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きらびやかな装飾がこれでもかと施された部屋は自分の家と違いすぎて落ち着かない。やけにふかふかなソファーだって居心地が悪い。そして目の前ににこにこと不気味なほど微笑む国の第一王子も気になって仕方がない。

俺は王宮にいる。

昨日、訪問は断ることになっていた。しかし今朝、お兄様を見送ってから、何故かよそ行きの服に着替えさせられ、お父様がにこやかに、失礼の無いようにな、と見送り、俺はルートさんと共に馬車に押し込められた。そして到着したのがここ、王宮。執事さんに案内され、通されたのがこの部屋だ。すでにライ様はいて、部屋中にあの甘い紅茶の香りが立ちこめていた。

正直心細い。一緒に来たルートさんは何故か別室に案内されてライ様のお付きの人はいないらしい。つまり俺とライ様の二人きり。何を話していいのかわかんない。

「手紙、読んでくれたようだな」

「は、はい…」

そのあとの言葉は出てこない。返事だけで手一杯である。緊張しなくていい、とライ様はおっしゃったけれど、そんなの無理だ。相手は国の王子なのだから。

「それで、婚約者になること、考えたか?」

うぐっ。早速本題…!頑張れ、俺。馬車の中でかろうじて考えた断る理由を思い出すんだ…!

「はい。あの、僕とライ様じゃ、釣り合わないと思うんです。ライ様は話していて楽しかった、と言ってくださいましたが、それはその、あの短時間じゃ判断がつかないものだと思います。それにその、僕はそもそも男ですし…えっと、要するに婚約者は僕には無理です」

「……」

俺はライ様と目を合わせずにそう言った。ライ様がどんな顔をしているかはわからないが、とりあえず、俺の意見は言えたからいい、と思う。

「そうか…。つまりカリンは俺には見る目が無いって言いたいんだな?」

「だっ、断じてそういうわけではありません!」

顔を上げ、思わず大きな声で否定してしまう。するとバチッとライ様と目が合った。ライ様はニヤリとしたり顔を浮かべていた。

「やっとこっち見た」

「っ…!」

イケメンがそんな顔したらだめでしょ!顔が熱くなってぷいっとまた顔を逸らしてライ様を見ないようにする。

「釣り合わないと言ったが、そんなことないと思うがな。それに今も話しててすごく楽しいから気のせいとかじゃない。俺は性別も気にしないし」

「そ、そうは言いますけど…。ライ様は俺のこと好きではないでしょう?」

そもそもライ様は俺のこと好きじゃない。別に好きになってほしいわけじゃないんだけど。でも、婚約ってやっぱり好き合った者同士がするものじゃないの?婚約を焦る歳でもないだろうに、なんで俺と婚約したいなんか言うんだろ…。

言い淀む俺にライ様は言った。

「話してて楽しかったのは本当だ。こんな気持ち二度と感じないんじゃないかって思ったくらいだから。…でも確かにカリンのことはそういう意味で好きではないね」

「だったら…」

「でも」

一際真剣味を帯びた声だった。ゆっくりと、ライ様を見るために顔を動かす。真っ直ぐ俺を見つめるライ様がそこにいた。

「今カリンを手放すと絶対に後悔すると思ったんだ」

なんだそれ…。まるで子どもの駄々みたい。

「俺はこんな立場だから、人間関係の作り方がよくわからない。関わる人は全員俺の顔色を見てるし、俺と婚約しようって気持ち丸見えで近付いてくる。だから、そんな気持ちがまったくないカリンは新鮮だった」

第一王子だし、やっぱりそういうのあるよね。前世の俺より若いのに大変だ…。

「それに、あのアランが意地でも紹介したくない弟っていうのがすごく気になった」

お兄様そんなこと言ってたの…。俺はあははと苦笑する。

「本当に魅力的だから驚いたよ。これはアランも紹介したくないだろうなってわかった」

ライ様は微笑みながらそう言った。そしてそっと俺に向けて片手を伸ばす。頬にその手が触れて、温もりがじんわり伝わってくる。

「一人占め、したくなってしまう」

呟かれたその言葉にドキリと胸が鳴った。何故かその手を払うことはできなくて、ただただ見つめ返す。しばらくしてライ様は俺から離れ、にこりと目を細めた。

「まあ、とりあえず、もう一度ゆっくり婚約のこと考えてほしい」

「わ、かりました」

「時間があるなら王宮内を案内しよう」

「お、お願いします」
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