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Tale31:その頂は、遙か彼方に
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天使ちゃんは、手に持った大きなマイクを両手で力強く握る。
そして、そこに向かって魂のこもった声を込めていく。
『会場が熱いうちに始めますよっ! シキミ様、リリア様、三歩ずつ下がってください!』
言われたとおりに、私とシキミさんはそれぞれ後退る。
手が届くぐらいの距離の方が、攻撃に勢いが乗らないから都合がよかったんだけど。
『では、アイテムポーチと回復アイテムを預かります!』
天使ちゃんの言葉とともに、私の腰に着いていたアイテムポーチが消えた。
アイテムポーチにはほとんど重さがないため、動きに支障はない。
『制限時間は十分間っ! 用意はいいですかっ?』
私は、無防備に立つシキミさんを睨みながら、力強く頷いた。
シキミさんも、軽く顎を引いて頷く。
『いきますっ! レディー……ファイッ!』
開始の合図と同時に、シキミさんが一歩、二歩とゆったりと踏み出してくる。
いや――速いっ!
右手で持ったナイフ、その刃先が私の右肩に鋭く迫った。
でも、動きは見えている。
ナイフが右肩を貫いた瞬間、私の右手がダガーを突き出す。
勢いよく突っ込んできた、シキミさんの胸を狙って。
おそらく、シキミさんは武器を持つ側の肩を狙ったのだろう。
そこを攻撃すれば、カウンターの心配がなくなるから。
「っ!」
驚いた表情を浮かべるシキミさん。
だが、咄嗟に身体をひねって、私のダガーを躱す。
くそっ、速いな。
そのまま、シキミさんは私の横をすり抜けて転がる。
いま、躊躇ってなどいなかったはず。
リリアといっしょに、ちゃんと殺す練習もしたのだ。
ただ、速すぎるんだ、シキミさんが。
あれだけ俊敏を上げても、まだ足りないのか。
シキミさんを追い、体勢が整っていないうちに、その顔めがけてダガーを突く。
考える時間を与えるな。
スラリアの姿がないことにも私の身体が少しだけ青く輝いていることにも、違和感を持たれているはずだ。
スキルを使用してスラリアと同調していること、それに気づかれる前に、殺らなければ。
膝立ちのシキミさんは、首を傾けるだけでダガーを避けた。
その流れで、私の伸ばした腕にナイフが迫る。
気にするな、関係ない。
ナイフが肘を切り裂いた。
しかし、痛みなどない。
ダガーを逆手に持ち替えて、屈むシキミさんの頭に振り下ろす。
だが、シキミさんの足が、一瞬だけ早く私の足を払った。
体勢を崩した私のダガーは空を切る。
「ああ、もうっ!」
スライムになったからといって、物理攻撃は受け流せない。
ぷよぷよの液体になるわけではないのだ。
私が体勢を整える間に、シキミさんは距離を取って後ろに下がっていた。
惜しかったのに、殺りそこねた。
いや、落ち着け。
大丈夫だ、いける。
『すっ――素晴らしい攻防ですっ! リリア様、シキミ様のナイフが当たったように見えましたが、はたして大丈夫なのでしょうかっ!?』
天使ちゃんの実況と、沸き上がった歓声を背中に、私は前に進んだ。
右足、左足、右足、と駆け寄り、顔を狙ってダガーを突き入れる。
しかし、すでにシキミさんは私のダガーの間合いの外にいた。
さらに、一歩踏み込む。
上半身を左側に傾けてから、一気に右に身体をスライドさせる。
だが、シキミさんはそのフェイントに引っかかることなく、こちらに顔を向けていた。
かなり速く動いているはずなのに、まだ足りない。
「スライムの性質を――」
私が振るうダガーは、シキミさんにことごとく躱される。
なんだよ、これっ……!
まだ、こんなに差があるなんて……!
「――身体に宿すようなスキルか?」
「くっ……!」
ダガーを握る私の右手、その手首を、シキミさんは左手で受け止めて掴んだ。
怯んだ隙。
その一瞬にナイフが眼前に現れて、避ける間もなく私の眉間に突き刺さる。
私がシキミさんを睨むと、彼は驚いたように目を見開いた。
「へえ、すごいな。これは、物理無効か? いや、このゲームでそんなチートがあるわけが……」
ぶつぶつとつぶやきながら、シキミさんはなにやら考えている。
企みがあるようには見えなく、ただ純粋に気になるのだろう。
「ゲームでの意味は知らないけど」
眉間にナイフが刺さった状態で、私は話しかける。
「チートがズルって意味なら、違うよ。痛くないだけでダメージは受けているから」
「なるほど、本当にスライムそのもの……となると、魔法に弱いとかか?」
そう質問しながら、シキミさんはナイフを引き抜いた。
私の眉間をじっと見つめているのは、どのように直っていくのかを観察しているのだと思う。
「うん、魔法で受けるダメージは物理攻撃よりも大きい」
近くで見ると、シキミさんは、うちの弟には及ばないまでもなかなかに格好いい。
あと、背も高いし。
確かに、女の子のファンがいても不思議ではないな。
「テイマーは最弱、スライムも最弱だ」
「あぁん?」
いまの前言撤回っ!
性格はむかつくし、こいつはただの気持ち悪い変態サディストだ。
「ちょっと、離しなさい――」
「だが」
シキミさんの真剣な声音が、私の言葉を遮る。
「ふたつ揃ったら、最弱ではない。いま君が使っているスキルの存在を知っていたら、テイマーはジョブ選択の候補に入っていただろう」
見上げた視線は、シキミさんの真剣な表情にぶつかった。
そこには、侮りの感情などは含まれていない。
「……なによ、褒めてるの?」
私が聞くと、シキミさんは眉をひそめて不機嫌そうな顔をする。
「候補に入るだけだ。最終的に選ぶことはない」
今度は私も不機嫌さを隠さずに、シキミさんを睨み据えた。
スラリアはめちゃくちゃ強いんだから、いの一番に選びなさいよっ!
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【名前】リリア
【レベル】14
【ジョブ】テイマー
【使用武器】スライム:習熟度5
【ステータス】
物理攻撃:45 物理防御:44
魔力:40 敏捷:25 幸運:30
【スキル】スライム強化、なつき度強化、勇敢
知恵の泉、魅了、同調、不器用
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
そして、そこに向かって魂のこもった声を込めていく。
『会場が熱いうちに始めますよっ! シキミ様、リリア様、三歩ずつ下がってください!』
言われたとおりに、私とシキミさんはそれぞれ後退る。
手が届くぐらいの距離の方が、攻撃に勢いが乗らないから都合がよかったんだけど。
『では、アイテムポーチと回復アイテムを預かります!』
天使ちゃんの言葉とともに、私の腰に着いていたアイテムポーチが消えた。
アイテムポーチにはほとんど重さがないため、動きに支障はない。
『制限時間は十分間っ! 用意はいいですかっ?』
私は、無防備に立つシキミさんを睨みながら、力強く頷いた。
シキミさんも、軽く顎を引いて頷く。
『いきますっ! レディー……ファイッ!』
開始の合図と同時に、シキミさんが一歩、二歩とゆったりと踏み出してくる。
いや――速いっ!
右手で持ったナイフ、その刃先が私の右肩に鋭く迫った。
でも、動きは見えている。
ナイフが右肩を貫いた瞬間、私の右手がダガーを突き出す。
勢いよく突っ込んできた、シキミさんの胸を狙って。
おそらく、シキミさんは武器を持つ側の肩を狙ったのだろう。
そこを攻撃すれば、カウンターの心配がなくなるから。
「っ!」
驚いた表情を浮かべるシキミさん。
だが、咄嗟に身体をひねって、私のダガーを躱す。
くそっ、速いな。
そのまま、シキミさんは私の横をすり抜けて転がる。
いま、躊躇ってなどいなかったはず。
リリアといっしょに、ちゃんと殺す練習もしたのだ。
ただ、速すぎるんだ、シキミさんが。
あれだけ俊敏を上げても、まだ足りないのか。
シキミさんを追い、体勢が整っていないうちに、その顔めがけてダガーを突く。
考える時間を与えるな。
スラリアの姿がないことにも私の身体が少しだけ青く輝いていることにも、違和感を持たれているはずだ。
スキルを使用してスラリアと同調していること、それに気づかれる前に、殺らなければ。
膝立ちのシキミさんは、首を傾けるだけでダガーを避けた。
その流れで、私の伸ばした腕にナイフが迫る。
気にするな、関係ない。
ナイフが肘を切り裂いた。
しかし、痛みなどない。
ダガーを逆手に持ち替えて、屈むシキミさんの頭に振り下ろす。
だが、シキミさんの足が、一瞬だけ早く私の足を払った。
体勢を崩した私のダガーは空を切る。
「ああ、もうっ!」
スライムになったからといって、物理攻撃は受け流せない。
ぷよぷよの液体になるわけではないのだ。
私が体勢を整える間に、シキミさんは距離を取って後ろに下がっていた。
惜しかったのに、殺りそこねた。
いや、落ち着け。
大丈夫だ、いける。
『すっ――素晴らしい攻防ですっ! リリア様、シキミ様のナイフが当たったように見えましたが、はたして大丈夫なのでしょうかっ!?』
天使ちゃんの実況と、沸き上がった歓声を背中に、私は前に進んだ。
右足、左足、右足、と駆け寄り、顔を狙ってダガーを突き入れる。
しかし、すでにシキミさんは私のダガーの間合いの外にいた。
さらに、一歩踏み込む。
上半身を左側に傾けてから、一気に右に身体をスライドさせる。
だが、シキミさんはそのフェイントに引っかかることなく、こちらに顔を向けていた。
かなり速く動いているはずなのに、まだ足りない。
「スライムの性質を――」
私が振るうダガーは、シキミさんにことごとく躱される。
なんだよ、これっ……!
まだ、こんなに差があるなんて……!
「――身体に宿すようなスキルか?」
「くっ……!」
ダガーを握る私の右手、その手首を、シキミさんは左手で受け止めて掴んだ。
怯んだ隙。
その一瞬にナイフが眼前に現れて、避ける間もなく私の眉間に突き刺さる。
私がシキミさんを睨むと、彼は驚いたように目を見開いた。
「へえ、すごいな。これは、物理無効か? いや、このゲームでそんなチートがあるわけが……」
ぶつぶつとつぶやきながら、シキミさんはなにやら考えている。
企みがあるようには見えなく、ただ純粋に気になるのだろう。
「ゲームでの意味は知らないけど」
眉間にナイフが刺さった状態で、私は話しかける。
「チートがズルって意味なら、違うよ。痛くないだけでダメージは受けているから」
「なるほど、本当にスライムそのもの……となると、魔法に弱いとかか?」
そう質問しながら、シキミさんはナイフを引き抜いた。
私の眉間をじっと見つめているのは、どのように直っていくのかを観察しているのだと思う。
「うん、魔法で受けるダメージは物理攻撃よりも大きい」
近くで見ると、シキミさんは、うちの弟には及ばないまでもなかなかに格好いい。
あと、背も高いし。
確かに、女の子のファンがいても不思議ではないな。
「テイマーは最弱、スライムも最弱だ」
「あぁん?」
いまの前言撤回っ!
性格はむかつくし、こいつはただの気持ち悪い変態サディストだ。
「ちょっと、離しなさい――」
「だが」
シキミさんの真剣な声音が、私の言葉を遮る。
「ふたつ揃ったら、最弱ではない。いま君が使っているスキルの存在を知っていたら、テイマーはジョブ選択の候補に入っていただろう」
見上げた視線は、シキミさんの真剣な表情にぶつかった。
そこには、侮りの感情などは含まれていない。
「……なによ、褒めてるの?」
私が聞くと、シキミさんは眉をひそめて不機嫌そうな顔をする。
「候補に入るだけだ。最終的に選ぶことはない」
今度は私も不機嫌さを隠さずに、シキミさんを睨み据えた。
スラリアはめちゃくちゃ強いんだから、いの一番に選びなさいよっ!
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【名前】リリア
【レベル】14
【ジョブ】テイマー
【使用武器】スライム:習熟度5
【ステータス】
物理攻撃:45 物理防御:44
魔力:40 敏捷:25 幸運:30
【スキル】スライム強化、なつき度強化、勇敢
知恵の泉、魅了、同調、不器用
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