169 / 214
【第三晶~理に背きし者等の彷徨~】
24 行動に移りましょうか
しおりを挟む 「!」
今まで使っていた楽器にない違和感を覚える。唇にフィットし過ぎず、若干の抵抗感があるのだ。本当に若干。この微妙な差がポイントなのだと思う。
小さな穴に息を吹き込む。
違いは、すぐにわかった。
音の立ち上がりがはっきりとしていて、無駄な空気の音がない。音色の厚みが増して、響きも広がる。
こんなにまとまった音を出せるとは思ってもいなかったので、自分自身が一番驚いた。
まるで体と楽器が共鳴しているかのよう。音を出すたびに体の芯がじんじんと震える。ちゃんと音が当たっている証拠だ。
もしかして、リッププレートの抵抗感がそうさせているのか。
ふむと言わんばかりに、福岡くんは私の出す音に耳を傾けた。
「聴いている方としては音は良いけど、演奏する側として音が出しにくくないですか?」
「…………」
私は開けっぱなしの口から言葉が出ないまま、ひたすら彼を見つめる。言葉にならない感情をどう表現しようか。
「眞野さん?」
不安げな表情になる彼を見つめたまま、一旦楽器をゆっくりテーブルに置いた。傷をつけないように。転がってしまわないように。
わなわなと震える体。その体の内側で噴火しそうな感情を抑制する。
なにかを察した彼は、キュッと眉を寄せ、再び名前を呼んだ。
「眞野さん、もしかして吹きづらかったですかね……?」
「いーーーーえ!」ガシッと、彼の両手を掴む。
「すっっっっっっごく良いよ!」
ぶんぶんと上下に振って、今までに感じたことのない、音を出した瞬間の感覚を表現する。
「私、ずっと初心者向けのモデルを使ってたんだけど……なにが違うの? 私のもハンドメイドだったけど、SRモデルもそうだよね⁉︎」
「そうですね。モデルの違いがあるとしたら、グレードによって洋銀製か総銀製か……一番わかりやすいのはその辺りでしょうか。ちなみにSRは総銀製ですね」
「楽器に使われている銀の量……⁉︎ 銀のなせる技なのかぁ! 凄く音が出しやすい! 感動どころじゃないよぅ‼︎」
「気に入ってもらえたなら嬉しいです」
「なにこれなにこれなにこれ……! いや、ただの楽器なんだけど……いやいやいや、ただの楽器じゃないよね。これって、やっぱりshow先生とか福岡くんも吹いた楽器?」
「あー、こっちのは先生のお下がりじゃないんで、俺しか吹き込んでないです」
「ええええ! 本当? 癖が強い演奏者が使った楽器って吹きにくくなるもんだけど、こんだけ吹きやすいってことは……」
ジッと彼を見つめる。もうキラキラとした眼差しで。
「な、なんですか?」
テンションの高い私に引いてることにも気づかず、私は腕をブンブンと振った。
「福岡くんがすっっっっっっごくフルートが上手だってことだよ!」
ニッコリ。自然に笑顔が出た。
彼も驚いたように少し目を大きくしたが、すぐに目を細くし、微笑み返してくれた。私の褒め言葉を、素直に受け取ってくれたように。
「凄く楽しい……もっと吹きたいって思う楽器は初めて」
「じゃあ相性が良いなら、その楽器でいきますか。日付が変わっちゃったし、今日はもう寝て、また明日の朝から頑張りましょ」
「うん! そうだね。明日早く起きなくちゃ」
彼の言う通り、私もこの楽器との相性が良いと思った。
ここまで相性がよければ、明後日の本番はどうにかなるかもしれない。
とはいっても、実質練習できる日は、たった一日。不安は拭いきれない。
でも、高まる鼓動。ドキドキとワクワクが止まらない。
こうやって新しい楽器に触れ合うと、また楽器が欲しくなっちゃう。お父さんに買ってもらったフルートが直らないだろうから、たぶん買うようにはなるだろうけど。
次に買うメーカーを同じムラアツにするのもいいけど、今、福岡くんが使ってるアルトスも吹いてみたいなぁ。
こんな時に楽しみができちゃうとは思わなかった。胸元がほかほかして温かい。
「ふわぁ~楽しい~」余韻に浸っていると、申し訳なさそうに声を掛けられる。
「あの」
「はい?」
「手、離してもらってもいいですか」
楽器を片付けたいんで。
そう言われて赤面し、パッと手を離した。
「ごめんなさい」
即、土下座。
今まで使っていた楽器にない違和感を覚える。唇にフィットし過ぎず、若干の抵抗感があるのだ。本当に若干。この微妙な差がポイントなのだと思う。
小さな穴に息を吹き込む。
違いは、すぐにわかった。
音の立ち上がりがはっきりとしていて、無駄な空気の音がない。音色の厚みが増して、響きも広がる。
こんなにまとまった音を出せるとは思ってもいなかったので、自分自身が一番驚いた。
まるで体と楽器が共鳴しているかのよう。音を出すたびに体の芯がじんじんと震える。ちゃんと音が当たっている証拠だ。
もしかして、リッププレートの抵抗感がそうさせているのか。
ふむと言わんばかりに、福岡くんは私の出す音に耳を傾けた。
「聴いている方としては音は良いけど、演奏する側として音が出しにくくないですか?」
「…………」
私は開けっぱなしの口から言葉が出ないまま、ひたすら彼を見つめる。言葉にならない感情をどう表現しようか。
「眞野さん?」
不安げな表情になる彼を見つめたまま、一旦楽器をゆっくりテーブルに置いた。傷をつけないように。転がってしまわないように。
わなわなと震える体。その体の内側で噴火しそうな感情を抑制する。
なにかを察した彼は、キュッと眉を寄せ、再び名前を呼んだ。
「眞野さん、もしかして吹きづらかったですかね……?」
「いーーーーえ!」ガシッと、彼の両手を掴む。
「すっっっっっっごく良いよ!」
ぶんぶんと上下に振って、今までに感じたことのない、音を出した瞬間の感覚を表現する。
「私、ずっと初心者向けのモデルを使ってたんだけど……なにが違うの? 私のもハンドメイドだったけど、SRモデルもそうだよね⁉︎」
「そうですね。モデルの違いがあるとしたら、グレードによって洋銀製か総銀製か……一番わかりやすいのはその辺りでしょうか。ちなみにSRは総銀製ですね」
「楽器に使われている銀の量……⁉︎ 銀のなせる技なのかぁ! 凄く音が出しやすい! 感動どころじゃないよぅ‼︎」
「気に入ってもらえたなら嬉しいです」
「なにこれなにこれなにこれ……! いや、ただの楽器なんだけど……いやいやいや、ただの楽器じゃないよね。これって、やっぱりshow先生とか福岡くんも吹いた楽器?」
「あー、こっちのは先生のお下がりじゃないんで、俺しか吹き込んでないです」
「ええええ! 本当? 癖が強い演奏者が使った楽器って吹きにくくなるもんだけど、こんだけ吹きやすいってことは……」
ジッと彼を見つめる。もうキラキラとした眼差しで。
「な、なんですか?」
テンションの高い私に引いてることにも気づかず、私は腕をブンブンと振った。
「福岡くんがすっっっっっっごくフルートが上手だってことだよ!」
ニッコリ。自然に笑顔が出た。
彼も驚いたように少し目を大きくしたが、すぐに目を細くし、微笑み返してくれた。私の褒め言葉を、素直に受け取ってくれたように。
「凄く楽しい……もっと吹きたいって思う楽器は初めて」
「じゃあ相性が良いなら、その楽器でいきますか。日付が変わっちゃったし、今日はもう寝て、また明日の朝から頑張りましょ」
「うん! そうだね。明日早く起きなくちゃ」
彼の言う通り、私もこの楽器との相性が良いと思った。
ここまで相性がよければ、明後日の本番はどうにかなるかもしれない。
とはいっても、実質練習できる日は、たった一日。不安は拭いきれない。
でも、高まる鼓動。ドキドキとワクワクが止まらない。
こうやって新しい楽器に触れ合うと、また楽器が欲しくなっちゃう。お父さんに買ってもらったフルートが直らないだろうから、たぶん買うようにはなるだろうけど。
次に買うメーカーを同じムラアツにするのもいいけど、今、福岡くんが使ってるアルトスも吹いてみたいなぁ。
こんな時に楽しみができちゃうとは思わなかった。胸元がほかほかして温かい。
「ふわぁ~楽しい~」余韻に浸っていると、申し訳なさそうに声を掛けられる。
「あの」
「はい?」
「手、離してもらってもいいですか」
楽器を片付けたいんで。
そう言われて赤面し、パッと手を離した。
「ごめんなさい」
即、土下座。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。


隠された第四皇女
山田ランチ
ファンタジー
ギルベアト帝国。
帝国では忌み嫌われる魔女達が集う娼館で働くウィノラは、魔女の中でも稀有な癒やしの力を持っていた。ある時、皇宮から内密に呼び出しがかかり、赴いた先に居たのは三度目の出産で今にも命尽きそうな第二側妃のリナだった。しかし癒やしの力を使って助けたリナからは何故か拒絶されてしまう。逃げるように皇宮を出る途中、ライナーという貴族男性に助けてもらう。それから3年後、とある命令を受けてウィノラは再び皇宮に赴く事になる。
皇帝の命令で魔女を捕らえる動きが活発になっていく中、エミル王国との戦争が勃発。そしてウィノラが娼館に隠された秘密が明らかとなっていく。
ヒュー娼館の人々
ウィノラ(娼館で育った第四皇女)
アデリータ(女将、ウィノラの育ての親)
マイノ(アデリータの弟で護衛長)
ディアンヌ、ロラ(娼婦)
デルマ、イリーゼ(高級娼婦)
皇宮の人々
ライナー・フックス(公爵家嫡男)
バラード・クラウゼ(伯爵、ライナーの友人、デルマの恋人)
ルシャード・ツーファール(ギルベアト皇帝)
ガリオン・ツーファール(第一皇子、アイテル軍団の第一師団団長)
リーヴィス・ツーファール(第三皇子、騎士団所属)
オーティス・ツーファール(第四皇子、幻の皇女の弟)
エデル・ツーファール(第五皇子、幻の皇女の弟)
セリア・エミル(第二皇女、現エミル王国王妃)
ローデリカ・ツーファール(第三皇女、ガリオンの妹、死亡)
幻の皇女(第四皇女、死産?)
アナイス・ツーファール(第五皇女、ライナーの婚約者候補)
ロタリオ(ライナーの従者)
ウィリアム(伯爵家三男、アイテル軍団の第一師団副団長)
レナード・ハーン(子爵令息)
リナ(第二側妃、幻の皇女の母。魔女)
ローザ(リナの侍女、魔女)
※フェッチ
力ある魔女の力が具現化したもの。その形は様々で魔女の性格や能力によって変化する。生き物のように視えていても力が形を成したもの。魔女が死亡、もしくは能力を失った時点で消滅する。
ある程度の力がある者達にしかフェッチは視えず、それ以外では気配や感覚でのみ感じる者もいる。

とある元令嬢の選択
こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。

このやってられない世界で
みなせ
ファンタジー
筋肉馬鹿にビンタをくらって、前世を思い出した。
悪役令嬢・キーラになったらしいけど、
そのフラグは初っ端に折れてしまった。
主人公のヒロインをそっちのけの、
よく分からなくなった乙女ゲームの世界で、
王子様に捕まってしまったキーラは
楽しく生き残ることができるのか。
私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる