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前菜は、甘い日々で
私の子どもたちは伸びしろがいっぱいです
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『あらあら、仲睦まじいことですね』
口元に手をやりつつ、リリアはくすくすと笑う。
真っ白な空間に戻ってきた私の背中には、スラリアがおんぶされていた。
ちょっと前まで、私とスラリアで『テイルズ・オンライン』内の名物カフェにいて。
スラリアは甘い物をたくさん食べて眠くなったのか、すやすやと寝息を立てている。
「……ねえ、リリア? この子、私の使用武器のはずなんだけど」
もし魔物かなにかが襲ってきたら、私はどうやって身を守ればいいのだろうか。
まあ、同調のスキルを無理やり使えば済む話だと思うけれど。
『ふふっ、それだけリリア様がテイマーとして優れているということです』
「えー? そういうことになる、のかな……?」
私が首を傾げているのを、リリアは微笑ましく眺めていた。
ちょっとだけ、むずむずして居心地が悪い。
「そうだ、リリアにお土産があるんだよね」
リリアからの温かい視線を遮るため、スラリアをおんぶしたままアイテムポーチを探る。
目当てのものはすぐに見つかる、というか思ったものが取り出される仕様だ。
『私にお土産、ですか?』
「うん、はいっ、どうぞ」
きょとんとしているリリアの顔は、ひじょうに愛くるしい。
その前に、カフェでテイクアウトしたウィスプ餅を差し出す。
リリアがなにかを食べている姿を見たことはないけど、いつもお世話になっているから買っておいたのだ。
『えっと……本当に、いただいてもよろしいのですか?』
私が頷くと、そっと両手でウィスプ餅を包んで持つリリア。
受け取ってもらえてよかったぁ、もしかしたら固辞されちゃうかもしれないと思っていたから。
「ほら、眺めてないで食べて食べて。スラリアが頼んだやつをちょっともらったけど、けっこう美味しかったんだから」
リリアはおそるおそるといった感じで、ウィスプ餅を食んだ。
歯切れのよいお餅を、もぐもぐと咀嚼する。
美味しかったのか、少し嬉しそうなのがわかった。
『あの……あんまり見られていると、恥ずかしいです……』
「ああ、ごめんごめん」
うらめしげな視線を向けられたので、私はリリアから視線を逸らした。
視界の端で、ちょっと頬を赤らめたリリアがウィスプ餅を食べ終える。
『……うん、美味しかったです。ありがとうございましたっ』
ぺこりと、礼儀正しく頭を下げたリリア。
「いいえ、どういたしまして――ところで、ちょっと相談したいことがあるんだけど」
『はい、なんでしょうか?』
可愛く首を傾げるリリアに、魔法に対処するにはどのような方法があるのか聞いてみた。
もちろん、“スラリアといっしょに”というのが前提の質問だ。
『うーん、そうですね……やはり、魔法耐性の大きい防具を身に着けるのがいいのではないでしょうか』
「なるほど、いま私が身に着けているのは中級装備だもんね」
『はい、魔法耐性の付与された上級装備でしたら、もっと魔法に対して強く出ることができると思います』
私の背中で眠るスラリアが、むにゅぅと微睡む。
上級の装備にどれだけのリラがかかるとしても、この子を手放すなんてことは考えられない。
「じゃあ、なるべく装備は調えるようにする――他にも方法はあるかな?」
装備のおかげで魔法に強くなった――それだけだと、スラリアが納得できないかもしれないから。
私の問いかけに、リリアは顎に手を当ててなにやら考えている。
『えっと、あるにはあるのですが……』
申し訳なさそうに言いよどむリリア。
以前にシキミさんの情報を教えてくれたときも、伝えられることに制限があるみたいだったもんね。
まあ、そういうことなら仕方がないか。
そうして諦めた私は、スラリアをおんぶしたままリリアに抱きつく。
『ふぇっ!? ななっ、なんですか?』
あわわと慌てるリリアの声が、空間に響いた。
身じろぎするこの子を逃がさないように、私はその背中にぎゅっと手を回す。
柔らかなムカつく感触が強くなる。
「……ねえ、リリア。お餅、美味しかった?」
『っ! もしかして、さっきのお土産は賄賂みたいなものだった……?』
「そんな、人聞きの悪い。ちょっと聞いてみただけだよ?」
私が見上げると、リリアは恥ずかしそうに視線を逸らした。
ふむ、もう少し押したらいけそうな気がする。
「スラリアがね、パートナーを変えられちゃうんじゃないかって心配してるの」
『えっ、スラリアちゃんが?』
「もちろん、変えるつもりなんてないんだけど……それでも、ねえ?」
リリアの女神な慈悲を、くすぐるような言葉を投げかけた。
やはり悩んでいるのだろうか、リリアは、私と背中のスラリアを交互に眺める。
そして、しばらくして口を開いた。
『……いまリリア様の持っているダガーは、もともと普通のミスリル・ダガーでした』
私の加護を受けて悪魔特攻を持つダガーになったのです、とリリアは続ける。
「つまり、スラリアも強くなれるってこと?」
『はい、条件はさまざまですが、どんな武器でもグレードアップの可能性はあります』
なるほど、いまのスラリアはただのスライムだけど、もしかしたらグレードアップによって魔法に強くなったりするかもしれないのか。
『もうついでに言っちゃいますけど、リリア様はジョブのグレードアップも控えていますからね』
「あっ、そういえばそうだねっ」
シキミさんがシーフからアサシンにグレードアップしたのを忘れていた。
ジョブがグレードアップすれば、魔法に対してのアプローチができるかもなんだね。
納得して数度頷く私を見下ろして、リリアはくすくすと笑った。
『ふふっ、あなたたちは、私たちの予想を越えて強くなっている――』
私の頭とスラリアの頭をそれぞれ、優しく撫でながら告げる。
『――だから、自信を持って進みなさい』
いつもの笑みではなく、どこか神々しい微笑みを浮かべているリリア。
たまに現れる女神リリアの雰囲気は、心をぎゅっと握って離してくれないのだ。
思わず見とれていると、ぱっと恥ずかしそうに頬を赤らめた女神様は、いつものリリアに戻った。
『あっ、あのぅ、そろそろ離してもらえると……』
もごもごと口を動かすリリアは、NPCだけど、女神だけど、めちゃくちゃ可愛い。
やだっ、魔法耐性の上級装備をくれるまで離さないっ。
そっ、そこまでのサポートはできませんよぉ。
ぅん……? あっ、お姉様っ、なんだか楽しそうですね!
スラリアも反対側からリリアをぎゅっとして。
はい! なんだかわかりませんが、頑張ります!
あぅ、頑張らないで……?
ほらほら、離してほしかったら、出すもの出してもらわないとねぇ。
お姉様は悪い顔も素敵ですねっ。
うぅ、セクハラで通報しますよ……?
でも、よく考えたら、リリアは逃げようと思えば簡単に逃げられるんじゃない?
ふぇっ!?
あっ、その顔は図星なんだね。
そうですね、女神様だったらシュパッと瞬間移動とかできるはずですから。
こんな感じでスラリアといっしょにリリアをからかっていたら、最終的に、無理やり戦闘サポートを受けさせられる結果になった。
ゲームの世界だけれど、普通に死の恐怖を感じて。
リリアをからかうのはほどほどにしよう、そう心に誓いました。
口元に手をやりつつ、リリアはくすくすと笑う。
真っ白な空間に戻ってきた私の背中には、スラリアがおんぶされていた。
ちょっと前まで、私とスラリアで『テイルズ・オンライン』内の名物カフェにいて。
スラリアは甘い物をたくさん食べて眠くなったのか、すやすやと寝息を立てている。
「……ねえ、リリア? この子、私の使用武器のはずなんだけど」
もし魔物かなにかが襲ってきたら、私はどうやって身を守ればいいのだろうか。
まあ、同調のスキルを無理やり使えば済む話だと思うけれど。
『ふふっ、それだけリリア様がテイマーとして優れているということです』
「えー? そういうことになる、のかな……?」
私が首を傾げているのを、リリアは微笑ましく眺めていた。
ちょっとだけ、むずむずして居心地が悪い。
「そうだ、リリアにお土産があるんだよね」
リリアからの温かい視線を遮るため、スラリアをおんぶしたままアイテムポーチを探る。
目当てのものはすぐに見つかる、というか思ったものが取り出される仕様だ。
『私にお土産、ですか?』
「うん、はいっ、どうぞ」
きょとんとしているリリアの顔は、ひじょうに愛くるしい。
その前に、カフェでテイクアウトしたウィスプ餅を差し出す。
リリアがなにかを食べている姿を見たことはないけど、いつもお世話になっているから買っておいたのだ。
『えっと……本当に、いただいてもよろしいのですか?』
私が頷くと、そっと両手でウィスプ餅を包んで持つリリア。
受け取ってもらえてよかったぁ、もしかしたら固辞されちゃうかもしれないと思っていたから。
「ほら、眺めてないで食べて食べて。スラリアが頼んだやつをちょっともらったけど、けっこう美味しかったんだから」
リリアはおそるおそるといった感じで、ウィスプ餅を食んだ。
歯切れのよいお餅を、もぐもぐと咀嚼する。
美味しかったのか、少し嬉しそうなのがわかった。
『あの……あんまり見られていると、恥ずかしいです……』
「ああ、ごめんごめん」
うらめしげな視線を向けられたので、私はリリアから視線を逸らした。
視界の端で、ちょっと頬を赤らめたリリアがウィスプ餅を食べ終える。
『……うん、美味しかったです。ありがとうございましたっ』
ぺこりと、礼儀正しく頭を下げたリリア。
「いいえ、どういたしまして――ところで、ちょっと相談したいことがあるんだけど」
『はい、なんでしょうか?』
可愛く首を傾げるリリアに、魔法に対処するにはどのような方法があるのか聞いてみた。
もちろん、“スラリアといっしょに”というのが前提の質問だ。
『うーん、そうですね……やはり、魔法耐性の大きい防具を身に着けるのがいいのではないでしょうか』
「なるほど、いま私が身に着けているのは中級装備だもんね」
『はい、魔法耐性の付与された上級装備でしたら、もっと魔法に対して強く出ることができると思います』
私の背中で眠るスラリアが、むにゅぅと微睡む。
上級の装備にどれだけのリラがかかるとしても、この子を手放すなんてことは考えられない。
「じゃあ、なるべく装備は調えるようにする――他にも方法はあるかな?」
装備のおかげで魔法に強くなった――それだけだと、スラリアが納得できないかもしれないから。
私の問いかけに、リリアは顎に手を当ててなにやら考えている。
『えっと、あるにはあるのですが……』
申し訳なさそうに言いよどむリリア。
以前にシキミさんの情報を教えてくれたときも、伝えられることに制限があるみたいだったもんね。
まあ、そういうことなら仕方がないか。
そうして諦めた私は、スラリアをおんぶしたままリリアに抱きつく。
『ふぇっ!? ななっ、なんですか?』
あわわと慌てるリリアの声が、空間に響いた。
身じろぎするこの子を逃がさないように、私はその背中にぎゅっと手を回す。
柔らかなムカつく感触が強くなる。
「……ねえ、リリア。お餅、美味しかった?」
『っ! もしかして、さっきのお土産は賄賂みたいなものだった……?』
「そんな、人聞きの悪い。ちょっと聞いてみただけだよ?」
私が見上げると、リリアは恥ずかしそうに視線を逸らした。
ふむ、もう少し押したらいけそうな気がする。
「スラリアがね、パートナーを変えられちゃうんじゃないかって心配してるの」
『えっ、スラリアちゃんが?』
「もちろん、変えるつもりなんてないんだけど……それでも、ねえ?」
リリアの女神な慈悲を、くすぐるような言葉を投げかけた。
やはり悩んでいるのだろうか、リリアは、私と背中のスラリアを交互に眺める。
そして、しばらくして口を開いた。
『……いまリリア様の持っているダガーは、もともと普通のミスリル・ダガーでした』
私の加護を受けて悪魔特攻を持つダガーになったのです、とリリアは続ける。
「つまり、スラリアも強くなれるってこと?」
『はい、条件はさまざまですが、どんな武器でもグレードアップの可能性はあります』
なるほど、いまのスラリアはただのスライムだけど、もしかしたらグレードアップによって魔法に強くなったりするかもしれないのか。
『もうついでに言っちゃいますけど、リリア様はジョブのグレードアップも控えていますからね』
「あっ、そういえばそうだねっ」
シキミさんがシーフからアサシンにグレードアップしたのを忘れていた。
ジョブがグレードアップすれば、魔法に対してのアプローチができるかもなんだね。
納得して数度頷く私を見下ろして、リリアはくすくすと笑った。
『ふふっ、あなたたちは、私たちの予想を越えて強くなっている――』
私の頭とスラリアの頭をそれぞれ、優しく撫でながら告げる。
『――だから、自信を持って進みなさい』
いつもの笑みではなく、どこか神々しい微笑みを浮かべているリリア。
たまに現れる女神リリアの雰囲気は、心をぎゅっと握って離してくれないのだ。
思わず見とれていると、ぱっと恥ずかしそうに頬を赤らめた女神様は、いつものリリアに戻った。
『あっ、あのぅ、そろそろ離してもらえると……』
もごもごと口を動かすリリアは、NPCだけど、女神だけど、めちゃくちゃ可愛い。
やだっ、魔法耐性の上級装備をくれるまで離さないっ。
そっ、そこまでのサポートはできませんよぉ。
ぅん……? あっ、お姉様っ、なんだか楽しそうですね!
スラリアも反対側からリリアをぎゅっとして。
はい! なんだかわかりませんが、頑張ります!
あぅ、頑張らないで……?
ほらほら、離してほしかったら、出すもの出してもらわないとねぇ。
お姉様は悪い顔も素敵ですねっ。
うぅ、セクハラで通報しますよ……?
でも、よく考えたら、リリアは逃げようと思えば簡単に逃げられるんじゃない?
ふぇっ!?
あっ、その顔は図星なんだね。
そうですね、女神様だったらシュパッと瞬間移動とかできるはずですから。
こんな感じでスラリアといっしょにリリアをからかっていたら、最終的に、無理やり戦闘サポートを受けさせられる結果になった。
ゲームの世界だけれど、普通に死の恐怖を感じて。
リリアをからかうのはほどほどにしよう、そう心に誓いました。
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