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その一 怪し(あやかし)の森
十四
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風もないのに森の木々が大きく揺れ始めた。
森の中に台風が起きたかのように、木々が激しく、大きく揺れ動いている。
軋み、不気味な音を立てている。
ザッ ザッ ザッ ザッ
ギリ ギリリ ギリリ ギリ
ゴリ ゴリ ゴリリリリリー
大きく揺れ動いていた木々の枝が、空海、田村麻呂、綱虫に向かって伸びてきた。
まるで意思を持つ人間の手のようだ。
枝が伸びる。
枝が突いてくる。
枝が叩きにくる。
枝が掴みにくる。
ガー ガー グルル グルルーッ
樹と呼応するかのように獣たちがうなり声をあげ、三人のまわりを囲み一歩一歩にじり寄る。
ザワザワザワ
グルルーッ グル―ッ
ガー ガウーッ
ザワザワザワッ
枝が襲いかかり、獣が歯をむき出し、飛びかかってくる。
田村麻呂が腰から大剣を引き抜いた。
空海と綱虫の前に立ち、迫りくる枝と獣に大剣を振る。
空海はひたすらに斧を樹に打ち込む。頬には枝の攻撃によりできた一筋の傷から血がにじみ、したたり落ちてきた。
「ヒィーッ、空海、田村麻呂、助けておくれ!痛っ、何、何すんだよ!」
田村麻呂の剣をかわした枝や獣たちが綱虫に襲いかかる。腕や足を獣に噛まれ、顔と頭には樹の枝で叩かれ、突かれ、綱虫の全身は傷だらけだ。
「しくじった!これほどまでに、森が魔性のものとなっているとはなっ。樹を切り倒すにはもうしばらくかかる。田村麻呂、それまで何とか頼む」
「応!任せろ」
田村麻呂の力強い声が響く。
空海は樹に斧を打ち込みながら、汗まみれの顔を田村麻呂に向けた。
田村麻呂の背中があった。
懸命に大剣を振り、大樹と獣たちに立ち向かっている。
田村麻呂の周囲は、おびただしい数の枝と獣の死骸。
「お前は、やはり大した男だな」
「ん?何だ、何か言ったか?空海」
「いや、経を唱えているだけさ。気にするな」
尖った枝先がすごい速さで空海の両目を突いてくる。慌てて空海は頭を下げた。
「痛ーっ」
素早く頭を下げ、目は防いだが、額は枝で切り裂かれた。
空海の顔は汗と血でまみれている。
綱虫は必死に手足を振り回し、自分の身を守っていたが、肩で息をし、立っているのもやっとのようだ。体力・気力の限界が近づいている。
相手は森の木々と獣たち。
その数は数千か?数万か?それとも数十万か?
田村麻呂は顔と手足、いや体中に数え切れないほどの傷を負っている。
綱虫が座り込んだ。その綱虫に向かい獣たちが襲いかかってくる。
空海の顔が痛みと疲労に歪む。
「和尚様ーッ」
「空海さまーっ」
「どこですかー。田村麻呂様ーっ」
その時である。
人の声が聞こえてきた。
森の中に台風が起きたかのように、木々が激しく、大きく揺れ動いている。
軋み、不気味な音を立てている。
ザッ ザッ ザッ ザッ
ギリ ギリリ ギリリ ギリ
ゴリ ゴリ ゴリリリリリー
大きく揺れ動いていた木々の枝が、空海、田村麻呂、綱虫に向かって伸びてきた。
まるで意思を持つ人間の手のようだ。
枝が伸びる。
枝が突いてくる。
枝が叩きにくる。
枝が掴みにくる。
ガー ガー グルル グルルーッ
樹と呼応するかのように獣たちがうなり声をあげ、三人のまわりを囲み一歩一歩にじり寄る。
ザワザワザワ
グルルーッ グル―ッ
ガー ガウーッ
ザワザワザワッ
枝が襲いかかり、獣が歯をむき出し、飛びかかってくる。
田村麻呂が腰から大剣を引き抜いた。
空海と綱虫の前に立ち、迫りくる枝と獣に大剣を振る。
空海はひたすらに斧を樹に打ち込む。頬には枝の攻撃によりできた一筋の傷から血がにじみ、したたり落ちてきた。
「ヒィーッ、空海、田村麻呂、助けておくれ!痛っ、何、何すんだよ!」
田村麻呂の剣をかわした枝や獣たちが綱虫に襲いかかる。腕や足を獣に噛まれ、顔と頭には樹の枝で叩かれ、突かれ、綱虫の全身は傷だらけだ。
「しくじった!これほどまでに、森が魔性のものとなっているとはなっ。樹を切り倒すにはもうしばらくかかる。田村麻呂、それまで何とか頼む」
「応!任せろ」
田村麻呂の力強い声が響く。
空海は樹に斧を打ち込みながら、汗まみれの顔を田村麻呂に向けた。
田村麻呂の背中があった。
懸命に大剣を振り、大樹と獣たちに立ち向かっている。
田村麻呂の周囲は、おびただしい数の枝と獣の死骸。
「お前は、やはり大した男だな」
「ん?何だ、何か言ったか?空海」
「いや、経を唱えているだけさ。気にするな」
尖った枝先がすごい速さで空海の両目を突いてくる。慌てて空海は頭を下げた。
「痛ーっ」
素早く頭を下げ、目は防いだが、額は枝で切り裂かれた。
空海の顔は汗と血でまみれている。
綱虫は必死に手足を振り回し、自分の身を守っていたが、肩で息をし、立っているのもやっとのようだ。体力・気力の限界が近づいている。
相手は森の木々と獣たち。
その数は数千か?数万か?それとも数十万か?
田村麻呂は顔と手足、いや体中に数え切れないほどの傷を負っている。
綱虫が座り込んだ。その綱虫に向かい獣たちが襲いかかってくる。
空海の顔が痛みと疲労に歪む。
「和尚様ーッ」
「空海さまーっ」
「どこですかー。田村麻呂様ーっ」
その時である。
人の声が聞こえてきた。
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