へ挿れた。丁寧な指先は痛みを感じさせることなく、僅かな圧迫感と共に快楽をすぐに引き出した。迷わず辿り着く指先が快楽の芽に触れると、背筋が撓る。
「あぁぁッ!」
触れられる度に大袈裟なくらい反応するそこを一定の速度で刺激してから、アベルは指を増やして中を開いた。空気の入るような感覚に、震える。
「んっ、もッ…はや、く…アベル…!」
「もう少し、」
「やっあぁっ、アベルッ…!」
僕は涙声で訴える。アベルの熱い吐息を耳に感じながら、首を振った。だけどアベルはいつも通り念入りに僕の中を解して、もどかしい刺激を与え続けた。
「うう、んっ…はぁ、あぁっ…あっ…」
震える身体を抱かれながら、アベルにしがみついてその時を待つ。中へ入れるまでは少しだけ乱暴だったその指先が、今は焦らすように僕の中を蹂躙していった。
「挿れますよ…」
「うんっ…んんッ…アベル…!」
「…ッ…!」
「あぁぁあぁ!」
ゆっくり挿れられると思ったアベルのそれは、予想を覆して一気に入ってきた。アベルは僕の身体を壁へ抱え上げて、性器の上へ降ろしたのだ。
「やっあぁっ深ッ…あぁ、あっ…ん」
「カイン…」
「ふ、あ…あぁっ…ん、あっ」
一呼吸おくだけで、アベルは動き出した。硬くて熱いアベルの性器が、前立腺を強く擦り上げて行き来する。壁に背中を預けるだけの体勢は辛くて、下へ落ちてしまう体重のせいでアベルのそれを深く受け止めてしまう。アベルの細い身体は強靭で、まるで僕の重さなんて感じていないように僕を軽く抱え上げては腰を打ち付ける。アベルの性器から出るローションのせいで、濡れた中がひどい水音を立てた。
「やぁぁっ…あっぅ、あぁぁっあッんっはぁッ」
「そんなに乱れて…」
「あぁっ…んッアベル!やだぁっ」
「つらい?」
「んっつら、い…やぁッあぁっ」
「気持ち悦すぎて…?」
「あぁっふ、あぁぁ」
「イイんでしょう…?」
アベルが吐息混じりに僕を責める。大きく抜き差しされて、瞳からは涙が零れ出した。呼吸が苦しい。奥が熱い。せり上がる快楽で、わけがわからなくなる。
「どうです…? カイン」
「ダメ、あっあぁっ…アベル!」
「ダメ? これは?」
アベルの指先が僕の性器を扱き上げ、中は前立腺をぐりぐりと刺激した。
感じる場所で小刻みに揺らされると酷い快楽が襲い、鳩尾の奥まで熱くなった。
「うあっあぁぁ! や、あぁっんんっはぁ、あっ」
「ひどく締め付けてきますよ」
「それ、やだ、あッあぁ…や、め…」
「そうですか?」
口端を上げて薄く笑んだアベルが、感じる場所を外して緩やかな愛撫をする。当たりそうで当たらない場所を撫でられて、腰が揺れてしまう。
「う、あ…はぁ…んんッ」
「これでいいですか?」
「あ…あぁ…アベル…」
「はい?」
「んッ…や、さっき…みたいに…」
「なんです?」
「激しく、して…」
濡れた瞳で強請ると、アベルは僕を抱えなおしてまた深くへ突き立てた。激しい抽送を繰り返して、壁を何度も擦り上げてから、今度は前立腺を集中的に責め立てられた。抉るように強くされると、悲鳴を上げてしまう。真っ白になった頭で何度もアベルの名を呼んだ。腰を振ってアベルの熱を求めると、体内が焼かれていく。
「あっあっ、んっ、あぁぁ!」
「カイン…」
「アベルッ…や、もっ…イク…!」
「私も…カイン」
甘く優しく囁かれて、裏腹に強すぎる愛撫が性器に与えられると、熱が弾けた。意識が飛ぶほどの快楽に、身体が痙攣する。びくびくと震える性器から、アベルが僕の熱を搾り取った。
「んんッふ、んっ…はぁ…ぁ…」
「…ご満足頂けましたか?」
「うん…はぁ…アベルは…?」
「私は、」
「気持ちよかったって言って…」
「…ええ。もちろん。貴方の中は最高にイイですよ…」
優しく微笑んだアベルに抱き上げられて、ベッドに降ろされる。いつの間にかぬけていたアルコールの代わりに、快楽の余韻が身体を包んでいる。アベルの腕のなかで目を閉じると、満たされたな安息感があった。何度か啄ばむようなキスをして、僕は眠りに溶けていった。
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