74 / 105
Second Tales:生意気なドラゴンにどちらが上かわからせます
Tale8:名前はあなたへのギフトです
しおりを挟む
「さて、これで今日の勉強は終わりっ、遊びましょう!」
ぱんとひとつ手を叩きつつ、私は言う。
何事もメリハリが重要で、だらだらと続けることに意味などないだろう。
「オーリ、あなたはどうするの?」
ちょっとの望みをかけて、オーリの予定を聞いてみる。
お姉ちゃんとして、弟とゲームで遊んでみたい。
そんなちっぽけな願望を、私は少し前から抱いていたのだ。
しかし、この数週間一度たりともお誘いをかけることができていない。
「シキミさんたちと約束があるから、そっちに行くよ」
なぜなら、このようにオーリはひじょうにモテるようで、毎日私以外の誰それとの予定でいっぱいだからだ。
なんか、よく知らないけどすごく強いらしい。
数か月遅れて始めたのに、初期プレイヤーであるシキミさんたちといっしょに遊べるというのだから、それは事実なのだろう。
「ふぅん……じゃあ、シキミさんによろしく言っといて」
私の弟を取りやがって、変態サイコパス爽やかお兄さんめ。
そんな気持ちを隠しながら、表情だけは微笑ませた。
いや、こっちから誘えば、きっとオーリは予定を調整してくれると思うんだけどね。
なんとなく気恥ずかしくて、ほんの一歩が踏み出せていないのだ。
「うん? もしかして、まだシキミさんのことよく思ってない?」
隠したはずの感情に、察しよく勘付くオーリ。
ゲームのキャラクターを通しているのに、さすがは家族といったところか。
でも、第一印象が最悪だっただけで、別にシキミさんのことを嫌っているわけではない。
「ううん、そんなことないよ。嫌いなのは、チャラ髪ピアス男だけだから」
チャラチャラックへの嫌悪はあえて隠さずに、私は吐き捨てるように言った。
あいつはダメだ、隙あらばセクハラしてこようとするからな。
「あはは……そんな風に言ったら可愛そうだよ。チャックさん、いつも『リリアちゃんに会いたいなぁ、ちらっ、この辺りに身内がいたりしないかなぁ、ちらちらっ』とか言ってくるんだから」
「ああ、そんな感じの名前だったっけ? まあ、なんでもいいか」
ひどいな、とオーリは苦笑いを浮かべた。
そして、ややあって続けて、私にとって嬉しいことを言ってくれる。
「うーん、そうだなぁ……実は、そろそろうるさいと思ってたんだよね。だから、姉ちゃん、今度いっしょに来ない?」
おっとぉ? 私の弟はエスパーなのか?
もしかしたら、いっしょに遊びたいと思っていることに気づかれていたのかもしれない。
ただ、垂らされた糸にすぐ食いついてしまったら、姉としてのプライドに関わるだろう。
「ちょっと、“姉ちゃん”じゃなくて“リリア”でしょ?」
「ああ、そうだった。顔つきが現実と似てるからよくわからなくなるんだよね」
無理やり優位性を保とうとする、呼び間違いの指摘。
しかし、その指摘は、軽く頷くようにするだけでかわされてしまう。
それにしても、いまのオーリの発言はなんだか軟派な印象を受けるものだった。
あれだ、“お姉さん芸能人のほにゃららちゃんにそっくりだねぇ”みたいなやつだ。
「……あの赤髪ナンパ野郎が私の弟に悪影響を与えていないか、調査する必要がありそうね」
「いや、別に影響なんて……というか、頑なに正しい名前を呼ばないのはなんで?」
あいつの名前なんかを出したら、私の口が穢れてしまうからだ。
そして、地の文でもそうなのは、私の頭がスカスカにならないようにするためだ。
「あのピンポン球のことはどうでもいいの――今度いっしょに行ってもいいか、シキミさんとセイシンさんに聞いておいてもらえる?」
ピンポン球? と首を傾げつつも、オーリは頷いて了承を示してくれた。
「私もおハゲさんに会いたいですっ」
セイシンさんの名前に反応して、スラリアが元気よく言う。
大柄でスキンヘッドのセイシンさんは、主にスラリア限定で“おハゲさん”と呼ばれていた。
本当は人の名前はちゃんと呼んだ方がいいのだけれど、セイシンさんも「好きに呼んでくれてかまわぬ」って言っていたから特に改めたりしていない。
「いいよって言ってもらえたら、会いに行こうね」
はいっ、と良い子の返事をするスラリア。
うん、私もオーリといっしょに遊べるのはわくわくだ。
恥ずかしいから、絶対に顔には出さないけどね。
「じゃあ、そろそろ俺は行こうかな」
そう言って、立ち上がるオーリ。
座ったまま見上げると、その無駄に高い身長は天井にぶつかるのではないかと心配になるほどだ。
「うん、気をつけてね、いってらっしゃい」
「オーリっ、いってらっしゃい!」
軽く手を振る私と、跳びはねるようにオーリに抱きつくスラリアは。
現実の日常のように、無事に帰ることを願うのであった。
ぱんとひとつ手を叩きつつ、私は言う。
何事もメリハリが重要で、だらだらと続けることに意味などないだろう。
「オーリ、あなたはどうするの?」
ちょっとの望みをかけて、オーリの予定を聞いてみる。
お姉ちゃんとして、弟とゲームで遊んでみたい。
そんなちっぽけな願望を、私は少し前から抱いていたのだ。
しかし、この数週間一度たりともお誘いをかけることができていない。
「シキミさんたちと約束があるから、そっちに行くよ」
なぜなら、このようにオーリはひじょうにモテるようで、毎日私以外の誰それとの予定でいっぱいだからだ。
なんか、よく知らないけどすごく強いらしい。
数か月遅れて始めたのに、初期プレイヤーであるシキミさんたちといっしょに遊べるというのだから、それは事実なのだろう。
「ふぅん……じゃあ、シキミさんによろしく言っといて」
私の弟を取りやがって、変態サイコパス爽やかお兄さんめ。
そんな気持ちを隠しながら、表情だけは微笑ませた。
いや、こっちから誘えば、きっとオーリは予定を調整してくれると思うんだけどね。
なんとなく気恥ずかしくて、ほんの一歩が踏み出せていないのだ。
「うん? もしかして、まだシキミさんのことよく思ってない?」
隠したはずの感情に、察しよく勘付くオーリ。
ゲームのキャラクターを通しているのに、さすがは家族といったところか。
でも、第一印象が最悪だっただけで、別にシキミさんのことを嫌っているわけではない。
「ううん、そんなことないよ。嫌いなのは、チャラ髪ピアス男だけだから」
チャラチャラックへの嫌悪はあえて隠さずに、私は吐き捨てるように言った。
あいつはダメだ、隙あらばセクハラしてこようとするからな。
「あはは……そんな風に言ったら可愛そうだよ。チャックさん、いつも『リリアちゃんに会いたいなぁ、ちらっ、この辺りに身内がいたりしないかなぁ、ちらちらっ』とか言ってくるんだから」
「ああ、そんな感じの名前だったっけ? まあ、なんでもいいか」
ひどいな、とオーリは苦笑いを浮かべた。
そして、ややあって続けて、私にとって嬉しいことを言ってくれる。
「うーん、そうだなぁ……実は、そろそろうるさいと思ってたんだよね。だから、姉ちゃん、今度いっしょに来ない?」
おっとぉ? 私の弟はエスパーなのか?
もしかしたら、いっしょに遊びたいと思っていることに気づかれていたのかもしれない。
ただ、垂らされた糸にすぐ食いついてしまったら、姉としてのプライドに関わるだろう。
「ちょっと、“姉ちゃん”じゃなくて“リリア”でしょ?」
「ああ、そうだった。顔つきが現実と似てるからよくわからなくなるんだよね」
無理やり優位性を保とうとする、呼び間違いの指摘。
しかし、その指摘は、軽く頷くようにするだけでかわされてしまう。
それにしても、いまのオーリの発言はなんだか軟派な印象を受けるものだった。
あれだ、“お姉さん芸能人のほにゃららちゃんにそっくりだねぇ”みたいなやつだ。
「……あの赤髪ナンパ野郎が私の弟に悪影響を与えていないか、調査する必要がありそうね」
「いや、別に影響なんて……というか、頑なに正しい名前を呼ばないのはなんで?」
あいつの名前なんかを出したら、私の口が穢れてしまうからだ。
そして、地の文でもそうなのは、私の頭がスカスカにならないようにするためだ。
「あのピンポン球のことはどうでもいいの――今度いっしょに行ってもいいか、シキミさんとセイシンさんに聞いておいてもらえる?」
ピンポン球? と首を傾げつつも、オーリは頷いて了承を示してくれた。
「私もおハゲさんに会いたいですっ」
セイシンさんの名前に反応して、スラリアが元気よく言う。
大柄でスキンヘッドのセイシンさんは、主にスラリア限定で“おハゲさん”と呼ばれていた。
本当は人の名前はちゃんと呼んだ方がいいのだけれど、セイシンさんも「好きに呼んでくれてかまわぬ」って言っていたから特に改めたりしていない。
「いいよって言ってもらえたら、会いに行こうね」
はいっ、と良い子の返事をするスラリア。
うん、私もオーリといっしょに遊べるのはわくわくだ。
恥ずかしいから、絶対に顔には出さないけどね。
「じゃあ、そろそろ俺は行こうかな」
そう言って、立ち上がるオーリ。
座ったまま見上げると、その無駄に高い身長は天井にぶつかるのではないかと心配になるほどだ。
「うん、気をつけてね、いってらっしゃい」
「オーリっ、いってらっしゃい!」
軽く手を振る私と、跳びはねるようにオーリに抱きつくスラリアは。
現実の日常のように、無事に帰ることを願うのであった。
0
お気に入りに追加
162
あなたにおすすめの小説
魔王が営む神秘の洞窟と温泉郷~スライムの大行進~
鷲原ほの
ファンタジー
異世界ファングランドのライハンス大陸では桃源郷の噂話が流れている。
それは、小さな世界の創造主としてダンジョンを自分好みに増改築する
オニキス・サクラが仲良しスライム達を巻き込み奔走する異世界冒険譚。
まったりするため薬効温泉を選んだところから箱庭の娯楽は動き出す。
Anotherfantasia~もうひとつの幻想郷
くみたろう
ファンタジー
彼女の名前は東堂翠。
怒りに震えながら、両手に持つ固めの箱を歪ませるくらいに力を入れて歩く翠。
最高の一日が、たった数分で最悪な1日へと変わった。
その要因は手に持つ箱。
ゲーム、Anotherfantasia
体感出来る幻想郷とキャッチフレーズが付いた完全ダイブ型VRゲームが、彼女の幸せを壊したのだ。
「このゲームがなんぼのもんよ!!!」
怒り狂う翠は帰宅後ゲームを睨みつけて、興味なんか無いゲームを険しい表情で起動した。
「どれくらい面白いのか、試してやろうじゃない。」
ゲームを一切やらない翠が、初めての体感出来る幻想郷へと体を委ねた。
それは、翠の想像を上回った。
「これが………ゲーム………?」
現実離れした世界観。
でも、確かに感じるのは現実だった。
初めて続きの翠に、少しづつ増える仲間たち。
楽しさを見出した翠は、気付いたらトップランカーのクランで外せない大事な仲間になっていた。
【Anotherfantasia……今となっては、楽しくないなんて絶対言えないや】
翠は、柔らかく笑うのだった。
サモナーって不遇職らしいね
7576
SF
世はフルダイブ時代。
人類は労働から解放され日々仮想世界で遊び暮らす理想郷、そんな時代を生きる男は今日も今日とて遊んで暮らす。
男が選んだゲームは『グラディウスマギカ』
ワールドシミュレータとも呼ばれるほど高性能なAIと広大な剣と魔法のファンタジー世界で、より強くなれる装備を求めて冒険するMMORPGゲームだ。
そんな世界で厨二感マシマシの堕天使ネクアムとなって男はのんびりサモナー生活だ。
Reboot ~AIに管理を任せたVRMMOが反旗を翻したので運営と力を合わせて攻略します~
霧氷こあ
SF
フルダイブMMORPGのクローズドβテストに参加した三人が、システム統括のAI『アイリス』によって閉じ込められた。
それを助けるためログインしたクロノスだったが、アイリスの妨害によりレベル1に……!?
見兼ねたシステム設計者で運営である『イヴ』がハイエルフの姿を借りて仮想空間に入り込む。だがそこはすでに、AIが統治する恐ろしくも残酷な世界だった。
「ここは現実であって、現実ではないの」
自我を持ち始めた混沌とした世界、乖離していく紅の世界。相反する二つを結ぶ少年と少女を描いたSFファンタジー。
神様のミスで女に転生したようです
結城はる
ファンタジー
34歳独身の秋本修弥はごく普通の中小企業に勤めるサラリーマンであった。
いつも通り起床し朝食を食べ、会社へ通勤中だったがマンションの上から人が落下してきて下敷きとなってしまった……。
目が覚めると、目の前には絶世の美女が立っていた。
美女の話を聞くと、どうやら目の前にいる美女は神様であり私は死んでしまったということらしい
死んだことにより私の魂は地球とは別の世界に迷い込んだみたいなので、こっちの世界に転生させてくれるそうだ。
気がついたら、洞窟の中にいて転生されたことを確認する。
ん……、なんか違和感がある。股を触ってみるとあるべきものがない。
え……。
神様、私女になってるんですけどーーーー!!!
小説家になろうでも掲載しています。
URLはこちら→「https://ncode.syosetu.com/n7001ht/」
沢山寝たい少女のVRMMORPG〜武器と防具は枕とパジャマ?!〜
雪雪ノ雪
ファンタジー
世界初のフルダイブ型のVRゲーム『Second World Online』通称SWO。
剣と魔法の世界で冒険をするVRMMORPGだ。
このゲームの1番の特徴は『ゲーム内での3時間は現実世界の1時間である』というもの。
これを知った少女、明日香 睡月(あすか すいげつ)は
「このゲームをやれば沢山寝れる!!」
と言いこのゲームを始める。
ゲームを始めてすぐ、ある問題点に気づく。
「お金がないと、宿に泊まれない!!ベットで寝れない!!....敷布団でもいいけど」
何とかお金を稼ぐ方法を考えた明日香がとった行動は
「そうだ!!寝ながら戦えばお金も経験値も入って一石三鳥!!」
武器は枕で防具はパジャマ!!少女のVRMMORPGの旅が今始まる!!
..........寝ながら。
春空VRオンライン ~島から出ない採取生産職ののんびり体験記~
滝川 海老郎
SF
新作のフルダイブVRMMOが発売になる。 最初の舞台は「チュートリ島」という小島で正式リリースまではこの島で過ごすことになっていた。
島で釣りをしたり、スライム狩りをしたり、探険したり、干物のアルバイトをしたり、宝探しトレジャーハントをしたり、のんびり、のほほんと、過ごしていく。
VRおじいちゃん ~ひろしの大冒険~
オイシイオコメ
SF
75歳のおじいさん「ひろし」は思いもよらず、人気VRゲームの世界に足を踏み入れた。おすすめされた種族や職業はまったく理解できず「無職」を選び、さらに操作ミスで物理攻撃力に全振りしたおじいさんはVR世界で出会った仲間たちと大冒険を繰り広げる。
この作品は、小説家になろう様とカクヨム様に2021年執筆した「VRおじいちゃん」と「VRおばあちゃん」を統合した作品です。
前作品は同僚や友人の意見も取り入れて書いておりましたが、今回は自分の意向のみで修正させていただいたリニューアル作品です。
(小説中のダッシュ表記につきまして)
作品公開時、一部のスマートフォンで文字化けするとのご報告を頂き、ダッシュ2本のかわりに「ー」を使用しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる