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第一章 狂人たちとの出会い

第二話 波乱の道中

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 バイセン家、エレーヌの家に向かうまでに一つの街を経由することになる。
 コレル子爵家領都、リヨンだ。レイドたち一行はこの街を通り過ぎ、さらに東へと向かう。バイセン家は辺境伯であり、東方の壁となる領土だ。

「リヨンを超えると、魔獣も出てくるらしい。まあここの街道にも賊は出るとの噂だから、危険には変わりないがな」
 レイドがあくびをしながら説明する。

「レイド様よ、どうするんだ? 着替えたといってもこの服はかなりの高級品だぞ? あいつらには貧相に見えたらしいけどな」
 ・・・といってもここら辺には街もない。 リヨンまで賊に出くわさないことを祈るだけだ。

「念のため、服を隠そう。この時の為に、全身を隠せるマントを用意してきたんだ」
「そうするか・・・」

 全身にかぶったのは黒いマント。旅人がよく着るもので、これで標的にされる可能性が少なくなったことは確かだろう。
 ただしそんなことはお構いなしに・・・

「お? ここは通行止めだ。 通してほしけりゃ通行料を払うんだな」
 案の定道に待ち伏せしていた賊に出くわしてしまった。

「・・・いくらだ?」
 ここは穏便に、ケチでいこう。完璧な作戦だな。
  
「銀貨50枚だ」
 これは予想外だ。持ち金がそれしかない。
 
「すまないが、本当に金が無いんだ・・・」
「ああ? 旅人ならそれくらい持ってるだろ! ここからリヨンまで結構距離あるだろうが!」
「いや、本当にないんだが・・・」

「俺らのことなめてるだろ! 殺してやる!」
 賊がこちらへ襲ってくる。まずい! 殺される!

「逃げるぞ!」
 レイドたちは一目散に逃げる。レイドは戦えないが、ある程度は鍛えているので盗賊相手にも逃げることができるだろう。荷物が無いならばの話だが・・・

「カイン! お前は戦えるだろ! 足止めして後で合流できないか?」
「冗談じゃねえ! お前の為に死ねるわけないだろう!」
 何のために腰に剣があるんだ!

(くそ! こうなったら!)
 焦るレイド、最後の手段として手荷物を投げ捨てた。

 投げ捨てられた荷物を賊はすぐさま確認した。
「おお! 良さげな服じゃねえか!」

 (しめた! これで今のうちに!)
「こいつはいいところの人間だ! さらって身代金を手に入れるぞ! 逃がすな!」
 何と逆効果だった。

 しばらくの間、賊から逃げまいと街道を疾走しているが、一向に撒ける感じがしない。
 レイドは前方からも何かが接近してきていることが分かった。
 まさか、前からも賊か? レイドはそう思ったが、どうやら違ったようだ。

「コレル領兵だ! しかたねえ、ずらかるぞ!」
「逃がすか! 賊め! あいつらを追いかけろ!」
 完全武装のコレル領兵が前方からやってきた。どうやら助かったようだ。  
 
「はぁ、はぁ、 助かりました。 ありがとうございます」
「いやー、助かったぜ」
 レイドは息を切らしながらも、領兵に感謝の言葉を述べる。

「なに、気にすることは無い。最近賊の被害が目立ってきてな。こうして見回ってたんだ。君たちは無事かい?」
「はい。しかし、持ち物は取られてしまったようで・・・」
 隊長らしき女性の兵は賊の逃げた方向を確認する。どうやら追いかけた兵が戻ってきたようだ。

「報告します! 賊は森の中へ逃走。どうやら近くにアジトがある模様です! いかがなさいますか、マリー隊長!」
 帰ってきた兵が報告する。

「よし、掃討作戦を行う。斥候を派遣せよ!」
「はっ!」
 マリー隊長はレイドに視線を移した。

「すまない。旅の者。どうやら撒かれてしまったようだ。見つけたら保管しておくようにしよう」
「はい。ありがとうございます」
「そのほかにも聞きたいことがあるんだが・・・」
 
 しばらくの間、レイドたちは事情聴取を受けた。
「・・・・・・ありがとう。話は以上だ。荷物はどこに移送すれば良いか?」
「旅の先でリヨンに向かいますので、見つかったらそこへ保管していただけるとありがたいです」

「そうか。やはりリヨンに向かうのか・・・」
 マリー隊長が困った顔をする。

「どうかしましたか?」
 レイドが尋ねる。

「・・・実は今リヨンは大変なことになっていてな、人の出入りが厳しく制限されているんだ。君たちは問題ないだろうが、気を付けるがいい。ほら、これをやろう」
そう言ってマリー隊長は紙を取り出す。

「これを関所にみせるとよい。きっと通してくれるはずだ。入るかどうかは自分で判断してくれ」
「なにか・・・あったんですか?」

「・・・緘口令が敷かれていてな。私の口では言えない。もし荷物を見つけたらリヨン郊外の詰め所に届けておくよ」
「分かりました・・・」
 
 リヨンは東方の重要な商業都市であり、交通網の要所だ。そんな大都市が機能不全だと・・・? レイドは焦燥感に抱かれた。

「最後に、名前を聞いておこう」
「俺の名前はレイド・フォン・ユーラルです」
 彼女は驚いた顔をした。

「なんと! 公爵様だったとは・・・ とんだご無礼を・・・」
「いや、いいんです。いろいろありまして・・・ 馬車もないですしね」

「ああ・・・ では・・・」
 微妙な雰囲気になりながらも、レイドは彼女と別れた。

 レイドたち一行はリヨンへ向かう。
「ずっと黙って聞いていたけれどよお、リヨンへ行くべきか?」
 カインが不意に口を開ける。

「どうだろう・・・ 行ってみないと分からないな。リヨンを通らないとバイセン家にも行けないしな。それから判断しよう」
「うっす」
 リヨンでの試練、これは、レイドの運命を大きく変えることになるのかもしれない・・・
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