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番外編
ピンクの象*
しおりを挟む今日も監獄の中で互いにタブレットPCを弄っていた二人は、時折言葉を交わしながら作業を続けていた。
作業開始から数時間経つと、ラガルトの向かうデスクの上に座り、組んだ脚の上でキーボードを打っていたセレッソは、不意に眉を寄せて視線を外した。ディスプレイの見過ぎで疲れたのだろう。
「吸う?」
デスクのパソコンに向かい煙草を吹かしていたラガルトはセレッソの様子に気付き、手元の煙草の包みを渡した。セレッソは受け取ると一本取り出し、口へ咥える。セレッソの咥えた煙草の先に、ラガルトが火の付いている自身の煙草を軽く当て、微かな朱を移した。
フィルタ越しの酸素をゆっくり肺に吸い込み、溜息のように吐き出す。
すると抜けていく感覚、微かに脳が痺れるような錯覚。
しばらく吸っていると、セレッソは違和感を覚えてラガルトを見遣った。
「なんか混ざってるな」
「ピンクの象でも見れそうだろ」
「かもな……なぁ」
セレッソは形を変えていく紫煙を眺めながら呟くように言った。
「それ昔から言うけど、そもそも象ってお前見たことあるか?」
「ないな。ずっと昔に絶滅したんじゃなかったか」
「地球には居るんじゃないか?」
「行ったことないし」
言い交わして、二人は少しだけ笑った。
何色の象もあまり想像できない。古くからの言い伝えにある守り神の象が頭に浮かんだが、全然リアルじゃない。
「セレッソ、」
「なんだ」
「…やりたい」
ラガルトは煙草を落として踏み消しながらそう言うなり、セレッソの呆れた視線を受け止める気もなく、セレッソの膝の上のPCをどかして脚を開かせた。
「おい!」
「なんだよ、いいだろ別に」
「いいわけあるか。昼間っから盛るなバカ」
「ずっと夜みたいなもんだろ」
ラガルトは制止を受け流し、さっさとセレッソのシャツの裾をたくしあげる。晒された陽射しを忘れた肌に吸い付き、舌で撫でる。骨や筋肉を辿るように何度も落ちる唇や指先は、男の身体の悦ばせ方を熟知していた。
「…んっ…お前って本当…仕方ないな…」
「だってセレッソがそんなんだから悪いんだ」
「どういう…意味だ」
「色気ありすぎ」
「いっ…!」
ラガルトはセレッソの耳元で囁いて耳殻を噛んだ。鋭い痛みに身を硬らせたセレッソの、少しだけ血の滲んだ傷口を、労わるように優しく舌を這わす。
「…やめろ…」
「セレッソって、俺の声好きな」
「…んなわけ、あるか」
「そう? でも、」
反応してる。ラガルトはセレッソの脚の間を下から撫で上げた。厚い生地越しに主張するそこは、すでに熱を持ち始めていた。
ラガルトは布越しのまま、そこに爪を立てて引っ掻くようにしてみせる。
「ん、…ぁッ…!」
何度も繰り返すうち、セレッソはラガルトの首に腕を回してしがみついた。震える腰がもどかしげに浮いている。
「触って欲しい?」
「うっ、あぁ…ん…」
「セレッソ、」
ラガルトはさらに強くそこに爪を立てる。布の摩擦が皮膚を刺激して常と違う感覚が走り、セレッソは息を呑んだ。
「あっ…ラガルトッ…!」
濡れた瞳でセレッソが見つめると、ラガルトは口端をあげてファスナーを下げると、ツナギを肩から落とした。
するとセレッソの性器は硬く勃ち上がり、すでに濡れ始めていた。
「いいね…」
独り言のようにそう呟いて、ラガルトは自分の手首につけていたブレスレットを外し、セレッソのそこにチェーンを巻いて締めつけた。
「やめ、ろ…ラガルト…!」
批難の瞳を無視してラガルトは腰のベルトから小型ナイフを取り出した。
「…おい!」
「静かにして…」
ラガルトはセレッソの唇に冷たい切っ先を当ててそう笑んだ。薬で少し気分が飛んでいるらしい。セレッソは舌打ちしたい気持ちを堪えてラガルトを睨んだ。
しかしその瞳に更に楽しそうに笑ったラガルトは、鏡のように磨かれたナイフを今度はセレッソの熱へ直接当てた。
「どういうつもりだ、ラガルト…」
「じっとしてないと、切れちゃうよ?」
裏筋にナイフの面を当て、そっとスライドさせる。器用な男なので、そうしようと思わなければ肌に傷がつくことはない。セレッソはそれを理解していたが、冷たい金属が熱を撫でる感触に、背筋が冷える。もうやめてくれと思うのに、ラガルトは何度かそれを繰り返した。
「すごいね…興奮してる?」
「するわけ、な、、あっ…んんっ…」
「そうかな…ぜんぜん萎えないけど」
ラガルトの言葉通り、ナイフには先走りが伝い、感触も微かに濡れたものに変わっていた。剥き出しの柔らかい肌を、滑らかな刃が愛撫する、感覚。
睾丸にもナイフが滑り、セレッソは刃の冷たさに熱い吐息を漏らした。
「まるで熟れた果実だよ…」
「んっ…はぁ…ぁ…」
「少し切ったら、溢れそう…」
「あ…や、めろ……」
「本当に…? 本当はしてほしいんじゃないの? だってここも…」
ラガルトは戒められたセレッソのそこを撫で上げながら言う。鼓膜を愛撫されるような、絡みつくラガルトの声。
「吐き出したがってるよ…?」
「あっあぁぁ…!」
カラン。ナイフが落ちる。ラガルトは指先で激しくセレッソの熱を愛撫した。
濡れたそこを強く擦り上げ、先端を押しつぶすように刺激する。時折、睾丸に柔らかく触れ、裏筋へそっと爪を立てて撫でる。何度もくりかえす内、セレッソの呼吸は乱れていく。溜まっていくばかりの熱の放出場所が無い。
「あっあぁっ、いや、だ、あぁぁ!」
「ね…イキたい? セレッソ…」
「あぁっ…うあ、あぁ、んんッ! イ、きた、い…ラガルト!」
「ふふ…すごくイイよ…セレッソ…本当にアンタは俺好みだよ」
「あっ…もッ…ラガルト!」
「でもダメ…俺も早く中に入りたいんだよ…」
ラガルトは解放を許さないまま、後ろを解し出した。濡れた指先がセレッソの中を掻き乱す。場所を覚えている指が、的確にセレッソの嫌うところを刺激する。
「あっ! や、やめろ! あぁぁ! そこ、いや、だ…ラガル、ト!」
「嘘。イイって言いなよ」
「いや、だ…! あぁっ…うぁっ…あぁぁぁ!」
そこを刺激されると何もかもがわからなくなると、セレッソは嫌がる。しかしその反応の良さにラガルトが退くことはない。そこを強く刺激し、指先で撫で続ける。
「あぁっ…ラガルト…も、もう、いやだ…!はや、く…!」
「…うん。そうだね」
ラガルトは指を抜いて代わりに熱を持った自身を宛がうと、セレッソの身体を引き寄せて一気に貫いた。
「あぁぁぁッ!」
悲鳴を上げたセレッソが痙攣しているのを感じ、ラガルトは笑った。
「あれ? もしかして空イキしちゃった?」
「はぁっ…ぁ……」
激しく息を乱して震えるセレッソを抱き締め、ラガルトはそのまま動き出した。
「えっ…あっ…あぁっ…待て、あっ…ラガルト!」
「やだよ。やっと入れたのに」
「お前が…勝手に……!」
「だって焦らされた方が気持ち良いでしょ?空イキしちゃうくらい」
「……!」
セレッソは言葉を呑んだ。しかし沈黙は続かない。ラガルトは強く腰を打ちつけ出した。
「あぁぁ! あっ…あっ…んっ…ぅあ…あ…!」
粘膜を荒らす熱の熱さで溶け出しそうだ。ひどく感じる場所を突き上げられ、握られた性器を容赦なく擦られる。セレッソは涙を流して悲鳴を漏らした。
何度もラガルトのいいように打ち付けられ、セレッソはただ回した腕で縋り揺さぶられるしかなかった。
「んっあぁぁ! あっあぁぁっ! もっ…ラガルト…」
「もうちょっと…」
「いや、だ…あぁぁぁ!」
気が狂いそうだ。過ぎる快楽を加減なく与えられて、身体も脳も壊れそうだった。はちきれそうなそこは痛いのに、どうしたって悦楽を拾い上げて背筋を駆け上がった。もう吐き出したい。吐き出して解放されたい。しかしラガルトはセレッソに望まぬ快楽を与え続ける。
「うぁ、あぁあ…ラガル、ト…! あぁぁ…!離し、て…くれ…!」
首を振ってすすり泣くようにセレッソが訴えると、歪んだ瞳を熱っぽく濡らしたラガルトが、とても楽しそうに笑う。
「うん。いいよ。イカせてあげる」
優しく囁いたラガルトが戒めていた金属を外すと、セレッソの腰を掴んで力強く突き上げた。
「あっあぁぁっ! あ、あ、んッぁぁ!」
嬌声を上げてセレッソが達すると、強く締め付けられたラガルトも熱を吐き出した。
セレッソは昂りの強さに比例した開放感に意識を眩ませ、大きく息を吸う。
二人分の乱れた吐息が独房に舞った。
「はぁ…すげぇ良かった……」
ラガルトが髪を掻き上げてそう言うと、セレッソは不機嫌そうに呟いた。
「…俺は最悪だ」
「嘘だね。すごい気持ち良さそうに啼いてたじゃん」
「うるせぇ。お前もう薬吸うな」
「やだよ。やめられない」
「だったらもうセックス禁止な」
「それはもっと無理」
ラガルトは反省の色など見せるはずもなく、笑ってセレッソに唇付けた。甘く溶かすようなキスに、すべてがどうでもよくなる。結局のところ、なぜかこの男に甘い。セレッソの溜息は、ラガルトの口内へ呑み込まれた。
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