60 / 105
Spin-off Tales
滲み出る、悪魔の香り
しおりを挟む
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【警告】
この先、ログアウトができないエリアです。
デスペナルティにご注意ください。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「エリアボス……?」
ふいに現れた警告に、私は思わずつぶやいた。
この警告表示は、それぞれのエリアに設定されたエリアボスがいる空間に足を踏み入れるときに出てくるものだ。
ちなみに、エリアボスとは、ちょっと強かったり珍しかったりするその場所の主のようなモンスターのことである。
しかし、この霧の森のエリアボスは、もっと奥深くにいるマシュマリティック・ジャイアントシープだったはずだ。
「いや、どうだろう、ここに出るやつなんていたかなぁ?」
おそらく同じ思考をなぞったのだろう、アキラちゃんは私のつぶやきに返事をしてくれる。
うーん、そうなんだよね。
準備を整えてから満を持して挑戦するのが、エリアボスというものだ。
あちらから急に現れる、なんていうことは考えづらい。
「でも、じゃあ、これはなんだろう……」
鉄柵に触れてみると、ひんやりと冷たさが伝わり背筋がぞくりとした。
いや、雰囲気に当てられているだけなのかもしれないけど。
「……ねえ、キャロちゃん。もしデスったら、マズいかな?」
「ううん、エスケープウールがもったいないなぁってぐらい――って、ここに入るつもり?」
驚いて、アキラちゃんに視線を向ける。
すると案の定、そこにはとっても愛くるしいわくわく顔があった。
たぶん、私にアキラちゃん要素がちょっとでも混ぜられていたら、もう少しは友だちもいただろうな。
「だって、もし隠しボスみたいなものだとしたら、まだ誰も挑戦していないかもしれないんだよ?」
行くしかないでしょ、とアキラちゃんは少年のように微笑む。
もし私が止めておこうと言ったら、きっと止めてくれるのだろう。
しかし、そんなに楽しそうにされたら、私は――。
「……この洋館が隠しボスの住処だとしたら、負けイベントの可能性もある」
いまの段階では絶対に倒すことができないレベルの敵が現れる、それが負けイベントだ。
そういうものがこのゲームに存在しているのかは疑問だが、用心するに越したことはない。
私の言葉を、アキラちゃんは黙って聞いてくれている。
だから、私は安心して言葉を紡ぐことができた。
「エスケープウールは二人で力を合わせて手に入れたものだから、アキラちゃんが持っててくれる?」
「……わかった、任せて」
アキラちゃんは脳筋ではあるけれど、頭が回らないというわけではない。
もし負けイベントだった場合、強敵から逃げる必要がある。
その際に、クリエイターの私よりも、ナイトのアキラちゃんの方が逃げ切れる確率は高い。
だから、いざとなったら私を置いて、アキラちゃんだけで逃げてもらおうということだ。
「うん、任せたからね」
私はアイテムポーチからエスケープウールを全て取り出して、アキラちゃんに渡す。
所持リラも少ないし、アイテムを整理したばかりでよかった。
「よしっ、キャロちゃん、行こっ」
私の手をぎゅっと握って、引っ張るように歩き出すアキラちゃん。
離さなきゃいけなくなるまではしっかりと掴んでいてほしい、そう思う。
中に入る門扉を探して、私とアキラちゃんは敷地の周囲を探っていった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
鉄柵に沿って進んでいくと、やがて中への入り口だと思われる門扉を見つけた。
その鉄製の門扉をくぐり、洋館に入ることのできそうな大きな扉にたどり着く。
お互いに顔を見合わせてから、私が扉に手をかけて、ゆっくりと開いた。
すると、扉の中からは埃っぽさとともに、ツンとするほどの甘い匂いが鼻に飛び込んでくる。
なんだろう……なにかの花の匂い、かな?
「おっけー、キャロちゃん」
敵が飛び出してくることに備えてくれていたアキラちゃん。
私が開けた扉に滑り込むようにして、先に洋館に足を踏み入れる。
そして、アキラちゃんに続けて、私も。
洋館の中は霧の濃い外よりも暗く、ほんの少し先までしか見えない。
「暗いな……」
「ちょっと待ってね、なにか灯り作るから」
アキラちゃんのつぶやきを聞いて、私は絵筆を手に取った。
簡単なものの方が長持ちなので、ささっと描いて発現させることにする。
数秒ほどで完成したのは、小さなランタンだ。
「いいね、ありがと」
そう言って私を振り返るアキラちゃんの手元に、マテリアライズしたランタンが収まる。
ランタンの温かい光が、洋館の中をほんのりと照らしていった。
「サイズ的に、3分は保つと――」
間近にあったアキラちゃんの真剣な表情に目が奪われていたため、気づくのに時間がかかった。
光源が生まれたことによって、広がった私の視界。
ここは洋館のエントランスホールなのだろう、大きな吹き抜けの空間が広がっている。
しかし、どこに次の部屋への扉があるのかとか二階への階段があるのかなどはわからない。
なぜなら、空間の全てを覆い隠すかのように、おびただしいほどの真っ赤な薔薇が埋め尽くしていたから。
「どうしたの? ぅわっ、えっ、怖っ……!」
私が見ている方向を振り返って、同じ光景を視界に入れたアキラちゃん。
思わずといった様子で、その豊満な胸をぎゅっと私に押しつけるのだった。
シリアスな気持ちに不純なものが混ざるから止めてほしい、ほんとに。
【警告】
この先、ログアウトができないエリアです。
デスペナルティにご注意ください。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「エリアボス……?」
ふいに現れた警告に、私は思わずつぶやいた。
この警告表示は、それぞれのエリアに設定されたエリアボスがいる空間に足を踏み入れるときに出てくるものだ。
ちなみに、エリアボスとは、ちょっと強かったり珍しかったりするその場所の主のようなモンスターのことである。
しかし、この霧の森のエリアボスは、もっと奥深くにいるマシュマリティック・ジャイアントシープだったはずだ。
「いや、どうだろう、ここに出るやつなんていたかなぁ?」
おそらく同じ思考をなぞったのだろう、アキラちゃんは私のつぶやきに返事をしてくれる。
うーん、そうなんだよね。
準備を整えてから満を持して挑戦するのが、エリアボスというものだ。
あちらから急に現れる、なんていうことは考えづらい。
「でも、じゃあ、これはなんだろう……」
鉄柵に触れてみると、ひんやりと冷たさが伝わり背筋がぞくりとした。
いや、雰囲気に当てられているだけなのかもしれないけど。
「……ねえ、キャロちゃん。もしデスったら、マズいかな?」
「ううん、エスケープウールがもったいないなぁってぐらい――って、ここに入るつもり?」
驚いて、アキラちゃんに視線を向ける。
すると案の定、そこにはとっても愛くるしいわくわく顔があった。
たぶん、私にアキラちゃん要素がちょっとでも混ぜられていたら、もう少しは友だちもいただろうな。
「だって、もし隠しボスみたいなものだとしたら、まだ誰も挑戦していないかもしれないんだよ?」
行くしかないでしょ、とアキラちゃんは少年のように微笑む。
もし私が止めておこうと言ったら、きっと止めてくれるのだろう。
しかし、そんなに楽しそうにされたら、私は――。
「……この洋館が隠しボスの住処だとしたら、負けイベントの可能性もある」
いまの段階では絶対に倒すことができないレベルの敵が現れる、それが負けイベントだ。
そういうものがこのゲームに存在しているのかは疑問だが、用心するに越したことはない。
私の言葉を、アキラちゃんは黙って聞いてくれている。
だから、私は安心して言葉を紡ぐことができた。
「エスケープウールは二人で力を合わせて手に入れたものだから、アキラちゃんが持っててくれる?」
「……わかった、任せて」
アキラちゃんは脳筋ではあるけれど、頭が回らないというわけではない。
もし負けイベントだった場合、強敵から逃げる必要がある。
その際に、クリエイターの私よりも、ナイトのアキラちゃんの方が逃げ切れる確率は高い。
だから、いざとなったら私を置いて、アキラちゃんだけで逃げてもらおうということだ。
「うん、任せたからね」
私はアイテムポーチからエスケープウールを全て取り出して、アキラちゃんに渡す。
所持リラも少ないし、アイテムを整理したばかりでよかった。
「よしっ、キャロちゃん、行こっ」
私の手をぎゅっと握って、引っ張るように歩き出すアキラちゃん。
離さなきゃいけなくなるまではしっかりと掴んでいてほしい、そう思う。
中に入る門扉を探して、私とアキラちゃんは敷地の周囲を探っていった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
鉄柵に沿って進んでいくと、やがて中への入り口だと思われる門扉を見つけた。
その鉄製の門扉をくぐり、洋館に入ることのできそうな大きな扉にたどり着く。
お互いに顔を見合わせてから、私が扉に手をかけて、ゆっくりと開いた。
すると、扉の中からは埃っぽさとともに、ツンとするほどの甘い匂いが鼻に飛び込んでくる。
なんだろう……なにかの花の匂い、かな?
「おっけー、キャロちゃん」
敵が飛び出してくることに備えてくれていたアキラちゃん。
私が開けた扉に滑り込むようにして、先に洋館に足を踏み入れる。
そして、アキラちゃんに続けて、私も。
洋館の中は霧の濃い外よりも暗く、ほんの少し先までしか見えない。
「暗いな……」
「ちょっと待ってね、なにか灯り作るから」
アキラちゃんのつぶやきを聞いて、私は絵筆を手に取った。
簡単なものの方が長持ちなので、ささっと描いて発現させることにする。
数秒ほどで完成したのは、小さなランタンだ。
「いいね、ありがと」
そう言って私を振り返るアキラちゃんの手元に、マテリアライズしたランタンが収まる。
ランタンの温かい光が、洋館の中をほんのりと照らしていった。
「サイズ的に、3分は保つと――」
間近にあったアキラちゃんの真剣な表情に目が奪われていたため、気づくのに時間がかかった。
光源が生まれたことによって、広がった私の視界。
ここは洋館のエントランスホールなのだろう、大きな吹き抜けの空間が広がっている。
しかし、どこに次の部屋への扉があるのかとか二階への階段があるのかなどはわからない。
なぜなら、空間の全てを覆い隠すかのように、おびただしいほどの真っ赤な薔薇が埋め尽くしていたから。
「どうしたの? ぅわっ、えっ、怖っ……!」
私が見ている方向を振り返って、同じ光景を視界に入れたアキラちゃん。
思わずといった様子で、その豊満な胸をぎゅっと私に押しつけるのだった。
シリアスな気持ちに不純なものが混ざるから止めてほしい、ほんとに。
0
お気に入りに追加
162
あなたにおすすめの小説
VRゲームでも身体は動かしたくない。
姫野 佑
SF
多種多様な武器やスキル、様々な【称号】が存在するが職業という概念が存在しない<Imperial Of Egg>。
古き良きPCゲームとして稼働していた<Imperial Of Egg>もいよいよ完全没入型VRMMO化されることになった。
身体をなるべく動かしたくないと考えている岡田智恵理は<Imperial Of Egg>がVRゲームになるという発表を聞いて気落ちしていた。
しかしゲーム内の親友との会話で落ち着きを取り戻し、<Imperial Of Egg>にログインする。
当作品は小説家になろう様で連載しております。
章が完結次第、一日一話投稿致します。
ユニーク職業最弱だと思われてたテイマーが最強だったと知れ渡ってしまったので、多くの人に注目&推しにされるのなぜ?
水まんじゅう
SF
懸賞で、たまたま当たったゲーム「君と紡ぐ世界」でユニーク職業を引き当ててしまった、和泉吉江。 そしてゲームをプイイし、決まった職業がユニーク職業最弱のテイマーという職業だ。ユニーク最弱と罵られながらも、仲間とテイムした魔物たちと強くなっていき罵ったやつらを見返していく物語
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜
八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。
第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。
大和型三隻は沈没した……、と思われた。
だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。
大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。
祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。
※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています!
面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※
※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
最前線攻略に疲れた俺は、新作VRMMOを最弱職業で楽しむことにした
水の入ったペットボトル
SF
これまであらゆるMMOを最前線攻略してきたが、もう俺(大川優磨)はこの遊び方に満足してしまった。いや、もう楽しいとすら思えない。
ゲームは楽しむためにするものだと思い出した俺は、新作VRMMOを最弱職業『テイマー』で始めることに。
βテストでは最弱職業だと言われていたテイマーだが、主人公の活躍によって評価が上がっていく?
そんな周りの評価など関係なしに、今日も主人公は楽しむことに全力を出す。
この作品は「カクヨム」様、「小説家になろう」様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる