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Second Tales:生意気なドラゴンにどちらが上かわからせます
Real World:教えてっ、ドラゴン先生!
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ゲームのヘルメットを手探りで外し、なんとなくひとつ息をつく。
痛いとか怖いとか思う暇もなかったから、平気なはずではあるのだが。
ただ、例えるならば、スマホを落としたときの気持ちのようなものだ。
ああやってしまった、画面が割れているかもしれない。
それが気がかりでありながらも、どうなっていたとしても受け入れようと落ち着くために数瞬を割く必要があるだろう。
「すごいな、一瞬でやられちゃった……」
心のうちに留めておけなかった動揺を、口に出して解消。
そして、ベッドのヘッドボードに置いていた眼鏡をかけて、さらに気持ちを落ち着かせる。
時計を見ると、すでに夕方を過ぎるぐらいだった。
『テイルズ・オンライン』で死んでしまうと、ゲーム内時間で半日、つまり現実世界で六時間だけログインできなくなる。
そのため、もしログイン可能になってからすぐに『テイルズ』内に戻るとしたら、ちょうど日付をまたいだ深夜になるだろう。
「うん、今日はもうできないか……」
背などが伸びなくなるから、夜はちゃんと寝ないとダメ。
落ち込んでいるであろうスラリアに会いたいとは思うが、現実世界で自らが決めたルールを、ゲーム内の都合で破るのは良いことではない。
気持ちを切り替えよう。
そう考えて、私は晩ご飯の準備を手伝うために部屋を出るのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
晩ご飯の後、自室に戻ろうとする莉央の背後にぴったりついていく。
「……なに?」
おっと、気づかれてしまったようだ。
さすがは私の弟だ、よく気づいたな。
「お姉ちゃん、デスしちゃったから暇なの。いっしょに勉強しよ?」
「勉強……まあ、いいけど」
さっき『テイルズ』の中で勉強したから嫌がられるかと思ったが、意外にも了承を得た。
もしかしたら、以前に死んでしまったときの私はけっこう凹んでいたから、気遣ってくれたのかもしれない。
「じゃあ、私の部屋ね」
そう言って、莉央の背中を両手で押しながら歩く。
「はいはい……あれ、なにも持ってこなくていいの?」
「うん、大丈夫」
勉強は勉強でも、普通の勉強ではないからね。
自室に押し込んだ莉央を机に座らせて、私はベッドの縁に座る。
「じゃあ、今日の勉強はドラゴンについてね。よろしく、先生」
「はい……?」
与えられた呼称に違和感でも覚えたのだろうか、先生は首を傾げた。
しかし、もう授業は始まっているのだから、ちゃんとやってもらわなければ困る。
「まず、テイルズ・オンラインにおいて、先生が知っているドラゴンの情報を教えてください」
いままで数か月遊んできた中で、話も含めてドラゴンについて触れたのはほぼ今回が初めてだ。
そんな私に比べれば、先生は『テイルズ』についていろいろ調べたりトッププレイヤーのシキミさんたちと行動を共にしたりしている。
そのため、先生の方が知っていることは多いだろう。
「……えっと、勉強?」
「はい、新たな知識を習得しようと励むことは立派な勉強です」
私が早口で返答すると、おそらく普通の勉強をやらされる覚悟を決めていたから肩すかしを食らった気分なのだと思うけれど。
先生は納得してくれたようで、ドラゴンについて話しはじめた。
「えっと、ドラゴンは使用する属性によって基本の名前が決まってるんだ。火だったらレッド・ドラゴン、水だったらブルー・ドラゴンみたいに」
なるほど、そうすると私たちが戦ったのはホワイト・ドラゴンということになるのだろうか。
私が頷くのを見て、先生は続ける。
「いま名前を挙げたドラゴンは上級の依頼に出てくるような上級種の魔物で、討伐推奨レベルは40ぐらいって言われてる」
通りで、あの生意気ドラゴンが強いはずだ。
現在の私のレベルは28だから、瞬殺されてしまったことも頷ける。
「それで、この上級種のドラゴンにはそれぞれ超級種への派生が存在する」
ん? 超級種?
初めて聞いたけど、上級よりも上って存在するのか。
あいつは上級、超級、どっちなんだ?
「特性によって名前が付け足されて、ヴォルケニック・レッドドラゴンとかサージド・ブルードラゴンとかになるんだ。超級種になると戦ったっていう情報も少ないから断定はできないけど、討伐推奨レベルは60ぐらいかな」
「ふむ……先生、私、白いドラゴンに会ったんですけど――」
ここで、今日の出来事について伝えてみることにする。
生徒が直面している問題がわからないと、先生が適切な指導を行えないと思ったのだ。
はじまりの森でシルバニア・ジャイアントウルフと戦い、その流れで大樹の冒険者ギルドの街に行き、そして白いドラゴンにやられたこと。
なにが重要な情報になるかわからないので、できるだけ詳しく話す。
相手がどんな見た目で、どんな攻撃をしてきたか。
「――それでね、シャニィちゃんの話に戻るんだけど、目がうるうるしてる感じが最高に可愛くてね」
「いや、いまはドラゴンの話じゃないの?」
ああ、そうだった。
シャニィちゃんの可愛さを思い出したから、それを布教しなきゃと考えてしまったのだ。
「うーん、白いドラゴンってことはホワイトドラゴンか……存在するとは思っていたけど」
「えっ? 聞いたことないの?」
驚いて聞くと、莉央は頷きを返してくる。
そうなんだ、攻略法とか知っているかと思って話をしてみたところもあるんだけど。
「だから、姉ちゃんが遭遇したドラゴンが上級種なのか超級種なのかはわからないかな……でも、ゲームだと白とか黒ってちょっと特別だったりするから、もしかしたらその枠組みがない……?」
難しそうな表情で真剣に考えている莉央。
これはお姉ちゃんのためなのか、それともゲーマーとしての性分なのか。
「シルバニア・ジャイアントウルフの討伐情報は各地にあるのに、そこから繋がるホワイトドラゴンには姉ちゃんしか遭っていない……うん、そのことを考えると、特殊な条件を満たさないと現れない魔物なのかもしれないね」
姉である私だからわかるのだが、どうやら後者の動機が強かったようだ。
いまの莉央の表情は、ゲームで“隠しボス”とか“裏ボス”を見つけたときに、なぜかそのゲームを遊んでいない私に嬉々として報告してくるのと同じものだった。
痛いとか怖いとか思う暇もなかったから、平気なはずではあるのだが。
ただ、例えるならば、スマホを落としたときの気持ちのようなものだ。
ああやってしまった、画面が割れているかもしれない。
それが気がかりでありながらも、どうなっていたとしても受け入れようと落ち着くために数瞬を割く必要があるだろう。
「すごいな、一瞬でやられちゃった……」
心のうちに留めておけなかった動揺を、口に出して解消。
そして、ベッドのヘッドボードに置いていた眼鏡をかけて、さらに気持ちを落ち着かせる。
時計を見ると、すでに夕方を過ぎるぐらいだった。
『テイルズ・オンライン』で死んでしまうと、ゲーム内時間で半日、つまり現実世界で六時間だけログインできなくなる。
そのため、もしログイン可能になってからすぐに『テイルズ』内に戻るとしたら、ちょうど日付をまたいだ深夜になるだろう。
「うん、今日はもうできないか……」
背などが伸びなくなるから、夜はちゃんと寝ないとダメ。
落ち込んでいるであろうスラリアに会いたいとは思うが、現実世界で自らが決めたルールを、ゲーム内の都合で破るのは良いことではない。
気持ちを切り替えよう。
そう考えて、私は晩ご飯の準備を手伝うために部屋を出るのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
晩ご飯の後、自室に戻ろうとする莉央の背後にぴったりついていく。
「……なに?」
おっと、気づかれてしまったようだ。
さすがは私の弟だ、よく気づいたな。
「お姉ちゃん、デスしちゃったから暇なの。いっしょに勉強しよ?」
「勉強……まあ、いいけど」
さっき『テイルズ』の中で勉強したから嫌がられるかと思ったが、意外にも了承を得た。
もしかしたら、以前に死んでしまったときの私はけっこう凹んでいたから、気遣ってくれたのかもしれない。
「じゃあ、私の部屋ね」
そう言って、莉央の背中を両手で押しながら歩く。
「はいはい……あれ、なにも持ってこなくていいの?」
「うん、大丈夫」
勉強は勉強でも、普通の勉強ではないからね。
自室に押し込んだ莉央を机に座らせて、私はベッドの縁に座る。
「じゃあ、今日の勉強はドラゴンについてね。よろしく、先生」
「はい……?」
与えられた呼称に違和感でも覚えたのだろうか、先生は首を傾げた。
しかし、もう授業は始まっているのだから、ちゃんとやってもらわなければ困る。
「まず、テイルズ・オンラインにおいて、先生が知っているドラゴンの情報を教えてください」
いままで数か月遊んできた中で、話も含めてドラゴンについて触れたのはほぼ今回が初めてだ。
そんな私に比べれば、先生は『テイルズ』についていろいろ調べたりトッププレイヤーのシキミさんたちと行動を共にしたりしている。
そのため、先生の方が知っていることは多いだろう。
「……えっと、勉強?」
「はい、新たな知識を習得しようと励むことは立派な勉強です」
私が早口で返答すると、おそらく普通の勉強をやらされる覚悟を決めていたから肩すかしを食らった気分なのだと思うけれど。
先生は納得してくれたようで、ドラゴンについて話しはじめた。
「えっと、ドラゴンは使用する属性によって基本の名前が決まってるんだ。火だったらレッド・ドラゴン、水だったらブルー・ドラゴンみたいに」
なるほど、そうすると私たちが戦ったのはホワイト・ドラゴンということになるのだろうか。
私が頷くのを見て、先生は続ける。
「いま名前を挙げたドラゴンは上級の依頼に出てくるような上級種の魔物で、討伐推奨レベルは40ぐらいって言われてる」
通りで、あの生意気ドラゴンが強いはずだ。
現在の私のレベルは28だから、瞬殺されてしまったことも頷ける。
「それで、この上級種のドラゴンにはそれぞれ超級種への派生が存在する」
ん? 超級種?
初めて聞いたけど、上級よりも上って存在するのか。
あいつは上級、超級、どっちなんだ?
「特性によって名前が付け足されて、ヴォルケニック・レッドドラゴンとかサージド・ブルードラゴンとかになるんだ。超級種になると戦ったっていう情報も少ないから断定はできないけど、討伐推奨レベルは60ぐらいかな」
「ふむ……先生、私、白いドラゴンに会ったんですけど――」
ここで、今日の出来事について伝えてみることにする。
生徒が直面している問題がわからないと、先生が適切な指導を行えないと思ったのだ。
はじまりの森でシルバニア・ジャイアントウルフと戦い、その流れで大樹の冒険者ギルドの街に行き、そして白いドラゴンにやられたこと。
なにが重要な情報になるかわからないので、できるだけ詳しく話す。
相手がどんな見た目で、どんな攻撃をしてきたか。
「――それでね、シャニィちゃんの話に戻るんだけど、目がうるうるしてる感じが最高に可愛くてね」
「いや、いまはドラゴンの話じゃないの?」
ああ、そうだった。
シャニィちゃんの可愛さを思い出したから、それを布教しなきゃと考えてしまったのだ。
「うーん、白いドラゴンってことはホワイトドラゴンか……存在するとは思っていたけど」
「えっ? 聞いたことないの?」
驚いて聞くと、莉央は頷きを返してくる。
そうなんだ、攻略法とか知っているかと思って話をしてみたところもあるんだけど。
「だから、姉ちゃんが遭遇したドラゴンが上級種なのか超級種なのかはわからないかな……でも、ゲームだと白とか黒ってちょっと特別だったりするから、もしかしたらその枠組みがない……?」
難しそうな表情で真剣に考えている莉央。
これはお姉ちゃんのためなのか、それともゲーマーとしての性分なのか。
「シルバニア・ジャイアントウルフの討伐情報は各地にあるのに、そこから繋がるホワイトドラゴンには姉ちゃんしか遭っていない……うん、そのことを考えると、特殊な条件を満たさないと現れない魔物なのかもしれないね」
姉である私だからわかるのだが、どうやら後者の動機が強かったようだ。
いまの莉央の表情は、ゲームで“隠しボス”とか“裏ボス”を見つけたときに、なぜかそのゲームを遊んでいない私に嬉々として報告してくるのと同じものだった。
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