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最後の願い

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 「なに言って…」

 「僕ね、遊園地初めてだったんだ…。宗二と来れて良かった…っ」

 そんな辛そうに笑わないで。

 「これからだって、いくらだって行けるよ。連れて行くよ…っ!」

 「それは無理だよ…」

 火花が散るのも構わず一歩踏み出す。 しかし、 リョウは静かに首を振った。

 「時間、切れ…」 

 「なにを言って…っ、時間…、時間なんて…っ!」

  声が詰まる。
  認めたくない。認められない。

 「ごめんね、宗二…。宗二に会えてよかった…」

 「そんなお別れみたいに…っ!」

 「見たいじゃなくて、さよならだよ…」 

 「そんなの、急すぎる…!」

 叫んでもリョウは力なく笑うだけ。
 
 「宗二の運命の人は僕じゃない。…僕じゃないんだ」

 ハラハラと頬をこぼれ落ちていく涙。
 そんなもの拭い去って、抱きしめたいのに。近づくことをリョウが拒む。

 「だからさ…、本当の運命の人、見つけろよ?」

 身体がふと軽くなり、走りながら伸ばした手をかすめるように、彼は光の粒になってかき 消えた。
 最後の光が慰めるようにおでこに触れる。
それも次の瞬間には消え、あたりは静寂に包まれた。
 
 「…ああ…」

 リョウがいなくなった。
 まるで、最初からそこに存在していなかったかのように…。
 
 「あああ…」

 運命の人はリョウなのに…。
 リョウの他にはいないのに…。

 ガクンと膝をつき、頭を抱える。

 「うああぁぁぁーーー…っ!!」

 声が枯れるまで叫んだ。
 
 「ひっ、ふっ…、ああ…、ひっく…」

 このまま死にたい。 死んでリョウのところに逝きたい…。 
 気づいていたのに、気づいていたのに何もできなかった。
 それからどうやって帰ったのかわからない。けれども、気がついたら自分の部屋にいた。

 「リョウ…」

 何も起こらない部屋。
 血の出ない蛇口、生首が落ちてこない、廊下 を飛び回ってない髪。
 気が狂いそうだった。
 
 「リョウ?」

 出てきて。
 "嘘だよ、バカ"って笑ってよ。
  洗って置かれた弁当箱を抱きしめて、声を出して泣いた。

 「リョウ…、 嫌なとこは直すから…」

 会えないなんて嫌だ。
 このままなんて無理だ。

 なのに、返事が帰ってこない。
 眠ってるうちに帰ってくるかもしれない、そう思ったら眠れなくなった。
 彼の味付けと比べると何もかも味気なくて食欲もなくした。

 「リョウ、好きだよ…」

 目をつぶり、弁当箱をさらにきつく抱き締める。

 「死ぬほど君が恋しくてたまらない…」

 君の全てが愛おしい。
 今、君のところに逝くから…。

 だから待っていてーー…。

 「行かせるわけねえだろ! バカ宗二!!」

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