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Second Tales:生意気なドラゴンにどちらが上かわからせます
Tale26:あなたの幸せを願う戦いがはじまります
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岩山を登りきると、ごつごつと大きく隆起している岩肌がいくつか視界に広がる。
そのうち特に高台になっているところに、ホワイトドラゴンが鎮座していた。
前回とは違って、身体を起こしていて。
翼をたたんだままでも、かなりの巨体であることが窺えた。
そして、私たちが来ることがわかっていたかのように、ホワイトドラゴンはじっとこちらを見つめている。
「そろそろ移動しようと思っておったが、なにか予感がしてのぉ」
まだ距離はあったが、頭の中に可愛らしいドラゴンの声がはっきりと聞こえた。
いきなり攻撃されるかもしれないと身構えていたけれど、いまのところその気配はなさそう。
少しだけ警戒を解いて、ドラゴンの立つ高台に向かって歩きはじめる。
「待っててくれたってこと?」
「ふははっ、まさに虫の知らせというやつじゃな。本当に羽虫が現れおったわ」
届くように大きな声で問いかけてみたけれど。
うん、話しかけるんじゃなかったな、あいかわらず生意気だこと。
むっとして眉をひそめる私に対して、ホワイトドラゴンは上機嫌な様子で喋り続ける。
うーん、もしかしたら今日は寝起きではないのかもしれない。
「あの忌々しい女の剣、懲りずに持っておるようじゃな。この前は羽虫の軟弱さに配慮するのを忘れておって、一瞬で消し飛ばしてしまったからの……今度は、しっかりと手加減をしてその剣を放棄させてから、塵芥のごとく掃いて捨てることにするのじゃ」
「ねえ、私のダガーはちゃんと持ってる?」
ぐだぐだと話していることは耳に入れずに、こちらが聞きたいことだけを聞く。
すでに普通の声量で話ができるぐらいの距離まで、私たちは近づいていた。
すると、特に気分を害した様子もなく、ホワイトドラゴンは返事をしてくれる。
「ああ、これだけ色濃くママの加護が残っている武具は珍しいのじゃ」
ホワイトドラゴンの前方の空間が蜃気楼のように揺らいだかと思ったら、そこにリリアリア・ダガーが出現していた。
なんらかの力が働いているのか、触れてもいないのに中空に固定されている。
「羽虫にはもったいない代物じゃし、あの女の剣といっしょに持つことはわらわが許さん」
そう吐き捨てるように言うと、再びダガーは空間に消えていった。
おそらく、なにか異空間収納のような能力なのだろう。
しかし、やはりホワイトドラゴンはローゼン・ソードが大嫌いなようだ。
「どうして、そんなにこの剣を目の敵にするの? 昔になにがあったのかは知らないけど、悪いのは武器ではないでしょ?」
問いかける。
そして、間髪入れずに――怒号。
「けつの青い羽虫のくせに、知ったような口を利くんじゃないのじゃ!」
「スラリアっ!」
「はいっ!」
とっさにスラリアと同調し、ローゼン・ソードを展開する。
しかし、ホワイトドラゴンは、ただ声を荒げただけだった。
咆哮の圧が凄まじく、攻撃を受けるのかと思ってしまったのだ。
「平和な世界でぬくぬくと生まれ、想像もできん! 大地を穢すおびただしい毒の薔薇と、その棘を身体に食い込ませながら地獄に飲まれゆくママの姿を! 悪いのは悪魔じゃ、そんなことはわかっとる。だが、その薔薇が――その薔薇がママを奪っていったのじゃ! それを憎く思わんのだったら、わらわはなにを憎めばいいのじゃ!?」
私が構えるローゼン・ソードに翼を差し向けて、ホワイトドラゴンは悲痛な叫びを繰り返す。
なるほど、こいつの事情はわかった。
なにも知らなければ、言い返すだけの道理にかなうことはできなかっただろう。
でも、私は、現在進行形でリリアの願いを聞いている。
過去に縛られたままのやつとは、情報の新鮮さが違うのだ。
「憎んで、それでどうなるの? 強くなるために戦い続けて、なんの意味があるの?」
「なにをっ――」
ホワイトドラゴンが口を開くのを遮り、続ける。
「――あなたのママが望んだのは、いまのあなただって胸を張って言える?」
リリアとホワイトドラゴンの間で、過去にどのようなやり取りがあったのかは知らない。
しかし、私はリリアが悲しそうに俯く表情を知っている。
ひとつだけ絶対的に正しいことは、そんな表情、リリアには似合わないということだ。
どうせ俯かせるならば、恥ずかしそうに俯かせるのが最高なんだよね。
「な、なにを言っておるのじゃ! だって、わらわたちがもっと強ければ……ママが犠牲になる必要なんてなかったのじゃ! だから、もっと戦ってもっと強くなって、そうすればママがっ……!」
興奮のためか、ホワイトドラゴンが振り上げた翼。
たった一振りで巻き起こった、その荒れ狂う風圧が私を襲う。
だが、あえて一歩踏み込んで、風に負けじと声を張り上げる。
「あなたがこの森から追い出した狼ちゃんは、森の平和を守ってくれていた。その狼ちゃんがいなくなった後の覇権を狙って、いま森には強い魔物がどんどん集まってきている。リリアが望んだ平和な世界を、リリアのことを想っているつもりになっているあなたが、リリアの悲しみに思いを馳せることなく、崩しているのよ」
「なっ……くっ、羽虫のくせに生意気じゃ、うるさいのじゃ!」
ホワイトドラゴンは身体を持ち上げ、両翼を広げる。
左右対称に走る、翼膜の青みがかかった筋。
そのラインがあるからこそ純白の翼が際立ち、この光景を見たのは二度目だが、やはり神々しいまでのその美しさには目が奪われる。
しかし、見とれてはいても、油断はしない。
「生意気なのは、あなたよ。それがわからないなら――いいよ、来なさい。私がわからせてあげるから」
片手で持ったローゼン・ソードを高く掲げて、ホワイトドラゴンの眼前に向ける。
いいかげん、羽虫と呼ばれるのは我慢の限界。
やってやろうじゃない――宣戦布告だ。
そのうち特に高台になっているところに、ホワイトドラゴンが鎮座していた。
前回とは違って、身体を起こしていて。
翼をたたんだままでも、かなりの巨体であることが窺えた。
そして、私たちが来ることがわかっていたかのように、ホワイトドラゴンはじっとこちらを見つめている。
「そろそろ移動しようと思っておったが、なにか予感がしてのぉ」
まだ距離はあったが、頭の中に可愛らしいドラゴンの声がはっきりと聞こえた。
いきなり攻撃されるかもしれないと身構えていたけれど、いまのところその気配はなさそう。
少しだけ警戒を解いて、ドラゴンの立つ高台に向かって歩きはじめる。
「待っててくれたってこと?」
「ふははっ、まさに虫の知らせというやつじゃな。本当に羽虫が現れおったわ」
届くように大きな声で問いかけてみたけれど。
うん、話しかけるんじゃなかったな、あいかわらず生意気だこと。
むっとして眉をひそめる私に対して、ホワイトドラゴンは上機嫌な様子で喋り続ける。
うーん、もしかしたら今日は寝起きではないのかもしれない。
「あの忌々しい女の剣、懲りずに持っておるようじゃな。この前は羽虫の軟弱さに配慮するのを忘れておって、一瞬で消し飛ばしてしまったからの……今度は、しっかりと手加減をしてその剣を放棄させてから、塵芥のごとく掃いて捨てることにするのじゃ」
「ねえ、私のダガーはちゃんと持ってる?」
ぐだぐだと話していることは耳に入れずに、こちらが聞きたいことだけを聞く。
すでに普通の声量で話ができるぐらいの距離まで、私たちは近づいていた。
すると、特に気分を害した様子もなく、ホワイトドラゴンは返事をしてくれる。
「ああ、これだけ色濃くママの加護が残っている武具は珍しいのじゃ」
ホワイトドラゴンの前方の空間が蜃気楼のように揺らいだかと思ったら、そこにリリアリア・ダガーが出現していた。
なんらかの力が働いているのか、触れてもいないのに中空に固定されている。
「羽虫にはもったいない代物じゃし、あの女の剣といっしょに持つことはわらわが許さん」
そう吐き捨てるように言うと、再びダガーは空間に消えていった。
おそらく、なにか異空間収納のような能力なのだろう。
しかし、やはりホワイトドラゴンはローゼン・ソードが大嫌いなようだ。
「どうして、そんなにこの剣を目の敵にするの? 昔になにがあったのかは知らないけど、悪いのは武器ではないでしょ?」
問いかける。
そして、間髪入れずに――怒号。
「けつの青い羽虫のくせに、知ったような口を利くんじゃないのじゃ!」
「スラリアっ!」
「はいっ!」
とっさにスラリアと同調し、ローゼン・ソードを展開する。
しかし、ホワイトドラゴンは、ただ声を荒げただけだった。
咆哮の圧が凄まじく、攻撃を受けるのかと思ってしまったのだ。
「平和な世界でぬくぬくと生まれ、想像もできん! 大地を穢すおびただしい毒の薔薇と、その棘を身体に食い込ませながら地獄に飲まれゆくママの姿を! 悪いのは悪魔じゃ、そんなことはわかっとる。だが、その薔薇が――その薔薇がママを奪っていったのじゃ! それを憎く思わんのだったら、わらわはなにを憎めばいいのじゃ!?」
私が構えるローゼン・ソードに翼を差し向けて、ホワイトドラゴンは悲痛な叫びを繰り返す。
なるほど、こいつの事情はわかった。
なにも知らなければ、言い返すだけの道理にかなうことはできなかっただろう。
でも、私は、現在進行形でリリアの願いを聞いている。
過去に縛られたままのやつとは、情報の新鮮さが違うのだ。
「憎んで、それでどうなるの? 強くなるために戦い続けて、なんの意味があるの?」
「なにをっ――」
ホワイトドラゴンが口を開くのを遮り、続ける。
「――あなたのママが望んだのは、いまのあなただって胸を張って言える?」
リリアとホワイトドラゴンの間で、過去にどのようなやり取りがあったのかは知らない。
しかし、私はリリアが悲しそうに俯く表情を知っている。
ひとつだけ絶対的に正しいことは、そんな表情、リリアには似合わないということだ。
どうせ俯かせるならば、恥ずかしそうに俯かせるのが最高なんだよね。
「な、なにを言っておるのじゃ! だって、わらわたちがもっと強ければ……ママが犠牲になる必要なんてなかったのじゃ! だから、もっと戦ってもっと強くなって、そうすればママがっ……!」
興奮のためか、ホワイトドラゴンが振り上げた翼。
たった一振りで巻き起こった、その荒れ狂う風圧が私を襲う。
だが、あえて一歩踏み込んで、風に負けじと声を張り上げる。
「あなたがこの森から追い出した狼ちゃんは、森の平和を守ってくれていた。その狼ちゃんがいなくなった後の覇権を狙って、いま森には強い魔物がどんどん集まってきている。リリアが望んだ平和な世界を、リリアのことを想っているつもりになっているあなたが、リリアの悲しみに思いを馳せることなく、崩しているのよ」
「なっ……くっ、羽虫のくせに生意気じゃ、うるさいのじゃ!」
ホワイトドラゴンは身体を持ち上げ、両翼を広げる。
左右対称に走る、翼膜の青みがかかった筋。
そのラインがあるからこそ純白の翼が際立ち、この光景を見たのは二度目だが、やはり神々しいまでのその美しさには目が奪われる。
しかし、見とれてはいても、油断はしない。
「生意気なのは、あなたよ。それがわからないなら――いいよ、来なさい。私がわからせてあげるから」
片手で持ったローゼン・ソードを高く掲げて、ホワイトドラゴンの眼前に向ける。
いいかげん、羽虫と呼ばれるのは我慢の限界。
やってやろうじゃない――宣戦布告だ。
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