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Second Tales:生意気なドラゴンにどちらが上かわからせます

Tale1:はじまりの森で妖精は踊ります

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 森の中に現れた、若草の広場。

 その中央に向かって、スラリアは歩く。
 周囲には、十数体のシルバー・ウルフが唸り声を上げながら腰を高くして構えていた。

 以前にチュートリアルで戦ったときのシルバー・ウルフは子どもだったのだろう。
 今にもスラリアに飛びかかろうとしている彼らの体躯は、私よりも一回りも二回りも大きい。
 それは、つまりスラリアにも同じことが言えるということ。

 一対一でも勝てそうには思えない。
 そのため、武器すら持たずに悠然と進むスラリアの姿は、これが自殺行為だと見られても仕方がないだろう。

 死地のど真ん中にスラリアが立ち止まった、その瞬間。

「ガルルァッ!」

 スラリアの正面、そして左右後方の三方から三体のシルバー・ウルフがほぼ同時に飛びかかる。
 よく連携が取れている。
 少しでも対処を誤れば、その凶悪に鋭い牙がスラリアに届きうるだろう。

 では、スラリアが取った行動はなにか。

 それは、左手を前方に掲げるだけ。
 ただ、その左手の薬指には、紅い薔薇の指輪がはめられていた。

「グァッ!?」

 スラリアの前方から向かってきたシルバー・ウルフ。
 その短い断末魔が、森に響く。

 すでに淡い光になりかけている可愛そうな狼には、顎から脳天を突き抜けてロング・ソードが刺さっていた。
 薔薇の指輪――魔法剣ローゼン・ソードが瞬時に形状を剣へと変えた結果、ちょうど串刺しにされてしまったのだ。

「グガァッ!?」

 そして、狙い通りの奇襲によって一体を葬ったスラリアは、空中でローゼン・ソードの柄を掴む。
 そのまま、その場で舞うように一回転。
 左右後方から襲いかかってきていた二体を、瞬く間に斬り伏せた。

「お姉様――いけます」

 こちらを見ずに、告げてくるスラリア。
 本当に頼もしいことだ、私のパートナーは。 

「じゃあ、そこにいるやつらは任せる」

 私の言葉への返答として、スラリアは小さく頷く。
 その動作を、シルバー・ウルフたちは隙だと思ったのだろうか、一番近くにいた一体がスラリアとの距離を詰める。

「グルルルァ!」

「っ――!」

 スラリアが振り下ろした剣は近づいてきた一体を捉えることなく、その鼻先を通過した。

 フェイントか、賢いな。
 急激に速度を落として、スラリアの間合いの外に留まったのだ。
 そして、フェイントをかけたやつとは別の一体が、反対側から奇襲を仕掛ける。

 先ほどもそうだったが、死角から飛びかかるシルバー・ウルフは咆哮を上げていない。
 だから、普通の人間であれば目の前のウルフに気を取られてやられてしまうだろう。
 しかし、スラリアは人間の形態を取っているというだけで、本来は目を持たないスライムだ。

「グァッ!?」

 振り下ろした勢いをそのままに身体を回し、背後に迫ったシルバー・ウルフを斬り上げた。
 スラリアには死角なんて存在しないので、奇襲に意味はない。

「グルァッ……!」

 さらに回した身体の体勢を整えて、フェイントをかけてきた一体を今度こそ両断するスラリア。

 いまの動きも、スライムだからこその特異なものだ。
 骨格や関節などは見せかけで存在しないため、それらに邪魔されない滑らかな動きを可能にする。

 その後も、断続的に仕掛けてくるシルバー・ウルフたちを、スラリアは踊るように動く中で斬り伏せていく。
 人間の動きとは思えない踊りは、しかし面妖というより妖艶な雰囲気を感じ、目が奪われる。
 本当に美しいことだ、私のパートナーは。

「グルルグゥ……」

「ガウッグルガゥッ!」

 やがて、初めの半分ほどに数を減らされたことで戦い方を変えることにしたのか、残りのシルバー・ウルフが全て、一斉にスラリアに飛びかかる。
 絶対的な物量で押し切ろうというのは間違いではないだろう。
 数体が斬られたとしても、残った狼がスラリアに噛みつけばいいのだ。

 実際、スラリアは技術によってシルバー・ウルフを圧倒しているだけで、おそらく素のステータスの値はスラリアの方が低い。
 一度でも攻撃を食らってしまったら、ひとたまりもないと思われる。

 全方位から向かってくる銀色の奔流を前に、スラリアは足もとの地面にローゼン・ソードを突き立てる。
 打つ手がないと諦めたのか――いや、違う。

「魔力解放――ラフレシア・ウォールっ!」

 スラリアが叫ぶとともに、周囲の地面から湧き上がるように、薔薇による壁が発生した。
 幾重にもなったその壁は、円筒形にスラリアを囲むことで完全に侵入者を拒む。

 飛びかかった勢いを殺しきれずに、次々に薔薇の壁に食らいついてしまうシルバー・ウルフの群れ。

「グァッ!?」

 それだけであれば、多少のダメージを受けるだけで済んでいたかもしれない。
 しかし、ウルフたちが壁に触れた瞬間。 
 スラリアを中心として、花が咲くように壁が内側からめくれ上がり、薔薇の奔流が広がった。
 その波に巻き込まれるように、狼藉者たちは大輪となった薔薇の中に包まれる。

 一体も逃れることは叶わず。
 跡に残ったのは、ラフレシアのように広がる薔薇の塊とその中央に立つスラリア。
 そして、シルバー・ウルフを倒した証、宙を舞う淡い光の花びらだけだった。
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