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Bacato 02
しおりを挟む「レビアスカんとこの雌猫と遊んでる奴が居るなァ」
今はカルデローネのアジトと化している、廃倉庫だ。
まともな事務所を所有することも可能だが、フィーゾは始めの拠点であるここを離れようとしなかった。ここから伸し上がった、そこに拘りがあるわけではない。棲家への執着がまるで無く、この場所の使い勝手もいいだけだ。
倉庫の中は車やバイク、ホバーボードなどの足が主に並べられ、壁には工具や武器などが掛けられていた。
奥のソファや椅子、ビリヤードやダーツなどの雑多に置かれている場所に幹部が並んで立っている。倉庫に残っていた他の構成員は遠巻きに思い思いの場所からそれを伺っていた。
正面から幹部の顔を眺めるフィーゾは豹皮のソファの背に肘を掛け、無機質な鈍色を放つ卓に組んだ足を載せていた。少し離れたスタンドチェアに片脚を引き上げて座り、ディズはアウターのポケットに手を突っ込んだまま場を傍観している。
「言ったはずだ。寝る相手は選べってな」
フィーゾは咥えた煙草の紫煙を吐き出す。
「ベニート」
フィーゾに呼ばれた幹部の一人は、大袈裟なほど肩をビクつかせた。
「あ、いや、お、俺?」
「違うか」
「いや、あの…」
「テメェの手ェ出したのはレビアスカの幹部んとこの猫だ。あそこと今ヤリ合うのはよくねぇって…わかってるよなァ?」
あくまで静かな物言いでフィーゾはベニートを睨む。髪と同じ金の瞳が、冷たく光る。
「し、しらな」
「知らなかったか。そりゃあ軽率な遊びだったな。シマの女以外に手ェ出してんじゃねぇ豚野郎」
「わ、悪かった…!」
「ブルーノ」
呼びかけられて動いた筋肉質なスキンの男は、息を呑むような悲鳴を上げたベニートの頭を掴んだ。
「切り落とせ」
フィーゾの一言に今度は泣き叫んで謝罪するベニートを蹴り崩すと、ブルーノは腰から適当なサイズのナイフを引き抜いた。
「あぁああぁやめっやめてく、フィーゾ! フィーゾ! もうお前の許可なく手は出さねぇ! 頼む、フィーゾ!! もうしねぇからぁぁあ!」
他の幹部に押さえつけられ、ブルーノにベルトを外されたベニートは、ファスナーを下ろされながらフィーゾに訴えた。フィーゾは汚物を見るような目でそれを見下ろしていたが、やがて口を開いた。
「そいつが無くなりゃ信用もできるかもな」
「フィーゾ!!」
「…テメェでしたことはテメェで持て。切り落としてレビアスカに献上するなり中身売って金作るなりすることだなァ」
「…す、る自分でなんとか、する、から!」
「二度と俺の前に面見せんな薄汚ねぇ豚が」
フィーゾが言い捨てると、ベニートは衣服をまともに直す間もなく逃げ出すようにアジトを出た。
「良かったのか?」
無様な背中を見送りながらナイフを仕舞いブルーノが訊ねると、フィーゾは何事も無い様子で紫煙を吐き出す。
「外にレビアスカが待ち伏せてる。引渡しで話をつけた」
薄暗い倉庫の中に、煙が立ち昇って、溶ける。
「死体処理の手間が省けた」
フィーゾの声は極めて落ち着いたものだったが、そのよく通る冷たい声は、静かな倉庫に響いた。構成員たちの耳に、確実に届く。
紫煙越しに見るフィーゾの怜悧な瞳を、ディズは黙って見つめていた。
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