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Real World&Tale29:この勝利をリリアのために
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こんこんっ。
自室で勉強をしていると、急くようなノックの音が部屋に響いた。
「はーい?」
叩き方のクセは、弟の莉央のものだろう。
試験期間中だから、わからない問題を聞きに来たのかな。
「姉ちゃん、あのさ」
あら、違ったか。
予想に反して、手にはノートも教科書も持っていない莉央が現れた。
ということは、あっちの話だと見当がつく。
「どうしたの?」
座っていた椅子をくるっと回して、莉央に向き合う。
「シキミさんのジョブ、シーフからアサシンにグレードアップしたんだって」
やっぱり、テイルズ・オンラインのことだった。
実は、莉央にはシキミさんのプレイ状況をそれとなく探ってもらっていたのだ。
うん、莉央がシキミさんとゲーム仲間で良かった。
おそらく、闘技大会前だから自分の手の内を隠すのが常套。
ジョブのグレードアップも、掲示板に書き込んだりはしなかっただろう。
「アサシンって、どんなジョブなんだろう」
「状態異常生成のスキルが強くて、毒とか麻痺の状態異常を作れるみたいだね」
なるほど、それは確かに暗殺者っぽい。
闇夜の中から近づいて、相手が気づかぬ間にシュッと殺っちゃうのだ。
「ありがとね、莉央。それにしても、シキミさん、よく教えてくれたね」
頼んでおいた私が言うのもなんだけど、まったくの収穫なしになることだって大いに考えられた。
莉央とシキミさんは他のVRMMOをいっしょにプレイしていたことがあるけど、なんでも話す親友! というほどの間柄なわけではないらしいから。
まあ、男の子ってそういうところドライなのかな。
「俺が『テイルズ』の抽選当たったのに遊べなくなったこと、シキミさん知ってたみたいなんだよね。だから、うーん、上手く言えないけど同情してくれたってことなのかな? けっきょく、シキミさんもゲーム好きなだけなんだよ」
騙しているみたいで気が引けるけど、と莉央は苦笑いする。
「まあ、なにか嘘を言っているわけじゃないから、いいんじゃない? スポーツでは対戦相手の情報を収集するし、学業でも頭の良い子がどんな勉強方法なのか聞いたりするのが普通よ」
早口で言葉を紡ぐ私を、なぜか呆れたように見てくる莉央。
その目はなによ、お姉ちゃんなんですけど?
「姉ちゃんは……本っ当に、負けず嫌いだよね」
見てくるだけでは飽き足らず、呆れたような言い方までっ!
姉を尊敬できない弟に育てた覚えはないんですけど?
「負けることに慣れるよりはマシ。あなたも、私が勉強を教えたんだから、絶対に良い点数を取ってこないと許さないからね」
「はいはい。うちのリリア様はおっかないよ、まったく」
あら、なんだか本名を揶揄されたような気がする。
それと、テイルズ・オンラインのリリアだって、けっこうおっかないんだからね?
「ほら、お願い聞いてくれたお礼に、勉強見てあげるから」
そんなのお礼にならないよ、と嘆く莉央。
私は椅子から立ち上がって、その高い背中を押しながら部屋を出て行く。
それにしても、状態異常対策か。
どうだろう、リリアに聞いてみなきゃだけど……うん、たぶんなんとかなるかな?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
『どこでその情報を手に入れたのですか?』
莉央から聞いたシキミさんの情報について。
リリアに確認してみたら、目を丸くして可愛く驚いていた。
やっぱり、掲示板には載せられていなかったみたいだ。
「じゃあ、シキミさんのジョブはアサシンで合っているのね?」
私の問いかけにリリアは、しまったっ、と言わんばかりに口を押さえる。
可愛いなぁほんとにもう、この子、本当にNPCなの?
どちらにしたって、このレベルのAIに心がないとは言えないのではないだろうか。
『……私から言えることは、確かにジョブのグレードアップは存在するということだけです』
「ふふっ、それだけ聞ければ十分、ありがとう」
頭をなでなですると、くすぐったそうに目をつぶるリリア。
うん、可愛いやつだ。
「あっ、ごめんごめん、まだ聞きたいことがあったんだった。あなたが可愛すぎて忘れるところだったんだけど、どうしてくれるの?」
『どう……? えっと、答えられる範囲でがんばって答えますぅ』
私がなでなでを継続している影響なのか、リリアはなんだかふにゃふにゃしたまま意気込んだ。
よし、がんばって答えてもらおうじゃないか。
「状態異常の種類って、どんなのがあるの?」
『はい。状態異常は、毒、火傷、麻痺、睡眠、混乱、恐怖、欠損、暗闇、石化の九種類です』
「その中で、アサシンのスキルによって生成できるものは?」
『……申し訳ありません。それは、お答えできません』
ふむ、ちょっと迷いがあったから、もう少し押したら教えてくれそう。
ただ、これ以上いじめるのも可愛そうだし、まあいいか。
「じゃあ、街で治療薬が買える状態異常は?」
『はい。毒、火傷、麻痺、睡眠、混乱です……でも、リリア様、これらは回復系アイテムに含まれるので、闘技大会には持ち込めませんよ?』
不安そうに首を傾げるリリア。
「持ち込みが禁止ってことだったけど、使用するのは問題ない?」
『はい。クリエイターのジョブなどは魔法でアイテムを生成することができます。そのため、そういったジョブへの配慮で使用は禁止しておりません』
「チュートリアルのときに、スラリアにあげた回復薬が時間差で効果を発揮したんだけど、それって状態異常の治療薬でも同じ?」
そう聞くと、リリアは怪訝な表情を浮かべた。
そして、宙を見上げて、しばらく押し黙る。
『……ふむ、そんな仕様があったのですね』
困ったように笑いながら、私に視線を向けるリリア。
『はい。状態異常系の回復アイテムでも、同様です。先に使用しておけば、効果を発揮するべきときに発揮します。これはスライムの特性ですね』
私の背中に抱きついて遊んでいたスラリア。
そんなやんちゃ者を見ながら、リリアは教えてくれた。
「ほぇ?」
話を聞いていなかったのか、スラリアはとぼけた声を上げた。
ふふっ、あんまり耳もとで声を出さないでほしいな、くすぐったいから。
「スラリアは、最強のパートナーだっていう話をしてたんだよ」
私がそう言うと、スラリアは嬉々として背中に抱きつく力を強くした。
この子は柔らかくて気持ちいいんだけど、それはスライムとしての柔らかさなんだよね。
やれやれ、ため息を吐いちゃうよ、はぁー。
えっ、そんなことしたらもっと凹むだって?
なんだこいつ、ぶっ飛ばすぞ――なんてね。
自室で勉強をしていると、急くようなノックの音が部屋に響いた。
「はーい?」
叩き方のクセは、弟の莉央のものだろう。
試験期間中だから、わからない問題を聞きに来たのかな。
「姉ちゃん、あのさ」
あら、違ったか。
予想に反して、手にはノートも教科書も持っていない莉央が現れた。
ということは、あっちの話だと見当がつく。
「どうしたの?」
座っていた椅子をくるっと回して、莉央に向き合う。
「シキミさんのジョブ、シーフからアサシンにグレードアップしたんだって」
やっぱり、テイルズ・オンラインのことだった。
実は、莉央にはシキミさんのプレイ状況をそれとなく探ってもらっていたのだ。
うん、莉央がシキミさんとゲーム仲間で良かった。
おそらく、闘技大会前だから自分の手の内を隠すのが常套。
ジョブのグレードアップも、掲示板に書き込んだりはしなかっただろう。
「アサシンって、どんなジョブなんだろう」
「状態異常生成のスキルが強くて、毒とか麻痺の状態異常を作れるみたいだね」
なるほど、それは確かに暗殺者っぽい。
闇夜の中から近づいて、相手が気づかぬ間にシュッと殺っちゃうのだ。
「ありがとね、莉央。それにしても、シキミさん、よく教えてくれたね」
頼んでおいた私が言うのもなんだけど、まったくの収穫なしになることだって大いに考えられた。
莉央とシキミさんは他のVRMMOをいっしょにプレイしていたことがあるけど、なんでも話す親友! というほどの間柄なわけではないらしいから。
まあ、男の子ってそういうところドライなのかな。
「俺が『テイルズ』の抽選当たったのに遊べなくなったこと、シキミさん知ってたみたいなんだよね。だから、うーん、上手く言えないけど同情してくれたってことなのかな? けっきょく、シキミさんもゲーム好きなだけなんだよ」
騙しているみたいで気が引けるけど、と莉央は苦笑いする。
「まあ、なにか嘘を言っているわけじゃないから、いいんじゃない? スポーツでは対戦相手の情報を収集するし、学業でも頭の良い子がどんな勉強方法なのか聞いたりするのが普通よ」
早口で言葉を紡ぐ私を、なぜか呆れたように見てくる莉央。
その目はなによ、お姉ちゃんなんですけど?
「姉ちゃんは……本っ当に、負けず嫌いだよね」
見てくるだけでは飽き足らず、呆れたような言い方までっ!
姉を尊敬できない弟に育てた覚えはないんですけど?
「負けることに慣れるよりはマシ。あなたも、私が勉強を教えたんだから、絶対に良い点数を取ってこないと許さないからね」
「はいはい。うちのリリア様はおっかないよ、まったく」
あら、なんだか本名を揶揄されたような気がする。
それと、テイルズ・オンラインのリリアだって、けっこうおっかないんだからね?
「ほら、お願い聞いてくれたお礼に、勉強見てあげるから」
そんなのお礼にならないよ、と嘆く莉央。
私は椅子から立ち上がって、その高い背中を押しながら部屋を出て行く。
それにしても、状態異常対策か。
どうだろう、リリアに聞いてみなきゃだけど……うん、たぶんなんとかなるかな?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
『どこでその情報を手に入れたのですか?』
莉央から聞いたシキミさんの情報について。
リリアに確認してみたら、目を丸くして可愛く驚いていた。
やっぱり、掲示板には載せられていなかったみたいだ。
「じゃあ、シキミさんのジョブはアサシンで合っているのね?」
私の問いかけにリリアは、しまったっ、と言わんばかりに口を押さえる。
可愛いなぁほんとにもう、この子、本当にNPCなの?
どちらにしたって、このレベルのAIに心がないとは言えないのではないだろうか。
『……私から言えることは、確かにジョブのグレードアップは存在するということだけです』
「ふふっ、それだけ聞ければ十分、ありがとう」
頭をなでなですると、くすぐったそうに目をつぶるリリア。
うん、可愛いやつだ。
「あっ、ごめんごめん、まだ聞きたいことがあったんだった。あなたが可愛すぎて忘れるところだったんだけど、どうしてくれるの?」
『どう……? えっと、答えられる範囲でがんばって答えますぅ』
私がなでなでを継続している影響なのか、リリアはなんだかふにゃふにゃしたまま意気込んだ。
よし、がんばって答えてもらおうじゃないか。
「状態異常の種類って、どんなのがあるの?」
『はい。状態異常は、毒、火傷、麻痺、睡眠、混乱、恐怖、欠損、暗闇、石化の九種類です』
「その中で、アサシンのスキルによって生成できるものは?」
『……申し訳ありません。それは、お答えできません』
ふむ、ちょっと迷いがあったから、もう少し押したら教えてくれそう。
ただ、これ以上いじめるのも可愛そうだし、まあいいか。
「じゃあ、街で治療薬が買える状態異常は?」
『はい。毒、火傷、麻痺、睡眠、混乱です……でも、リリア様、これらは回復系アイテムに含まれるので、闘技大会には持ち込めませんよ?』
不安そうに首を傾げるリリア。
「持ち込みが禁止ってことだったけど、使用するのは問題ない?」
『はい。クリエイターのジョブなどは魔法でアイテムを生成することができます。そのため、そういったジョブへの配慮で使用は禁止しておりません』
「チュートリアルのときに、スラリアにあげた回復薬が時間差で効果を発揮したんだけど、それって状態異常の治療薬でも同じ?」
そう聞くと、リリアは怪訝な表情を浮かべた。
そして、宙を見上げて、しばらく押し黙る。
『……ふむ、そんな仕様があったのですね』
困ったように笑いながら、私に視線を向けるリリア。
『はい。状態異常系の回復アイテムでも、同様です。先に使用しておけば、効果を発揮するべきときに発揮します。これはスライムの特性ですね』
私の背中に抱きついて遊んでいたスラリア。
そんなやんちゃ者を見ながら、リリアは教えてくれた。
「ほぇ?」
話を聞いていなかったのか、スラリアはとぼけた声を上げた。
ふふっ、あんまり耳もとで声を出さないでほしいな、くすぐったいから。
「スラリアは、最強のパートナーだっていう話をしてたんだよ」
私がそう言うと、スラリアは嬉々として背中に抱きつく力を強くした。
この子は柔らかくて気持ちいいんだけど、それはスライムとしての柔らかさなんだよね。
やれやれ、ため息を吐いちゃうよ、はぁー。
えっ、そんなことしたらもっと凹むだって?
なんだこいつ、ぶっ飛ばすぞ――なんてね。
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