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【第一晶 ~新たなる旅立ち~】
33 過去の欠片と移動後半
しおりを挟む「見たくないものや考えたくない事に直面した時、それを見ないふりや、気付かないふりで遣り過ごす事も有りだと私は思っていますから」
本当に何でもない事のように言うフェイは、何度もそう言う場面に出会い、そう言う選択をする事もあったのだと思わせていた。
「本当にその時が来て、ようやく受け入れるか、はね除けるか、どうにもならないままで潰れるか、それすらも自由ですからね」
会話のニュアンスから、“その時”とは、来ない方が良いもののように思う。けれど、潰れてしまうような自由もあるとフェイは笑うのだ。
「その時、か、何時か来るその時は先送りにするだけ送りきった先で、行き着いた場所で、そう言うものと受け入れられるか、知るかそんなものと突っぱねるか、三つ目の潰れるは避けたいがな・・・覚えておく」
「覚えていなくても、戯れ言ですしね」
「戯れ言?」
砕けた笑顔で戯れ言と言うフェイに、私は目を瞬かせ困惑を伝える。どう言う話しの流れなのか。
「特に貴方の場合は、目を逸らしているように見えて、ちゃんと自分が見ないようにしているものを知っているようですから」
「自分が何を見たくないと思っているか分かっていなければ、目を逸らし続けるのは難しくないか?」
私は不思議そうに告げるが、フェイはその答えにうっすらと笑い、感情の窺い難い笑みを口もとに刻んでいた。
「貴方はそうあるようですが、だいたいのひとは見たくないなら意識すら向けないように、無意識のうちから回避に回る。そんな事もあるのですよ」
「よく分からないが、そんなものか」
分からないとしながらもそう言うものと納得しようとする私を、フェイはやはり笑みを浮かべたままで見ていて、それが、それで良いのだと言われているかのようで何なのかと思った。
「ここでずっと水場を占拠し続けるのも、他の生き物達に悪いですし、行きましょうか」
「ああ、窺われている感じがあるからな」
やはり魔獣ですらない小動物の気配が幾つか感じられ、見知らぬ生き物である私やフェイの存在に、水場を使うかどうか躊躇っているようだった。
促されると同時に促し、休憩から移動の再開に私達は歩き始める。
「後、どれくらいで目的の場所でしょうか?」
「このまま直進出来れば、明日の昼前には着く感じじゃないか?まぁ勘だがな」
「勘なのですか?」
「行った事がある訳じゃないからな、あくまで視た時の目測に頼っている」
「因みに懸念の内容は?」
直進出来ればと言った、私の言葉の意味を正確に理解しているフェイは聞いてくる。
直進出来れば、つまりは直進出来ない可能性があり、その可能性は低くないのだと、ちゃんと想定し始めているらしい。
「崖を越えられる時期かどうかと、朔の森の北を縄張りにしている奴等の主が私を覚えているかどうかだな」
「代替わりや、縄張り争いに敗れている可能性等はどうですか?」
「なくはないが、ありそうもない」
「そうですか、穏便に行くと良いですね」
「だな、夜営中のじゃれあいとか、眠いと加減が難しいんだ」
何がいるのか聞かないフェイが楽ではあるが、そもそもの迂回を提案して来ない事には少しばかり不思議に思った。
それが訝る表情として出ていたのかも知れない。ふっと笑うフェイはこちらが疑問に感じている事などお見通しと言ったそんな雰囲気があった。
「色々と擦り合わせの最中ですので、あまり気にしなくて大丈夫ですよ」
「うん?」
「貴方が何処までを私に話すべきとしていて、何が大した事でない事として片付けられているのかです」
「隠し事は多くないと思うが?」
「たぶんですが、言いたくないとかではなくて、そんな隠し事とか大事に捉えていない部分。その線引きを少々確認中です。何せ、貴方は“面倒臭がり”ですからね」
「心外だ」
やや拗ねたような口調になってしまったのも仕方がないだろう。
自分で処理をして、相手に影響がないように完結出来るのなら、別に言わなくても良いだろうと、確かにそう考える。それを面倒臭がりだと言われて、朗らかに見えて面白そうに笑うフェイに、思わず不貞腐れた表情になってしまっても、私は悪くないではないか。
「はぁ、・・・だいぶ話しが逸れてしまったが、直ぐに確認出来ない事は今良いし、終わっている事は知らない。だから、ツァール君の話しがもともとだったな」
「私の方も気になることだらけなのですが、もともとはそうです。それにあのツァール君のフォルム、関わっていますよね?あの人が」
触れない事への同意が得られたらしい。
話しの軌道修正をはかる事で、勇者パーティーの事や、面倒臭がりと言われた内容については考えない方向で行く。
「エリーが逝ってしばらくして、フェンが持ってきたんだ。完成品だって」
「エレクトリカ、鳴架の魔女。“雷”の先代」
届けられたそれに、問題となる欠陥がなくなっていた事で、私は素直に驚嘆した。
魔素をエネルギーとして活用するが、消費するだけでなく、ちゃんと次への巡りへと向かう循環としての成り立ちを守るものになっていたのだ。
その時から、私達の中で集積魔洸炉の完成品搭載型をツァール、劣化番とも言える今の技術力である魔晶石の代用型をツアル君と呼び分けていた。
「本当はフェンが連れて出る予定だったんだが、世の中に出したものの責任を取ると、エリー自身があの結果を選んだらしい」
「責任って、それは」
「集積魔洸炉の提唱者はエレクトリカだよ。エリーは魔素に対する欠陥に早い段階で気付いていて、開発を止めていたらしいんだがな」
「周りは止まっていなかったと、お粗末ですね」
即断するフェイは辛辣だった。
「発明家の矜持で完成させはして行ったが、自分の提唱した未熟品がやらかした事の尻拭いを他の魔女に託す形になったのはそうだな」
自爆したと言う結果は知っていても、エリーが何を思ってその道を選択したのかまでは、結局のところ分からないのだ。
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