密教僧・空海 魔都平安を疾る

その四 美女と野獣

一

この場所に逃げ込んで、もう三日目。今は真夜中だ。だからだいじょうぶだろう。でも夜が明けたら、いずれこの場所も見つかってしまうに違いない。明日は大丈夫かもしれないし、明後日も大丈夫かもしれない。でも三日も、四日も隠れ続けられるはずがない。だって村人が総出であたしたちを探しているんだから。いや違う、「狩ろう」としているんだから。
　あたしは殺されはしないだろう。だけど、この人は殺される。必ず。それは嫌だ。絶対に嫌だ。ならば、一緒に殺されよう。
「ねえ、あんた何を考えているんだい？」
「気配を探っている」
本当に必要な事しか言わない。でもそれがこの人にはお似合いだ。
ろくな人生ではなかったけど、本当に好きになった人が出来た。
その人と死ねるなら、それでいい。