212 / 214
【第三晶~理に背きし者等の彷徨~】
67 ソレ
しおりを挟む「ごまかしたいのか聞かれたくないのか良く分からない笑みですね」
「いや、呼ばれなかったし、成り立ってるぽいからまぁいいかと」
どうしようもないと言うならやらなくもないが、率先して取り組む事はない。
自分が関わらなくても成り立っているのだからそれで良いじゃないかと、アスは本気でそう思っていた。
「魔女でも長は担えます。長ならば長としての制約に縛られはしますが、理の内側に在る。世界に見放された存在が一端とは言えまた世界と繋がる事が出来る」
「身勝手を暴走させて世界から弾かれた魔女と言う存在が、唯一世界に赦される術、か」
滔々と宣えば、それだけで興味がないと察するのか、或いはもとから想定済みかフェイがそれ以上を聞いて来る事はなかった。
聞いて来る事はないが、話がそれで終わりと言う事もない。ただ次へと移って行った。それだけだが。
「“前回”の話をされた時、枯れた北の大陸の世界樹とその根もとにあいた穴の話がありましたが、ソレは災禍の因子ではないのですか」
開口一番にもその存在に触れていたが、それでもいきなり切り込んで来たと、その意外性からアスは向ける目にまじまじとフェイを見た。
フェイとアスの間にある二メートル程の距離、ソレとその存在を意識する割には近過ぎる距離だとアスは思う。
座り込んだアスの足もと、つま先近くに一つの鉢があった。
九号から十号程度、円の直径で言えば二十七センチから三十センチ程度の、一抱え程の円形の植木鉢。
素焼きで飾り気のない、くすんだ白っぽい煉瓦質の鉢から伸びているソレを見ている様で見ないようにしているフェイの必死さが面白いとアスは思った。
視界に入る事は諦めるが、意識して目を向ける事はないと言う様なフェイの反応に、けれど、その対処は正しいとアスにも分かっていた。
「顕主の出現のもととなるの禍の出どころは恐らく一つではない。だから、北の大陸の世界樹が枯れた後の、“穴”の通じる先がこの子の世界の可能性もなきにしもあらずってところだ」
鉢から伸び、葉茎の変わりに広がっているのは、その一本一本がぬめりと粘性のある光沢に濡れた黒褐色の触手だった。
アスがカルディア大聖堂前の広場に到着した時に引き連れていたアレそのものではなく、けれど間違いなくその関係者?を思わせるその姿。
鉢の中にその三分の一程を埋め、溢れ出した縁と伸びた上部でうねうねと揺れているソレは、その一本一本が細く、鉢から生えているその全てを合わせても、あの時にいた触手の一本には及ばない。けれど、目に付く色と形、なによりこの小ささにもかかわらず既に放っている雰囲気の異質さが、間違いなくこれをあの時の触手と同質のモノだと確信させる。
「ここに着く頃にはいなくなっていて、ああ無事に還れたのかと思っていたのだがな、次の日、気が付いたらいた」
「······」
「正午近くの真上からの日射しに小さくなった私の影から生えているのに気付いて、どうにも上手く自立移動が出来ないらしくてな、この子が動けないと私までその場に縫い留められる感じになっていた」
どう言う影響を受けていたのか、起点となる影から、影が伸びる長さ以上には離れる事が出来なかったのだとアスは困った風に、それだけの感想を話す。
「······」
「その辺りに生えていたエノコログサで戯れてやっていたら、ルキの奴がここの集落からこの鉢を探して来てな、根もとからばっさりやって押し込んだら何か根付いたっぽい」
掘るでもなく地面すれすれを刈り取る。それを鎌等ではなく長剣の一振りで行い、あの時は触手の全てが硬直してしまっていて死んだかと思ったが、鉢に押し込んで時期に動き出したからどうやらびっくりしただけだったらしい。
と、そんな事を説明すれば、徐々に険しくなるフェイの顔が苦みを帯び、頭を抱える仕種をし、その手をおろした時の表情は無だった。
「飼う?のですか?」
「それなりに魔力を帯びた水を一日一回与えればそれで良いらしい。まぁ何もあげなくても、自力で空気中から何かを吸収しているみたいだから死にはしないだろうが、あげると喜んでるっぽいのだコレが」
「喜ぶ」
これが?とそんな表情をフェイは隠さない。
見はしないがフェイの意識が向いた事は分かるのか、触手が一斉に傾く。まるで何か?と首を傾げたかの様な動きだった。
視界に入っている為に、その動きを察知するフェイは一拍後、ギギギとぎこちない動きでアスを見る。
無を垣間見せる微笑みだけで首を傾げ、その動きだけで問い掛けて来ているのだ。
「一応喚んだ手前、還るまでは面倒見るべきかと思うのだがな」
如何せんアス自身の都合があるからどうするかと思う。
そうじゃないと訴える視線にアスは気が付いていなかった。
「下手に名前を与えてこちらに定着させても
、この子が望まないなら良くないだろうし」
「親、株?が迎えに来ることはないのですか?」
「この子は繋がりを残しているのかもしれないが、私には感じられない。この子自体が繋ぐ穴の可能性も捨てきれないが既に接点は出来てしまっているのだから、目に見えている分、対処が楽かなぁと」
ここではない異なる理の世界。
アスは自らに残った穴の痕跡をこじ開け、そうして喚んだ。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。


隠された第四皇女
山田ランチ
ファンタジー
ギルベアト帝国。
帝国では忌み嫌われる魔女達が集う娼館で働くウィノラは、魔女の中でも稀有な癒やしの力を持っていた。ある時、皇宮から内密に呼び出しがかかり、赴いた先に居たのは三度目の出産で今にも命尽きそうな第二側妃のリナだった。しかし癒やしの力を使って助けたリナからは何故か拒絶されてしまう。逃げるように皇宮を出る途中、ライナーという貴族男性に助けてもらう。それから3年後、とある命令を受けてウィノラは再び皇宮に赴く事になる。
皇帝の命令で魔女を捕らえる動きが活発になっていく中、エミル王国との戦争が勃発。そしてウィノラが娼館に隠された秘密が明らかとなっていく。
ヒュー娼館の人々
ウィノラ(娼館で育った第四皇女)
アデリータ(女将、ウィノラの育ての親)
マイノ(アデリータの弟で護衛長)
ディアンヌ、ロラ(娼婦)
デルマ、イリーゼ(高級娼婦)
皇宮の人々
ライナー・フックス(公爵家嫡男)
バラード・クラウゼ(伯爵、ライナーの友人、デルマの恋人)
ルシャード・ツーファール(ギルベアト皇帝)
ガリオン・ツーファール(第一皇子、アイテル軍団の第一師団団長)
リーヴィス・ツーファール(第三皇子、騎士団所属)
オーティス・ツーファール(第四皇子、幻の皇女の弟)
エデル・ツーファール(第五皇子、幻の皇女の弟)
セリア・エミル(第二皇女、現エミル王国王妃)
ローデリカ・ツーファール(第三皇女、ガリオンの妹、死亡)
幻の皇女(第四皇女、死産?)
アナイス・ツーファール(第五皇女、ライナーの婚約者候補)
ロタリオ(ライナーの従者)
ウィリアム(伯爵家三男、アイテル軍団の第一師団副団長)
レナード・ハーン(子爵令息)
リナ(第二側妃、幻の皇女の母。魔女)
ローザ(リナの侍女、魔女)
※フェッチ
力ある魔女の力が具現化したもの。その形は様々で魔女の性格や能力によって変化する。生き物のように視えていても力が形を成したもの。魔女が死亡、もしくは能力を失った時点で消滅する。
ある程度の力がある者達にしかフェッチは視えず、それ以外では気配や感覚でのみ感じる者もいる。

とある元令嬢の選択
こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。

このやってられない世界で
みなせ
ファンタジー
筋肉馬鹿にビンタをくらって、前世を思い出した。
悪役令嬢・キーラになったらしいけど、
そのフラグは初っ端に折れてしまった。
主人公のヒロインをそっちのけの、
よく分からなくなった乙女ゲームの世界で、
王子様に捕まってしまったキーラは
楽しく生き残ることができるのか。
私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる