月白色の叙情詩~銀礫の魔女が綴るもの~

羽月明香

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【第二晶 ~選びし者と選ばれし者~】

26 魔力喰い

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 アスがこうして、フェイと会話する余裕が出てきたのは一重に現在展開させている解析の魔術のお陰だった。

解析アナライズは対象の魔力波動そのものを読み取る技術と、読み込んだその魔力波動の状態を理解する知識が必要不可欠。フェイ向きだと思うが?」
「魔術師、魔女である貴方は魔法使いですよね?」
「その辺りはまた後でな、段階的には探索サーチの上の技術になるが、便利だぞ」

 そんな会話と並行させながらも、読み取る事の出来たカイの状態から、アスは見た目程カイの状態が悪いものでないと気付いた。
 悪くはないが、猶予がある状態でもない、それが現状だと。

「まあ、魔法と違って、誤魔化しが利くし騙しあいの面があるから、それなり以上の術師相手だと過信出来ないどころか、かなり注意が必要だがな」
「・・・厄介な状態なんですね?」

 浮かべた笑みのまま、小首を傾げるようにして尋ねて来るフェイに、アスはやはり気付くかと、表情を返していた笑みのままに固めた。
 余計な話しを続けて、直面している筈の主軸から逸れたままにするアスの焦りを、フェイは正しく把握してくれているらしい。
 そして、その事に気付いたなら更に先を予想してくれるだろうとも思っていた。

「憑かれている、いえ、寄生されている。“虫”ですね?」

 フェイはアスにではなく、その先にいるカイへと目を向けて、それを尋ねた。

 カイは未だにルキフェルと睨み合っていて、けれどアスだけでなくフェイもまた目の前にいるのに、感知出来るぎりぎりの少なすぎるカイの魔力気付いていたのだろう。
 そして、読み取ろうとして、阻害されているかのような感覚と、自身で治せる筈なのに治さない身体の外傷について。

「“虫”、つまり魔力喰いの類いに寄生されているのだと思います」

 断定されるフェイの言葉に、アスは納得したように頷く。
 そう言う事かと思い、けれど、同時に有り得るのだろうかと考えてもいた。

 ここでフェイが言う“虫”とは、インセクト昆虫型の魔獣の事ではなかった。
 飲食物の摂取、或いは何等かの外傷箇所等を通して生き物の体内へと入り込み、その生き物を宿主とする事で、他の生き物の持つ魔力を吸い上げ、成長や繁殖を繰り返す。そんな生物がいる。
 多くは、寄生虫の様なワームタイプの姿をしており、そんな特性を持つ生物を総称して魔力喰いと言い、俗に“虫”と呼んでいるのだ。

 カイが、魔力喰いにやられているのだとアスもまた可能性として思い至れる筈だった。だが、魔力喰い程度が、カイをここまで衰弱させる事が出来るのかと、そんな思いから表に出さないながらも混乱していたのだ。

「あれに並みの生き物が寄生された場合は、ちゃんとした対処が遅れると、体内の魔力が枯渇して死活問題に陥る」
「いつ寄生されたのか分かりませんが、あの方がそうなる可能性は低いでしょうね」
「・・・別の要因、角の欠損、魔力喰い、会いに行った、常盤ときわの魔女」

 魔力喰いだとフェイより答えはもたらされていて、けれどまだ足りないのだとばかりにアスは要素を並べ続ける。

「地底と闇間に横たわる澱みの気配だ」
「ルキ・・・?」

 睨む様に見据えていたカイの存在へと、そんな事を呟いたルキフェル。アスは今、ようやくそこにいるのだと認識でもしたかもようにルキフェルを呼んだ。

「貴方自身がそうでないのなら、憑かれるか侵されているのか?」

 言葉を重ね、ルキフェルは険しい表情でカイへと問う。

「“地”と“闇”・・・?不意をつけたとしても、魔女の祝呪を持つ銀鹿シルフアローに対して、同格かそれ以上でないと・・・・・・」
「ルキ、

 フェイの言葉の途中だったが、アスは一言それを告げた。
 耳にした言葉にではなく、その一瞬にして広がった空気にフェイは口を噤んでいた。

 叱責程の厳しさはなく、懇願程の重さもないのに、出来たら聞いてくれれば良いと要望を告げただけとのそんな気軽さでは絶対に有り得ない。
 その甘さのない、けれど冷たいだけの命令ともまた違う強制力を、アスの声を聞いた者達はただその身に受けていた。
 声を聞いた誰もが動きを止める、そんな中で、その影響を一番受けていたのがと名指しされたルキフェルだったのは必然だろう。
 僅かに見開かれた双眸に、呼吸する事すら忘れてしまったかのようにただアスへと注がれ続ける、ルキフェルの眼差し。
 けれど、ルキフェルを見ないままに、アスは僅かに双眸を細めてカイを見る。

「結局は、場当たりで行くしかない、か」

 そう呟かれたその言葉が許しであったかの様に、その場にあった空気が一瞬にして霧散した。
 そのまま密やかにも吐かれる吐息は誰のものだったか、何があったか誰も説明が出来ないのに、けれど、間違いなくあの一瞬にアス以外の者達は囚われていたのだ。

 ルキフェルは意識的な瞬きと共に、剣の柄へと置いていた手を下ろした。
 アスにより止められたその行動は、ルキフェル自身でも無意識のだったのだろう。ルキフェルが手を置いていたのは、アスが渡した長剣ではなく、ルキフェル自身が使い慣れたあの抜く事の出来ない剣だったのだから。
 だが、と問うようにアスを見たルキフェルは、既に先程アスによりもたらされたの空気へと消し飛ばされた険しさをその瞳に宿し直していた。

「カイ、そのまま堕ちるのなら、分かるな?」

 ルキフェルの眼差しへと、アスは変わらず応える事なく、そうして、カイを見詰めるままに一つ諦めたように息を吐いた 
  
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