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Second Tales:生意気なドラゴンにどちらが上かわからせます

Tale11:恥ずかしがりな受付は前を向きます

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 大樹の中の冒険者ギルドに足を踏み入れる。
 天井から蔦が垂れていたり壁に木の根が張っていたりするが、内部の構造としてはいつも通っているところとの違いはない。

 いくつかある窓口には、何人かの冒険者が並んでいた。
 なぜか誰も並んでいない窓口があったので、嬉々として向かう。

「あら、なんだ、可愛い女の子だ」

 しかし、このギルドのオージちゃんが来るかという期待に反して、そこに座っていた受付のNPCは真面目でおとなしそうな女の子だった。
 年の頃は私と同じぐらいか、もしかしたら少し下なのかもしれない。
 いまいちはっきりしないのは、この子が眼鏡をかけていてかつ前髪が目元を隠すほど長くかつ私たちが近づくと俯いてしまったからだ。

 顔がよく見えないのに“可愛い”と形容したのはなぜかって?
 女の子はみんな可愛いもの、それは世界の真理だ。

「こんにちはー」
「こんにちはっ」

「っ……ちっ……」

 窓口の前まで進み、私とスラリアはあいさつをする。
 すると、返ってきたのは途切れ途切れの言葉だった。
 一瞬、舌打ちされた!? なんて思って焦ったけど、この子の口は動いていたし、応対する雰囲気で違うとわかる。

「ちょっと聞きたいことがあって来たのですが、いいですか?」

「ぁわ……っば……ぃっ……」

 なるほど、この窓口に誰も並んでいなかった理由はこれか。
 たぶん、かなりの恥ずかしがりで声が小さいのだ、この受付の子は。
 オージちゃんみたいに見た目が恐いわけではないから並びはするけど、声が聞き取れなくて断念してしまうのだろう。

「スラリア、お願い」

「はい」

 返事をしたスラリアは窓口の台に身を乗り出して、受付の女の子の手を握る。

「――っ!?」

 女の子は急に手を握られてびっくりしたのだろう、言葉も出ないようで硬直してしまった。
 おとなしい子なのだと思うから、無理もないけれど。

「驚かせて、ごめんなさい。この子ね、人の手を握っていないと正気を保っていられないの」

「ああ、安心しましたぁー。でもぉ、手を離したらまた私が私で私じゃなくなっちゃうかもー」

 真似することは上手なのに大根がすぎる、と思わず笑いそうになるのを我慢する。

 スラリアは、女の子の手を握る手とは逆の手で、私の耳を覆った。
 くすぐったくて声が出そうになるのも、同じく我慢だ。

「えぇ……それって、だ、大丈夫なんですか……?」

 スラリアの手が当てられた方の耳から、可愛らしい女の子の声が聞こえてきた。
 うむ、実験は成功である。

「うん、手を握らせておいてもらえれば大丈夫だから、いいかな?」

 私の問いかけに、女の子は不安そうではあったが頷いてくれた。

 人間の姿をしていても、スラリアはスライムだ。
 そのぷにゅぷにゅボディは振動が伝わりやすく、聞き取れなかった小さな声がスラリアの身体を通して私の耳まで届くようになる。
 そう考えてみたのだが、どうやら上手くいったようだ。

「えっと、聞きたいことっていうのは、ドラゴンについてなにか知っているかってことなんだけど」

 さて、ようやく本題である。
 しかし、この質問に対する女の子の反応はあまり思わしくなかった。

「ドラゴン、ですか……?」

 初めて聞いた言葉をとりあえず口に出してみる、といった調子でつぶやく女の子。
 首を傾げたことによって前髪が流れて、この子の目がぱっちりとしていて可愛いとわかったことが唯一の救いか。

「うん、この辺りで見たとか、ドラゴンに関係する依頼があるとか」

「いえ、あの……ごめんなさい。私は、おとぎ話に登場するドラゴンしか知りません……」

 食い下がって聞いてみると、予想外の答えが返ってくる。

 シルバニアの狼ちゃんが、「生意気なドラゴンに追い出された」という嘘を言っているはずはない。
 それをするメリットがないし、そんな雰囲気も感じなかったからだ。
 だから、ドラゴンは『テイルズ・オンライン』の世界に間違いなく存在している。
 そういえば、以前に莉央りおもドラゴンやゴーレムが出てくるとか言っていたな。

 この女の子がたまたま知らないということも、反応から考えるとなさそうだ。
 『テイルズ』世界の住人からすると、ドラゴンというものはおとぎ話で語られるようなファンタジーの存在ということなのだろう。

「こちらこそ、変なことを聞いちゃってごめんね」

 来訪者の質問に答えることができなかったからなのだろうか、目に見えて女の子の元気がなくなってしまう。
 気にしていないと伝えるためにことさら明るく謝罪するが、あまり効果はなく、女の子は俯くばかりだ。

「ここ、冒険者ギルドもそうだけど、街もすごいのね。森の中に街を造ったというか、森が街になったみたいな」

 話題を変えて、他愛もないことを聞いてみる。

「……はい、もともとこの辺りは広大な森が広がっていたのですが、その一部分を開拓してこの街が造られたと聞いています。いまでも街の東側の地域一帯は、果てのない森に覆われているのです」

 おっ、この話題は正解だったようだ。
 ちょっと元気になった女の子につられて、私もちょっと嬉しくなる。

「へえ、でも森が近くにあると、魔物とかたくさん現れるから大変そう」

 もちろん例外もあるのだが、森の中には魔物が生息していることが多い。
 まあ、食料の問題などがあるのかもしれない。
 しかし、体裁を整えるという点でも、なにもない街道に魔物がうろちょろしていたら、それはおかしな話となるだろう。

「ふふ、それは大丈夫ですよ。私たちには“森の守り神様”がついておりますから」

「森の守り神……?」

 微笑む女の子が予想以上に可愛いことも気がかりだが、もっと気になるワードが飛び出したところに食いつく。
 そうだ、狼ちゃんは「山をいくつか越えた先のが故郷」と言っていたではないか。

「はい、お姿は見たことありませんが、それはそれは美しい銀色の体毛をまとった――」

「それだぁああぁあーっ!」

「きゃぁーっ!?」

 クリティカルな情報に興奮して、思わず私は窓口の台を越えて女の子の胸にダイブしていた。
 うーん、抱きついてわかったが、この子けっこう胸が大きいな。
 ちょっとむかつくところもある、という評価を加えておこう。

「狼なんでしょ? おっきい狼っ!」

「はっ、はい! つ、月を食べることもあると伝えられていますっ」

 間近で女の子を見上げて、私は興奮を抑えきれずに叫ぶ。
 それにつられたのか、いつの間にか、女の子の声量は大きくなっているのだった。

 うん、こんなに大きな声が出せるんだったら、もうスラリア電話は必要ないかもしれないね。
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