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Main Tales
Real World:姉を心配する、できた弟
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『テイルズ・オンライン』の世界から帰ってきて、私は日課の勉強に手をつける。
ミリナちゃんの勉強を見たことが、現実世界でのやる気アップに繋がった。
ゲームなんて時間の浪費、脳を腐らせる!
そんな風に主張する大人が、この時代にも一定数は存在している。
教育や医療の現場にもVRが積極的に導入されていて確固たる成果を挙げている中、頭が固い大人にはなりたくないものだ。
こんこん。
「はーい?」
ノックの感じから、弟の莉央であることがわかる。
勉強でわからないことがあって、それを聞きに来たのかな。
「姉ちゃん、今日『テイルズ』やった?」
うーむ……莉央の場合は、ゲームのことを考えすぎているから、話が別だ。
楽しいことをするためには、相応の対価を払わなければならない。
やらなきゃいけない勉強を放り出したら、それは頭の固い大人と同じだと思う。
「……うん、さっきまで遊んでたよ?」
晩ご飯の後は、勉強タイム決定ね。
どれだけ扱いてやろうかと考えていると、莉央は、なにやら難しげな顔を浮かべた。
「ちょっと気になったんだけど……」
そう言って、私にスマホを見せてくる。
その画面には……おー、横顔しか見えていないけれどとびきり可愛いとわかる、ひとりの女の子が映っていた。
しっとりとした金髪は絹のように美しく、意志の強さを感じさせる眼差しは青い――リリアだった。
というか、冒険者ギルドのオージちゃんと話しているってことは、私じゃん。
「これ、姉ちゃんじゃない?」
ほとんど確信しているけど念のため、といった言い振りで聞いてくる莉央。
いや、別に隠すつもりはなかったのだけれど、なんか恥ずかしくない?
ゲームのキャラクターの姿を模倣してプレイしていますって。
「……はい、私です」
思わず、罪を暴かれた犯人みたいな口調になってしまう。
莉央は感心したような表情を浮かべながら、スマホの画面と現実の私を見比べる。
「ちょっと、止めなさいよ……恥ずかしいから」
めちゃくちゃ可愛いリリアな顔と、ダサ眼鏡の似合う地味フェイスを比べるんじゃない。
「いや、元の顔つきが似ていないと、ここまで似ることはないよ。『テイルズ』の掲示板でも、これがプレイヤーだなんて信じられないって声が多いし」
「……掲示板って、交流サイトみたいな?」
ゲームの感想を投稿したり攻略とかフレンド探しに使ったりするもの、だったかな?
「うん、そこで話題になってた画像を見てみたら、もしかしてって思って……」
「ん? ちょっと待って、なんか実感が湧いてきた」
ゲーム内とはいえ勝手に写真を撮っていいのかとか、やっぱり勉強しないでゲームの掲示板を見ていたのかとか。
いろいろと、気になることはあるけれど。
「私、有名になってる……?」
リリアの姿が目立つものである覚悟はしていた、可愛いし。
しかし、ゲーム内でちょっと話しかけられるぐらいだと思っていたのだ。
それが、多くのプレイヤーが覗く――私は見たことなかったけど――掲示板で晒されることになるとは、夢でも仮想でも思っていなかった。
「まあ……この掲示板って公式が運営しているもので、『テイルズ』好きだったらプレイヤーもそうでない人も見るから」
私の問いに、莉央はおずおずと答える。
「うわぁ、恥ずかしい……」
両手を頬に当てて、部屋の天井を仰ぎ見た。
言葉の通りに私の頬は普段よりも熱を持っていて、それがじんわりと手のひらに伝わる。
「あと、名前もリリアにしてるんじゃない?」
「あっ、うん」
オージちゃんと何度か話をしてたときに、誰かに名前を聞かれていたのかな。
私が頷いて返事をすると、莉央の難しい顔は深くなった。
勉強しているときも、このぐらい真剣になってくれればいいのだけれど。
「あれ、なにかマズかったかな? いや、恥ずかしいとかは抜きにしてね」
よく考えたら、莉央の態度はちょっと変な気もした。
過剰に心配しすぎてるっていうか、なにバカなことやってるんだよと苦笑いするぐらいが自然だと思う。
もしかして、なにか私の知らないゲームの約束事なんかが存在するのかな。
「あっ、いや、俺も偶然に気付いただけだし、身バレとかの心配はないよ。NPCに容姿を似せるのも禁止されていないし」
「じゃあ、ゲームを止めるとかしなくても大丈夫かな?」
私の問いかけに対して、莉央は目を見開き、口もぽかんと半開きになった。
いままでゲームにまるで興味を持っていなかった姉から出た言葉に、驚いているのだろう。
「ふふっ……ちょっと、私がゲームにハマるのが、そんなに変なの?」
「いやっ……」
焦ったように頭を振った莉央は、なにやら押し黙った。
そして、私が次の言葉を待っていると、少し微笑みながら。
「……姉ちゃん、『テイルズ』楽しい?」
あら、いつの間に、こんな表情をするようになったのだろう。
我が弟ながら、いい男ではないか。
「うん、楽しいよ。今日ね、ゲームの中でミリナっていう女の子に――」
私の話を、莉央は楽しそうに聞いてくれた。
莉央が、なにを心配していたのかはわからない。
“実の姉がリリアの姿でゲームをすると恥ずかしい”が理由としては有力ではあるけれど。
なにはともあれ、大好きなゲームのことでは暗い顔をしてほしくない。
だって、この後鬼教官となった私にめちゃくちゃ勉強させられるのだから。
ミリナちゃんの勉強を見たことが、現実世界でのやる気アップに繋がった。
ゲームなんて時間の浪費、脳を腐らせる!
そんな風に主張する大人が、この時代にも一定数は存在している。
教育や医療の現場にもVRが積極的に導入されていて確固たる成果を挙げている中、頭が固い大人にはなりたくないものだ。
こんこん。
「はーい?」
ノックの感じから、弟の莉央であることがわかる。
勉強でわからないことがあって、それを聞きに来たのかな。
「姉ちゃん、今日『テイルズ』やった?」
うーむ……莉央の場合は、ゲームのことを考えすぎているから、話が別だ。
楽しいことをするためには、相応の対価を払わなければならない。
やらなきゃいけない勉強を放り出したら、それは頭の固い大人と同じだと思う。
「……うん、さっきまで遊んでたよ?」
晩ご飯の後は、勉強タイム決定ね。
どれだけ扱いてやろうかと考えていると、莉央は、なにやら難しげな顔を浮かべた。
「ちょっと気になったんだけど……」
そう言って、私にスマホを見せてくる。
その画面には……おー、横顔しか見えていないけれどとびきり可愛いとわかる、ひとりの女の子が映っていた。
しっとりとした金髪は絹のように美しく、意志の強さを感じさせる眼差しは青い――リリアだった。
というか、冒険者ギルドのオージちゃんと話しているってことは、私じゃん。
「これ、姉ちゃんじゃない?」
ほとんど確信しているけど念のため、といった言い振りで聞いてくる莉央。
いや、別に隠すつもりはなかったのだけれど、なんか恥ずかしくない?
ゲームのキャラクターの姿を模倣してプレイしていますって。
「……はい、私です」
思わず、罪を暴かれた犯人みたいな口調になってしまう。
莉央は感心したような表情を浮かべながら、スマホの画面と現実の私を見比べる。
「ちょっと、止めなさいよ……恥ずかしいから」
めちゃくちゃ可愛いリリアな顔と、ダサ眼鏡の似合う地味フェイスを比べるんじゃない。
「いや、元の顔つきが似ていないと、ここまで似ることはないよ。『テイルズ』の掲示板でも、これがプレイヤーだなんて信じられないって声が多いし」
「……掲示板って、交流サイトみたいな?」
ゲームの感想を投稿したり攻略とかフレンド探しに使ったりするもの、だったかな?
「うん、そこで話題になってた画像を見てみたら、もしかしてって思って……」
「ん? ちょっと待って、なんか実感が湧いてきた」
ゲーム内とはいえ勝手に写真を撮っていいのかとか、やっぱり勉強しないでゲームの掲示板を見ていたのかとか。
いろいろと、気になることはあるけれど。
「私、有名になってる……?」
リリアの姿が目立つものである覚悟はしていた、可愛いし。
しかし、ゲーム内でちょっと話しかけられるぐらいだと思っていたのだ。
それが、多くのプレイヤーが覗く――私は見たことなかったけど――掲示板で晒されることになるとは、夢でも仮想でも思っていなかった。
「まあ……この掲示板って公式が運営しているもので、『テイルズ』好きだったらプレイヤーもそうでない人も見るから」
私の問いに、莉央はおずおずと答える。
「うわぁ、恥ずかしい……」
両手を頬に当てて、部屋の天井を仰ぎ見た。
言葉の通りに私の頬は普段よりも熱を持っていて、それがじんわりと手のひらに伝わる。
「あと、名前もリリアにしてるんじゃない?」
「あっ、うん」
オージちゃんと何度か話をしてたときに、誰かに名前を聞かれていたのかな。
私が頷いて返事をすると、莉央の難しい顔は深くなった。
勉強しているときも、このぐらい真剣になってくれればいいのだけれど。
「あれ、なにかマズかったかな? いや、恥ずかしいとかは抜きにしてね」
よく考えたら、莉央の態度はちょっと変な気もした。
過剰に心配しすぎてるっていうか、なにバカなことやってるんだよと苦笑いするぐらいが自然だと思う。
もしかして、なにか私の知らないゲームの約束事なんかが存在するのかな。
「あっ、いや、俺も偶然に気付いただけだし、身バレとかの心配はないよ。NPCに容姿を似せるのも禁止されていないし」
「じゃあ、ゲームを止めるとかしなくても大丈夫かな?」
私の問いかけに対して、莉央は目を見開き、口もぽかんと半開きになった。
いままでゲームにまるで興味を持っていなかった姉から出た言葉に、驚いているのだろう。
「ふふっ……ちょっと、私がゲームにハマるのが、そんなに変なの?」
「いやっ……」
焦ったように頭を振った莉央は、なにやら押し黙った。
そして、私が次の言葉を待っていると、少し微笑みながら。
「……姉ちゃん、『テイルズ』楽しい?」
あら、いつの間に、こんな表情をするようになったのだろう。
我が弟ながら、いい男ではないか。
「うん、楽しいよ。今日ね、ゲームの中でミリナっていう女の子に――」
私の話を、莉央は楽しそうに聞いてくれた。
莉央が、なにを心配していたのかはわからない。
“実の姉がリリアの姿でゲームをすると恥ずかしい”が理由としては有力ではあるけれど。
なにはともあれ、大好きなゲームのことでは暗い顔をしてほしくない。
だって、この後鬼教官となった私にめちゃくちゃ勉強させられるのだから。
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