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【第一晶 ~新たなる旅立ち~】
4 お米様抱っこ
しおりを挟む「さて、仲も深まって、色々と面白い事になっているみたいだけど、まずは移動しようか」
「ん?」
そこで始めて私はフェイの様子が、何と言うか挙動不審となっていた事に気付く。
カイに声をかけられはっとしたと言う状態だったが、こちらと目を合わせる事を拒絶する押えられた目もとに、けれどその長くしなやかな指々の間から覗く目尻が、どうにも赤く染まっているように見えるのだ。
「フェ、」
「触れないで下さい」
どうしたのかと名前を呼ぼうとして、まさかの間髪入れずの拒否だった。
「大丈夫です。ええ、はい、何もありません」
「そうなのか?」
「そうです」
よく分からないが、何かそう言うものらしい。
取り敢えず話題として触れて欲しくないのだと言う事は宣言されてしまったので、私はそこだけは守ろうと思った。
「カイ、放してくれないと歩き難い」
「じゃあ歩かなくて良いようにしないとね」
「ん?」
突然、目線の高さが変わった。
途中でカイの腕の中にいるまま体の向きをフェイの方へと変えていた為に、私の背中側から覆い被さる様にしていたカイだったが、そのカイの胸の下辺りに頭が来ている身長差では、どうにも歩き難い。
それを訴えただけのつもりだったのだが、何故このような事態になっているのだろうか。
身体が持ち上げられたのだと認識はしたが、意味が分からなかった。
「ファイヤーマン・キャリーでしたっけ?」
「なんて?」
「お米様抱っこだよ」
その平静そのものと言った表情は取り繕っただけと言う感じではない為、意識の切り替えが早いのかと思うが、フェイが冷静に呟く単語は、私には耳馴れない言葉だった。
そんなやり取りにカイが楽しそうに加わわり、そのまま歩き出す。
私の今の状態は、カイの右肩に担がれているといった状態で、フェイ曰く、どうやらこの運び方をファイヤーマン・キャリーと言うらしい。
確かに歩かなくても良い状態ではあるのだが、正直お腹の辺りにカイの肩が来ていて、二つ折りになっている状態な為、腹部に圧迫感があってなかなかに苦しいのだ。
「お姫様抱っこではなくお米様抱っこ?なのですか?」
「私が運び易いし、片手があけられるから何かあっても対処がし易いんだよ」
「かたまっていますが?」
「そう、運ばれる方は結構辛いんだこれ。両手で丁寧に運んであげようとするとこの子は逃げようとするから、丁度良くはあるのだけどね」
フェイよりも更に高いであろう身長の肩に担がれて、普段よりもかなり高い場所にある目線は怖いと思うよりも新鮮だった。ここで暮らした時分を思い、以前にもあったなと過去を思い出そうとするが、けれど、やはりお腹が苦しくなって来たと無言を貫く。
「ねぇ・・・何か縮んでない?気のせいだって思おうとしたし、痩せたって言うより、これは・・・」
「ああ、自然治癒力を、最大限に高めたぐらいじゃ、駄目だったと、思う」
「死にかけて、代償を払ったってことか」
私の途切れ途切れとなりつつある答えに、はっとしたようにカイは運び方を変えて来る。
それは両腕で抱き抱えるようにしたもので、先程フェイが言っていた“お姫様抱っこ”と言うやつだった。
途端に楽になった呼吸で、私はほっと息を吐くと、真剣な眼差しから、心配したようなカイの表情が間近にあって思わず苦笑してしまった。
「大丈夫、ほんの二、三年分だ」
「それは大丈夫って言わないだろ!」
反射的にか激高するカイを宥めるように、その頬へと手をあて、私は本当に大丈夫だと伝えるように微笑んだ。
「十四、五歳ぐらいに見えますが、違うと言う事ですか?」
「身体的には二十代辺りだったんだ。眠る前は。気付いてなかったが、カイが縮んだと言うなら、そう言う事だ」
戦う時の間合いを一度確認し直さなければと、私が思うのは本当にその程度で、でも、私の周囲は違うらしい。
「カイ?」
抱き抱える腕に力が増し、その胸に強く抱き寄せられる。
戸惑う私の肩口に、カイの額が弱々しくあてられ、間近に、その綺麗な青銀色の髪を見ていた。
「・・・・・・」
「大丈夫、ちゃんと帰って来た」
告げて緩くその頭を撫でると、その冷たい色合いとは異なり滑らかな髪質に確かな暖かみを感じる。
「魔女の魔法には対価が必要です。けれど、“摂理”から外れるとなると、対価ではなく代償を求められると聞いています」
「時間がかかっても自然治癒で治る範囲なら体力や魔力の置換で賄う事が出来るんだが、今回はもともと限界まで体力やら魔力やらを消費していた上での死にかけだったからな、“時”を支払わせれられたらしい」
“時”、身体の経過時間。有り体に言えば年齢。ようは、本来なら死ぬレベルの傷を治癒させた事で、今の私は、二十歳程度から十四、五歳にまで若返っていると言う事らしい。
「あ、じゃあフェイの身長は二メートルもないって事か」
「・・・百九十もないですが?」
今の自分の目線で見ていた為に最初に会った時そのぐらいかと思ったのだが、そもそも自分が縮んでいた為に高く見えていたらしいと一人納得した。
そんな私をフェイが何とも言えないといった複雑な表情で見ていて、顔を上げて腕のなかの私を見下ろしてくるカイの表情にも、フェイと同じものがあったのだが、一人得た答えに満足していた私は気付いていなかった。
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