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【第三晶~理に背きし者等の彷徨~】
18 ルキフェルは見定めようとする
しおりを挟む「坊や、せっかくこの私が直々に坊やへの助言を与えたのだ、ものに出来ないなど言ってくれるなよ?」
「・・・・・・」
「まったく、この私を失望させるなど救いようがないな」
「・・・・・・」
エメルが何かを言っているのは分かっているが、ルキフェルの耳はその言葉を素通りさせていた。
「エメル、少し黙りましょうか?」
伏せ目がちにした眼差しに沈黙を続け、何の反応も示す事のなくなったルキフェルの様子に見兼ねたのか、フェイは溜め息を一つ吐くと、不服そうに騒ぐエメルを静かにさせるべくそんな言葉を発していた。
「助ける気がない訳ではありませんよ?」
おもむろに発せられた言葉で、ルキフェルが先程思った事をカイヤが否定する。
思いはしたが、口に出した訳ではなかったその内容。それをカイヤが口にした事に、けれどルキフェルは戸惑いはなく普通に受け入れていた。
「・・・優先順位の話しでしかないのだと思います」
「そうですね」
一拍程の沈黙の先に口を開いて、目線を上げたルキフェルへと、フェイはあっさりと肯定を返して来た。
「助ける気がないわけではないけれど、率先して、何をおいてでもとまでは思っていない?」
「それどころか、そちらの愉快犯にはほぼ必要性自体がないんですよ」
「愉快犯とはなんだ!いつの間にそんな敬い平伏すべきこの私を貶すような、礼儀のなっていない不届きものになったんだ!私は悲しいぞ!」
騒ぎあからさまな泣き真似をするエメルの存在を他所に、ルキフェルがフェイを見れば、フェイにより寧ろ穏やかとすら言えそうな笑みが返されていた。
「覚えておくといいですよ、私も、そちらの二人も、もうずっと前から自分にとっての一番を決めてしまっているんです」
「一番?大切なもの」
「ええ、その唯一の為なら、その唯一の意思すらも関係なく、他の全てを切り捨てることですら良しと出来る、そう言った精神性をしていると言うことです」
促される様にしてカイヤとエメルの顔を見れば、泣き真似から一転した姉の笑みと、常にそうであると言う弟の、血の繋がりを感じさせる酷く似通った、同種とすら取れる笑みを浮かべている二人がいて、そしてそれはフェイが浮かべるそれとも、やはり似ていると言えるものだと、ルキフェルはそう思った。
「僕は、俺も、アスがいれば、アスだけで・・・」
「選ぶと言うことは、極端に言ってしまえば選んだものそれ以外を選ばないと言うことですよ。貴方にその覚悟がありますか?」
以前、アスにも似た事を言われたなと、思い、瞑る目の、その仕種だけでルキフェルの迷いは容易く見抜かれる。
だからこそ、フェイは覚悟と言う言葉を重ねるのかもしれなかった。
「選ばない覚悟は、見捨てる選択・・・」
「さて、考えることも多いようですが、時間は待ってはくれません。後五分程度ですし、この中で唯一、あの方を優先して考えることが許される貴方はどう動きますか?」
残り時間を告げる事でカイヤが話の流れをもとに戻し、その選択をルキフェルへと委ねて来た。
ルキフェルが持つ、あまりにも断片的でしかない情報。
結局のところ、ルキフェルにはこの三人ともとの正しいと思える付き合い方が分からないままだった。
確信はしていても、それが自身の思い込みでしかなとも言いきれない情報源達。
表情には出さないが、ルキフェルは内心では顰めた顔に眉根を寄せまくっていた。
「・・・獏のひとを、あなた方はご存知ですよね?直ぐにここへ呼ぶことは可能ですか?」
結局言葉に出来たのはそんな事だけだった。
恐らくは、ルキフェル以外のこの三人は、既に何が起きているのかを察している。
言葉遊びの様に断定を避けた迂遠な物言いを続けて、けれど、交わされる会話は何かを避けて、一定の距離感を保っている、そんな気持ちの悪さをルキフェルは感じていた。
気持ち悪い、そう思うからこそ、ルキフェルもまた明確な言葉が使えない。
「アスの味方でないあなた方が敵になってしまうことが怖い・・・でも、敵でないからこそ、あなたたちはあの子を切り捨てる事ができてしまうのだと思いました」
ルキフェルは素直な思いを口にする。
アスの眠りに夢魔と呼ばれる魔物が関わっているのなら、その対処が可能な人物を呼び寄せれば良い。
それは根本的で、けれど表面的でしかない解決の方法だった。
今起きている事は、原因となっている夢魔をどうにかして、アスが目覚めれば、それで終わりに出来る筈の事。
ただ、その過程で、それこそフェイの言っていた“唯一”に関わる何かが起きた時、歯牙にもかける事なくアスは見捨てられる。或いは決定的な何かを起こすのがカイヤやエメルになる可能性すらも孕んでいる。
ルキフェル自身に、現状をどうにかする力がないのだからルキフェル自身が何を選ぶべきか決めるしかないのに、獏のひとと言う手段を求めながらもルキフェルには未だにどうするべきなのかが分からなかった。
「私達は確かに貴方以上の情報を有しています。ですが、それだけに、おいそれとそれらを軽々しく扱うことが許されない。これは、私達を守る制約でもあるんです」
ルキフェルの問い掛けの答えではなく、そんな事をカイヤは告げて来た。
「人の為に在る勇者と言う存在は、全てを救うと言うかなり傲慢な概念のもとにある分、悩んでいる暇のない事がある意味での救いなんだろうな」
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