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Bacato 04
しおりを挟むその日は経営しているカジノの様子を見にきていた。店内を軽く見て回っておき、仕切りを任せている幹部の一人に現状を聞いた。モメ事や人員、売上や給金の話など細かいことも相談し、確認を終えるとエレベータに乗って一階ロビーまで戻る。
しかし一階まで辿りつかない内に、フィーゾは引き連れていた数人の手下を降ろした。
「俺はコイツと話がある」
横目でディズを指してから、階段で降りろと男達に暗に命じ、エレベータの扉は閉まった。
二人になった狭い室内はやけに静かで、沈黙の中でディズは息を殺した。パネルの傍へ立ち壁に右肩ごと体重を預けていたフィーゾは、パーカのポケットに手を突っ込んだまま、不意に振り返るとディズに向かって脚を上げた。蹴られると思ったその片脚はディズのすぐ横をすり抜けて背後の壁に音を立ててぶつかった。
目の前に立ちディズを閉じ込めるような形になったフィーゾが哂う。
「無かったことにしてぇってツラだな」
昨夜のことを言っている。今朝、二人は何事も無かったように振舞った。しかしここに来て、突然そのことを上げるフィーゾに、ディズは眉根を寄せる。
「俺が忘れたふりしてやると思ったか? あんな醜態晒しといて」
至近距離で見下されているディズはフィーゾから目を逸らす。
「目も合わせたくねぇってか。俺が疎ましくになったか?」
フィーゾは壁に体重をかけていた脚をディズの身体の中心に持ってくると、そこをスキニーパンツの生地越しに踏みにじった。
「口もきかねぇなら身体に聞いてみるか」
逃れようとしたディズの腕を掴み、そのまま壁に張り付けるとフィーゾは口端を上げた。
「踏まれても感じるか? 下衆野郎」
ディズは屈辱に耐えるように唇を引き結んでいたが、乾いた喉からやっと抵抗の言葉を漏らした。
「…やめろ」
「ヤリてぇほど俺が好きか、ディズ」
こんなつもりではなかった。ディズは悪態を呑み込む。フィーゾを組み伏せて啼かせてやりたいと思っていたが、まさか逆のことをされるとは思っていなかった。甘く見ていたなどと言う前に、自身があんな様を晒すことはまるで考えていなかった。
フィーゾの靴底が、敏感な場所を無遠慮に刺激していく。しかしそれに快楽など感じるはずもなく、苦い思いばかりが募った。だが耳元で囁かれる声には、肯定も否定もできず、身体が動かない。好きだ嫌いだと考えたことはなかったが、欲情の意味は自分でも解らない。
「オラーツィオ潰してこい」
思いがけない突然の命令に、ディズは顔を上げた。
「は、」
オラーツィオは最近ドラッグで儲けだした近くのギャングだ。明らかにカルデローネを敵視しているオラーツィオの行動は目に余るものがある。このカジノも近頃荒らされているという。
「それができたら遊んでやるよ、犬」
フィーゾは冷たい瞳で、微笑いかける。餌が欲しければ成果を上げろとその瞳が語りかける。
「俺のために吼えてみろ」
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