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幽霊 対 サイコパス 4

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 「きゃっ!?」

 「…っ!?」

 騒いでいる斎たちに気を取られた瞬間、どこからか飛んできたコップの水が降りかかる。

 「「ごめんなさい !!」」

 「いいよ、この後は講義もないし」

 衝突事故の巻き沿いを食らってしまったらしく、申し訳なさそうに謝られ、手を横に振った。
 張り付いたシャツは気持ち悪いが、透けるような色でもないし、そのままエビフライ定食をもらいに行く。

 「よ、水も滴るいい男!」

 「茶化すなよ」

 そこからはなんだかんだ他愛もない話をしながら食事を済ませ、午後からも講義がある斎とはそこで別れた。
 まっすぐ外に出れば、あいにくの雨。
 梅雨になったばかりだから仕方がないとは言え、せっかく乾きかけていた服がまたびっしょり濡れる予感にため息がこぼれる。

 「こういう日に限って傘を持ってないんだよな…」 

 いつもなら、カバンの底で眠っている折りたたみ傘も一昨日出してしまったばかり。タクシーを呼ぶのももったいなく感じて、仕方なく身を丸めると駅まで走り抜けた。
 電車の中は暑さ対策にクーラーがかかっており、濡れた身体には少し強い。しかし、ここまで来て降りるわけにもいかず、最寄りの駅に着いた時にはホッと胸を撫で下ろした。
 駅の階段を早く降りようとした足がもつれ、咄嗟に手すりにつかまる。
 身体がなぜか鉛のように重い。
 クーラーはもうついていないはずなのに、ひどく肌寒く感じた。
 駅を出て、雨の中を走る気にもなれず、いつものように歩く。どうせ濡れるのだから走ろうが歩こうが同じだと。
 軒下で軽く裾を絞り、エントランスが濡れるのを悪いと思いながら三階に上がる。
自分の部屋の前に立ち、鍵を開けようとするものの、手が震えてなかなか穴に鍵が刺さらなかった。


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