月白色の叙情詩~銀礫の魔女が綴るもの~

羽月明香

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【第一晶 ~新たなる旅立ち~】

23 帰宅

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「あ、回収せずとも大丈夫かもしれません」
「ん?・・・ああこいつらか、丁度良いところに」

 フェイが気付き、少し遅れて私も気が付いた。
 まだ距離はあるが、南の方に魔獣ではない、つまりは人間の気配が幾つか纏まって存在しているのだ。

「少しずつ、北へと移動している動きだな」
「そうですね、戦闘中と言う感じではないですし、周囲を警戒しながらの移動中といったところでしょう」
「このまま進路が変わらないなら、いずれ遭遇するな」
「四人パーティーのようですが、ここまで来る事が出来るのなら、パーティーとしてのランクはAかBメジャーでしょうね」
「メジャー?」

 聞きなれない単語に、四人組へと向けていた意識はそのままにフェイを見た。

「百年ぐらい前に出来た、固定で登録されているパーティーへの評価にプラスされて付く評定方法ですよ」

 固定のパーティーとしてギルドに登録していると、パーティーとしてのランクもつけられる。
 フェイが言うには、パーティーのランクには、単純なA、B、Cだけでなく、メジャーとマイナーと言う評価がつく事があるらしく、表記としては、AメジャーかAマイナーとなり、これは信用性や、知名度的なもので付けられるらしい。

「朔の森の奥は、常盤ときわの魔女の領域だと知られていますから、ここに関係する依頼にはギルドの方で、制限がかけられています。単純な力量だけでなく信用がいるのですよ」
「ああ、お墨付き、と言うやつだな」
「そうですね、ですから、実力的に見たAランクか、Bメジャー程度の評価があるパーティーだと思います」
「Aマイナーの可能性は?」
「余程何かをやらかさない限りマイナー表記はつきませんから、Aでも魔女の逆鱗に触れる可能性があるなら許可されませんね」
「ペナルティ的な意味合いか、結構エグいな」

 私の若干顰められた表情に、フェイもやや苦笑していた。
 ランクの評価はギルドが行うもの。そこに、メジャーだの、マイナーだの、更にギルドの評定が加わるのだ。
 ギルドの利益に貢献し、ギルドにとっての良いギルド員ならば、ギルドによるお勧め証明メジャーが付き、逆ならマイナーがつけられる。

「そこまで理不尽でもありませんし、実際に依頼する方からすれば、実力以外の目安にもなりますから、それなりに受け入れられていますよ?」
「その辺りまでを加味したランク付けだっただろう?能力があっても仕事ぶりに難点があればC以上にはいけない、逆に下手にメジャーがついて、実力の伴わない指名依頼を受けてもな」
「だからパーティーランクにしか採用されていないのでしょう。ちゃんとパーティー内で意思の疎通をはかって、危機回避能力を上げなさい。失敗して自己責任な結果になっても最悪だけは避けましょうと言う感じです」

 そんなものかと思っておく事にした。実際にそんなものなのだろう、一つの仕組みが百年も続くのなら上手くいっていると言えるのだから。

「まぁ何にしても、上位なら、コレの回収もなんとかなるだろうな」
「そうですね、あ、一人離れました」
隠蔽ハイディング能力スキルが高いな。斥候スカウトだろうし、誘導してやるか」

「そうですね、場合によっては接触してきます。貴方は先に戻っていて下さい」
「魔獣増加の件だろ、一応確認しておいて欲しい」
「そのつもりです」

 そう言った次の瞬間にはフェイの姿はなくなっていて、おまけにどれだけ探ろうと気配すらも掴めなくなっている事に、私は内心で驚嘆し、驚きから笑みを浮かべていた。

「言われなくても、だな」

 相手が何を目的としているか、そして、だからこそどう動くのか、情報と推測。それがフェンの常であり、フェイも同じなのだろう。
 私が頼まなくてもフェイは率先して、ではなく、あくまでも自然に情報を手にするし、そこから幾つもの指針を見定める。
 こうなったらこうしておこうかな?ぐらいの軽さで、幾筋もの方針を、脳裏で巡らせているのだ。

「こうなるからこうってのも、やろうと思えば出来るから、乗せられるのも悪くないんだが、如何せんびっくりして、それで驚いているのがこっちだけって言うのがどうにもな」

 こうなるからこうと言うのは確定予測。つまりは可能性に手を加えて、そうあるべきと定められた状態。
 フェイはそれが出来てしまう。フェイの資質もそうだが、“風”がもとからそういうものなのだ。

「フェイはわりかし真面目っぽいが、“風”は自由。寧ろ愉快犯な気質があるからな」
「それで、びっくりで済ますのも大概だな」

 お出迎えだった。
 独り言で、考えているようで、実のところ何も考えていない思考を散乱させながら歩みを進めていたら、いつの間にか戻って来ていたらしい。
 銀鹿シルフアローの姿をしたカイが、コテージに寄り添う大樹を背に佇んでいた。

「ただいまカイ。一先ず切りをつけて来た」
「お帰り。お疲れ様」
「途中でカイのみちに入ったとは言え、あの位置まで“外”の人間が入り込んでいるとなると、少し心配だな」

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