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Second Tales:生意気なドラゴンにどちらが上かわからせます
Tale17:あの乙女は、初めての悪魔でした
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ギルドに響いた怒声は、周囲を凍らせるには十分なほど鋭く。
オージちゃんが私たちのことを憎くて怒鳴っているわけではないと理解しつつも、ショックから言葉が出ない。
「オージちゃん、お姉様が恐がっています」
なにも言えない私に代わり、スラリアがやんわりたしなめてくれる。
その落ち着いた声音によって、オージちゃんは拳を握っていたことに気づいたのだろうか。
信じられないものを見るかのように開いた拳を眺めた後、それを額に当ててうなだれる。
「ああ、すまない……」
発せられた言葉に先ほどのような力はなく、霞んで消えてしまいそうだった。
「大丈夫――ですよね、お姉様?」
スラリアの問いかけに、私は頷くことしかできない。
安心したことで、ちょっと、喋ったら泣いてしまいそうだったのだ。
それを察してくれたのか、スラリアがオージちゃんの疑問に答える。
「この剣は、薔薇を操る魔物を倒したときに拾ったものです。その魔物は、見た目は小さい女の子でしたが、いま思えば“悪魔”だったということでしょうか?」
スラリアの方に顔を向けると、いつの間にかローゼン・ソードを指輪に戻していた。
ずっと見せている必要はないと判断してくれたのだろう。
「確か、アロリーロと名乗っていました」
「……その剣は、デモニック・ウェポンと呼ばれるものだ。所有者は、“薔薇狂い”のアロリーロ・ローゼンメイデン、悪魔だ」
名前によって確信を得たのか、オージちゃんは額に手を当てたまま、苦々しげにつぶやく。
アロリーロちゃん、あんなに可愛いのに、大層なふたつ名が付くような大物だったのかしら。
「やっぱり、通りでお姉様を誘惑してきたのですね! 危なかったんですよ、私が止めなかったら堕ちていたかもしれないんですからっ」
「いやぁ、あまりにも可愛かったから、つい」
ぷんぷんと音が聞こえてきそうなほどの勢いで、スラリアは私を責めたてる。
思わず弁明の言葉がすらすらと出てくるが、なんだかすけこましになった気分だ。
「オージちゃんからも言い聞かせてくださいっ、あの悪魔がいかに危険な存在であるのかを!」
私に言っても埒が明かないと思ったのか、スラリアはオージちゃんを仲間にしようと企む。
ずるいぞ、いま私はオージちゃんに対してちょっとした恐慌状態、強く出ることができないんだからね!
「……お前たち、いま“倒した”と言ったか?」
ただ、そう聞いてくるオージちゃんの表情にはまだ憔悴が見てとれるが、幾分か柔らかくなっている印象を受けた。
私たちがくだらないやり取りをしていたから、呆れてしまったのかもしれない。
「あっ、うん。でもね、私たちの攻撃で消えていったんだけど、たぶんまだ生きているような気がする」
わからないけれど、思ったままを伝える。
すると、オージちゃんは力なく何度か頷いた。
「まあ、そうだろうな……言い方は悪いが、お前さんが倒せたということは本来の力を取り戻していないのかもしれない」
そうだ、なんだか強そうな見た目のわりにあっけなかったから、倒したという手応えを感じなかったのだ。
オージちゃんの言うとおり、覚醒していない寝起きのような状態だったと考える方がしっくりくる。
「ということは、女神様の封印が完全に解けたわけではないってこと?」
私の言葉を聞いて、オージちゃんの目に生気が戻った。
そして、どこからか現れた紙になにやら書き連ねはじめる。
「至急、冒険者ギルドでも対策を講じていく。なにか情報があれば、教えてもらえると助かる」
書いた文字列が次々に飛び去っていく中、オージちゃんはそう言った。
「ごめんね、アロリーロのこと伝えるのが遅くなって」
「いや、知らなかったのだから仕方ない。俺こそ、恐がらせてしまって本当に申し訳なかった」
もしかしたら、一刻を争う事態なのかもしれない。
そう思って謝ると、オージちゃんはわざわざ書くのを止めて、深々と頭を下げてくれた。
気にしてないよ、と私が口を開こうとしたとき、横からスラリアが口をはさむ。
「お姉様、いまのうちにあのことを伝えてみては?」
ああ、確かに。
スラリアの指摘に納得して、私は発言しようと思っていた内容を変更する。
現在は、オージちゃんに対して私の方が圧倒的に有利。
なにを言っても許される、そういう状況のはずだ。
「オージちゃん、私、リリアリア・ダガーなくしちゃったの」
てへぺろ、やっちったぜ、まったくよぉ。
そんな感じで可愛く舌を出していたら、オージちゃんは許してくれた。
いや、なんだか本当に申し訳なかったから、あとで“ドラゴンに奪われてしまって取り返すつもりなのだ”とちゃんとした説明はしておいたけどね。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【名前】リリア
【レベル】28
【ジョブ】テイマー
【使用武器】スライム:習熟度8
【名前】スラリア
【使用武器】ローゼン・ソード:習熟度5
【ステータス】
物理攻撃:105 物理防御:55
魔力:80 敏捷:35 幸運:50
【スキル】スライム強化、なつき度強化、勇敢
知恵の泉、魅了、同調、不器用、統率、灯火
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オージちゃんが私たちのことを憎くて怒鳴っているわけではないと理解しつつも、ショックから言葉が出ない。
「オージちゃん、お姉様が恐がっています」
なにも言えない私に代わり、スラリアがやんわりたしなめてくれる。
その落ち着いた声音によって、オージちゃんは拳を握っていたことに気づいたのだろうか。
信じられないものを見るかのように開いた拳を眺めた後、それを額に当ててうなだれる。
「ああ、すまない……」
発せられた言葉に先ほどのような力はなく、霞んで消えてしまいそうだった。
「大丈夫――ですよね、お姉様?」
スラリアの問いかけに、私は頷くことしかできない。
安心したことで、ちょっと、喋ったら泣いてしまいそうだったのだ。
それを察してくれたのか、スラリアがオージちゃんの疑問に答える。
「この剣は、薔薇を操る魔物を倒したときに拾ったものです。その魔物は、見た目は小さい女の子でしたが、いま思えば“悪魔”だったということでしょうか?」
スラリアの方に顔を向けると、いつの間にかローゼン・ソードを指輪に戻していた。
ずっと見せている必要はないと判断してくれたのだろう。
「確か、アロリーロと名乗っていました」
「……その剣は、デモニック・ウェポンと呼ばれるものだ。所有者は、“薔薇狂い”のアロリーロ・ローゼンメイデン、悪魔だ」
名前によって確信を得たのか、オージちゃんは額に手を当てたまま、苦々しげにつぶやく。
アロリーロちゃん、あんなに可愛いのに、大層なふたつ名が付くような大物だったのかしら。
「やっぱり、通りでお姉様を誘惑してきたのですね! 危なかったんですよ、私が止めなかったら堕ちていたかもしれないんですからっ」
「いやぁ、あまりにも可愛かったから、つい」
ぷんぷんと音が聞こえてきそうなほどの勢いで、スラリアは私を責めたてる。
思わず弁明の言葉がすらすらと出てくるが、なんだかすけこましになった気分だ。
「オージちゃんからも言い聞かせてくださいっ、あの悪魔がいかに危険な存在であるのかを!」
私に言っても埒が明かないと思ったのか、スラリアはオージちゃんを仲間にしようと企む。
ずるいぞ、いま私はオージちゃんに対してちょっとした恐慌状態、強く出ることができないんだからね!
「……お前たち、いま“倒した”と言ったか?」
ただ、そう聞いてくるオージちゃんの表情にはまだ憔悴が見てとれるが、幾分か柔らかくなっている印象を受けた。
私たちがくだらないやり取りをしていたから、呆れてしまったのかもしれない。
「あっ、うん。でもね、私たちの攻撃で消えていったんだけど、たぶんまだ生きているような気がする」
わからないけれど、思ったままを伝える。
すると、オージちゃんは力なく何度か頷いた。
「まあ、そうだろうな……言い方は悪いが、お前さんが倒せたということは本来の力を取り戻していないのかもしれない」
そうだ、なんだか強そうな見た目のわりにあっけなかったから、倒したという手応えを感じなかったのだ。
オージちゃんの言うとおり、覚醒していない寝起きのような状態だったと考える方がしっくりくる。
「ということは、女神様の封印が完全に解けたわけではないってこと?」
私の言葉を聞いて、オージちゃんの目に生気が戻った。
そして、どこからか現れた紙になにやら書き連ねはじめる。
「至急、冒険者ギルドでも対策を講じていく。なにか情報があれば、教えてもらえると助かる」
書いた文字列が次々に飛び去っていく中、オージちゃんはそう言った。
「ごめんね、アロリーロのこと伝えるのが遅くなって」
「いや、知らなかったのだから仕方ない。俺こそ、恐がらせてしまって本当に申し訳なかった」
もしかしたら、一刻を争う事態なのかもしれない。
そう思って謝ると、オージちゃんはわざわざ書くのを止めて、深々と頭を下げてくれた。
気にしてないよ、と私が口を開こうとしたとき、横からスラリアが口をはさむ。
「お姉様、いまのうちにあのことを伝えてみては?」
ああ、確かに。
スラリアの指摘に納得して、私は発言しようと思っていた内容を変更する。
現在は、オージちゃんに対して私の方が圧倒的に有利。
なにを言っても許される、そういう状況のはずだ。
「オージちゃん、私、リリアリア・ダガーなくしちゃったの」
てへぺろ、やっちったぜ、まったくよぉ。
そんな感じで可愛く舌を出していたら、オージちゃんは許してくれた。
いや、なんだか本当に申し訳なかったから、あとで“ドラゴンに奪われてしまって取り返すつもりなのだ”とちゃんとした説明はしておいたけどね。
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【名前】リリア
【レベル】28
【ジョブ】テイマー
【使用武器】スライム:習熟度8
【名前】スラリア
【使用武器】ローゼン・ソード:習熟度5
【ステータス】
物理攻撃:105 物理防御:55
魔力:80 敏捷:35 幸運:50
【スキル】スライム強化、なつき度強化、勇敢
知恵の泉、魅了、同調、不器用、統率、灯火
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