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【第一晶 ~新たなる旅立ち~】
14 迷夢4
しおりを挟むー銀礫よ、誰かの宿命を成すのがそなただが、此度はそなた自身の為に行くが良いー
「私は何時だって私の為にあるさ」
ーそれでもよ、望む望まぬに関わらず、既に契約は成されておる。そなたはそなたの運命と向き合うが良いー
改められた口調に何か意味深なものを感じていたが、その言葉に私は目を剥いた。
「非時の魔女、私を売ったのか?」
契約との言葉にただ唖然としていた。
成された契約。そして向き合うのは私だと、意味は分からないままだが、這い上がりつつある嫌な予感に、売られたとの発想しか浮かんで来ない。
ーはは、ほほほほ、そなたにとってはどう転ぶか。だが避けられぬ、受け入れよー
「ファティマ!助言を」
楽しげに、鈴が転がるようなと表現したくなる無邪気で可憐な笑い声。
けれど、逃げられる。そう直感し私は瞬時に求めていた。
非時の魔女は過去や未来、悠久の時の先行きを司とする。故に、ファティマの言葉はどんなものでも重く、告げられた存在にとっては不可避となる。
多くを知る者の視点からの言葉は、一部しか見定める事が出来ない者にとって、意味が分からない事が大半で、それでもそう遠くない未来において、私が何等かの運命とやらと遭遇する事は確定事項だと言う事だろう。
だから私は無防備に“その時”に遭遇する事がないように少しでもと情報を求めるのだ。
ー常緑が標。風に飛ぶ翼は変化を導くー
ー私は希われ、叶えた。対価を引き換えとして、故に欠落を得ながら其は超えられぬものを超えたー
ーそなたの宿命の一欠片、私の咎、私からの言祝ぎー
「・・・・・・何はともあれ、やはり、売られたってことだな」
長い沈黙から、それ以上がない事を確認し、私は呟いた。
大分前から北の大地の情景は消えていて、今はもう、どうなっているとも知れない、ここに来た当初の状態へと戻っていた。
天地の堺どころか、上下の在り方すらも分からない、目を開いていても閉じていても同じ、見るものすらもない場所。
ークルクルクルクルー
「あ、いや見るものはあったな」
鳴き声に、やはり何時の間にか対峙するように戻っていたジルの存在を意識する。
一瞬、もしかしたらその背に乗せて貰った事も幻だったのかとすら思ったが、開閉する自分の手の平に、掴んだ羽の硬さと滑らかさを思い、一つ納得するかのように頷いた。
「乗せてくれて有り難う。たぶん非時の魔女の用事も済んだろうから、もう戻って大丈夫だ」
そう言ってやると、会釈するように僅かに顎を引いた仕種の後、ジルは強く翼を打ち鳴らし、その体躯を浮かせた。
「駄賃だ。また何時か、機会が廻るなら」
なんとなく、そう遠くない気もするがとは言わない。
一度強く握る左手。その手の平へと、力を込めるかのように。
そうして開く手に、その手の中にあるものを上空にあるジルへと投げつけた。
それは白く淡く、時に青色のシラーを閃かせた小さな珠だった。
遠慮のない、かなり力を込めた一投は放物線を描く事のない、かなりの速度を保ったまま、ジルのもとへと到達する。
だが、ジルはそれを難なく口で受け止め、パキリと小さくも小気味良い音をさせた後、嚥下してしまった。
ークルルルルー
何処か機嫌良さげに鳴く様子に、そうして一度頭上を旋回するとジルは上方を目指し、飛び去って行った。
「助言は貰った。だが相変わらず非時の魔女は一方的だ」
言いたいことだけを言うと言うより、自分が言っておくべきと判断した事だけを告げる姿勢。
そうあくまでもその判断基準は非時の魔女に帰結し、だからこそ、聞かされた方は、その内容がどう自分に関わって来るかを覚悟しなければならなくなる。
「覚悟、告げられた時点で回避は不可能なのだから、寧ろただの気紛れって言った方が余程納得出来る」
非時の魔女が視て、それを伝える。誰かとそれを共有してしまう事で、誰かにとっての不可避となる。
私は非時の魔女の能力をそう捉えていた。だから非時の魔女は明確な物言いを嫌うのだと。
「半分以上愉快犯かもしれんがな」
思い出す。ファティマの笑い聲に思わず眉を潜めてしまう。
「非時の魔女は視ているものを見えているように廻らせるだけ。その範疇での遊び心」
それはある種の制約だった。魔女には力がある。その力で何が出来るかは個々の存在によるが、力の及ぶ限りに好きな事が出来る訳では当然ない。
力に対しての対価と代償。与え、齎す事への制約がある。
その制約の内容もやはり個々に異なっているようだが、基本的に自らの制約を明かす事はないので、誰かの制約を知りたいと思うならその行動から推察するしかない。
「時を視る非時の魔女。けれど、自分で直接の干渉は出来ない」
出来はしないが、直接でなければ動かせるものがある。それは遊び心だとファティマが言っていた事があった。
「常盤と、過去から今へと吹く風。風、飛が関わって来るのか」
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