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【第二晶 ~選びし者と選ばれし者~】
13 契約内容を探る
しおりを挟む「まあ、仮にも勇者ですから。と言いたいところですが、否定に意味はないんですよ、そもそもが貴方に記憶がないのですから、貴方自身にすら真実なんて分かる筈がない」
ルキフェルの否定を受け入れるように見せ掛けて、フェイに容赦はなかった。
「それでもっ!」
断じて受け入れる訳にはいかないと、ルキフェルは挑むようにフェイを見据えた。
「ルキ自身にすら真実がない。だから“軽い”んだ」
そう喋って、それから二人に倣って空気を目指してみるべきだったかと、アスは一瞬考えてしまい、それも直ぐにどうでも良かったなと思い直した。
「残されている部分だけでは否定しきれないどころか、予想されてしまう疑惑がある。自己への肯定が揺るがされる事。そうなると、どうしても軽くなってしまうのですよ」
「魔女への対価は魔女をも縛る。故に曖昧は許されず絶対だ。けれど今、ルキフェルは自身の契約と対価を把握出来ずにいる。・・・“ない”なら問題はなかったが、“失っている”と自覚しているのに契約内容が分からないのは不味いのかもしれない」
話している途中で、ふと思い至り、アスは考えるように視線を彼方へと投げ掛けて、何を見るでもないものへと変えていた。
「弊害が出る前に、手遅れではないだろう?・・・そもそも契約の履行が出来ていないか、成立すらしきっていない?」
幾つかの考えが脳裏を過り、その断片を言葉として溢す。
誰に話しかけるものでもないその状態に、ルキフェルは声を掛けて良いのかと困惑し、先程の挑むような眼差しすらも忘れて窺うようにフェイへと目を向けていた。
そして、フェイはそんなルキフェルの反応に、こちらも自分の言い分等なかったかのように、平然とやめておいた方が良いと言う意味合いで首を横へと振って見せる仕種を返していた。
「・・・捜した方が良いのかもしれない。ルキフェルが契約を交わした魔女を」
結論が出たのか、アスはそう宣言するように告げて、ルキフェルを見た。
「不味いとさっき言っていたのは聞き取れた。詳しく話して貰ってもいいか?」
感じ取ったものに、真面目な話しなのだと理解したのか、ルキフェルは真剣な表情でアスを見返して来た。
「ルキは間違いなく、何処かの魔女と契約を交わしている。でないと、今、ここにいる説明がつかない」
「まあ、普通の人間では、眠っていたとは言え、二百年の時を越えて来るのは難しいでしょうから」
「魔女の力を借りて、ここにいるのが私か」
改めて、一つ一つを確認して行くように会話を進めて行く。
「他の可能性も本来はない訳じゃないが、取り敢えずの前提がそこになる」
「他の可能性?」
「成り行きと、抜け道と、償い。ルキは契約の内容を覚えていないから」
いきなり、アスが他の可能性を匂わせたのは、絶えず考え続けさせる為。予想外や予定外等が当たり前だと、前提を提示しながらも、考え得る事の前置き告げておく。
そうして、間違いないかと確認するようにアスはルキフェルを見た。
「アスたちが言う契約かは分からない。けど、自覚がある。何かを誰かと約束しているのは確かだ」
「内容を言えるか?もしくは言えなくても、理解しているか」
契約条件の都合等で、人には言う事が出来なくなっているか、或いは単に言いたくないだけか。それでも内容を当人が把握していれば、まずは安心するのだが、とアスはルキフェルへと訪ねていた。
「分からない。自分は何かを願い、誰かへと望んだ。その為に約束を交わして・・・」
寄せる眉根へと、ルキフェルは顔を顰め黙り込んでしまった。
「貴方は何かを望んだ。それは自力では達成が不可能だった。疑問の一つ目、何を望んだのか」
「分からない」
悩むままに、けれどアスの問い掛けへと即答だったのは、ルキフェルもまたそれを考えて続けていた為だろう。
「では二つ目、望みを告げた相手はどなたでしょう?それから、どうやってその相手と遭遇したのでしょう?」
「だれ、どうやって・・・」
フェイからの質問は会いに行ったのか、会いにこられたのか。その段階でも話しが変わって来る為の確認だった。
会いに行ったのなら、何処かで望みを叶えてくれるかもしれない相手の存在を知った事になるし、会いに来られたのなら、何処かでルキフェルの望みが把握されていた事になる。
叶えられる者と、叶える者の繋がり方は重要なヒントになるのだ。
だが、とそこで、アスは悩むようなルキフェルを見ていて思った。
「向こうから来た可能性か、相手がルキフェルの何かを望んで、承諾の為にその対価としてルキフェルが自身の望みを叶えて貰った。このパターンもある訳だな」
「紫色の、アスよりもずっと濃い色合いの瞳」
アスが別の可能性を考えた時、ルキフェルが不意に呟いた。
「関わったのは紫目の魔女で、会いにいったかこられたかは不明。ではその三、何を差し出したか、取られたか」
ルキフェルの言葉をあっさりと想定の中へと組み込み、三つ目の点へとフェイは繋げていった。
濃い紫色の瞳の魔女。その存在は予想の範囲内で、寧ろやはり出て来たかとアス思ったが表情には出さなかったし言葉にもしなかった。
「自分で渡したのか、結果として失ったのか、だ」
「そう、重要ですよ?」
アスとフェイは、ルキフェルへと三つ目の質問で迫っていた。
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