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【第三晶~理に背きし者等の彷徨~】
15 アスの眠りを探る
しおりを挟む「フェイさん大丈夫ですか?」
「そこは素直にアスのことを聞くのではないのですね」
言ってしまい、それからフェイは溜め息を一つ吐く。
この状態でもなお取り繕おうとするルキフェルに対してではなく、取り繕う事すら出来なくなっている自分自身に対しての落胆だった。
「本当にあの時から、変わらない・・・変われない」
誰か聞いていても構わないと言う心境で、それでも誰にでもなく呟く。
そしてもう一度溜め息よりもさらに深く息を吐き、吐ききる頃合いを見計らってカイヤによって寝かし直して貰った体勢から改めてフェイは上体を起き上がらせる。
「まったく我が姪は本当にまだまだ子供だ」
呆れた様にやれやれと首を左右に弛く動かすエメルの仕種。
起き上がる事を止めなかった代わりにカイヤがその上体を支えられる様にと、腰の後ろへと幾つかのクッションを置き調整してくれているのをフェイは素直に感謝する。
「私は大丈夫ではありませんが、時間が解決する範囲なので今は放置で問題ありません」
「会話は一時間まで、その後は強制的にでも寝てもらいます」
問題ないと言った端からカイヤに水を注される。
「大丈夫だ、私は用意が良いから睡眠花の準備も万端だ」
エメルの感謝しろと言わんばかりの眼差と、有言実行とばかりに、その手に握られている黄色い花弁の存在には気付いていても、目を向けない事で流す。
気に留めて貰えず不貞腐れた表情をするエメルだが、その内心は僅かに吊り上げられた口角の動きにこそ表れているとフェイは知っていた。
まさしくこの姉にしてこの弟ありなのだ。
アスの状態が分からない中で区切られた時間。ならば直ぐにでも話しを進める方が有意義だとフェイの意識は既に切り替わっていた。
話しが終わっていようがいなかろうがカイヤが一時間と言ったなら一時間、そこが最大限の譲歩で覆る事はないのだからと。
「フェイさん」
「第一層は事前情報通りでここ最近の記憶と思われるものを垣間見ました」
始める報告にフェイを呼んだルキフェルの瞬きが一つ。
フェイへの気遣いか、現状の報告か、何を言おうとしたのかは分からないが、本題に入られた瞬間のそう言った仕種だけで、ルキフェルもまた意識を切り替えたらしい。
口にしなかった事でフェイへの気遣いの方だとあたりは付くが、必要がないと、向ける視線に頷いて見せれば、それだけでルキフェルは真剣な表情に聞くと言う事に集中する、そんな雰囲気の変化を見せた。
その変化を感じ取り、続きを言葉にしながら、フェイ自身でも並列で考えを纏めて行く。
「その段階で既におかしいと思いました」
「可笑しい?」
聞き返すカイヤもまた考えている様子だった。
フェイからの話しを聞きながら、様々な可能性を取捨選択しているのだろう。
「ええ、そうです。人の眠りに潜る試みは経験がないので断言ではありませんが、やはりあれはおかしい」
「まだるっこしいことだな、何を見た?」
結論を求めるのはエメルだった。
確かに可笑しいとフェイ自身の漠然とした感覚を告げるよりは、具体的な情報を提示しなければ実際にアスと言う人物を知り、それを見て来たフェイ以外は思考を制限される。そう理解しているのだが、フェイもまだ掴みきれていないものがここでの断言を今なお避けさせているのだった。
「最近、と言いましたが、それは具体的にどれくらい前のことか分かりますか?」
フェイの判然としない様子からか、カイヤによって考えどころになり得る切り口を提示される。
フェイが曖昧に思考を鈍らせている感覚に、カイヤの方は何か心当たりがあるのかもしれないと思わせる発言だった。
「時系列はばらばらでしたが、期間では一年未満、厳密には全て私と出会った後の目覚めてからの行動ですね」
フェイの答えを聞き、考える様に唇の下へと添えた人差し指の背に、カイヤは伏せ目がちの双眸で口を開く。
「・・・夢は無意識の領域、夢を見ている当事者ですらままならないもの、それでもあの方が意図的に見られないようにしていると考えますか?」
「そこは素直に外部からの干渉でいいんじゃないのか?精神感応系ので忘れたと思い込ませるかして思い出せないようにするか」
カイヤが重ねる問いへと、窓辺へと移動し佇むエメルが指摘する。
「記憶や情動の整理の為に、比較的最近の記憶が混在しているのが第一層と呼んでいる場所です。ですが、比較的最近と言ってはいても、それだけとは限りません」
「記憶とは連続しているもの、その時々へと繋がる何時かが必ず存在している」
フェイが目を向けるのはルキフェルの存在。
捕捉するカイヤもだが、予備知識がほぼ全くないであろうルキフェルにも、この場にいるのだからと一応の気をつかった形だった。
「つまり、ごく最近しかなかったと言う、あの嬢やの記憶は、不届き者の干渉を受けていると言うことだな?」
「アス自身が意識的にか、無意識にか、何かをしていなければです」
その線もまた捨てきれていない。
完全な夢の操作は出来ないとされている。けれど今、“以前”がなかったアスの夢にはそれが起きているとフェイは考えていた。
フェイが最初に感じた違和感が、この制限されている夢の存在にあったのだから。
「そして、第二層には黒い一角馬と、赤い猫がいました」
「それは楽しそうな組み合わせだな」
「防衛を司る第二層に二体の具象化された獣ですか?」
伝え聞く内容に、カイヤは口もとにあてていた手を今度は考え込む様に額へと持って行った。
「自意識と自我の守りを担う第二層の守り手」
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