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Dune 18
しおりを挟む零れ落ちたそれが何だか解った瞬間に、黒い小さな塊は爆発していた。
把握できない衝撃が起こり、どうやら身体は吹っ飛ばされた。
目が覚めたのは白い部屋で、天井から視線を流したそこには光の入る穏やかな窓があった。白いカーテンが揺れている。
「フォービア、気が付いたか」
「…隊長」
反対側から声がして、そちらへ顔を向けると隊長が座っていた。隊長は何かを堪えるように暗い顔をしている。
「どうしたんですか」
「ここは、病院だよ」
「病院…?」
「民間人を装った…テロリストの娘が自爆した。お前は巻き込まれて、」
「ああ…あの…あの少女は、助からなかった、のか…」
「フォービア…」
花も咲く前に、少女は戦争の道具にされて死んだのか。あんな非道で小さな兵器に、人生ごと首をもぎ取られたのか。彼等にも正義が、あるだろうと。思ってきた。事実、あるのだろう。だけど。あんな少女を巻き込む正義とはなんだ。少年が銃を構える正義とはなんだ。俺達が彼等を踏みにじって掲げる、正義は―――?
「落ち着いて聞いてくれ、フォービア」
隊長は深刻な瞳で俺の肩を掴む。
「お前の左足は、もう無い」
そして告げられた真実に、一瞬戸惑う。けれど、ゆっくり意識を左足に向けると、ああ。もう無いのか、と。それだけを認めた。それと同時に、そこが痛みの脈を刻んでいることに気付いた。
「軍人でしかも働きの良かったお前なら、優先して手術が受けられる。それでもしばらく先まで待たないと、お前の脚が造れるまで時間は要るが、いずれきちんとした生身の脚を繋げられる。機械の義足じゃない、ちゃんと神経を繋げるやつだ。でも、」
隊長は、悲しげに目を細める。
「もう軍務は無理だ。神経を繋げてもまるで元通りになるわけじゃない。歩くのには問題ないが、まるで今まで通りというわけにはいかない。軍務を続ければ今度はきっと死ぬことになるし、身体の欠損歴のある奴は雇えない」
「俺は、もう…使えない駒ですか」
「フォービア、お前はよく働いてくれた。俺も軍も、感謝してる。もう、いいんだ」
「捨て駒でも…」
「…フォービア。お前には、待ってくれてる人はいないのか」
隊長にそう言われて、トゥルーのことが頭に浮かんだ。ああ、そうだ。そうだ、俺は。帰らなければ、ならない。戦地で死んでいくだけが、俺の役目では、ないのだ。もう。
きっと、軍人にはいくらだって代わりはいるだろう。だけど、トゥルーが求めてくれる俺は、それとは違うのだ。
「隊長、正義って、なんだったんでしょう」
隊長は、俯いて呟いた。
「俺にも、わからないよ」
窓辺に視線を流すと、カーテンの白さが、とても衛生的だった。
「隊長は、神を信じているんですか」
薬品の匂いのなかに、沈黙が、落ちる。
「…このピアスは、恋人に貰ったんだ。俺が信じたのは神じゃない。あいつの願いだ。誰かが救われていくことや、俺が生きていることを、あいつは祈ってる。俺が信じているのは、それだけだよ」
その祈りだけが、救済になるのだと。それが信念に代わる。
俺にはよく解る気がした。
その曇りない純真な願いは、とてもよく知っていた、ものだから。
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