絶望旅館

天照狼

文字の大きさ
上 下
3 / 5

1話

しおりを挟む
 すっかり紅葉しきったこの季節、宮島学園の修学旅行が始まろうとしていた。

 「修学旅行かぁ」 

 修学旅行に期待で胸を躍らせている黒い髪に前髪が跳ねているのが特徴の少年、平島拓人。

 「中学の時は最悪だったな」

 中学の修学旅行では高熱を出して全く楽しめなかったのだ。

 「体調管理には気をつけたし、風邪薬もあるし、万全だ!」
 

 「拓人!」
 「明里!」

 後ろから赤い髪でポニーテールの少女が話しかけてくる。

 「元気そうじゃない、あの時は初日から顔色悪かったのに」
 「当たり前だ、今日という日のために健康には気を遣ったんだ」

 美月明里。拓人の幼馴染で中学で同じグループだった。

 「マスクをつけたり、野菜を意識して食べたり、早寝早起きしたり……」
 「あんたがねぇ……」

 「B組ー、出発だぞ」

 教師の声が聞こえ、明里は腕時計を見た。

 「もうそんな時間!? じゃあ拓人、あとでね」
 「ああ」

 明里と会話を終え、拓人もバスに乗り込んだ。



 綺麗なバスガイドの話に耳を傾けつつ、外の景色を拓人は思いっきり楽しんだ。都会いては絶対に楽しめない光景だ。

 「あ、俺だけ景色を楽しんでるのはまずいかな」

 隣にの席で本を読む薄い水色の長髪をした雪沢凛だった。クールで学年トップの成績を持っている。人と話さないミステリアスな感じが密かに人気だ。

 「あ、あのさ雪沢さん、俺だけ見るの悪いから雪沢さんも景色見ない?」
 「興味ないわ」

 それだけ言うと雪沢は本を再び読み始めた。

  「……」

 そんなミステリアスさが良い!自分の手の内を明かさない、高校生離れした良さ!
  と拓人は心の中で思っていた。

 バスが大きくカーブし、湖が見える。その湖の先に旅館があった。

 「あれに泊まれるんだ……!」

 思い以上に豪華な旅館にクラスメイトたちはテンションが上がり、盛り上がっていた。

 「先生すごい、あんなところに泊まらせてくれるなんて」
 「飯も豪華なんだろうなぁ」

 クラスメイトたちがはしゃぐ中、隣にいる雪沢はひたすら本を読むだけだった。
 
 「雪沢さんは本当にクールだよな……」


 旅館に着くとそれぞれのクラスが旅館に入っていく。
 その旅館の中は古めかしいが、建物はピカピカで綺麗だ。

 「すごい旅館だ……」

  それぞれ割り当てられた部屋に拓人は荷物を置いた。
 今は自由行動だ。旅館と旅館の周辺ならどこへ行っても良い。さっそく、さっき別れた明里を探すことにした。


 明里の趣味は風景写真だ。外に出て風景写真を撮っているはずだと外に出てみることにした。

 案の定、明里は友達と写真を撮っていた。

 「明里!」

 今度は拓人が後ろから話しかける。

 「ああ、拓人じゃん。ここ、空気は良いし、景色は良いし、最高だよね」
 「うんうん。って隣の人って……」

  明里の隣にいる薄い紫色の髪をした少女。

 「ああ、私の友達の……」
 「光徳寺日奈です」
 「光徳寺……」
  
 まさか……と拓人は思い、ある可能性を頭から消した。

 「拓人、あんた1人?なら一緒に周らない?」
 「いいのか?」
 「当然よ。いいでしょ、日奈?」
 「うん」
 「決まりね」

 拓人と明里と日奈は旅館の周りの風景をたくさん撮った。珍しい鳥や珍しい花も撮影した。


 「あっという間だったね」
 「ああ、旅館だけで楽しいのにそれ以上はどうなっちまうのかなー」
「もう時間だから1階に集まらないと。拓人のクラスは2階でしょ?」
 「うん。じゃあまた後でな、2人とも」
 

 2人と別れ、2階に向かった。

 「遅いぞ、平島」
 「っ、光徳寺くん……」

 拓人を階段前で待ち構えいたのは光徳寺陸夜。薄い紫色の髪をした容姿端麗で学年トップクラスの成績とテニスの大会で優勝した腕前を持つが……その性格には難がある。

 「2分……遅れているぞ。お前はクラスの夕食を遅らせたんだぞ」
 「すみません」
 
 2分くらいで……なんて言えば火に油を注ぐから黙っていた。

 「これだからノロマは困る。俺と同じグループだが、足を引っ張るなよ」  
 「は、はい……」

 こうして2分遅れつつ、夕食が始まった。夕食は豪華で、テレビで見るような豪華絢爛だ。

 味は……期待した程ではなかったが、非日常にはちょうど良かった。


 そんなこんなで寝る時間、散々枕投げをしつつ、みんなが疲れ果て寝始めた。
 しかし、まさかここから本当の非日常が訪れるなんて考えもしなかったのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

月宮殿の王弟殿下は怪奇話がお好き

星来香文子
キャラ文芸
【あらすじ】 煌神国(こうじんこく)の貧しい少年・慧臣(えじん)は借金返済のために女と間違えられて売られてしまう。 宦官にされそうになっていたところを、女と見間違うほど美しい少年がいると噂を聞きつけた超絶美形の王弟・令月(れいげつ)に拾われ、慧臣は男として大事な部分を失わずに済む。 令月の従者として働くことになったものの、令月は怪奇話や呪具、謎の物体を集める変人だった。 見えない王弟殿下と見えちゃう従者の中華風×和風×ファンタジー×ライトホラー

ガダンの寛ぎお食事処

蒼緋 玲
キャラ文芸
********************************************** とある屋敷の料理人ガダンは、 元魔術師団の魔術師で現在は 使用人として働いている。 日々の生活の中で欠かせない 三大欲求の一つ『食欲』 時には住人の心に寄り添った食事 時には酒と共に彩りある肴を提供 時には美味しさを求めて自ら買い付けへ 時には住人同士のメニュー論争まで 国有数の料理人として名を馳せても過言では ないくらい(住人談)、元魔術師の料理人が 織り成す美味なる心の籠もったお届けもの。 その先にある安らぎと癒やしのひとときを ご提供致します。 今日も今日とて 食堂と厨房の間にあるカウンターで 肘をつき住人の食事風景を楽しみながら眺める ガダンとその住人のちょっとした日常のお話。 ********************************************** 【一日5秒を私にください】 からの、ガダンのご飯物語です。 単独で読めますが原作を読んでいただけると、 登場キャラの人となりもわかって 味に深みが出るかもしれません(宣伝) 外部サイトにも投稿しています。

佐世保黒猫アンダーグラウンド―人外ジャズ喫茶でバイト始めました―

御結頂戴
キャラ文芸
高校一年生のカズキは、ある日突然現れた“黒い虎のような猫”ハヤキに連れられて 長崎の佐世保にかつて存在した、駅前地下商店街を模倣した異空間 【佐世保地下異界商店街】へと迷い込んでしまった。 ――神・妖怪・人外が交流や買い物を行ない、浮世の肩身の狭さを忘れ楽しむ街。 そんな場所で、カズキは元の世界に戻るために、種族不明の店主が営むジャズ喫茶 (もちろんお客は人外のみ)でバイトをする事になり、様々な騒動に巻き込まれる事に。 かつての時代に囚われた世界で、かつて存在したもの達が生きる。そんな物語。 -------------- 主人公:和祁(カズキ)。高校一年生。なんか人外に好かれる。 相棒 :速来(ハヤキ)。長毛種で白い虎模様の黒猫。人型は浅黒い肌に金髪のイケメン。 店主 :丈牙(ジョウガ)。人外ジャズ喫茶の店主。人当たりが良いが中身は腹黒い。   ※字数少な目で、更新時は一日に数回更新の時もアリ。  1月からは更新のんびりになります。  

ヤンデレストーカーに突然告白された件

こばや
キャラ文芸
『 私あなたのストーカーなの!!!』 ヤンデレストーカーを筆頭に、匂いフェチシスコンのお姉さん、盗聴魔ブラコンな実姉など色々と狂っているヒロイン達に振り回される、平和な日常何それ美味しいの?なラブコメです さぁ!性癖の沼にいらっしゃい!

紙本シオリの謎解き――図書館司書の事件録

小暮悠斗
キャラ文芸
紙本シオリは大学附属図書館の司書。 端正なルックスは皆の目をくぎ付けにする。 しかし彼氏はおろか、言い寄る男もいない。 彼女は本に恋した本の虫だった。 そんなシオリに一目惚れした、 大学一年生の棚本フミハルが持ってきた本を廻る謎をきっかけに、 シオリの心境にも変化が…… 本を廻る謎を通して親睦を深めて行く二人の行く末とは…… 【主な登場人物】 ・紙本シオリ……大学附属図書館の司書。本の虫。 ・棚本フミハル……大学一年生。アウトドア派で読書はほとんどしない。 ・帯野アキラ……フミハルの同級生。大学近くの書店でバイトをしている。 ・山本フミカ……アキラのバイト先の先輩。 ・本田ショウスケ……シオリの同僚司書。

尾九頭市 怪■間地区 日雇い清掃日誌

飴盛ガイ
キャラ文芸
長年引きこもり兼ニートだった興四寺まどかが、一念発起して移り住んだ地区は物の怪と人間の共存のためのモデル地区であった。だが、場所を変えてもまどかはすぐに引きこもり、明日から働こうを繰り返しているうちにとうとう生活資金が底をついてしまう。一週間後には家賃の支払いが控えており、焦ったまどかは高額だが怪しい日払いのバイトをチラシに書いてあった事務所に申し込んだ。それは、街中で起きた人でもあやかしでも無い怪異の清掃作業であり、他に金を得る手段の無いまどかは泣く泣くそのバイトをすることになった。

花よめ物語

小柴
キャラ文芸
名高い騎士とおくびょうな少女の恋物語。アーサー王伝説を下地にしました。少女のもとに、ある騎士の一通の求婚状が届いたことから物語がはじまります──。 ✳︎毎週土曜日更新・5話完結✳︎

処理中です...