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第一章 狂人たちとの出会い

第五話 思わぬ収穫

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「ふぐっ!」
 カインの腕がレイドのみぞおちに激突する。
 レイドは無言でのたうち回る。

「ZZZ ZZZ ZZZ」
 カインは爆睡している。厨房の仕事はよほど過酷なのだろう。

 「あの夢」をまた見た。リヨンは滅亡すること、そして、何らかの原因でレイドとエレーヌが死ぬということ・・・
 レイドはエレーヌの顔も知らない。死因も分からないのだ。

 その上、"一回目のレイド”がいつ死んだかが分からない。もしかしたら、リヨンで命を落としたのかもしれない。だが、その理論だとエレーヌと顔を合わせずに死んでいることになる。そんなことはあり得ないのだろう。

(もしかしたら、リヨンの滅亡が後に響いてくる・・・?)
 それもそのはずだ。リヨンが滅亡すると、通商路が途絶える。悪い影響を与えるのは確実だ。ならば、
(俺がやるべきことは、リヨンの滅亡を止めること!それが俺の生きる道だ!)

 リヨン解放作戦、それはゲームのシナリオの一つだ。主人公が滅亡した街を解放するというストーリー。
 そんな街を滅亡する前に救うというのだ。
 レイドはシナリオ破壊をすることになる・・・ もちろん、本人は知る由もない。

 しばらくすると、カインが起きてきた。
「うーん、、あ? レイド様もう起きていたのか」
「ああ、カイン、いきなりですまないが、お前に言いたいことがある。この街を、リヨンを救うぞ」

 カインはわけが分からない顔をしている。
「は? 急にどうしたんだ? 昨日とは真逆のことを言っているぞ? しかも、レイド様は他人の為に何かするという人間でもないだろ」

 痛いところをついてくる。レイドは他人から感謝されたことなどない。したがってレイドも他人の為に何かするような人間ではないのだ。

「カイン。理由は言えないが、この街を救うことが俺の為になるんだ」
 夢で見たから、などとは言えない。カインはしばらく考えた。
「・・・・・・いいぜ。レイド様が決めた道だ。俺も今回はついていくさ」
「感謝する。カイン」

「で、具体的には何をするんだ?」
「・・・・・・・・・」
 お互いに沈黙が流れる。まだ何も考えていなかった。

「とりあえず、何か分かったら教えてくれ」
「ったく、乗らねえなあ・・・」

 カインは不服そうな顔をしている。考えても分からないものは仕方ない。いつも通り、仕事に行くことにした。

 レイドはいつも通り税庁に行き仕事を始める。
 リヨンに入領した商隊と出領した商隊の記録をまとめる。
 ふと目をやると、レイドの生家、ユーラル家の商隊が入領していることに気が付いた。項目は・・・ 農業生産品?

 そんなことはあり得ない。レイドはユーラル家の経理を担当していたことがあったが、ユーラル領は農業生産品を輸出していない。魔導機器を輸出している。
 
 さらに、出立の記録を探しても、この商隊はリヨンを出ていない。おかしい、1ヶ月前には入領しているのに・・・
 レイドはこの異常をモーリスに伝えた。

「え、出領していない商隊がいる? そんなはずはありません。リヨンの商業地区にいた商隊はすべて追い出したはずです。何かの記録ミスでしょうか」
 モーリスはこう話しているが、何かがおかしい・・・

 彼はある可能性を考えていない。
 もし、この流行り病が人為的に引き起こされたものだったら?
 レイドは違和感を覚えながらも、業務に戻るのだった。

 その頃のカインは、とある診療所のコックとして働いていた。
 リヨンで一番大きい病院らしい。

「なんだよ・・・ あの黒いやつは?」
 カインはこの黒いものが通常の病気とはちがうことに気付いていた。
 それは、黒く浸食された部分が動かなくなるだけではなく、勝手に動き始めるということだ。
「アガァァァァ・・・!」

「ちょっと! こっちに来てください! 患者が暴れています!」
 患者と医者がもみ合いになっている。
「おうよ!」
 そういってカインは患者を蹴り飛ばした。患者は気絶したようだ。
 例の黒く浸食される病気の患者だ。他の患者と違う点は、顔にも浸食されているところだ。
 
「なんでこんなことになっちまったんですか?」
 カインが問う。
「どうやら、脳に黒いものが侵食すると、何かに乗っ取られたかのように人格が変わるらしいんだ」

 医者が冷や汗をかきながら答える。
「まじかよ・・・」
(どうすんだよレイド様・・・ こいつはやべえぞ)
 カインはこの病院内でも、浸食の速さが違うことに一つの目星をつけていた。それは、スラムに近づけば近づくほど重症化が早いことだ。まるで、「何か」がスラム街にあるかのように・・・

 カインもこの流行り病が、人為的に引き起こされたという可能性を考慮していない。二人はまだ真相にはたどり着かないのだった・・・
 その頃のレイドとはいうと・・・

 税庁に兵士の影が近づく。そして扉を勢いよくあける。
「レイド・フォン・ユーラルはいるか!」

「レイド・フォン・・・! 貴方、貴族だったのですか!」
 モーリスが驚いた顔をしている。ばれてしまったか・・・

「貴族がここで何をしている!」
 兵士が問う。
「えー お金を稼ぎに・・・」

「貴族がそんなわけないだろう! 貴様をスパイ容疑で逮捕する!」
 本当のことを言っただけなのに・・・
 レイドは連れていかれるのだった・・・
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