Blue Earth

noiz

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Blue Earth 03

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僕等はターゲットのスパイアンドロイドが通勤時に通る道で、一番人気の無い通りを割り出した。昨日ここを何時に彼が通るか確認して、僕等はその時間に合わせてここへ来た。


暗い路地裏。

僕は外付階段から道路を眺めているソウを見上げた。ソウがハンドガンを構えるのが見えた。

アンドロイドは規則正しく正確だから、時刻はほとんど変わらない。もうすぐここを通るはずだ。幸い人影もなく、下のダストボックスの陰で見張りをしていた僕はほっとする。

「あ、来たよ。ソウ」

こちらへ来る車体をチェックしていた僕が、ソウと繋がる腕の端末へそう伝えると、すぐにあのアンドロイドが乗った車が目前を通る。

旧式ならタイヤを狙えば簡単だけど、今どき旧式のタイヤ付自動車なんかに乗ってる奴はあまり居ない。一番早く車体を止めるには、内臓されてるモーターを狙わなきゃならない。そして一瞬でそれをやってのける人間は珍しい。けど、ソウはそれができるのだ。その車体の内部を把握していなければできない事だ。車種は僕が報告済みだから、ソウは事前にあの車の情報を調べているはずだ。

路地裏を車が通った時、ソウはたった一発でモーターを撃ち抜いた。

ソウの腕と、あのハンドガンは僕等の商売道具だ。発射速度も威力も高く、物理破壊より弾丸の衝突時に噴射される高圧電流にステータスを割り振った銃だ。

数メートル進んだ車がスリップする派手な音が路地に響いた。

僕はすぐに車に向かうと、止まった車に乗ったままのアンドロイドのコアの有りそうな部分を銃で数発撃ってから、その身体を引っ張り出した。

脳を吹っ飛ばされて片目しか無くなった眼球が忙しなく動き、腕は歪な動きでまだ宙を掴んでいた。
死にかけのアンドロイドを路に転がした時、路地裏に停めていたバイクに乗ったソウが現れた。

バイクに跨ったままのソウが、間髪入れずにアンドロイドのCPGを撃ちぬく。
アンドロイドはまだ機械音を立てていたが、手足は完全にスイッチを切られたみたいに動かなくなった。

僕は動かなくなったアンドロイドを引き摺ってソウの後ろに跨ると、それを引っ張り上げた。成人男性より重いんだよなぁ。

僕がアンドロイド越しにソウへ捕まると、バイクが勢い良く走り出す。たとえポリスに捕まっても相手が国に登録されていないスパイアンドロイドならすぐに釈放されるけど、事情聴取や捜査なんかの面倒事はごめんだ。僕等はみつかる前に速やかにその場を後にした。


やがてバイクは立体駐車場へ辿り着いた。僕等はこの廃ビルとなった駐車場をいつも使っている。

中へ入ると、バイクを停めてアンドロイドを転がした。もう声は発していないけれど、口はカタカタ動いている。常態ではしないはずのモーター音も聞こえる。

ソウは無表情にアンドロイドを見下ろしていた。

僕は、あまり直視できない。

本当は撃ったりするのも、気分は良くない。目標を作戦通りに捕らえたり格闘するのは結構爽快だ。破壊した時に飛び出すのは内臓や血肉じゃない。それはただのパーツの残骸だ。
それでもボディを覆っている皮膚はとても人に近いし、眼球も本物によく似ていた。不自然に折れ曲がり、肌からオイルに濡れた機械が覗いているのも、あまり気分の良いものではない。

「本当に無駄に精巧だよなぁー。いや、スパイだから無駄じゃないんだろうけどさ。まるで人間みたいだもんな」
「……全然違うさ。人の死体とはな」

ソウは呟くようにそう言ってから、あらかじめここに用意していた大きな麻袋を広げた。ソウは銃器や精密機器の扱いはかなり巧いけど、力はそんなに無い。僕がアンドロイドを持ち上げて袋へ入れた。アンドロイドって本当に重い。

アンドロイドを壊すのには、なんといっても速さが命だ。モタついて反撃されたらヤバい。前に大したハンドガンも用意せずに戦闘モードの奴とやりあった時、本気で死ぬかと思った。僕がなんとか拾い上げた、鉄の瓦礫の破片で攻撃を防いでいる間に、ソウが影から撃ってくれたんだけど、ソウがいなかったら確実に死んでただろう。

そうまでして続けている理由って、小遣い稼ぎじゃ薄いよなって思うんだけど、自分でもイマイチわからない。何故かやめられない。これが楽しいっていうより、ソウと組んでるのが楽しいのかもしれない。達成感もある。それに、ソウは兎も角、僕は精密機器を作る仕事なんか出来そうにないし。卒業したら、このまま賞金稼ぎになるか、ジャンクショップでもやるかってところだ。

できればずっと、ソウと一緒ならいいのにって、本当はこっそり思ってる。

だけどソウの頭の良さや容姿の良さを、僕なんかの人生に無駄遣いさせるわけにはいかないよなって。それも理解してるのに、僕はソウとの将来を、諦め切れてない。


そして僕等は新宿スラムに向かった。今回は凪坂に紹介してもらった、あの店に行くつもりだ。

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