62 / 105
Spin-off Tales
それは、堕ちた天使の成れの果て
しおりを挟む
まるで血に染まった壁が迫ってくるかのように、私とアキラちゃんに向かって薔薇の群れが襲いかかる。
「アキラちゃんっ、本体っ!」
「わかったっ!」
おそらく、薔薇をどれだけ切ったところで、アロリーロを倒すことはできないだろう。
私たちはそれぞれ横に跳んで、迫る薔薇の波を躱した。
着地の瞬間、床に敷き詰められた薔薇の棘がざくりざくりと足に刺さる。
しかし、それを気にしている余裕なんてなかった。
「キャロ、援護してっ」
アロリーロに向かって駆け出すアキラちゃん。
その四方八方から、アキラちゃんを攻撃するためだろう、幾本もの薔薇が伸びてくる。
「マテリアライズ!」
その薔薇たちは、私が発現させた数十の植木鉢に突っ込んでいった。
植木鉢ぐらい簡単な造型のものだったら、一瞬のうちに描き出すことができるのだ。
アキラちゃんに届いた薔薇は一本もなく、全て植木鉢の中で飼い殺される。
『へぇ? 珍しいねぇ、クリエイターじゃん』
眼前に迫ったアキラちゃんを歯牙にもかけず、アロリーロはのんきな声を上げた。
嫌な予感が、私の胸をよぎる。
「アキラちゃん!」
そんな胸騒ぎをよそに、振り下ろしたアキラちゃんのハイミスリル・ソードが、アロリーロの肩から侵入し胸までを斬り進んでいた。
あれ、意外とあっけなく倒せた……?
あっ、やばい、フラグみたいなこと思っちゃった!
「なっ、このっ……!」
アロリーロに突き刺さるソードの柄を、アキラちゃんは体重をかけて思いっきり引っ張る。
しかし、それはビクともしないようだ。
『えひゃひゃひゃぁっ、この武器じゃあ、私は倒せないかなぁ!』
自らに刺さるソードの刃を掴み、愉しそうに笑うアロリーロ。
もしかしたら、効かないことがわかっていて、わざと斬りつけさせたのかもしれない。
武器を奪われ、敵の近くに留まるのは危険だ。
そう思ったのだろう、アキラちゃんは剣を引くのを諦めた。
て柄から手を離し、大きく後ろに跳んだ。
「ぅわ、ちょっ――!?」
だが、後退ったアキラちゃんが床に足を着ける。
その瞬間、床の薔薇が燃え上がるように一気に膨らんだ。
アキラちゃんが逃れる隙はなく、その姿を包み込み隠してしまった。
『うふぇふぇっ、これでアキラちゃんはぁ、お友だぁちぃ』
「ぁっ、ぐっぁ、ぁああぁあっ――!」
愛おしい恋人を抱きしめるかのように、アロリーロが薔薇の卵に腕を回して力を込める。
卵の中からは、棘が刺さってダメージを受けているのだろう、アキラちゃんの悲鳴が上がり続けた。
「アキラちゃんを傷つけるやつがっ――」
私は、アロリーロに手が届く距離まで迫る。
そして、手の中で暴れるギュルギュルという振動を、力で無理やり押さえつけていた。
手の中には、クリエイターのスキルで創造した“チェーンソー”。
高速で回転するその鈍色の刃を、アロリーロの腹部に叩きつけた。
「――友だちを名乗るなんてっ、私が許さない!」
『えべっ、びゃびゃびゃぶぶべびょっ!?』
甲高い金属音を響かせながら、チェーンソーがお腹をめためたに切り刻んでいく。
アロリーロに巻き付いていた薔薇はちぎり切れ、蔓の棘が辺りに飛び散る。
しかし。
『ばばばびゃっ、なびゃっだ、このぶぎっ、ひゅごひゅぎっ……!』
目の前のアロリーロは、苦痛というよりも恍惚のために、その美しい顔をゆがめていた。
徐々に、回転する刃の勢いが弱まっていく。
いまの私のレベルでは、チェーンソーレベルの複雑な構造だと10秒程度の具現化が限界だ。
タイムリミットを迎えて、手の中のチェーンソーは淡い光になって消えてしまう。
『……ぇひゃぁ、もう終わりぃ?』
お腹に大穴を開けたまま、アロリーロが私の頬を片手で撫でた。
手を覆う薔薇の棘だろうか、触られた頬がチクリと痛む。
私の戦意は、穴の空いた風船のように急激にしぼんでいく。
アキラちゃんの声も、もう聞こえなくなっていた。
『キャロちゃぁん、惜しかったねぇ。あなたの力の方がぁ、可能性あったのにねぇ』
私の方が、アキラちゃんより……?
攻撃の威力は、絶対にアキラちゃんの方が強いはずなのに。
動揺を隠せない私の顔を見て、アロリーロは口角を吊り上げて笑った。
近くで見ると、その紅い瞳は宝石のように輝き、私の視線が自ずと吸い込まれる。
『ふふっ、そうそう、楽にしよぉ。私たちぃ、友だちでしょぉ?』
「友だち……?」
アロリーロが両手を広げると、身体に巻き付いていた薔薇の蔓がベリベリと剥がれて。
私に向かって、その暴力的な美しさを伸ばしてくる。
『えへへぇ、アキラちゃんもキャロちゃんもぉ、ぷふっ、だぁい好きぃ』
なんだろう、頭にもやがかかっているのかな。
なにも、考えられない。
目の前の、甘い香り、甘い声に、全てを委ねるしかなくなる。
ぼんやりと、誘惑に負けた。
そんな私が、アロリーロの肢体を抱きしめる直前。
「えっ……?」
思わず、気の抜けた声が私の口から発せられる。
アロリーロの肩越しに、その背後。
煌めく金色の髪は、この薄暗い空間でも光を放ちつつ、翼のように広がり。
凛と澄まされた顔の美しさも相まって、まるで傑作の絵画のようだ。
天上の女神としか思えない。
そのような存在の降臨する光景が、私の瞳に飛び込むのだった。
「アキラちゃんっ、本体っ!」
「わかったっ!」
おそらく、薔薇をどれだけ切ったところで、アロリーロを倒すことはできないだろう。
私たちはそれぞれ横に跳んで、迫る薔薇の波を躱した。
着地の瞬間、床に敷き詰められた薔薇の棘がざくりざくりと足に刺さる。
しかし、それを気にしている余裕なんてなかった。
「キャロ、援護してっ」
アロリーロに向かって駆け出すアキラちゃん。
その四方八方から、アキラちゃんを攻撃するためだろう、幾本もの薔薇が伸びてくる。
「マテリアライズ!」
その薔薇たちは、私が発現させた数十の植木鉢に突っ込んでいった。
植木鉢ぐらい簡単な造型のものだったら、一瞬のうちに描き出すことができるのだ。
アキラちゃんに届いた薔薇は一本もなく、全て植木鉢の中で飼い殺される。
『へぇ? 珍しいねぇ、クリエイターじゃん』
眼前に迫ったアキラちゃんを歯牙にもかけず、アロリーロはのんきな声を上げた。
嫌な予感が、私の胸をよぎる。
「アキラちゃん!」
そんな胸騒ぎをよそに、振り下ろしたアキラちゃんのハイミスリル・ソードが、アロリーロの肩から侵入し胸までを斬り進んでいた。
あれ、意外とあっけなく倒せた……?
あっ、やばい、フラグみたいなこと思っちゃった!
「なっ、このっ……!」
アロリーロに突き刺さるソードの柄を、アキラちゃんは体重をかけて思いっきり引っ張る。
しかし、それはビクともしないようだ。
『えひゃひゃひゃぁっ、この武器じゃあ、私は倒せないかなぁ!』
自らに刺さるソードの刃を掴み、愉しそうに笑うアロリーロ。
もしかしたら、効かないことがわかっていて、わざと斬りつけさせたのかもしれない。
武器を奪われ、敵の近くに留まるのは危険だ。
そう思ったのだろう、アキラちゃんは剣を引くのを諦めた。
て柄から手を離し、大きく後ろに跳んだ。
「ぅわ、ちょっ――!?」
だが、後退ったアキラちゃんが床に足を着ける。
その瞬間、床の薔薇が燃え上がるように一気に膨らんだ。
アキラちゃんが逃れる隙はなく、その姿を包み込み隠してしまった。
『うふぇふぇっ、これでアキラちゃんはぁ、お友だぁちぃ』
「ぁっ、ぐっぁ、ぁああぁあっ――!」
愛おしい恋人を抱きしめるかのように、アロリーロが薔薇の卵に腕を回して力を込める。
卵の中からは、棘が刺さってダメージを受けているのだろう、アキラちゃんの悲鳴が上がり続けた。
「アキラちゃんを傷つけるやつがっ――」
私は、アロリーロに手が届く距離まで迫る。
そして、手の中で暴れるギュルギュルという振動を、力で無理やり押さえつけていた。
手の中には、クリエイターのスキルで創造した“チェーンソー”。
高速で回転するその鈍色の刃を、アロリーロの腹部に叩きつけた。
「――友だちを名乗るなんてっ、私が許さない!」
『えべっ、びゃびゃびゃぶぶべびょっ!?』
甲高い金属音を響かせながら、チェーンソーがお腹をめためたに切り刻んでいく。
アロリーロに巻き付いていた薔薇はちぎり切れ、蔓の棘が辺りに飛び散る。
しかし。
『ばばばびゃっ、なびゃっだ、このぶぎっ、ひゅごひゅぎっ……!』
目の前のアロリーロは、苦痛というよりも恍惚のために、その美しい顔をゆがめていた。
徐々に、回転する刃の勢いが弱まっていく。
いまの私のレベルでは、チェーンソーレベルの複雑な構造だと10秒程度の具現化が限界だ。
タイムリミットを迎えて、手の中のチェーンソーは淡い光になって消えてしまう。
『……ぇひゃぁ、もう終わりぃ?』
お腹に大穴を開けたまま、アロリーロが私の頬を片手で撫でた。
手を覆う薔薇の棘だろうか、触られた頬がチクリと痛む。
私の戦意は、穴の空いた風船のように急激にしぼんでいく。
アキラちゃんの声も、もう聞こえなくなっていた。
『キャロちゃぁん、惜しかったねぇ。あなたの力の方がぁ、可能性あったのにねぇ』
私の方が、アキラちゃんより……?
攻撃の威力は、絶対にアキラちゃんの方が強いはずなのに。
動揺を隠せない私の顔を見て、アロリーロは口角を吊り上げて笑った。
近くで見ると、その紅い瞳は宝石のように輝き、私の視線が自ずと吸い込まれる。
『ふふっ、そうそう、楽にしよぉ。私たちぃ、友だちでしょぉ?』
「友だち……?」
アロリーロが両手を広げると、身体に巻き付いていた薔薇の蔓がベリベリと剥がれて。
私に向かって、その暴力的な美しさを伸ばしてくる。
『えへへぇ、アキラちゃんもキャロちゃんもぉ、ぷふっ、だぁい好きぃ』
なんだろう、頭にもやがかかっているのかな。
なにも、考えられない。
目の前の、甘い香り、甘い声に、全てを委ねるしかなくなる。
ぼんやりと、誘惑に負けた。
そんな私が、アロリーロの肢体を抱きしめる直前。
「えっ……?」
思わず、気の抜けた声が私の口から発せられる。
アロリーロの肩越しに、その背後。
煌めく金色の髪は、この薄暗い空間でも光を放ちつつ、翼のように広がり。
凛と澄まされた顔の美しさも相まって、まるで傑作の絵画のようだ。
天上の女神としか思えない。
そのような存在の降臨する光景が、私の瞳に飛び込むのだった。
0
お気に入りに追加
162
あなたにおすすめの小説
VRゲームでも身体は動かしたくない。
姫野 佑
SF
多種多様な武器やスキル、様々な【称号】が存在するが職業という概念が存在しない<Imperial Of Egg>。
古き良きPCゲームとして稼働していた<Imperial Of Egg>もいよいよ完全没入型VRMMO化されることになった。
身体をなるべく動かしたくないと考えている岡田智恵理は<Imperial Of Egg>がVRゲームになるという発表を聞いて気落ちしていた。
しかしゲーム内の親友との会話で落ち着きを取り戻し、<Imperial Of Egg>にログインする。
当作品は小説家になろう様で連載しております。
章が完結次第、一日一話投稿致します。
ユニーク職業最弱だと思われてたテイマーが最強だったと知れ渡ってしまったので、多くの人に注目&推しにされるのなぜ?
水まんじゅう
SF
懸賞で、たまたま当たったゲーム「君と紡ぐ世界」でユニーク職業を引き当ててしまった、和泉吉江。 そしてゲームをプイイし、決まった職業がユニーク職業最弱のテイマーという職業だ。ユニーク最弱と罵られながらも、仲間とテイムした魔物たちと強くなっていき罵ったやつらを見返していく物語
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜
八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。
第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。
大和型三隻は沈没した……、と思われた。
だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。
大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。
祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。
※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています!
面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※
※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
最前線攻略に疲れた俺は、新作VRMMOを最弱職業で楽しむことにした
水の入ったペットボトル
SF
これまであらゆるMMOを最前線攻略してきたが、もう俺(大川優磨)はこの遊び方に満足してしまった。いや、もう楽しいとすら思えない。
ゲームは楽しむためにするものだと思い出した俺は、新作VRMMOを最弱職業『テイマー』で始めることに。
βテストでは最弱職業だと言われていたテイマーだが、主人公の活躍によって評価が上がっていく?
そんな周りの評価など関係なしに、今日も主人公は楽しむことに全力を出す。
この作品は「カクヨム」様、「小説家になろう」様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる