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Alcatraz 04*
しおりを挟む監獄生活も一週間を過ぎ、セレッソはダイナーやコートで会う囚人達との適度な距離感や、日課的な運動や労働なども覚えつつあった。
ラガルトは初日の懸念通りスキンシップが激しかったし、気分の移り変わりも激しかったが、害と言うほどの害はなかった。
ラガルトから仕事も教えてもらい、ネットパトロールの詳細も少しずつ覚えてきた。セレッソはどんなところにも秩序があり、また適応できるものなのだと、なんとなく思っていた。
『1677、1678』
夜が始まった頃になると、シャワールームに通される。呼ばれて今夜も隣り合わせた幾人かの囚人達とシャワールームへ行く。
シャワールームは簡素な仕切りで一つずつ個室になっている。どこへ入っても構わないのだが、ラガルトはいつもセレッソの隣をキープしていた。
特に何事もなく、すでにこの場所にも慣れたセレッソは個室の一つで頭からシャワーを浴びた。
労働はデスクワークだが、適度な筋トレと運動は続けている。汗を流せるのは有り難かった。
「?」
数分も経たないうちに、不意にセレッソは背後の扉の向こうに気配を感じて振り返った。個室といっても仕切りだけで鍵もついていない。扉の向こうには誰かの脚が見えた。そしてすぐに扉は開かれ、ここへ一緒に来ていた囚人の二人が入ってきた。
「なんだ?」
どこか気に障る笑みを浮かべている囚人達は、体格の良い体にタオルを腰に巻いただけの状態だ。ボディソープでも無くなったのかとセレッソは訝しげな視線を向けた。
「お前のいう通りだな」
「そうだろう。まだあまり広まっちゃいないが、もう一部では噂になってる」
「おい、なんの話だ。こんなところで言いたい要件があるならさっさと言え」
セレッソは苛立ちながら、かかる髪を掻き上げて言った。
「お前、もういろんな奴から狙われてるぞ」
「そのツラじゃ当然だ。他の奴等にヤラれるくらいなら俺たちのネコにならないか」
「あぁ?」
セレッソは反射的に思い切り睨みつけてから、ラガルトがここへ来た時に、このような遣り取りが原因で乱闘になったという話を思い出した。
そして男達がこちらへ向かってこようと脚を踏み出した時、突然大きな音を立てて扉が開かれた。
「…ラガルト」
ラガルトが扉ごと殴った為、男達はその扉に強く背中を打たれた。二人の囚人は、舌打ちしてラガルトを振り返った。
囚人達が申し訳程度にタオルを巻いているのに対し、ラガルトは何もつけていなかった。しかし彼のしなやかな体躯は彫刻染みていたし、ボディピアスや刺青が全身に多く装飾されていた為、まるで一つの芸術品であり、人間味がない。一種の威圧感すら纏っていた。
「そいつは俺の飼い猫だ。テメェらみてーな下衆野郎が絡んでいい相手じゃねぇんだよ」
セレッソのことはまだろくに知らなくても、ラガルトを知らない人間はいない。囚人達は忌々しげに悪態を吐いたが、ラガルトには絡むことなく去っていった。
「悪い…」
助かった。というのもなんだか癪ではあった。飼い猫になった覚えはない。しかしラガルトがああ言っておけば今後このような場面は起こらないのかもしれない。
ラガルトは答えずにセレッソの傍まで来ると、タイルの壁に押し付けて腕の中に閉じ込めた。
「ラガルト?」
「俺が来なかったらあいつ等に突っ込まれてたかもしれないって、アンタわかってる?」
「…看守が来るだろ」
「来るわけない。あいつらが助けるなんて、まさか本気で思ってないだろ? お前はそれも諦めてあいつらにヤラれるのか? なあ」
「あんな奴等の好きにさせるつもりはないさ」
「…セレッソ。アンタが他の奴より弱いとは思わないけど、今度こんなことがあったら必ず俺を呼べよ」
「…まるで本当に飼い主だな」
「そうだよ。アンタは俺の猫だ」
ラガルトはセレッソの首筋に歯を立て、舌で肌を撫でた。そして片手でセレッソの脇腹を撫で上げ、腰骨に指を滑らせる。
「んッ…おい、」
手が降りていく感覚に焦ったセレッソはラガルトの身体を押し返したが、あまり意味は無かった。ラガルトは晒されたセレッソの中心を握りこみ、その手を上下させる。
「…ぅ、あ、ラガルト! 離せ!」
押し返そうとする力は容易く押さえ込まれ、ラガルトは身を引かなかった。手馴れた愛撫でセレッソのそこを弄び、裏筋を撫で上げては先端を押しつぶす。触れられれば反応してしまう性器は、溜まっていたせいか簡単に熱を持たされていく。セレッソはその感覚に息を殺し、眉根を寄せた。首筋や耳殻には舌が這い、時折ラガルトの吐息が鼓膜に届いた。
「良い声…もっと聞かせてよ」
「んっ…いや、だ…おい、やめろ…」
「やめない…」
「う、んっ…ぁ…んんっ…」
思わず漏れてしまう声が、シャワールームに響く気がする。こんな簡素な仕切り一枚じゃ、何をしているかなんてすぐにバレてしまうだろう。セレッソは声を漏らさぬよう必死に唇を結んでいたが、ラガルトは自身の指を口へ突っ込み、セレッソの自制を無駄にした。腰から甘い疼きが這い上がり、セレッソは身を震わせた。
「ふ…ぅ、んっぁ…あぁっ……!」
熱を持たされた自身を激しく愛撫され、無理やり開かされた口から、指を噛んでも絶頂の声が響いてしまう。確実にシャワールームに響いただろう。水音で掻き消されている事を願うしかない。立ち昇る熱気のせいで少し暈けた視界の中、ラガルトはセレッソの精液に濡れた自身の指先を舐めた。
「なに、考えてるんだ…こんな…」
「あんたは俺のだって思い知らせたい。本当はこんなところじゃなくて、囚人全員の前でハメてやりたい…」
「バカじゃないのか」
「バカでいいよ」
抱き締めたセレッソの耳元で、熱っぽくそう呟く。セレッソは、ラガルトの濡れた銀糸の髪に、そっと触れてみた。滑らかな絹糸のようだ。
アルカトラズに来てから、すべてに惑わされてばかりだ。この男のせいで。セレッソはまた溜息を吐く。
「お前、随分いろんなところに刺青入れてるんだな。ピアスも」
「いいでしょ? 俺って器用なんだ」
「自分でやったのか?」
「うん。今度セレッソにも入れてあげるよ」
「遠慮する」
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