【テイルズ・オンライン】~スライムをパートナーに、ゲーム初心者が不人気ジョブ『テイマー』で成り上がる~

あおば

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Tale25:あなたから一時も目を離さない

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 手にダガーを所持しているだけで、急に攻撃を避けにくくなった。
 リリアのナイフに当たってしまう回数が前回よりも多い。
 もしかしたら、辱められたリリアがそれに対する八つ当たりをしているのかもしれないけどね。

 全身をくまなく切り刻まれながら、ご乱心ドSモードNPCリリアとの戦闘訓練が続く。
 少しずつ少しずつ、私の身体を疲労感が包んでいった。

『どのくらいのダメージを負うと同調のスキル効果が切れるのか、把握できるといいですね』

 なんだかすっきりした顔で、リリアは進言してくれる。
 まあ、これだけ楽しそうにナイフを振っているのだ。
 せめてストレス解消になってもらわなければ困る。

『あとは、相手の攻撃が当たっても痛くないから大丈夫、そのことに頭が慣れたら動きはもっと良くなると思います』

「うーん、理解しているつもりではあるんだけどね」

 現実世界では刃物を持って動き回ったりしないし、ましてや切りかかられたりしない。
 そういった当たり前が、私の動きを鈍くしているのだろう。

『じゃあ、避けないようにしますか』

「へっ?」

 これは名案だ、と言わんばかりにリリアは嬉しそうに言ってくる。

『避ける練習ばかりしていることで、当たったらいけないという意識が育つのでしょう。そして、それが動きを阻害してしまいます。せっかく痛くないのですから、もったいないですよね』

 確かに、リリアのナイフが当たるたびに、やられたとかちくしょうとか思っていたような気がする。
 スラリアと同調した私は、ナイフで切られたぐらいでは平気なのに。

「そっか、なるほどね……」

『じゃあ、さっそく始めましょう。ふふっ、リリア様は動かないでくださいね』

 納得して頷く私に対して、リリアはナイフをくるくると回してから構える。

 リリア、そのパフォーマンスをよくやるけど、めちゃくちゃ恐いからね?
 ああ、ナイフを振るうのが楽しみなんだろうなーって思うんだから。
 そんな風に思うが、後が恐いから口には出さない。

 言われたとおりに、その場に無防備に立つと。
 リリアはゆっくりと動いて、私の肩口にナイフをしゅっと振り下ろした。

「っ!」

『はい、目をつぶりましたね。もう一度です』

 ナイフが皮膚に当たる瞬間に瞬きをしてしまったことを指摘される。
 だって、わかってはいるけど仕方なくない? 我、人間ぞ?

 私の肩に差し込まれたナイフを引き抜いたリリアは、今度はそれを目に向けてくる。

「ぅぐっ……!」

『はい、ダメです。リリア様はまだ人間の感覚に囚われていますね。目をつぶるのが、その証拠です』

 こっ、恐い! リリアさん、恐いよ!?
 猟奇的なリリアの微笑みの前方、私の右目からはナイフの柄がにょきっと出ている。
 そして、頭の後ろまでを貫く形で刃先が伸びていた。

 しかし、こうして客観的に状況を把握できるのは、これでも痛くないからである。
 さらに、目で見るという感覚に頼っていないということでもある。
 そのため、目をつぶるかつぶらないかなど、意味のない問題なのだ。

「リリア、もう一度お願い……!」

 私はスライム。
 私はスラリア。
 私はぷにぷに。
 私はぷにゅぷにゅ。
 私は――。
 自分に言い聞かせるごとに、余計な感覚が削ぎ落とされていく。

 リリアが振るうナイフが、私のお腹を切り裂いた。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


『PvP闘技大会の参加申し込みが開始されました。現実の時間で七日後、第一回戦から準々決勝までが行われ、その翌日に準決勝と決勝が行われます。まだ参加者の人数が確定しておりませんが、おそらくひとつのトーナメントは1,024名で構成されるようになる予定です』

 座り込む私と、その膝枕で休むスラリアを見下ろしながら、リリアが事務的な連絡をしてくれる。

「すごい人数だね……10回勝てば、優勝か」

『はい、優勝者には賞品が与えられますし、参加するだけでも損はしないと思います。また、参加しない場合でも好きな試合を観戦することができるので、皆様に楽しんでほしいですね』

 微笑むリリアは、さっきまでのドSモードからいつもの女神リリアに戻っていた。
 うーん、本当に可愛らしい女神様だなぁ。

『戦闘のルールですが――』

 座ったままの状態から、身体がふわっと浮き上がるのを感じて。
 いつの間にか、周囲の景色が変わっていた。

『――この円形闘技場を舞台に、アイテムポーチと回復系アイテム持ち込み不可、それ以外はなんでもありのデスマッチでーすっ』

 リリアは楽しそうに、物騒なことを宣言する。

 見渡してみると、私たちを中心に、リリアが言ったように円形の地面が広がっている。
 大きさは、学校の教室より二回りは広いぐらいかな。
 その周囲は石材のフェンスで覆われていて、上に高くなっているところは観客席みたいだ。
 猛獣と戦わされそうな古代の闘技場って感じで、テンション上がるね。

『回復無しなので試合時間は短くなるはずですが、一応、10分間で決着がつかない場合は審判によるジャッジで勝敗が決します』

「審判?」

『はい――とは言っても、審判である私たち運営側がダメージ量を観測しているので、勝敗に文句は言わせません』

 なるほど、現実では微妙な判定で論争が巻き起こったりするから。
 ゲームの世界ははっきりとした数値が出るからいいね。

『シキミ様は、すでに申し込みが完了しております』

 リリアは、私の目を、その落ち着いた碧眼で見つめてくる。
 シキミさんと戦う覚悟があるかどうか、問われているような気がした。

『もちろん、普通に参加することも可能です。その場合は、おそらくシキミ様と別のトーナメントに振り分けられるでしょう』

「ううん、やらせて」

 ここまで来て、引き下がるわけにはいかない。
 私は、リリアの目を、リリアと同じ色の瞳で見つめ返す。

 すると、女神というわりには少女のように、リリアは嬉しそうに笑うのだった。
 リリアを楽しませるために。
 そして、この笑顔を見るために。
 私は、私の物語を紡ぐとしよう。
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