上 下
7 / 89
第一章 狂人たちとの出会い

第七話 死を求める者

しおりを挟む
「レイド、君はこれを持っておいてくれ」
 マリーから短刀を渡される。
「君が戦えないことは知っているが、やはり武器を持っているのとそうでないのではかなり違う。短刀は扱いやすいし」
「ありがとう、マリー」
 レイドは感謝を述べる。何気に厚意を受けたのは初めてだ。

 しばらく歩くと、寂れた街並みが見えてきた。スラムだ。
「なっ! 何だこいつらは!」
 マリーが顔をしかめる。

 スラムから初めて見えた人影、彼らはもう人間ではなかった。
 全身が黒く染まり、うつろうつろと歩く人・・・ "黒き人” と呼ばれるものたちだ。
 1人、2人、3人・・・ こちらに向かってくる。

「動くな! 我らはコレル領兵だ! 動けば討つ!」
 マリーはそう叫ぶ。
「アガァァァ・・・」
 その反応に応じる様子はない。

「総員、戦闘準備! スラムにはびこる化け物どもを排除せよ!」
「「「おう!!」」」
 戦闘が始まった。

「うらあああ!!」
 兵士と黒き人が対峙する。そして、剣で切り裂いた。
「ウガァァァ・・・」
 あっさり倒れる。血も出ない。

「あ、ありがとう・・・」
 黒き人はそう言ってピクリとも動かなくなった。

 各地で兵士が応戦する。見ていて分かったが、人よりも少し強い程度。一対一なら確実に倒せるだろう。一対一ならばの話だが・・・
「隊長、あっちから化け物どもが沢山来てるぞ!」
 兵士が指さす。
 指さすところから、無数の黒き人があふれ出てくる。
 
「アガァァァ!!」
 これはまずい。こちらは50人程度。到底無理だ。
「逃げるぞ! 撤退だ!」

 マリーはそう言い、住居区へ退こうとするが、もう遅かったようだ。
「ギィィィィィ・・・」
「くそ! なぜこうなるまで気が付かなかった! 路地へ逃げ込むぞ!」

 マリー率いる部隊は路地に入る。狭いところで戦えば問題ないという算段だろう。
 黒き人がなだれ込んでくる。
「私が足止めをする! くらえ!」

 マリーはそう言って炎魔術を繰り出す。黒き人はマリーの魔術を食らうや否や、ものすごい勢いで燃え始めた。周りの奴らにも燃え広がる。
「ガ、ァ、ァ、ァ・・・」

(こいつ、魔術も使えるのか・・・)
 レイドは感心する。自分にはできない芸当だ。
「しめた! こいつらは炎に弱い! 魔術隊、炎魔術を繰り出せ!」
 誰もが戦局が有利になったと確信したが、人間だけがこうなったのではなかった・・・

「バウゥゥ!!」
「何だ! こいつらは!」
 全員黒くなった犬・・・ 黒き犬が猛スピードで突撃してくる。

 レイドが標的になったようだ。
(まずい、食らう・・・!)
 黒き犬がレイドに噛みつこうとするが・・・

「させるかよ!」
「カイン! ナイスだ!」
 カインが向かってくる黒き犬を一刀両断にする。
 しかし、数はまだ多いようだ・・・

「レイド、カイン! 君たちは逃げるんだ! ここはもう戦場だ! 左の路地を突っ切れ! 居住区が見えるはずだ!」
 マリーはそう叫ぶ。兵士は黒き人を捌くので精一杯なようだ。
「了解した! 幸運を祈る!」

 そう言って、レイドたちは一目散に逃げる。ここで死ぬわけにはいかない。
 その頃のコレル子爵はというと・・・

 馬に乗った兵士の部隊が街の中央を占拠している。
「バーン様。全身黒くなった輩が、スラム街から流出し、居住区の人間も襲っているようです」
 バーン・コレル、コレル家当主。東の主要貴族である彼には、譲れないプライドがあった。

(私はこんなことになるまで、気付くことが出来なかった・・・ あの少年には感謝だな)
「先祖代々受け継いできたリヨンの街を、私の代で滅ぼされるわけにはいかん! 総軍、これ以上の被害を増やすな!」
「「「おうっ!」」」

 コレル領軍1000人以上がすでに集結していた。流石は敏腕貴族だ。
「私が先陣を切る! 突撃せよ!」
 彼も死の運命から逃れることができるのだろうか・・・

 一方レイドとカインは、方向音痴を炸裂してしまい、逆にスラムの中心部まで来てしまっていた。
「おい、カイン! お前がこっちだって言うからついてきたものの、やはり違うじゃねえか!」

「すまねえ、迷っちまった・・・」
 カインはそう言って頭をかく。 

「それにしても、ここはやけに静かだな・・・」
 カインがつぶやく。
 先ほどまで聞こえていた戦いの音も、今は嘘みたいに消えて無くなっている。
「あれは、なんだ?」

 路地の先に見えてくるのは大きな荷車だ。そこには農作物が乗っている。
(そんな、まさか・・・!)

「カイン、例の商隊だ! 中身を探すぞ!」
 レイドたちは禍々しいオーラをひしひしと感じていたが、荷車に駆けつけて荷物をあさる。すると、凄まじい異臭を放つものがあった。
 彼らは見つけた。人の死体を。

 全身傷だらけ、腕に至っては無い。苦しみながら死んだのが分かる顔だ。
 加えて、体の一部が黒くなっていて、胸には何やら魔法陣が刻み込まれている。 「うわ、ひでえよこれ。どうするよ、レイド様」
 カインがそう問う。

「待て、何も話すな!」
 レイドが何かに気付いた。
「・・・・・・・してくれ、殺してくれ・・・」
 なんと、あれは生きていたのだ・・・

「私は、死にたくても死ねない・・・ あいつに逆らったせいで、私は・・・」
 男とみられるそれは、そうつぶやいた。

「・・・今殺してやる」
 レイドは一本のマッチ棒に火を付ける。そして荷車に火を付けた。
 勢いよく燃える荷車。名も知らぬあれは、ようやく死ぬことが出来るのだろう・・・ なんともあっけなく終わってしまった。

「ありがとう・・・ 名も知らぬものよ・・・」
 そう聞こえた気がした。
 
  
「感謝される筋合いは無い。すべては俺が生きるためだ」
 レイドはそう言った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

戦闘狂の水晶使い、最強の更に先へ

真輪月
ファンタジー
お気に入り登録をよろしくお願いします! 感想待ってます! まずは一読だけでも!! ───────  なんてことない普通の中学校に通っていた、普通のモブAオレこと、澄川蓮。……のだが……。    しかし、そんなオレの平凡もここまで。  ある日の授業中、神を名乗る存在に異世界転生させられてしまった。しかも、クラスメート全員(先生はいない)。受験勉強が水の泡だ。  そして、そこで手にしたのは、水晶魔法。そして、『不可知の書』という、便利なメモ帳も手に入れた。  使えるものは全て使う。  こうして、澄川蓮こと、ライン・ルルクスは強くなっていった。  そして、ラインは戦闘を楽しみだしてしまった。  そしていつの日か、彼は……。  カクヨムにも連載中  小説家になろうにも連載中

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

魂が百個あるお姫様

雨野千潤
ファンタジー
私には魂が百個ある。 何を言っているのかわからないだろうが、そうなのだ。 そうである以上、それ以上の説明は出来ない。 そうそう、古いことわざに「Cat has nine lives」というものがある。 猫は九つの命を持っているという意味らしく、猫は九回生まれ変わることができるという。 そんな感じだと思ってくれていい。 私は百回生きて百回死ぬことになるだろうと感じていた。 それが恐ろしいことだと感じたのは、五歳で馬車に轢かれた時だ。 身体がバラバラのグチャグチャになった感覚があったのに、気が付けば元に戻っていた。 その事故を目撃した兄は「良かった」と涙を流して喜んだが、私は自分が不死のバケモノだと知り戦慄した。 13話 身の上話 より

貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~

喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。 庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。 そして18年。 おっさんの実力が白日の下に。 FランクダンジョンはSSSランクだった。 最初のザコ敵はアイアンスライム。 特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。 追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。 そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。 世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

ゲームの裏切り者に転生したが、裏ボスも反転していました

竹桜
ファンタジー
 裏ボスを倒し続けていた主人公はゲームの裏切りキャラに転生した。  慢心した本来の主人公だった勇者が裏ボスを復活させたのだ。  だが、その裏ボスには厄介な特性があった。  反転という特性が。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

処理中です...