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その三 ファースト・コンタクト

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秋が深まってきた。日中は、まだまだ暑さが残るが、朝晩の空気が明らかに違ってきた。空の色が変わり、空気がそよぐ。そんな季節になってきた。高雄山が、一番麗しい季節になった。
「願いは聞き入れられた。あの屋敷は、『空海に任せる』とのことだ。近々、正式に通達されることだろう」
「そうか、世話をかけたな。これで田主殿や猫たちも安心して生活できるだろう」
田主という分限者の家が、妖物に奪われた件のことである。老いて体の弱っていた田主は、息子・安麻呂から食事や水を一切与えられず、衰弱死した。屋敷を奪った妖物とは、田主に飼われていた猫たちが、安麻呂への怒りから猫又へと変わったものだったのだ。
空海は、猫又たちの田主を慕う心を想い、その屋敷を猫又たちが田主の霊と共に暮らせる場にしようと考え、「つて」を頼り願い出ていたのである。
「思っていたよりもことは進んだ。息子の安麻呂が死に、しかも妖物がいる屋敷となれば、なかなかに手の出しようがないからな。最後は『空海にすべて任そう』という事に落ち着いたようだ」
「有り難し。それは『あの方』のご意向か?」
「ああ、最後は『あの方』の鶴の一声だった」
「そうか、ならばお礼を申し上げなければならんな。田村麻呂、お会いできそうか?」
「お前が会いたいと言えばいつでも会って下さるさ」
「そうか、ならば早々に参上するとしよう。一年ぶりだな」
空海の口元にあの「かすかな笑み」が浮かんだ。
およそ一年前のことを思い出していたのである。
一年前、空海は権門勢家の勢力争いに巻き込まれることになり、そこで坂上田村麻呂と出会うことになったのであった。
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