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Main Tales
Real World:お姉ちゃんは中庸を重んじます
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テイルズ・オンラインの世界で死んでしまった場合、ゲーム内時間で半日、つまり現実世界で六時間だけログインができなくなる。
ゲームのヘルメットを着けたまま、私はその時間を呆然としながら過ごしていた。
しかし、六時間というのは、思いのほか長い。
頭の中で渦巻いていた、死の恐怖や理不尽に対する怒りは、時間とともに薄れていき。
そして、弟の莉央だったら、スラリアがどうなったのかわかるかもしれない――そのことに思考がようやく行き着いて、跳ね起きて部屋を出た。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
PKとは、プレイヤーキラーの略らしい。
実際に他の人がプレイしているキャラクターを殺す行為で、お金やアイテムの強奪などの実利のために行われることが多い。
しかし、テイルズ・オンラインでは、PKされたときに使用武器を含めたあらゆる所持品を奪われることはない。
さらに、PKを行うとスキルに罪業が付与される。
このスキルを所持している状態だと、冒険者ギルドで依頼を受けたりお店で買い物することができなくなる。
神殿による奉仕依頼や一定時間の経過によって罪業は赦免されて消えるが、PKをするメリットは皆無に等しい。
「じゃあ、やっぱり、楽しむためにPKしてきたってことだよね……」
言葉にしたら、シキミのいけ好かない爽やかフェイスを思い出してしまった。
うわぁ、えんがちょえんがちょ。
私が両手で輪を作って莉央に差し出すと、無言で切ってくれた。
「姉ちゃん、ごめん……俺、そういうプレイヤーもいるって知ってたのに……」
難しそうな表情を浮かべた莉央が、私に謝る。
以前に、私に対して『テイルズ』が楽しいかを聞いてきた表情が思い返された。
「どうしてあなたが謝るの。だって、PKしても意味ないのに、バカなあいつらが悪いだけなんだから」
それに、莉央はスラリアが復活することも教えてくれたし。
テイマーが操る魔物は使用武器の扱いだから、やられちゃっても大丈夫らしい。
それを知らなくて、みっともなく泣いちゃって恥ずかしい。
それも、あの男の前で……あわわ、えんがちょえんがちょ。
「……姉ちゃん、怒らないでほしいんだけど」
私の輪っかを切りながら、莉央はおずおずと話を切り出した。
「俺、PKが悪いことだとは、そんなに思ってない……いやっ、シキミさんのことはむかつくよ? でも、それは姉ちゃんが楽しんでゲームしてるのを見てたからで、知らない誰かがPKされても、たぶん特になにも思わない……」
「……シキミ、さん?」
親しみの込められたような言い回しが気になって、私はつぶやいた。
すると、莉央は気まずそうに視線を泳がせる。
「えっと、いろいろなゲームのランカーで、あっ、ランカーていうのはランキングに名前が載るぐらい強い人ってことで……俺、他のゲームでいっしょにプレイしてたこともあって……もちろんっ、俺はPKやらないけど……」
そう言って、莉央は俯いた。
私の弟は勉強しないけど、嘘はつかない。
PKをしないというならば、しないのだろう。
「ふふっ、大丈夫大丈夫、わかってるから」
俯く莉央の頭を、私はよしよしと撫でる。
ふふん、いつも高いところにある頭だ。
いまのうちに、なでなで貯めをしておかないと。
「あと、PKに対する考え方も知らなかったから、正直に言ってくれてありがとね」
「えっと、あくまで俺の考えだから……PKするヤツは人間のクズだ、みたいに言う人もいるし」
私の手の下で、小さくなった莉央がもごもご喋る。
「なるほど、さっきまでの私ね」
もちろん、ゲームのルールで禁止されていたらダメなものはダメだ。
しかし、テイルズ・オンラインでは、罰則はあるが禁止されているわけではない。
おそらく正解が存在しない問題なのだろう。
ただ、0か100でしか考えられないロボットみたいになるつもりはない。
だからこそ、私なりに考えてみることにしよう。
「ところで――ねえ、シキミさんって『テイルズ』でも強いの?」
「えっ? う、うん。トッププレイヤーの一人だけど――」
とりあえず、やられっぱなしでいるのは性に合わないし、これは私の物語だ。
他人に幕を引かれたまま、終わるわけにはいかない。
ゲームのヘルメットを着けたまま、私はその時間を呆然としながら過ごしていた。
しかし、六時間というのは、思いのほか長い。
頭の中で渦巻いていた、死の恐怖や理不尽に対する怒りは、時間とともに薄れていき。
そして、弟の莉央だったら、スラリアがどうなったのかわかるかもしれない――そのことに思考がようやく行き着いて、跳ね起きて部屋を出た。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
PKとは、プレイヤーキラーの略らしい。
実際に他の人がプレイしているキャラクターを殺す行為で、お金やアイテムの強奪などの実利のために行われることが多い。
しかし、テイルズ・オンラインでは、PKされたときに使用武器を含めたあらゆる所持品を奪われることはない。
さらに、PKを行うとスキルに罪業が付与される。
このスキルを所持している状態だと、冒険者ギルドで依頼を受けたりお店で買い物することができなくなる。
神殿による奉仕依頼や一定時間の経過によって罪業は赦免されて消えるが、PKをするメリットは皆無に等しい。
「じゃあ、やっぱり、楽しむためにPKしてきたってことだよね……」
言葉にしたら、シキミのいけ好かない爽やかフェイスを思い出してしまった。
うわぁ、えんがちょえんがちょ。
私が両手で輪を作って莉央に差し出すと、無言で切ってくれた。
「姉ちゃん、ごめん……俺、そういうプレイヤーもいるって知ってたのに……」
難しそうな表情を浮かべた莉央が、私に謝る。
以前に、私に対して『テイルズ』が楽しいかを聞いてきた表情が思い返された。
「どうしてあなたが謝るの。だって、PKしても意味ないのに、バカなあいつらが悪いだけなんだから」
それに、莉央はスラリアが復活することも教えてくれたし。
テイマーが操る魔物は使用武器の扱いだから、やられちゃっても大丈夫らしい。
それを知らなくて、みっともなく泣いちゃって恥ずかしい。
それも、あの男の前で……あわわ、えんがちょえんがちょ。
「……姉ちゃん、怒らないでほしいんだけど」
私の輪っかを切りながら、莉央はおずおずと話を切り出した。
「俺、PKが悪いことだとは、そんなに思ってない……いやっ、シキミさんのことはむかつくよ? でも、それは姉ちゃんが楽しんでゲームしてるのを見てたからで、知らない誰かがPKされても、たぶん特になにも思わない……」
「……シキミ、さん?」
親しみの込められたような言い回しが気になって、私はつぶやいた。
すると、莉央は気まずそうに視線を泳がせる。
「えっと、いろいろなゲームのランカーで、あっ、ランカーていうのはランキングに名前が載るぐらい強い人ってことで……俺、他のゲームでいっしょにプレイしてたこともあって……もちろんっ、俺はPKやらないけど……」
そう言って、莉央は俯いた。
私の弟は勉強しないけど、嘘はつかない。
PKをしないというならば、しないのだろう。
「ふふっ、大丈夫大丈夫、わかってるから」
俯く莉央の頭を、私はよしよしと撫でる。
ふふん、いつも高いところにある頭だ。
いまのうちに、なでなで貯めをしておかないと。
「あと、PKに対する考え方も知らなかったから、正直に言ってくれてありがとね」
「えっと、あくまで俺の考えだから……PKするヤツは人間のクズだ、みたいに言う人もいるし」
私の手の下で、小さくなった莉央がもごもご喋る。
「なるほど、さっきまでの私ね」
もちろん、ゲームのルールで禁止されていたらダメなものはダメだ。
しかし、テイルズ・オンラインでは、罰則はあるが禁止されているわけではない。
おそらく正解が存在しない問題なのだろう。
ただ、0か100でしか考えられないロボットみたいになるつもりはない。
だからこそ、私なりに考えてみることにしよう。
「ところで――ねえ、シキミさんって『テイルズ』でも強いの?」
「えっ? う、うん。トッププレイヤーの一人だけど――」
とりあえず、やられっぱなしでいるのは性に合わないし、これは私の物語だ。
他人に幕を引かれたまま、終わるわけにはいかない。
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