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Tale24:女神様に祈りを捧げましょう

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 オージちゃんから受け取ったダガーは、ずしりと重かった。
 でも、小さな私の手に、よく馴染んだ。

「……オージちゃん、これを使ってたって?」

「刺突のためには、より敵に近づかないといけない。だが、スライムと同調することで勇敢に――」

「違うよ、そういうことじゃない。大事な人だったんでしょ?」

 途中で言葉を遮った私を、オージちゃんは驚いたように見た。
 このダガーは、男の人が使うにしては柄が細いと思うし、よく手入れもされているようだ。
 何十年も、大事に、大事に保管されていたことが窺える。

「大事な人って……いや、お前さん、恥ずかしいことを言うんじゃない」

 照れたように、オージちゃんは頭をかく。
 やっぱり、これを使っていたのは女の人だったんだ。

「形見、なんでしょ? そんな大事なもの、受け取るわけには……」

「使ってもらった方が、あいつも浮かばれると思うがな」

「でも……」

 オージちゃんは私の様子を見て、なにやら訝しげな表情を浮かべる。
 だって、好きだった人が使ってたものを、ずっと大切に持ってたんでしょ?
 こんなに簡単に、見ず知らずの私がもらっていいはずがない。

「リリア、お前さん、なんか勘違いしていないか?」

「えっ?」

 勘違いって、どういうこと?
 何十年も大事にしていた形見なんじゃないの?

「あいつが死んだのは、二年ぐらい前だ。ひ孫の顔まで見られて良かったと、喜んで逝ったぞ?」

「ふぇっ?」

 思ってもいなかった発言に、まぬけな声が漏れてしまう。
 あれ? さっき、ほとんどの人が死んだって言ってたよね?

「そのダガーを使っていたのは、五十年前の戦争を生き抜いた後結婚した、俺の嫁さんだ」

 オージちゃんは言いにくそうに、でもちょっと嬉しそうに言った。
 じゃあ、私たちは、オージちゃんの惚気話を聞かされていたってこと?

「……お盛んじゃないですか!」

「わーい、お盛んお盛んー」

 部屋に響く大声で叫んだ私と、言葉の意味がわかっているのかどうか、楽しそうに復唱するスラリア。

 けっきょく、ありがたくダガーを受け取ることにした。
 オージちゃんの奥さんは、このダガーを使って悪魔を倒したこともあるらしい。
 それぐらいに使いこなせるように、ちゃんと練習しないとね。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 オージちゃんのお家を辞してから、私とスラリアは真っ白の空間に戻ってきた。

『なるほど、そのダガーを手に入れましたか……』

 腰のホルスターに収まるダガーを見て、リリアがつぶやいた。
 その顔は、心なしか紅潮しているような気がする。

「うん、リリアリア・ダガーだって」

「女神様の名前! お姉様ともいっしょっ」

 はしゃぐスラリアの頭を、私はよしよしと撫でた。
 常に可愛いな、こいつは。

「スラリアの名前にも、リリアが入ってるんだよ?」

「えぇっ? そうなのですか?」

 リリアのスライムだからスラリアって名前を付けたんだよね。
 いま考えると、かなり安易な名付けだ。

『うぅ……人間の皆様は、私の恥ずかしさを考慮してくれません……』

 赤らんだ頬の熱さを確かめるように、リリアは両手で頬を覆う。
 その姿は、まったく女神様には見えないし可愛いのだけれど。

「えー、恥ずかしいの? リリアリア・ダガー」

「スラリアという名前、私は素晴らしいと思います!」

 私は、わざと。
 そしてスラリアはおそらく無邪気に、リリア由来の名前を口にする。
 というか、もしかしたら私の存在は、リリアにとって恥ずかしい……?

『……リリア様は、まだ神殿に行ったことはないですよね?』

 頬を覆う両手のすき間から、聞いてくるリリア。

「うん、勉強を教えてくれるところってのは知ってるけど」

『その側面もありますが、神殿では一日に数回、神への祈りを捧げています』

 おー、まあ、それが神殿としての存在意義であるとは思うけど。
 きっとそれが女神リリアに対する祈りなのだろう。
 もしかしたら、リリア教なんていう宗教だったりするのかもしれない。

「そうなんだ。私も神様にはお世話になってるから、祈りを捧げに行こうかなー」

『むぅ……』

 頬をぷくっと膨らませたリリアに、無言で睨まれる。
 どうやら、からかいすぎたみたいだ。

『……戻ってきたら、戦闘サポートを行う約束でしたね』

 リリアはどこからかナイフを取り出して、その手に握る。
 素人の私にも殺気のようなものが伝わってきて、背中に冷や汗が流れた。

『ほら、早く同調のスキルをお使いになった方がいいですよ』

 痛いですから、と微笑むリリア。
 その表情は妖艶で、思わず見惚れてしまいそうになるけれど。

 同時に死の恐怖も感じていたので、私は急いでスラリアと同調するのだった。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【名前】リリア
【レベル】10
【ジョブ】テイマー
【使用武器】スライム:習熟度5

【ステータス】
物理攻撃:25 物理防御:44 
魔力:35 敏捷:15 幸運:25
【スキル】スライム強化、なつき度強化、勇敢
知恵の泉、魅了、同調、不器用
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